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第23話 新たな拠点と家族の食卓
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冒険者ギルドを後にした僕たちは、まるで凱旋将軍のような気分だった。背中に突き刺さる無数の視線は、もはや侮蔑や好奇ではなく、畏怖と嫉妬、そして賞賛の色を帯びている。その視線の集中砲火を浴びながら、僕たちは王都の夜道を歩いていた。
「すげえ……。なんだか、夢みたいだぜ……」
バルガスが、まだ興奮冷めやらぬ様子で呟いた。彼の巨体は、いつもよりさらに大きく見える。自信が、人を変えるというのは本当らしい。
「Cランクパーティ、『フロンティア』。昨日までの私たちとは、もう違うのね」
リリアナも、感慨深げにギルドから受け取った新しいCランクのプレートを眺めている。その横顔は、夜の魔導ランプの光に照らされて、どこか誇らしげだった。
僕たちの手には、ずっしりと重い革袋が三つ。中には、合わせて金貨千七百八十枚という、庶民が一生かかっても手にできないであろう大金が入っている。この重みが、僕たちが成し遂げたことの現実感を伝えていた。
「なあ、ユキナガ。この大金、どうするんだ? とりあえず、一番高い酒場で一番高い酒を、樽ごと頼んじまうか!」
バルガスが、ドワーフらしい豪快な提案をする。
「それもいいが、その前にやるべきことがある」
僕は足を止め、二人に向き直った。「拠点だ。俺たちの活動拠点となる、家を買う」
「「家!?」」
リリアナとバルガスの声が、綺麗にハモった。
「か、家だって!? 俺たちが、か!?」
バルガスは、目を丸くして叫んだ。彼にとって、家とはパーティを追い出された後に帰る場所ではなく、ただ夜露をしのぐための安宿でしかなかったのだろう。
リリアナも、驚きに言葉を失っているようだった。彼女のような孤独な放浪者にとって、「自分の家」を持つという発想自体が、存在しなかったのかもしれない。
「ああ。いつまでも宿を転々としていては、落ち着いて作戦も立てられない。装備の整備も、情報の整理もできない。何より、俺たちが『フロンティア』として腰を据えるための、城が必要だ」
僕の言葉に、二人は顔を見合わせた。そして、その顔に、じわじわと喜びと実感が広がっていく。
「俺たちの……城……」
バルガスが、その言葉を噛みしめるように繰り返した。
「……帰る場所が、できるのね」
リリアナが、消え入りそうな、しかし確かな喜びを込めて呟いた。
その夜、僕たちは祝杯を挙げる代わりに、これから手に入れるであろう自分たちの家について、夜が更けるまで語り明かした。それは、どんな高級な酒よりも、僕たちの心を温かく満たす、甘美な時間だった。
翌日、僕たち三人は王都の商業地区にある不動産屋を訪れた。石造りの立派な建物の扉を開けると、恰幅のいい、人の良さそうな笑顔を浮かべた男が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。お客様、お部屋探しでございますかな?」
男は僕たちの姿を一瞥すると、その笑顔を崩さないまま、値踏みするような視線を送ってきた。泥の跡が残る旅装束の、若い三人組。せいぜい、少し稼いだ駆け出し冒険者が、安アパートでも借りに来たのだろう。彼の目には、そう映っているはずだ。
「ああ。家を探している」
僕が言うと、男は「はいはい」と愛想よく頷き、壁に貼られた間取り図の一つを指差した。
「でしたら、こちらなどいかがですかな。裏通りになりますが、日当たりもそこそこ。お家賃も銀貨二枚と、お安くなっておりますぞ」
完全に、見くびられている。
僕は何も言わず、カウンターの上に革袋を一つ、静かに置いた。そして、その口を開け、中から金貨を数枚、ジャラリとこぼれさせてみせた。
黄金の輝きが、男の目を射る。
彼の人の良さそうな笑顔が、一瞬で凍りついた。そして次の瞬間には、脂汗を浮かべた、卑屈ともいえる満面の笑みへと変わっていた。
「こ、これはこれは! 大変失礼いたしました! まさか、これほどのお客様とはつゆ知らず……! どうぞ、奥の応接室へ!」
男の手のひらの返り方は、見事というほかなかった。
