ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第37話 貴族からの極秘依頼

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『沈黙の遺跡』の攻略から二週間が過ぎた。
王都では『攻略神』ユキナガと『フロンティア』の伝説が、もはや揺るぎないものとして定着していた。子供たちが、僕たちの活躍を真似て「攻略神ごっこ」なる遊びをしているという噂まで耳にするほどだ。
そんな熱狂をよそに、僕たちの日常は驚くほど穏やかだった。
潤沢な資金を元手に、僕たちの拠点は日に日に充実していった。バルガスの地下工房には、ドワーフの故郷から取り寄せたという最新式の魔法炉が設置され、彼は毎日のように金属を叩き、試作品を生み出している。リリアナの庭には、珍しい薬草の苗が植えられ、小さな温室まで建てられた。彼女はそこで、ポーションの調合まで学び始めている。
僕も、書斎を世界中のダンジョンに関する文献で埋め尽くし、古代アルケイア文明の謎の解読に没頭していた。
僕たちは、それぞれが自分のやりたいことを見つけ、それを追求する時間と環境を手に入れたのだ。それは、かつて日々の生活に追われ、自分のスキルを呪うことしかできなかった僕たちにとって、何よりも幸福な時間だった。
だが、冒険者の血は、安穏とした日常だけでは満足できない。
「なあ、ユキナガ。そろそろ体がなまってきちまったぜ。どこか、骨のありそうなダンジョンはねえのか?」
リビングで、バルガスが新しく作ったミスリルの小手を磨きながら言った。彼の瞳は、新たな戦いを求めてうずうずしている。
「そうね。私も、この新しいレイピアの切れ味を、ゴーレム以外の敵で試してみたいわ」
リリアナも、庭の手入れを終えてリビングに入ってくると、悪戯っぽく笑った。
僕も、同じ気持ちだった。書斎で知識を蓄えるのも重要だが、僕の【地図化】スキルは、未知なるダンジョンに挑んでこそ真価を発揮する。
「分かっている。そろそろ次の目標を探しに、ギルドへ行こうと思っていたところだ」
僕がそう答えた、まさにその時だった。
コンコン、と、僕たちの家の重厚な扉をノックする音が響いた。
「あら、誰かしら」
リリアナが不思議そうな顔で立ち上がる。僕たちがこの家に来てから、来客など初めてのことだった。
扉を開けたリリアナは、そこに立っていた人物を見て、驚きに目を見開いた。
「ギルドマスター……!?」
そこに立っていたのは、冒険者ギルドの王都支部長、ダグラス・フォン・シュタインその人だった。彼はギルドでの厳つい表情とは違う、どこか疲れたような顔で、僕たちの家を見上げていた。
「……突然すまんな。少し、込み入った話があってな。中に入れてもらえるか」

ダグラスをリビングに通すと、彼は僕たちが作った樫の木のテーブルを見て、ほう、と感心したように息を漏らした。
「見事な家だな。お前たちの稼ぎなら当然か。それに、良い暮らしをしているようだ。何よりだ」
彼の言葉には、どこか親のような温かみがあった。
「それで、本日はどのようなご用件で? ギルドマスター直々のお越しとは、ただ事ではなさそうですが」
僕が尋ねると、ダグラスは厳しい表情に戻り、重々しく口を開いた。
「うむ。今日は、ギルドマスターとしてではない。一個人の、ダグラスとしてお前たちに頼みがあって来た。これは、ギルドを通さない、極秘の依頼だ」
「極秘依頼……」
バルガスとリリアナも、神妙な顔つきで彼の言葉に耳を傾けている。
「依頼主は、この国の有力貴族、ランズデール侯爵だ。そして、依頼内容は……」
ダグラスは一呼吸置いて、続けた。
「Bランクダンジョン『灼熱の火山』で消息を絶った、侯爵の嫡男、アルフレッド様の捜索と救助」
人命救助。それも、貴族の。
僕たちの間に、緊張が走った。
「なぜ、我々に?」
僕が尋ねると、ダグラスは苦々しい顔で説明を始めた。
「アルフレッド様は、自分の力を過信なされる癖があってな。今回も、少数の護衛だけを連れ、我々の制止を振り切って『灼熱の火山』に挑戦された。そして、三日前から完全に連絡が途絶えた」
「騎士団を派遣すればいいのでは?」
「それができんのだ」ダグラスはため息をついた。「侯爵家には、政敵が多い。嫡男の監督不行き届きが露見すれば、彼らはここぞとばかりに侯爵家を攻撃するだろう。最悪、家そのものが取り潰しになりかねん。故に、この一件は絶対に、内密に処理せねばならんのだ」
「そこで、俺たちに白羽の矢が立った、と」
「その通りだ」
ダグラスは、僕の目をまっすぐに見つめた。
