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第43話 災害誘発計画
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火山の頂上へと続く道は、灼熱の岩と、絶え間なく降り注ぐ火山弾との戦いだった。
僕とリリアナは、噴煙に紛れながら、エンシェントドラゴンの注意を避け、ひたすら上を目指していた。背後からは、バルガスの【城塞化】にドラゴンの攻撃が叩きつけられる、地響きのような衝撃音が断続的に響いてくる。
「バルガス、大丈夫かしら……!」
リリアナが、不安げに後ろを振り返った。
「大丈夫だ。あいつは、俺たちが信じた『要塞』だ。必ず、耐えきってくれる」
僕は、自分に言い聞かせるように言った。この作戦は、バルガスの犠牲的な防御なくしては成り立たない。僕たちは、彼の覚悟に応えなければならなかった。
やがて、僕たちは火山の頂上、巨大な火口の縁にたどり着いた。
眼下には、信じがたい光景が広がっていた。
直径数百メートルはあろうかという巨大な火口の底で、地球の血液ともいうべき、真っ赤なマグマが、生き物のように煮えたぎっている。その熱気と圧力は、立っているだけで肌が焼けるようだった。
僕の脳内マップが示す、この火山で最大のエネルギー反応。マグマ溜まりだ。
「ユキナガ……! これを、どうするの!?」
リリアナが、ゴーグル越しに僕を見た。その瞳には、畏怖と、そして僕の作戦への期待が入り混じっている。
僕は、火口の縁にある、一際大きく、そして不安定な形状の岩塊を指差した。それは、かろうじてバランスを保っているだけで、少しの衝撃で火口へと崩れ落ちそうに見えた。
「リリアナ。あれを、火口の中心に落とす」
「えっ……?」
「俺の【地図化】スキルは、このマグマ溜まりの内部構造も解析している。中心部の一点、あそこはマグマの圧力が最も高まっている『核』だ。あの岩塊でそこに衝撃を与えれば、連鎖反応が起きる。この火山の、大噴火がな」
僕の言葉に、リリアナは絶句した。
「だ、大噴火!? そんなことをしたら、私たちも……!」
「ああ。だから、タイミングが全てだ。俺が、ヤツを火口の真上に誘導する。そして、お前が、俺の合図で岩を落とすんだ」
それは、もはや戦術ではない。天変地異を、人為的に引き起こすという、神の領域への挑戦だった。
「……分かったわ」
だが、リリアナは迷わなかった。「あなたの眼を信じる。合図を待っているわ」
彼女は、その巨大な岩塊の元へと向かい、いつでも押し出せるようにレイピアを岩の隙間に突き立てた。
僕は、火口の縁から、眼下の戦場を見下ろした。
噴煙の中で、バルガスの黄金の城塞が、ドラゴンの猛攻に耐え、明滅を繰り返している。だが、それも限界に近い。城塞には、すでに無数の亀裂が走り、その輝きは弱々しくなっていた。
(もう少しだ、バルガス! 耐えてくれ!)
僕は、心の中で相棒に叫んだ。
そして、僕はエンシェントドラゴンに向かって、ありったけの声で挑発した。
「おい、トカゲの王様! 俺はここだぞ! 下のちっぽけな虫にかまけている間に、お前の寝床をめちゃくちゃにしてやろうか!」
僕の声は、噴煙を突き抜け、ドラゴンの耳に届いたようだった。
ドラゴンは、バルガスの城塞への攻撃を止め、ゆっくりと僕がいる山頂を見上げた。その目に、僕という存在を明確に捉え、純粋な殺意の光を宿した。
「グルオオオオオ!」
ドラゴンは、僕を仕留めるために、再びその巨大な翼を広げ、一直線に空へと舞い上がった。
来た!
