ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第45話 王都への帰還、そして響き渡る名

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『灼熱の火山』での激闘から数日後。僕たち『フロンティア』は、アルフレッド様とその護衛たちと共に、王都への帰路についていた。
道中の雰囲気は、行きとは全く違っていた。アルフレッド様は、もはや傲慢な貴族の子息ではなかった。彼は、僕たち、特にリーダーである僕に対して、常に敬意のこもった態度で接してきた。
「ユキナガ殿」
野営の火を囲んでいる時、彼はおずおずと僕に話しかけてきた。「君のあの、全てを見通すかのような力は、一体……。いや、詮索はすまい。だが、一つだけ教えてはくれまいか。君は、なぜ冒険者をしているのだ? 君ほどの力があれば、王国の軍師にでも、宮廷魔術師にでも、望むままの地位を得られるだろうに」
その問いは、彼が抱いた純粋な疑問だったのだろう。
「俺には、金や地位よりも欲しいものがありますので」
僕は、燃え盛る焚き火を見つめながら、静かに答えた。「まだ誰も見たことのない景色。そして、この世界の真実。俺は、そのために冒険を続けているだけです」
僕の答えに、アルフレッド様は深く考え込むように黙り込んだ。彼の価値観では、計り知れない領域の話だったのかもしれない。だが、その瞳には、僕という人間への、畏怖と、そして強い興味の光が宿っていた。
バルガスとリリアナも、そんなアルフレッド様の変化を、面白そうに、そして少しだけ温かい目で見守っていた。
「へへっ、うちのリーダーは、ちっとばかしスケールが違うんでね。貴族の坊ちゃんには、分からねえかもしれねえな」
バルガスが、悪態をつくように見せかけて、僕のことを誇らしげに語る。
「ええ。私たちは、彼が示す地図の、その先が見たいだけだから」
リリアナも、静かにそれに同意した。
そのやり取りを聞いていたアルフレッド様は、ただ静かに微笑むだけだった。彼は、僕たちの間に流れる、揺るぎない絆の強さを、肌で感じ取っているようだった。

王都に到着すると、アルフレッド様は僕たちを彼の屋敷、ランズデール侯爵邸へと招いた。城壁に囲まれた貴族街の一角に立つその屋敷は、僕たちが買った家など比較にならないほど、壮大で、豪華絢爛だった。
大理石の床、天井から吊るされた巨大なシャンデリア、壁に飾られた高価そうな絵画の数々。
「うお……。これが貴族の家かよ……。俺たちの家が、犬小屋に見えてきやがるぜ」
バルガスは、完全に気圧されて、落ち着きなく周囲を見回している。リリアナも、緊張した面持ちで僕の半歩後ろに立っていた。
そんな僕たちを、一人の壮年の男性が、厳しい顔つきで出迎えた。アルフレッド様によく似た、精悍な顔立ち。彼が、この家の主、ランズデール侯爵その人だった。
「父上! ただいま戻りました!」
アルフレッド様が駆け寄ると、侯爵は息子の無事な姿を確認し、その厳しい表情をわずかに和らげた。だが、すぐに僕たちへと鋭い視線を向ける。
「君たちが、息子の命を救ってくれたという、『フロンティア』か」
その声には、感謝よりも、僕たちの力量を値踏みするような響きがあった。
「いかにも」
僕は、彼の視線を真っ直ぐに受け止め、堂々と答えた。
僕たちは、応接室へと通された。革張りのソファは、僕たちが座るにはあまりにも不釣り合いに感じられた。
侯爵は、僕たちの正面に腰掛けると、まずアルフレッド様から事の次第を詳細に聞き出した。アルフレッド様は、自分たちの未熟さが招いた失態を正直に語り、そして、僕たちがどのようにしてサラマンダーロードを倒し、絶望的な状況から彼を救い出したかを、熱っぽく語った。
「……間欠泉を利用して、サラマンダーロードを? さらには、火山の噴火を誘発させ、エンシェントドラゴンを討伐しただと?」
侯爵は、息子の報告を聞き終えると、信じられないといった顔で僕を見た。彼の常識では、到底理解できない戦術だった。
「にわかには信じがたい話だ。だが、息子が無事であるという事実が、何よりの証拠か」
彼は、深いため息をつくと、僕たちに向き直った。
「フロンティア。いや、ユキナガ殿。息子の命を救ってくれたこと、ランズデール家当主として、心から礼を言う。本当に、感謝している」
彼は、深々と頭を下げた。大貴族が、平民である僕たちに示す、最大限の敬意だった。
「そして、これは約束の報酬だ」
彼が合図をすると、執事らしき老人が、一つのジュラルミンケースをテーブルの上に置いた。ケースが開けられると、中には眩いばかりの金貨が、ぎっしりと並べられていた。
「金貨三千枚。これが、我々の誠意だ。受け取ってほしい」
「「さんぜんまい!?」」
バルガスとリリアナが、再び声を揃えて叫んだ。僕たちの全財産が、この一瞬で倍以上に膨れ上がったのだ。
「金だけではない」
侯爵は続けた。「今後、君たちが冒険を続ける上で、我がランズデール家は、全面的に君たちの後援となることを約束しよう。情報、物資、あるいは法的な問題。何であれ、君たちの力になろう。君たちは、我が家の『友人』だ」
それは、金銭以上に価値のある報酬だった。一介の冒険者パーティが、有力貴族の後ろ盾を得る。それは、今後の僕たちの活動において、計り知れないアドバンテージとなるだろう。
「ありがたく、お受けいたします」
僕は、静かに頭を下げた。

