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第46話 攻略神と三つの駒
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ランズデール侯爵家からの莫大な報酬は、僕たちの生活をさらに豊かに、そして僕たちの冒険をより強固なものにした。
金貨三千枚。そのほとんどを、僕たちは自分たちの装備と拠点の強化に惜しみなく注ぎ込んだ。
バルガスは、地下工房に古代ドワーフの技術が記されたという設計図の写しを取り寄せ、ミスリルとエンシェントウッドを組み合わせた新しい大盾の開発に没頭していた。彼の目標は、エンシェントドラゴンのブレスですら完全に無効化する『絶対の盾』を作り上げることだ。工房からは、昼夜を問わず、楽しげな槌の音と、時折聞こえる満足げな雄叫びが響いていた。
リリアナは、高名な剣術の達人を家庭教師として雇い、レイピアの技術を基礎から学び直していた。彼女の【縮地】はすでに神業の域だが、それに頼り切るのではなく、純粋な剣士としての技量を高めることで、戦闘の幅をさらに広げようとしているのだ。庭には、彼女が雇った庭師によって、世界中の珍しい薬草が植えられ、小さな植物園のようになっていた。
そして僕は、ランズデール侯爵のコネを使い、王立図書館の禁書庫への立ち入り許可を得た。そこには、一般には公開されていない、古代文明や世界の成り立ちに関する、極めて重要な文献が眠っていた。僕は来る日も来る日もそこに通い詰め、知識という名の武器を、静かに、しかし着実に研ぎ澄ませていた。
僕たち三人は、手に入れた富を、ただの贅沢のためではなく、自らを高めるための投資として使っていた。僕たちのパーティ『フロンティア』は、ダンジョンに潜っていない間にも、着実にその力を増していったのだ。
そんなある日の午後、再びギルドマスターのダグラスから、公式な呼び出しがあった。
「また呼び出しか。今度はなんだろうな」
バルガスが、新しく作ったミスリル合金の小手を磨きながら、不思議そうに言う。
「何か、面倒ごとでなければいいのだけど」
リリアナも、少しだけ眉をひそめた。
僕たちは、もはや日常となった周囲の冒険者たちの畏敬の視線を浴びながら、ギルドマスター室の扉を開けた。
ダグラスは、山のような書類に囲まれながら、厳しい顔で僕たちを迎えた。
「来たか。今日は、お前たちの正式なランク査定の結果を伝えに来てもらった」
彼は、一枚の公式文書をテーブルの上に置いた。
「先日の『灼熱の火山』での、ランズデール侯爵家嫡男アルフレッド様の救助、および、災害級モンスター『エンシェントドラゴン』の討伐。この功績について、ギルド本部で正式な審査が行われた。その結果……」
ダグラスは、一呼吸置いて、宣言した。
「本日付で、貴パーティ『フロンティア』を、CランクからBランクへと昇格させることを決定した。異論はないな」
Cランクになってから、まだ一ヶ月も経っていない。にもかかわらず、再びの特例昇進。
だが、僕たちの間に、以前のような驚きはなかった。それだけのことを、自分たちは成し遂げたという自負があったからだ。
「謹んで、お受けいたします」
僕が代表して答えると、ダグラスは満足げに頷いた。
「うむ。これで、お前たちは名実ともに、この国でも指折りの実力派パーティとなったわけだ。だが、それ故に、風当たりも強くなることを忘れるな」
彼の言葉通りだった。
Bランク昇格の報がギルド内に伝わると、僕たちを見る周囲の目は、さらに複雑な色を帯びるようになった。
「Bランクだとよ……。俺たちが何年もかかってようやくたどり着いた階級に、あいつらはたった数ヶ月で……」
嫉妬と羨望の声が、あちこちから聞こえてくる。
「だが、奴らの実績を考えれば当然だ。『攻略神』ユキナガがいる限り、どんなダンジョンもただの宝の山に変わる」
