ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第39話 灼熱地獄と安全地帯

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『灼熱の火山』に足を踏み入れてから、数時間が経過した。
僕たちは、他のパーティが決して見つけられないであろう、火山内部の“涼しい道”を進んでいた。それは、地下水脈が近くを流れることで冷却された洞窟であったり、海からの風が吹き抜ける天然の風穴であったりした。
僕の【地図化】スキルは、地形の構造だけでなく、温度分布すらも色分けして表示していた。灼熱のエリアは赤く、比較的涼しい場所は青く見える。僕たちは、その青いルートだけを辿って、まるで川を下る船のように、スムーズに火山を登っていた。
「へへっ、すげえな、こりゃ。外は地獄みてえな熱気なのに、ここは快適そのものだぜ」
バルガスが、洞窟の壁から染み出す冷たい水で顔を洗いながら、ご機嫌に言った。
「ええ。バルガスの耐熱軟膏と、私の冷却ポーションも、まだほとんど使わずに済んでいるわ。この分なら、長期戦になっても大丈夫そうね」
リリアナも、余裕の表情だ。
このダンジョンの最大の脅威である『継続的な熱ダメージ』を、僕たちは完全に無効化していた。これは、他のどんなパーティにも真似できない、僕たちだけの圧倒的なアドバンテージだ。
もちろん、道中ではモンスターとの遭遇もあった。
溶岩の中から飛び出してくる、炎を纏ったトカゲ『フレイムサラマンダー』。
火山灰の中から奇襲をかけてくる、灼熱の牙を持つ巨大ムカデ『ラヴァ・センチピード』。
どれも、Bランクダンジョンにふさわしい、厄介な炎系のモンスターばかりだ。
だが、それらも、僕たちの前では脅威にはならなかった。
「ユキナガ、前方三十メートル、溶岩溜まりの中から反応あり! フレイムサラマンダーが三体、潜んでいるわ!」
リリアナが、僕より先に気配を察知して叫んだ。彼女の索敵能力も、実戦を重ねる中で飛躍的に向上していた。
「バルガス、正面に城塞を張れ! ヤツらのブレス攻撃を完全に防ぐ!」
「おうよ!」
バルガスが城塞を展開した直後、溶岩の中から三体のサラマンダーが飛び出し、灼熱のブレスを放射してきた。黄金の城塞が、その全てを完璧に防ぎきる。
「リリアナ、ヤツらの弱点は、喉元にある発光器官だ! ブレスを吐いた直後、一瞬だけ無防備になる! そこを突け!」
僕の指示に、リリアナは城塞の影から飛び出した。ブレスを吐き終え、硬直しているサラマンダーたちの喉元を、彼女のレイピアが正確に貫いていく。
三体のモンスターは、反撃の暇も与えられずに絶命した。
完璧な三位一体の連携。
僕たちは、この灼熱地獄の中でさえ、消耗することなく、むしろ自分たちの力がさらに洗練されていくのを感じていた。

