ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第29話 進化する仲間たち

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赤い光を灯した十体の石の巨兵、ガーディアンゴーレムが、僕たちに向かってゆっくりと歩を進めてくる。一体一体の身長は三メートルを超え、その歩みは地響きを伴っていた。彼らが手にしているのは、岩を削り出したかのような巨大なメイス。一撃でも食らえば、ただでは済まないだろう。
「うおお、マジで動きやがった! しかも十体もいやがる!」
バルガスが、大盾を構えながらも興奮した声を上げる。彼の顔には、恐怖よりも、強敵と対峙する戦士としての喜びが浮かんでいた。
「ユキナガ、指示を!」
リリアナが、短く、しかし力強く言った。彼女のレイピアの切っ先は、微動だにしていない。極限の集中状態に入っている証拠だ。
この数週間で、二人は見違えるように成長した。
バルガスの【城塞化】は、ただ守るだけのスキルではなくなった。彼は、僕の指示がなくとも、敵の攻撃の予備動作を読み、城塞を発動する最適なタイミングを instinctive に掴み始めていた。発動時間も、以前より明らかに短縮されている。それは、僕との連携を重ねる中で、彼自身の戦闘センスが磨かれた結果だろう。
リリアナの【縮地】は、もはや神業の域に達していた。僕が告げる座標への移動精度は、誤差ゼロと言っても過言ではない。さらに、彼女は【縮地】を連続で使用する際の体力の消耗を抑える独自の呼吸法を編み出し、より長く、より複雑な動きが可能になっていた。それは、自らの力と向き合い、それを制御しようと努力し続けた賜物だ。
僕たちのパーティは、もはやただ僕が指示を出すだけのトップダウン式ではない。僕の『眼』を基点としながらも、彼ら自身の判断と成長が加わることで、有機的に連携する一つの生命体へと進化していた。
僕は、そんな頼もしい仲間たちに、絶対的な信頼を寄せていた。
「バルガス、正面に城塞を張れ! 最初の三体の攻撃を、お前が全て引き受けるんだ!」
「おう、任せとけ!」
バルガスが雄叫びを上げ、黄金色の光のドームを展開する。直後、先頭のゴーレム三体が振り下ろしたメイスが、城塞に叩きつけられた。凄まじい轟音がホールに響き渡る。
「リリアナ!」
僕は、その轟音を打ち消すように叫んだ。「ゴーレムの弱点は、全身に七つある『魔力循環器』だ! 宝石のように見える、青く光る部分だ! それを全て破壊すれば、ヤツらは機能を停止する!」
僕の【地図化】スキルは、ゴーレムの内部構造と、その動力源である魔力の流れを完全に解析していた。
「まずは、足の関節にある二つを狙え! 動きを奪う!」
「了解!」
リリアナの姿が掻き消える。彼女はバルガスの城塞を足がかりに、ゴーレムたちの足元へと瞬時に移動した。
ゴーレムの一体が、足元に現れた小さな侵入者に気づき、メイスを振り下ろそうとする。だが、それよりも早く、リリアナのレイピアが閃いた。
カン! カン! と、硬いものを砕くような音が二度響く。ゴーレムの足首と膝に埋め込まれていた青い宝石が、粉々に砕け散った。
魔力循環を断たれたゴーレムの足は、ただの石塊と化し、その巨体はバランスを崩して前のめりに倒れ込んだ。
「すげえ! 本当に動きが止まった!」
城塞の中から、バルガスの興奮した声が聞こえる。
「次だ、リリアナ! 倒れたヤツは後回しにしろ! 残りの二体の背面、腰の部分にある循環器を破壊しろ!」
リリアナは、倒れたゴーレムを障害物として利用し、他の二体の死角へと巧みに移動する。彼女の動きは、もはや僕の指示をなぞるだけではない。僕の戦術意図を理解し、その場で最適な動きを自分で判断して付け加えている。
連携が、進化している。
次々と、ゴーレムたちの弱点である青い宝石が砕かれていく。リリアナが一体の動きを止めると、バルガスがそのゴーレムを盾にして別の個体の攻撃を防ぎ、その隙にリリアナがまた別の一体を無力化する。
戦場は、僕たちが作り出した、完璧な連鎖反応の舞台と化していた。

戦闘開始から、わずか十分。
十体いたガーディアンゴーレムは、その全てが動きを止め、ただの石像へと戻っていた。一体は完全に破壊され、残りの九体も、体のどこかの関節を破壊されて無様に転がっている。
僕たちは、誰一人として傷を負っていない。
「はっはー! どうだ! これが俺たちの力よ!」
バルガスが、汗を拭いながら満足げに笑った。彼の城塞は、最後まで破られることはなかった。
「……信じられない。あんなに硬かったゴーレムが、まるで積み木崩しみたいに……」
リリアナも、自分の成し遂げたことに、まだ少し実感が湧かないといった様子でレイピアを見つめている。
僕たちの成長は、僕自身が予測していた以上だった。このパーティは、まだ強くなる。その確信が、僕の胸を熱くした。

僕たちは、機能停止したゴーレムたちを乗り越え、ホールの奥にある巨大な玉座へと向かった。
この先に、この遺跡の真の主がいる。僕の脳内マップが、玉座のさらに奥から、これまでとは比較にならないほど強大なエネルギー反応を捉えていた。
玉座の裏には、地下へと続く螺旋階段が隠されていた。僕たちは、慎重にその階段を下りていく。
空気は、下に行くほどに冷たく、そして重くなっていく。壁からは、凝縮された魔力が水滴のように染み出していた。
やがて、僕たちは広大な地下空間にたどり着いた。
そこは、巨大な鋳造炉のようだった。部屋の中央には、溶融した金属のようなものが満たされた円形の炉があり、そこから無数のパイプが天井や壁へと伸びている。この部屋全体が、一つの巨大な機械装置なのだ。
そして、その炉の中央。
一体の、巨大なゴーレムが鎮座していた。
これまでの石のゴーレムとは、明らかに違う。その体は、鈍い銀色の輝きを放つ、ミスリルと思われる金属でできていた。そのフォルムは洗練されており、無駄な装飾は一切ない。ただ、殺戮のためだけに設計された、究極の兵器。
そのゴーレムが、僕たちの存在に気づき、ゆっくりと立ち上がった。その両目から、青白い光が放たれる。
僕の脳内マップが、最大級の警告を発していた。
『警告:高位個体『ミスリルゴーレム』を検知。物理的破壊は極めて困難。推奨行動:即時撤退』
「……どうやら、本命のお出ましらしいな」
僕は、目の前の銀色の巨兵を睨みつけながら呟いた。
その圧倒的な存在感を前に、バルガスとリリアナも息を呑む。
「おいおい、冗談だろ……。あんなもん、どうやって傷をつけるんだよ……」
「私のレイピアでも、歯が立たないかもしれない……」
二人の声には、初めて弱気な色が滲んでいた。
だが、僕は冷静だった。
物理攻撃が効かないなら、物理ではない方法で倒せばいい。
どんな無敵に見える敵にも、必ず弱点は存在する。そして、その弱点を暴き出すのが、俺の【地図化】の真骨頂だ。
「心配するな」
僕は、不安げな二人に向かって、不敵に笑いかけた。
「どんなに硬い鎧を着ていようが、中身が空っぽじゃ意味がない。俺には、その鎧の中身が、すでに見えている」
僕は、ミスリルゴーレムの内部構造へと、意識を深く集中させた。
これから始まるのは、力と力のぶつかり合いではない。
情報と、知略の戦いだ。
そして、その土俵において、俺に敵う者はいない。
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