僕は、ドラゴンが上昇してくる速度と角度を、脳内マップで正確に計測する。
ヤツが、火口の真上を通過する、その一瞬。
それが、僕たちの唯一の勝機だ。
ドラゴンが、僕の目の前まで迫ってくる。その巨大な顎が開き、灼熱のブレスが放たれようとしていた。
だが、僕の目的は、ブレスを避けることではない。
僕は、ヤツが火口の、まさにその中心点の上空に到達したのを確認した。
「今だあああああ、リリアナアアアア!」
僕は、魂の底から叫んだ。
その声は、僕を焼き尽くさんと放たれたドラゴンブレスの轟音にかき消される寸前、確かにリリアナの元へと届いた。
リリアナは、僕の合図と同時に、突き立てたレイピアをテコにして、ありったけの力を込めて巨大な岩塊を押し出した。
ゴゴゴゴゴ……という地響きと共に、巨大な岩塊が、火口の中心へと吸い込まれるように落下していく。
僕は、ドラゴンブレスを紙一重でかわしながら、その光景を見届けた。
岩塊が、煮えたぎるマグマの海へと着水する。
一瞬の静寂。
そして、次の瞬間。
世界が、音と光に包まれた。
火口の底から、天を突くほどの、巨大なマグマの柱が噴き上がったのだ。それは、もはや間欠泉などという生易しいものではない。火山そのものが、断末魔の叫びを上げるかのような、終末的な大噴火だった。
そして、そのマグマの奔流は、真上にいたエンシェントドラゴンの巨体を、いとも簡単に飲み込んでいった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
災害の化身であるはずのドラゴンが、それ以上の、星そのものが持つ根源的なエネルギーの前では、なすすべもなかった。その黒い鱗は一瞬で溶け落ち、強靭な肉体は灼熱のマグマの中で蒸発していく。
エンシェントドラゴンは、断末魔の叫びすらも途中でかき消され、跡形もなく、この世界から消滅した。
第44話 災害からの生還
大噴火は、ドラゴンを飲み込んだ後も、その勢いを止めることはなかった。
火口からは、第二、第三のマグマの柱が噴き上がり、空は火山弾と火山灰で完全に覆われた。大地は、まるで生き物のように激しく揺れ続けている。
「ユキナガ!」
リリアナが、僕の元へ駆け寄ってきた。
「逃げるぞ! このままでは、俺たちも巻き込まれる!」
僕たちは、崩れ落ちる足場を避けながら、一目散に火山の斜面を駆け下り始めた。
背後からは、灼熱の溶岩流が、全てを飲み込みながら迫ってくる。
「バルガスは!?」
「噴煙が晴れて、見えるはずだ! 俺のマップを信じろ!」
噴火の衝撃で、視界を遮っていた噴煙は吹き飛ばされていた。僕の脳内マップには、火山の麓近くで、消えかかりながらも、まだ輝きを保っている青いシンボルが表示されている。バルガスだ。
僕たちは、溶岩流に追われながらも、最短ルートで彼がいた場所へと向かった。
やがて、僕たちは崩壊した黄金の城塞の残骸と、その中心で倒れているバルガスの姿を発見した。
「バルガス!」
僕たちが駆け寄ると、彼はうっすらと目を開けた。その体はボロボロだったが、命に別状はないようだった。
「……へへっ。ユキナガ……リリアナの嬢ちゃん……。やった、みてえだな……」
「ああ、やったぞ。お前のおかげだ」
僕は、彼に高級ポーションを飲ませた。
「さあ、立てるか。本当の地獄は、これからだ」
僕たちは、バルガスに肩を貸しながら、麓のキャンプを目指して最後の脱出を開始した。
降り注ぐ火山弾、足元から迫る溶岩流、そして、崩壊していく大地。
それは、まさに神話に描かれるような、世界の終わりの光景だった。
だが、僕の【地図化】スキルは、この混沌の中ですら、僅かな安全地帯と、生き残るための道筋を、正確に示し続けていた。
僕たちは、奇跡的に、全ての危険をかいくぐり、麓の前線キャンプへとたどり着いた。
僕たちの後ろでは、僕たちが引き起こした天変地異によって、『灼熱の火山』が、その姿を永遠に変えようとしていた。
キャンプにいた兵士たちは、生還した僕たちと、そして何よりも無事だったアルフレッド様の姿を見て、歓喜の声を上げた。
「アルフレッド様! ご無事で!」
「フロンティアの皆様! なんということを……! まさか、本当に……!」
彼らは、僕たちがドラゴンを討伐し、生きて帰ってきたという事実が、信じられないといった様子だった。
アルフレッド様は、そんな兵士たちに支えられながら、僕の前に進み出た。