「『灼熱の火山』は、強力な炎系のモンスターもさることながら、最大の難所は、その地形そのものにある。ダンジョン内は常に灼熱の空気に満ち、床を流れる溶岩は、冒険者の体力を容赦なく削り取っていく。継続的な熱ダメージ。これが、長期探索を不可能にしている原因だ」
彼は、テーブルの上に火山の簡易的な地図を広げた。
「これまでに挑戦したパーティは、皆、深部に到達する前に消耗しきって撤退している。安全な休息場所も、ダメージを回避できるルートも、誰にも分からんからだ。だが……」
彼の視線が、再び僕に注がれる。
「お前なら、あるいは、と思った。『攻略神』ユキナガ。お前のその異常なまでの解析能力なら、この灼熱地獄の中から、一本の安全な道筋を、あるいは熱を和らげる『冷却石』のような特殊なアイテムが密集する場所を見つけ出せるかもしれん」
「……なるほど。俺のスキルを見込んでの、名指しの依頼というわけですか」
「そうだ。この極秘任務を、最も迅速かつ確実に遂行できる可能性があるのは、王都広しといえど、お前たち『フロンティア』しかおらん。私は、そう判断した」
ダグラスの言葉は、僕たちの力への、最大級の評価だった。
「どうだ。引き受けては、もらえんか。もちろん、報酬は弾む。侯爵家は、お前たちが望むだけのものを、用意するだろう」
彼の言葉に、バルガスとリリアナは顔を見合わせた。
「貴族の坊ちゃんの尻拭いってのは、どうにも気に食わねえが……」バルガスが、腕を組んで唸った。「だが、Bランクダンジョンってのは、燃えるな! 俺の新しいウォーハンマーと、補強した盾を試すには、最高の舞台だぜ!」
彼の心は、すでに決まっているようだった。
「人命がかかっているのなら、断る理由はないわ」リリアナも、静かに、しかしきっぱりと言った。「それに、私たちの力が、どこまで通用するのか。試してみたい」
二人の視線が、僕に集まる。最終的な決定権は、リーダーである僕にある。
正直に言えば、貴族だの、その子息だのには、全く興味がなかった。金も、これ以上必要というわけではない。
だが、僕の心を動かしたのは、ダグラスが口にした、別の言葉だった。
「この『灼熱の火山』も、まだ完全攻略者は出ていない。内部のほとんどが、未踏破エリアのままだ」
未踏破エリア。
その言葉が、僕の冒険心を強く刺激した。
まだ誰も地図に記していない、未知なるダンジョン。そこには、どんなギミックが、どんなモンスターが、そして、どんな世界の秘密が眠っているのか。
『沈黙の遺跡』で古代の石版を見つけて以来、僕の目標は、ただダンジョンを攻略することから、世界の謎を解き明かすことへとシフトしていた。この火山にも、新たな『断片』が隠されているかもしれない。
僕にとって、その可能性こそが、どんな大金よりも価値のある報酬だった。
「……分かりました」
僕は、静かに頷いた。「その依頼、我々『フロンティア』が、お引き受けします」
僕の答えに、ダグラスの顔に、安堵の表情が浮かんだ。
「そうか! 引き受けてくれるか! 恩に着るぞ!」
「ただし、条件があります」
僕は続けた。「今回の依頼で得られた、全ての地図情報、およびモンスターや素材のデータは、我々『フロンティア』に帰属させていただく。それが、我々への報酬です」
「……それで、いいのか?」
ダグラスが、意外そうな顔をした。金や地位ではなく、情報を報酬として要求したことが、彼には不思議に思えたのだろう。
「ええ。俺たちにとっては、それが一番価値のあるものですから」
僕がそう言って微笑むと、ダグラスは何かを察したように、深く頷いた。
「……承知した。それで、侯爵家にも話をつけよう」
依頼は、正式に成立した。
僕たち『フロンティア』は、初のBランクダンジョン、そして人命救助という、これまでとは全く性質の異なる任務に挑むことになった。
「すぐに出発の準備を」
ダグラスが、立ち上がりながら言った。「一刻を争う事態だ。健闘を祈る」
彼が帰った後、僕たちの家には、新たな冒険を前にした、心地よい緊張感が満ちていた。
「よし! 準備するぜ!」
バルガスは、早速地下工房へと駆け下りていった。耐熱性の装備を、急遽作るつもりなのだろう。
「私も、冷却効果のあるハーブをポーションにしておくわ」
リリアナも、庭へと向かった。
僕も、書斎に籠もり、『灼熱の火山』に関する僅かな情報を、頭に叩き込み始めた。
これまでのダンジョンとは、訳が違う。地形そのものが、牙を剥く世界。
だが、それがどうした。
どんな灼熱地獄だろうと、俺の『眼』の前では、全ての道筋が明らかになる。
僕たちの新たな挑戦が、再び始まろうとしていた。
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