報酬の話が終わり、僕たちが屋敷を辞去しようとした時だった。
「ユキナガ殿」
侯爵が、僕だけを呼び止めた。
「一つ、個人的な興味で聞かせてもらいたい。君は、一体何者だ? 息子から聞いた君の能力は、もはや人間の域を超えている。『攻略神』という二つ名も、あながち誇張ではあるまい」
彼の瞳には、探るような、そしてどこか警戒するような色が浮かんでいた。彼は、僕という存在を、ただの有能な冒険者としてではなく、国家の安全保障に関わるかもしれない、未知のファクターとして見ているのだ。
「俺は、ただの冒険者ですよ。少しだけ、地図を読むのが得意な、しがない斥候です」
僕は、笑顔でそう答えた。僕の正体も、スキルの真の能力も、明かすつもりはない。僕たちの力は、僕たちだけのものだ。
僕のはぐらかすような態度に、侯爵はそれ以上は追及せず、ただ「そうか」とだけ呟いた。だが、彼の僕に対する興味と警戒は、より一層深まったことだろう。

ランズデール侯爵邸を後にした僕たちは、夕暮れの王都を、自分たちの家へと向かって歩いていた。
手にした報酬の重みよりも、僕の心は別の高揚感に満たされていた。
『フロンティア』の名。そして、『攻略神』ユキナガの名。
それは、もはや冒険者やギルドの間だけのものではない。この一件を通じて、王国の貴族社会、その中枢にまで、確かに届いたのだ。
僕たちの存在は、もはや誰にも無視できない。
それは、僕の復讐計画においても、そして、世界の謎を解き明かすという、新たな目標においても、大きな一歩だった。
やがて、僕たちの家が見えてくる。豪華絢爛な侯爵邸を見た後では、石とレンガでできた我が家が、ひどく質素に見える。
だが、その扉を開けた瞬間、僕たち三人は、同時に安堵のため息をついた。
「へへっ、やっぱ、ここが一番落ち着くな」
バルガスが、自分の椅子にどさりと腰を下ろした。
「ええ。私たちの、お城だものね」
リリアナも、柔らかな笑みを浮かべている。
僕も、同じ気持ちだった。どんな豪華な屋敷よりも、この、仲間たちとの笑い声が響く家こそが、僕にとっての本当の帰る場所なのだ。
僕たちは、手に入れた新たな大金で何をしようかと、子供のように語り合った。
バルガスは、地下工房をさらに拡張して、伝説級の金属を精錬するための研究をしたいと言った。
リリアナは、世界中から珍しい薬草の種を取り寄せて、庭を世界一の薬草園にしたいと夢を語った。
僕は、王家ですら閲覧が制限されているという、古代の禁書を手に入れる手立てはないかと考えていた。
僕たちの夢は、まだまだ尽きることがない。
僕たち『フロンティア』の物語は、まだ始まったばかり。
だが、その物語が、もはや僕たちだけの小さなものではなく、この国、そして世界の運命をも巻き込む、大きなうねりとなり始めていることを、僕たちは、この時まだ、本当の意味では理解していなかった。
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