その顔には、もう以前のような傲慢さや未熟さはない。死の淵を覗き、そして規格外の現実を目の当たりにしたことで、彼は一人の人間として、大きく成長したようだった。
「……フロンティア。いや、ユキナガ殿」
彼は、僕に向かって、深々と頭を下げた。
「私の命を救っていただき、心から感謝する。この御恩は、生涯忘れぬ」
その態度は、貴族が平民に向けるものではなかった。一人の男が、命の恩人に向ける、真摯な敬意そのものだった。
「俺たちは、依頼をこなしただけです」
僕がそう言うと、彼は首を振った。
「いや、違う。君たちは、私の命だけでなく、私の愚かなプライドも、一緒に救ってくれた。私は、自分の力の限界を知った。そして、この世界には、私の知らない、本当の『強さ』が存在することも知った」
彼の目は、僕の背後に立つリリアナとバルガスにも向けられた。
「君たちの力、そして何よりも、その揺るぎない絆。それこそが、真の強さなのだと、私は学んだ」
彼は、再び僕に向き直ると、きっぱりと言った。
「王都に戻り次第、父である侯爵に、君たちへの最大限の報酬を約束させよう。金、地位、君たちが望むものなら、何でも叶える。それが、ランズデール家の、いや、私個人の、君たちへの誠意だ」
彼の言葉に、嘘はなかった。
僕たちは、ただの人命救助依頼をこなしただけではない。この国の未来を担うかもしれない、一人の有力貴族の、絶対的な信頼と、生涯にわたる恩義を、勝ち取ったのだ。
それは、金銭では計れない、何よりも大きな『報酬』だった。
僕たちの、あまりにも無謀で、壮大な作戦は、予想だにしなかった形で、最高の結末を迎えた。
僕たち『フロンティア』の名声は、この一件で、もはや冒険者の間だけには留まらない。
王国の、もっと深い場所へと、確実に届くことになるだろう。
僕とリリアナは、噴煙に紛れながら、エンシェントドラゴンの注意を避け、ひたすら上を目指していた。背後からは、バルガスの【城塞化】にドラゴンの攻撃が叩きつけられる、地響きのような衝撃音が断続的に響いてくる。
「バルガス、大丈夫かしら……!」
リリアナが、不安げに後ろを振り返った。
「大丈夫だ。あいつは、俺たちが信じた『要塞』だ。必ず、耐えきってくれる」
僕は、自分に言い聞かせるように言った。この作戦は、バルガスの犠牲的な防御なくしては成り立たない。僕たちは、彼の覚悟に応えなければならなかった。
やがて、僕たちは火山の頂上、巨大な火口の縁にたどり着いた。
眼下には、信じがたい光景が広がっていた。
直径数百メートルはあろうかという巨大な火口の底で、地球の血液ともいうべき、真っ赤なマグマが、生き物のように煮えたぎっている。その熱気と圧力は、立っているだけで肌が焼けるようだった。
僕の脳内マップが示す、この火山で最大のエネルギー反応。マグマ溜まりだ。
「ユキナガ……! これを、どうするの!?」
リリアナが、ゴーグル越しに僕を見た。その瞳には、畏怖と、そして僕の作戦への期待が入り混じっている。
僕は、火口の縁にある、一際大きく、そして不安定な形状の岩塊を指差した。それは、かろうじてバランスを保っているだけで、少しの衝撃で火口へと崩れ落ちそうに見えた。
「リリアナ。あれを、火口の中心に落とす」
「えっ……?」
「俺の【地図化】スキルは、このマグマ溜まりの内部構造も解析している。中心部の一点、あそこはマグマの圧力が最も高まっている『核』だ。あの岩塊でそこに衝撃を与えれば、連鎖反応が起きる。この火山の、大噴火がな」
僕の言葉に、リリアナは絶句した。
「だ、大噴火!? そんなことをしたら、私たちも……!」
「ああ。だから、タイミングが全てだ。俺が、ヤツを火口の真上に誘導する。そして、お前が、俺の合図で岩を落とすんだ」
それは、もはや戦術ではない。天変地異を、人為的に引き起こすという、神の領域への挑戦だった。
「……分かったわ」
だが、リリアナは迷わなかった。「あなたの眼を信じる。合図を待っているわ」
彼女は、その巨大な岩塊の元へと向かい、いつでも押し出せるようにレイピアを岩の隙間に突き立てた。
僕は、火口の縁から、眼下の戦場を見下ろした。
噴煙の中で、バルガスの黄金の城塞が、ドラゴンの猛攻に耐え、明滅を繰り返している。だが、それも限界に近い。城塞には、すでに無数の亀裂が走り、その輝きは弱々しくなっていた。
(もう少しだ、バルガス! 耐えてくれ!)