「リーダーのユキナガが『脳』、ハーフエルフのリリアナが『剣』、ドワーフのバルガスが『盾』。あの三人は、もはや一個の生命体みたいなもんだ。誰か一人欠けても駄目だし、誰も入り込む隙がない」
「ああ、まさに三位一体の理想郷(ユートピア)だな。俺たち凡人には、到底真似できねえ」
僕たちの戦い方は、いつしかそう評されるようになっていた。
『攻略神』ユキナガという二つ名も、もはや僕個人のものではなく、僕たち『フロンティア』というパーティ全体の異名のように、王都に定着していた。
名声の高まりは、新たな厄介事も運んできた。
僕たちの家に、他のパーティのリーダーや、貴族の使いと名乗る者たちが、ひっきりなしに訪れるようになったのだ。
「ユキナガ殿! 我がパーティに、軍師として加わってはいただけまいか! 年俸は金貨五百枚、いや、千枚でもお支払いする!」
「我が主が、お主のその『地図』を欲しておられる。一夜でいい、我らのダンジョン攻略を手伝ってはくれぬか。報酬は言い値で構わん」
高額な報酬での引き抜き。情報提供の依頼。それは、僕の力を金で買おうとする、欲望に満ちた申し出ばかりだった。
僕たちは、それらの申し出を、全て丁重に、しかしきっぱりと断った。
「申し訳ありませんが、俺の力は、この仲間たちのためにしか使いません。彼らがいなければ、俺の力は何の意味もなさないので」
僕がそう言って、隣に立つリリアナとバルガスの肩を叩くと、彼らは誇らしげに胸を張った。僕たちの絆は、金で買えるほど安くはない。
そんな日々が続く中で、僕は次の目標を定めつつあった。
Bランクになったことで、僕たちはさらに高難易度で、そして古代の謎に深く関わるダンジョンへと、挑戦する資格を得た。
その夜、リビングの暖炉の火を囲みながら、僕は二人に語りかけた。
「次の目的地だが、一つ、面白い場所を見つけた」
僕は、禁書庫から書き写してきた、一枚の古い地図を広げた。
「『天へと至る塔』。王都の北、霧深い山脈にそびえ立つ、天を突くほどの巨大な塔だ。誰が、何のために建てたのか、一切が謎に包まれている。Bランク以上のパーティしか、立ち入りが許可されていない」
「天へと至る塔……」
リリアナが、その名前に興味を惹かれたように呟いた。
「その塔は、階層ごとに全く違うギミックとモンスターが出現するらしい。ある階は灼熱地獄、ある階は極寒の氷原、またある階は重力が捻じ曲がった空間になっているとか。これまで、数多のパーティが挑戦したが、未だに十階層までしか到達できていないそうだ」
「へへっ、面白え! 総合力が試されるってわけか! まさに、俺たちのためのダンジョンじゃねえか!」
バルガスは、目を輝かせて身を乗り出した。
「ああ。そして、俺が興味を惹かれているのは、それだけじゃない」
僕は、地図の隅に記された、小さな記述を指差した。「この塔の最上階には、『世界の理』そのものが眠っている、という伝説がある」
『世界の理』。
それは、『沈黙の遺跡』で見た石版の謎に繋がる、新たな手がかりかもしれない。
僕の本当の目的を、二人はもう理解していた。
「決まりね」リリアナが、静かに、しかし力強く言った。「私たちの次の冒険は、その塔の頂上を目指すこと」
「おうよ! 天国への階段だろうが地獄への入り口だろうが、リーダーが行くってんなら、どこまでもついてってやるぜ!」
僕たちの心は、再び一つになった。
僕たち『フロンティア』が、新たな目標に向かって静かに牙を研いでいる頃。
その活躍の報せは、王都の隅々まで、そして、聞きたくないと願う者たちの耳にまで、確実に届いていた。
ある者は、その規格外の成功に、どす黒い嫉妬の炎を燃やし。
またある者は、その力の根源に、危険な好奇心を抱き、密かに調査を開始していた。