応接室に通された僕たちの前に、男はいくつもの物件資料を並べた。どれも、王都の一等地に立つ、豪邸ばかりだ。
「こちらの物件は、騎士団通りに面しておりまして、見晴らしも最高でございます!」
「こっちは、貴族街にも近い、由緒正しいお屋敷でして……」
男が勧める物件は、どれも僕たちの活動拠点としては不向きだった。見栄えはいいが、防犯性は低く、何より目立ちすぎる。
「いや、俺たちが求めているのは、そういうものじゃない」
僕は男のセールストークを遮った。「静かで、ある程度広く、そして頑丈な家がいい。できれば、大きな庭と、地下室があれば最高だ」
僕の具体的な要望に、男は少し考え込むと、一枚の古い資料を取り出してきた。
「……でしたら、一つだけ。お客様のご要望に近い物件がございます。少々古いのですが、元々は腕利きの鍛冶職人が住んでいた家でして、造りは非常に頑丈です。ただ、場所が少し外れでして、長いこと買い手がつかず……」
「いい。それを見に行こう」
僕たちは、その場で内見へと向かうことになった。
案内された家は、王都の城壁に近い、少し寂れた地区にあった。だが、周囲は静かで、人通りも少ない。僕たちの拠点としては、むしろ好都合だった。
家は、石とレンガで造られた、二階建ての立派な一軒家だった。蔦が壁の一部を覆い、少し古びてはいるが、それがかえって重厚な雰囲気を醸し出している。
「どうだ。悪くないだろう」
僕が言うと、リリアナとバルガスは、自分たちの目の前にある家が、これから自分たちのものになるかもしれないという事実に、まだ実感が湧かないといった様子で立ち尽くしていた。
中に入ると、中は埃っぽかったが、広々としていた。一階には大きなリビングとキッチン。二階には寝室が三つ。そして、家の裏手には、手入れはされていないが、かなり広い庭があった。
「すごい……! ここで、ハーブを育てたりできるかしら……!」
リリアナが、少女のように目を輝かせている。
そして、この家の最大の売りは、地下室だった。石の階段を下りていくと、そこには広大な空間が広がっていた。天井は高く、壁も床も分厚い石でできている。部屋の隅には、かつての住人が使っていたであろう、巨大な炉と金床が残されていた。
「うおおおおお……!」
バルガスが、感極まったような声を上げた。彼は、まるで恋人でも見るかのような熱い眼差しで、その金床を撫でている。
「ここなら……ここなら、俺の鍛冶ができる! 武器の修理も、新しい装備作りも、何でもできるぞ!」
ドワーフの血が騒ぐのだろう。彼の喜びは、爆発寸前だった。
僕は、そんな二人の様子を見て、静かに決断した。
「決めた。この家を買う」
僕の言葉に、不動産屋の男が満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます! さすがはお客様、お目が高い! お値段は、金貨百五十枚でございます!」
ふっかけてきたな、と思ったが、値切るのも面倒だった。僕たちの報酬からすれば、はした金だ。
「分かった。それでいい」
僕が即決すると、男は喜び勇んで契約書を用意した。僕たちはその場でサインをし、金貨百五十枚を支払い、そして、一本の古びた鉄の鍵を受け取った。
これが、僕たちの城の鍵だ。
その日の夕方。
僕たち三人は、がらんとしたリビングの床に座り込んでいた。不動産屋が帰り、静寂が訪れると、この広い家が本当に自分たちのものになったのだという実感が、じわじわと湧き上がってきた。
「……俺、自分の家を持つなんて、夢にも思わなかったぜ」
バルガスが、天井を見上げながらしみじみと言った。
「私も……。いつも、次の街ではどこに泊まろうかって、そればかり考えていたから」
リリアナも、自分の膝を抱えながら、遠い目をして呟いた。
二人とも、これまでは安らげる場所を持たなかった。常に孤独で、不安定な日々を送ってきたのだ。
僕は、そんな二人を見て、静かに言った。
「ここが、俺たちの家だ。俺たち『フロンティア』の拠点だ。そして……」
僕は一呼吸置いて、続けた。
「俺たちが、いつでも帰ってこられる場所だ」
僕の言葉に、二人は顔を上げた。その瞳が、少しだけ潤んでいるように見えた。
その夜、僕たちは近くの市場で買ってきたパンとチーズ、そして安いワインで、ささやかな引っ越し祝いをした。テーブルも椅子もない、床の上での食事だったが、それは今まで食べたどんなご馳走よりも美味しく感じられた。