僕は、心の中で相棒に叫んだ。
そして、僕はエンシェントドラゴンに向かって、ありったけの声で挑発した。
「おい、トカゲの王様! 俺はここだぞ! 下のちっぽけな虫にかまけている間に、お前の寝床をめちゃくちゃにしてやろうか!」
僕の声は、噴煙を突き抜け、ドラゴンの耳に届いたようだった。
ドラゴンは、バルガスの城塞への攻撃を止め、ゆっくりと僕がいる山頂を見上げた。その目に、僕という存在を明確に捉え、純粋な殺意の光を宿した。
「グルオオオオオ!」
ドラゴンは、僕を仕留めるために、再びその巨大な翼を広げ、一直線に空へと舞い上がった。
来た!
僕は、ドラゴンが上昇してくる速度と角度を、脳内マップで正確に計測する。
ヤツが、火口の真上を通過する、その一瞬。
それが、僕たちの唯一の勝機だ。
ドラゴンが、僕の目の前まで迫ってくる。その巨大な顎が開き、灼熱のブレスが放たれようとしていた。
だが、僕の目的は、ブレスを避けることではない。
僕は、ヤツが火口の、まさにその中心点の上空に到達したのを確認した。
「今だあああああ、リリアナアアアア!」
僕は、魂の底から叫んだ。
その声は、僕を焼き尽くさんと放たれたドラゴンブレスの轟音にかき消される寸前、確かにリリアナの元へと届いた。
リリアナは、僕の合図と同時に、突き立てたレイピアをテコにして、ありったけの力を込めて巨大な岩塊を押し出した。
ゴゴゴゴゴ……という地響きと共に、巨大な岩塊が、火口の中心へと吸い込まれるように落下していく。
僕は、ドラゴンブレスを紙一重でかわしながら、その光景を見届けた。
岩塊が、煮えたぎるマグマの海へと着水する。
一瞬の静寂。
そして、次の瞬間。
世界が、音と光に包まれた。
火口の底から、天を突くほどの、巨大なマグマの柱が噴き上がったのだ。それは、もはや間欠泉などという生易しいものではない。火山そのものが、断末魔の叫びを上げるかのような、終末的な大噴火だった。
そして、そのマグマの奔流は、真上にいたエンシェントドラゴンの巨体を、いとも簡単に飲み込んでいった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
災害の化身であるはずのドラゴンが、それ以上の、星そのものが持つ根源的なエネルギーの前では、なすすべもなかった。その黒い鱗は一瞬で溶け落ち、強靭な肉体は灼熱のマグマの中で蒸発していく。
エンシェントドラゴンは、断末魔の叫びすらも途中でかき消され、跡形もなく、この世界から消滅した。
第44話 災害からの生還
大噴火は、ドラゴンを飲み込んだ後も、その勢いを止めることはなかった。
火口からは、第二、第三のマグマの柱が噴き上がり、空は火山弾と火山灰で完全に覆われた。大地は、まるで生き物のように激しく揺れ続けている。
「ユキナガ!」
リリアナが、僕の元へ駆け寄ってきた。
「逃げるぞ! このままでは、俺たちも巻き込まれる!」
僕たちは、崩れ落ちる足場を避けながら、一目散に火山の斜面を駆け下り始めた。
背後からは、灼熱の溶岩流が、全てを飲み込みながら迫ってくる。
「バルガスは!?」
「噴煙が晴れて、見えるはずだ! 俺のマップを信じろ!」
噴火の衝撃で、視界を遮っていた噴煙は吹き飛ばされていた。僕の脳内マップには、火山の麓近くで、消えかかりながらも、まだ輝きを保っている青いシンボルが表示されている。バルガスだ。
僕たちは、溶岩流に追われながらも、最短ルートで彼がいた場所へと向かった。