僕たちの快進撃は、多くの人々の思惑を交錯させ、物語の歯車を、新たな、そしてより複雑な局面へと、静かに動かし始めていた。
僕たちが、平穏な日常の裏で、巨大な渦の中心になりつつあることを、まだ誰も知らなかった。
金貨三千枚。そのほとんどを、僕たちは自分たちの装備と拠点の強化に惜しみなく注ぎ込んだ。
バルガスは、地下工房に古代ドワーフの技術が記されたという設計図の写しを取り寄せ、ミスリルとエンシェントウッドを組み合わせた新しい大盾の開発に没頭していた。彼の目標は、エンシェントドラゴンのブレスですら完全に無効化する『絶対の盾』を作り上げることだ。工房からは、昼夜を問わず、楽しげな槌の音と、時折聞こえる満足げな雄叫びが響いていた。
リリアナは、高名な剣術の達人を家庭教師として雇い、レイピアの技術を基礎から学び直していた。彼女の【縮地】はすでに神業の域だが、それに頼り切るのではなく、純粋な剣士としての技量を高めることで、戦闘の幅をさらに広げようとしているのだ。庭には、彼女が雇った庭師によって、世界中の珍しい薬草が植えられ、小さな植物園のようになっていた。
そして僕は、ランズデール侯爵のコネを使い、王立図書館の禁書庫への立ち入り許可を得た。そこには、一般には公開されていない、古代文明や世界の成り立ちに関する、極めて重要な文献が眠っていた。僕は来る日も来る日もそこに通い詰め、知識という名の武器を、静かに、しかし着実に研ぎ澄ませていた。
僕たち三人は、手に入れた富を、ただの贅沢のためではなく、自らを高めるための投資として使っていた。僕たちのパーティ『フロンティア』は、ダンジョンに潜っていない間にも、着実にその力を増していったのだ。
そんなある日の午後、再びギルドマスターのダグラスから、公式な呼び出しがあった。
「また呼び出しか。今度はなんだろうな」
バルガスが、新しく作ったミスリル合金の小手を磨きながら、不思議そうに言う。
「何か、面倒ごとでなければいいのだけど」
リリアナも、少しだけ眉をひそめた。
僕たちは、もはや日常となった周囲の冒険者たちの畏敬の視線を浴びながら、ギルドマスター室の扉を開けた。
ダグラスは、山のような書類に囲まれながら、厳しい顔で僕たちを迎えた。
「来たか。今日は、お前たちの正式なランク査定の結果を伝えに来てもらった」
彼は、一枚の公式文書をテーブルの上に置いた。
「先日の『灼熱の火山』での、ランズデール侯爵家嫡男アルフレッド様の救助、および、災害級モンスター『エンシェントドラゴン』の討伐。この功績について、ギルド本部で正式な審査が行われた。その結果……」
ダグラスは、一呼吸置いて、宣言した。
「本日付で、貴パーティ『フロンティア』を、CランクからBランクへと昇格させることを決定した。異論はないな」
Cランクになってから、まだ一ヶ月も経っていない。にもかかわらず、再びの特例昇進。
だが、僕たちの間に、以前のような驚きはなかった。それだけのことを、自分たちは成し遂げたという自負があったからだ。
「謹んで、お受けいたします」
僕が代表して答えると、ダグラスは満足げに頷いた。
「うむ。これで、お前たちは名実ともに、この国でも指折りの実力派パーティとなったわけだ。だが、それ故に、風当たりも強くなることを忘れるな」
彼の言葉通りだった。
Bランク昇格の報がギルド内に伝わると、僕たちを見る周囲の目は、さらに複雑な色を帯びるようになった。
「Bランクだとよ……。俺たちが何年もかかってようやくたどり着いた階級に、あいつらはたった数ヶ月で……」
嫉妬と羨望の声が、あちこちから聞こえてくる。
「だが、奴らの実績を考えれば当然だ。『攻略神』ユキナガがいる限り、どんなダンジョンもただの宝の山に変わる」
「リーダーのユキナガが『脳』、ハーフエルフのリリアナが『剣』、ドワーフのバルガスが『盾』。あの三人は、もはや一個の生命体みたいなもんだ。誰か一人欠けても駄目だし、誰も入り込む隙がない」