それは、家族の最初の食卓のようだった。
血の繋がりはない。種族も、育ってきた環境も違う。だが、僕たち三人の間には、それ以上に強く、温かい絆が確かに芽生え始めていた。
追放から始まった僕の旅は、思いがけず、最高の仲間と、そしてかけがえのない『家族』と呼べる存在を、僕にもたらしてくれた。
この家で、僕たちの新しい物語が始まる。
その物語はきっと、これまで以上に輝かしく、そして心温まるものになるだろう。僕には、そんな確信があった。
「すげえ……。なんだか、夢みたいだぜ……」
バルガスが、まだ興奮冷めやらぬ様子で呟いた。彼の巨体は、いつもよりさらに大きく見える。自信が、人を変えるというのは本当らしい。
「Cランクパーティ、『フロンティア』。昨日までの私たちとは、もう違うのね」
リリアナも、感慨深げにギルドから受け取った新しいCランクのプレートを眺めている。その横顔は、夜の魔導ランプの光に照らされて、どこか誇らしげだった。
僕たちの手には、ずっしりと重い革袋が三つ。中には、合わせて金貨千七百八十枚という、庶民が一生かかっても手にできないであろう大金が入っている。この重みが、僕たちが成し遂げたことの現実感を伝えていた。
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「「家!?」」
リリアナとバルガスの声が、綺麗にハモった。
「か、家だって!? 俺たちが、か!?」
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僕の言葉に、二人は顔を見合わせた。そして、その顔に、じわじわと喜びと実感が広がっていく。
「俺たちの……城……」
バルガスが、その言葉を噛みしめるように繰り返した。
「……帰る場所が、できるのね」
リリアナが、消え入りそうな、しかし確かな喜びを込めて呟いた。
その夜、僕たちは祝杯を挙げる代わりに、これから手に入れるであろう自分たちの家について、夜が更けるまで語り明かした。それは、どんな高級な酒よりも、僕たちの心を温かく満たす、甘美な時間だった。
翌日、僕たち三人は王都の商業地区にある不動産屋を訪れた。石造りの立派な建物の扉を開けると、恰幅のいい、人の良さそうな笑顔を浮かべた男が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。お客様、お部屋探しでございますかな?」
男は僕たちの姿を一瞥すると、その笑顔を崩さないまま、値踏みするような視線を送ってきた。泥の跡が残る旅装束の、若い三人組。せいぜい、少し稼いだ駆け出し冒険者が、安アパートでも借りに来たのだろう。彼の目には、そう映っているはずだ。
「ああ。家を探している」
僕が言うと、男は「はいはい」と愛想よく頷き、壁に貼られた間取り図の一つを指差した。
「でしたら、こちらなどいかがですかな。裏通りになりますが、日当たりもそこそこ。お家賃も銀貨二枚と、お安くなっておりますぞ」
完全に、見くびられている。
僕は何も言わず、カウンターの上に革袋を一つ、静かに置いた。そして、その口を開け、中から金貨を数枚、ジャラリとこぼれさせてみせた。
黄金の輝きが、男の目を射る。
彼の人の良さそうな笑顔が、一瞬で凍りついた。そして次の瞬間には、脂汗を浮かべた、卑屈ともいえる満面の笑みへと変わっていた。
「こ、これはこれは! 大変失礼いたしました! まさか、これほどのお客様とはつゆ知らず……! どうぞ、奥の応接室へ!」
男の手のひらの返り方は、見事というほかなかった。
応接室に通された僕たちの前に、男はいくつもの物件資料を並べた。どれも、王都の一等地に立つ、豪邸ばかりだ。
「こちらの物件は、騎士団通りに面しておりまして、見晴らしも最高でございます!」
「こっちは、貴族街にも近い、由緒正しいお屋敷でして……」
男が勧める物件は、どれも僕たちの活動拠点としては不向きだった。見栄えはいいが、防犯性は低く、何より目立ちすぎる。
「いや、俺たちが求めているのは、そういうものじゃない」
僕は男のセールストークを遮った。「静かで、ある程度広く、そして頑丈な家がいい。できれば、大きな庭と、地下室があれば最高だ」