やがて、僕たちは火山の中腹、アルフレッド様が最後に目撃されたという、巨大な溶岩洞の入り口にたどり着いた。
洞窟の入り口からは、むせ返るような熱気と、硫黄の匂いが噴き出している。その奥は、不気味な赤い光でぼんやりと照らされていた。
「ここが、『火竜の寝床』か。アルフレッド様は、この中にいるはずだ」
僕は、気を引き締めて洞窟の内部をスキャンした。
洞窟は、巨大なアリの巣のように、複雑に入り組んでいる。そして、その通路のほとんどは、床を灼熱の溶岩が流れる、危険なエリアだった。
「……なるほど。これは、普通の人間には進めんな」
バルガスが、洞窟の入り口から中を覗き込み、顔をしかめた。
だが、僕の脳内マップには、その溶岩流の中に、いくつかの安全な『足場』となる岩が、点々と存在しているのが見えていた。それらを飛び移っていけば、溶岩に触れることなく、奥へと進むことができる。
「行くぞ。俺の指示通りに動けば、火傷はしない」
僕たちは、一列になって洞窟の中へと足を踏み入れた。
「まず、右手の岩へ。そこから、前方五メートルの浮島へ跳べ!」
僕のナビゲートに従い、僕たちは溶岩流の上を、まるで川の中の飛び石を渡るかのように進んでいく。一歩でも踏み外せば、灼熱の溶岩に飲み込まれるという、極限の状況。だが、僕たちに焦りはなかった。僕の『眼』が、絶対的な安全を保証しているからだ。
「ユキナガ、前方から複数の反応あり!」
リリアナが警告する。
洞窟の奥から、数人の人影が、ふらつきながらこちらへ向かってくるのが見えた。
「……生存者か!」
僕たちは、急いでその人影に近づいた。
そこにいたのは、ボロボロの鎧を身につけた、三人の兵士だった。彼らは、アルフレッド様の護衛なのだろう。だが、その顔は煤で汚れ、全身に火傷を負い、疲労困憊で立っているのがやっとという状態だった。
「き、貴様ら、何者だ!?」
兵士の一人が、僕たちを敵だと勘違いし、震える手で剣を構えた。
「我々は、ギルドから派遣された救助隊だ。アルフレッド様はどこにおられる!」
僕が叫ぶと、兵士は力なくその場に崩れ落ちた。
「……アルフレッド様は……。この先の広間に……。ですが、もう手遅れです……。あそこには、この洞窟の主である、サラマンダーロードが……」
彼の言葉は、絶望に満ちていた。
「俺たちは、アルフレッド様を庇い、ここで力尽きた……。どうか、我々のことは構わず、逃げてくれ……」
僕は、懐からポーションを取り出し、彼らに手渡した。
「諦めるのはまだ早い。バルガス、リリアナ、彼らの手当てを頼む。俺は、先に行く」
「おい、ユキナガ! 一人で行く気か! 無茶だ!」
バルガスが叫ぶ。
「いや、俺一人の方が、今はいい。俺の目的は、戦闘じゃない。アルフレッド様の『位置』を特定し、最短で確保することだ」
僕は、二人に兵士たちのことを任せると、一人で洞窟のさらに奥へと駆け出した。

僕の脳内には、すでにこの洞窟の全貌がマッピングされている。そして、その最深部にある広大な広間に、一つの青いシンボルが、今にも消えそうなほど弱々しく点滅しているのを捉えていた。
アルフレッド様だ。
だが、その周りを、巨大で禍々しい、深紅のボスシンボルがゆっくりと旋回している。
サラマンダーロード。
僕は、戦闘を避けるため、正規のルートではなく、壁際に隠された狭い獣道を選んで進んだ。それは、僕の【地図化】スキルがなければ、決して見つけられない抜け道だった。
やがて、僕は広間を見下ろせる、高い岩棚の上にたどり着いた。
眼下には、信じがたい光景が広がっていた。
広場の中央で、豪華な装飾の鎧を身につけた一人の青年が、岩陰に隠れ、ガタガタと震えている。あれが、アルフレッド様に違いない。
そして、その彼の周りを、体長十メートルはあろうかという、巨大なサラマンダーが、獲物を見定めるようにゆっくりと這いずり回っていた。その体は、まるで溶岩そのものでできており、その口からは、全てを焼き尽くすかのような灼熱の息が漏れている。
アルフレッド様は、恐怖で完全に戦意を喪失していた。
僕は、静かに彼の位置と、サラマンダーロードの動き、そしてこの広間の地形を、脳内マップに重ね合わせた。
(……見つけた)
僕の口元に、確信に満ちた笑みが浮かんだ。
この状況を、一撃でひっくり返すことができる、唯一無二の『解法』が。
「さて、と」
僕は、岩棚の上から、静かに立ち上がった。「王子様を、助けに行くとしますか」
僕の瞳の奥で、この灼熱地獄すらも支配する、絶対的な戦略の青写真が、完成しようとしていた。
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