「ああ、まさに三位一体の理想郷(ユートピア)だな。俺たち凡人には、到底真似できねえ」
僕たちの戦い方は、いつしかそう評されるようになっていた。
『攻略神』ユキナガという二つ名も、もはや僕個人のものではなく、僕たち『フロンティア』というパーティ全体の異名のように、王都に定着していた。
名声の高まりは、新たな厄介事も運んできた。
僕たちの家に、他のパーティのリーダーや、貴族の使いと名乗る者たちが、ひっきりなしに訪れるようになったのだ。
「ユキナガ殿! 我がパーティに、軍師として加わってはいただけまいか! 年俸は金貨五百枚、いや、千枚でもお支払いする!」
「我が主が、お主のその『地図』を欲しておられる。一夜でいい、我らのダンジョン攻略を手伝ってはくれぬか。報酬は言い値で構わん」
高額な報酬での引き抜き。情報提供の依頼。それは、僕の力を金で買おうとする、欲望に満ちた申し出ばかりだった。
僕たちは、それらの申し出を、全て丁重に、しかしきっぱりと断った。
「申し訳ありませんが、俺の力は、この仲間たちのためにしか使いません。彼らがいなければ、俺の力は何の意味もなさないので」
僕がそう言って、隣に立つリリアナとバルガスの肩を叩くと、彼らは誇らしげに胸を張った。僕たちの絆は、金で買えるほど安くはない。
そんな日々が続く中で、僕は次の目標を定めつつあった。
Bランクになったことで、僕たちはさらに高難易度で、そして古代の謎に深く関わるダンジョンへと、挑戦する資格を得た。
その夜、リビングの暖炉の火を囲みながら、僕は二人に語りかけた。
「次の目的地だが、一つ、面白い場所を見つけた」
僕は、禁書庫から書き写してきた、一枚の古い地図を広げた。
「『天へと至る塔』。王都の北、霧深い山脈にそびえ立つ、天を突くほどの巨大な塔だ。誰が、何のために建てたのか、一切が謎に包まれている。Bランク以上のパーティしか、立ち入りが許可されていない」
「天へと至る塔……」
リリアナが、その名前に興味を惹かれたように呟いた。
「その塔は、階層ごとに全く違うギミックとモンスターが出現するらしい。ある階は灼熱地獄、ある階は極寒の氷原、またある階は重力が捻じ曲がった空間になっているとか。これまで、数多のパーティが挑戦したが、未だに十階層までしか到達できていないそうだ」
「へへっ、面白え! 総合力が試されるってわけか! まさに、俺たちのためのダンジョンじゃねえか!」
バルガスは、目を輝かせて身を乗り出した。
「ああ。そして、俺が興味を惹かれているのは、それだけじゃない」
僕は、地図の隅に記された、小さな記述を指差した。「この塔の最上階には、『世界の理』そのものが眠っている、という伝説がある」
『世界の理』。
それは、『沈黙の遺跡』で見た石版の謎に繋がる、新たな手がかりかもしれない。
僕の本当の目的を、二人はもう理解していた。
「決まりね」リリアナが、静かに、しかし力強く言った。「私たちの次の冒険は、その塔の頂上を目指すこと」
「おうよ! 天国への階段だろうが地獄への入り口だろうが、リーダーが行くってんなら、どこまでもついてってやるぜ!」
僕たちの心は、再び一つになった。
僕たち『フロンティア』が、新たな目標に向かって静かに牙を研いでいる頃。
その活躍の報せは、王都の隅々まで、そして、聞きたくないと願う者たちの耳にまで、確実に届いていた。
ある者は、その規格外の成功に、どす黒い嫉妬の炎を燃やし。
またある者は、その力の根源に、危険な好奇心を抱き、密かに調査を開始していた。
僕たちの快進撃は、多くの人々の思惑を交錯させ、物語の歯車を、新たな、そしてより複雑な局面へと、静かに動かし始めていた。
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