やがて、僕たちは崩壊した黄金の城塞の残骸と、その中心で倒れているバルガスの姿を発見した。
「バルガス!」
僕たちが駆け寄ると、彼はうっすらと目を開けた。その体はボロボロだったが、命に別状はないようだった。
「……へへっ。ユキナガ……リリアナの嬢ちゃん……。やった、みてえだな……」
「ああ、やったぞ。お前のおかげだ」
僕は、彼に高級ポーションを飲ませた。
「さあ、立てるか。本当の地獄は、これからだ」
僕たちは、バルガスに肩を貸しながら、麓のキャンプを目指して最後の脱出を開始した。
降り注ぐ火山弾、足元から迫る溶岩流、そして、崩壊していく大地。
それは、まさに神話に描かれるような、世界の終わりの光景だった。
だが、僕の【地図化】スキルは、この混沌の中ですら、僅かな安全地帯と、生き残るための道筋を、正確に示し続けていた。
僕たちは、奇跡的に、全ての危険をかいくぐり、麓の前線キャンプへとたどり着いた。
僕たちの後ろでは、僕たちが引き起こした天変地異によって、『灼熱の火山』が、その姿を永遠に変えようとしていた。
キャンプにいた兵士たちは、生還した僕たちと、そして何よりも無事だったアルフレッド様の姿を見て、歓喜の声を上げた。
「アルフレッド様! ご無事で!」
「フロンティアの皆様! なんということを……! まさか、本当に……!」
彼らは、僕たちがドラゴンを討伐し、生きて帰ってきたという事実が、信じられないといった様子だった。
アルフレッド様は、そんな兵士たちに支えられながら、僕の前に進み出た。
その顔には、もう以前のような傲慢さや未熟さはない。死の淵を覗き、そして規格外の現実を目の当たりにしたことで、彼は一人の人間として、大きく成長したようだった。
「……フロンティア。いや、ユキナガ殿」
彼は、僕に向かって、深々と頭を下げた。
「私の命を救っていただき、心から感謝する。この御恩は、生涯忘れぬ」
その態度は、貴族が平民に向けるものではなかった。一人の男が、命の恩人に向ける、真摯な敬意そのものだった。
「俺たちは、依頼をこなしただけです」
僕がそう言うと、彼は首を振った。
「いや、違う。君たちは、私の命だけでなく、私の愚かなプライドも、一緒に救ってくれた。私は、自分の力の限界を知った。そして、この世界には、私の知らない、本当の『強さ』が存在することも知った」
彼の目は、僕の背後に立つリリアナとバルガスにも向けられた。
「君たちの力、そして何よりも、その揺るぎない絆。それこそが、真の強さなのだと、私は学んだ」
彼は、再び僕に向き直ると、きっぱりと言った。
「王都に戻り次第、父である侯爵に、君たちへの最大限の報酬を約束させよう。金、地位、君たちが望むものなら、何でも叶える。それが、ランズデール家の、いや、私個人の、君たちへの誠意だ」
彼の言葉に、嘘はなかった。
僕たちは、ただの人命救助依頼をこなしただけではない。この国の未来を担うかもしれない、一人の有力貴族の、絶対的な信頼と、生涯にわたる恩義を、勝ち取ったのだ。
それは、金銭では計れない、何よりも大きな『報酬』だった。
僕たちの、あまりにも無謀で、壮大な作戦は、予想だにしなかった形で、最高の結末を迎えた。
僕たち『フロンティア』の名声は、この一件で、もはや冒険者の間だけには留まらない。
王国の、もっと深い場所へと、確実に届くことになるだろう。
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