僕の具体的な要望に、男は少し考え込むと、一枚の古い資料を取り出してきた。
「……でしたら、一つだけ。お客様のご要望に近い物件がございます。少々古いのですが、元々は腕利きの鍛冶職人が住んでいた家でして、造りは非常に頑丈です。ただ、場所が少し外れでして、長いこと買い手がつかず……」
「いい。それを見に行こう」
僕たちは、その場で内見へと向かうことになった。
案内された家は、王都の城壁に近い、少し寂れた地区にあった。だが、周囲は静かで、人通りも少ない。僕たちの拠点としては、むしろ好都合だった。
家は、石とレンガで造られた、二階建ての立派な一軒家だった。蔦が壁の一部を覆い、少し古びてはいるが、それがかえって重厚な雰囲気を醸し出している。
「どうだ。悪くないだろう」
僕が言うと、リリアナとバルガスは、自分たちの目の前にある家が、これから自分たちのものになるかもしれないという事実に、まだ実感が湧かないといった様子で立ち尽くしていた。
中に入ると、中は埃っぽかったが、広々としていた。一階には大きなリビングとキッチン。二階には寝室が三つ。そして、家の裏手には、手入れはされていないが、かなり広い庭があった。
「すごい……! ここで、ハーブを育てたりできるかしら……!」
リリアナが、少女のように目を輝かせている。
そして、この家の最大の売りは、地下室だった。石の階段を下りていくと、そこには広大な空間が広がっていた。天井は高く、壁も床も分厚い石でできている。部屋の隅には、かつての住人が使っていたであろう、巨大な炉と金床が残されていた。
「うおおおおお……!」
バルガスが、感極まったような声を上げた。彼は、まるで恋人でも見るかのような熱い眼差しで、その金床を撫でている。
「ここなら……ここなら、俺の鍛冶ができる! 武器の修理も、新しい装備作りも、何でもできるぞ!」
ドワーフの血が騒ぐのだろう。彼の喜びは、爆発寸前だった。
僕は、そんな二人の様子を見て、静かに決断した。
「決めた。この家を買う」
僕の言葉に、不動産屋の男が満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます! さすがはお客様、お目が高い! お値段は、金貨百五十枚でございます!」
ふっかけてきたな、と思ったが、値切るのも面倒だった。僕たちの報酬からすれば、はした金だ。
「分かった。それでいい」
僕が即決すると、男は喜び勇んで契約書を用意した。僕たちはその場でサインをし、金貨百五十枚を支払い、そして、一本の古びた鉄の鍵を受け取った。
これが、僕たちの城の鍵だ。
その日の夕方。
僕たち三人は、がらんとしたリビングの床に座り込んでいた。不動産屋が帰り、静寂が訪れると、この広い家が本当に自分たちのものになったのだという実感が、じわじわと湧き上がってきた。
「……俺、自分の家を持つなんて、夢にも思わなかったぜ」
バルガスが、天井を見上げながらしみじみと言った。
「私も……。いつも、次の街ではどこに泊まろうかって、そればかり考えていたから」
リリアナも、自分の膝を抱えながら、遠い目をして呟いた。
二人とも、これまでは安らげる場所を持たなかった。常に孤独で、不安定な日々を送ってきたのだ。
僕は、そんな二人を見て、静かに言った。
「ここが、俺たちの家だ。俺たち『フロンティア』の拠点だ。そして……」
僕は一呼吸置いて、続けた。
「俺たちが、いつでも帰ってこられる場所だ」
僕の言葉に、二人は顔を上げた。その瞳が、少しだけ潤んでいるように見えた。
その夜、僕たちは近くの市場で買ってきたパンとチーズ、そして安いワインで、ささやかな引っ越し祝いをした。テーブルも椅子もない、床の上での食事だったが、それは今まで食べたどんなご馳走よりも美味しく感じられた。
それは、家族の最初の食卓のようだった。
血の繋がりはない。種族も、育ってきた環境も違う。だが、僕たち三人の間には、それ以上に強く、温かい絆が確かに芽生え始めていた。
追放から始まった僕の旅は、思いがけず、最高の仲間と、そしてかけがえのない『家族』と呼べる存在を、僕にもたらしてくれた。
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