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第49話 屈辱の帰還と天への挑戦状
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ユキナガの家から追い出されるようにして去ったアレクサンダーは、夕暮れの王都を、亡霊のように彷徨っていた。
道行く人々の賑わいや、家々の窓から漏れる温かい光が、彼の孤独と屈辱を、より一層際立たせる。
彼の頭の中では、先ほどの光景が、何度も繰り返し再生されていた。
『断る』
ユキナガの、冷たく、そして揺るぎない拒絶の言葉。
『うちのリーダーを無能呼ばわりできるのは、この世に一人もいねえ』
あのドワーフの、剥き出しの敵意と忠誠心。
『私が、あなたを殺す』
あのハーフエルフの、氷のように冷たい殺意。
彼らは、かつて自分たちが見捨てた、ハズレスキルの寄せ集めだったはずだ。それがなぜ、あんなにも強く、そして揺るぎない絆で結ばれているのか。なぜ、ユキナガという男のために、命を懸けることすら厭わないのか。
理解できない。
アレクサンダーは、生まれて初めて、自分が決して手に入れることのできないものの存在を、まざまざと見せつけられた。それは、聖剣でも、勇者の称号でも、王家の血筋でもない。『仲間との信頼』という、あまりにも単純で、そして何よりも強固な力だった。
自分がユキナガを追放し、仲間を罵倒し、孤立していく一方で、ユキナガは自分が見捨てた者たちを拾い上げ、彼らと真のパーティを築き上げていた。
その事実が、アレクサンダーのプライドを、回復不能なまでに粉砕した。
「……ユキナガ」
彼の唇から、呪詛のような声が漏れた。
驚愕は、とうに過ぎ去っていた。今、彼の心を支配しているのは、どす黒く燃え盛る、純粋な嫉妬と憎悪だけだ。
なぜ、俺ではなく、あいつが。
なぜ、俺が失ったものを、あいつが持っている。
許せない。
あの男の成功も、あの男の仲間も、あの男が持つ全てが、許せない。
(力ずくで、奪い取ってやる)
彼の思考は、もはや正常ではなかった。
(あいつの仲間を、引き剥がし、あいつを再び孤独にする。そして、俺の足元に跪かせ、俺の『駒』として使うのだ。それこそが、あいつにふさわしい末路だ)
歪んだ独占欲と破壊衝動が、彼の魂を完全に蝕んでいく。
彼は、ユキナガを、そして『フロンティア』を、叩き潰すための、邪悪な計画を練り始めた。その瞳には、もはや勇者の面影はなく、ただただ、破滅へと突き進む狂信者の光だけが宿っていた。
勇者アレクサンダーの、本当の凋落が、この瞬間から始まった。
アレクサンダーが去った後の僕たちの家には、嵐が過ぎ去った後のような、静かな、しかしどこか晴れやかな空気が流れていた。
「へっ、ざまあみやがれってんだ! これで、あの勇者様も少しは自分の立場を思い知っただろうぜ」
バルガスは、まだ興奮冷めやらぬ様子で、ミスリルの小手をガチャガチャと鳴らしている。
「ええ。でも、少し心配ね。彼は、このまま黙っているような人には見えなかった」
リリアナが、冷静に分析する。彼女の言う通り、アレクサンダーの最後の目は、ただの敗者のものではなかった。何か、良からぬことを企んでいる、危険な光をしていた。
「心配するな」
僕は、そんな二人に向かって静かに言った。「どんな手を使ってこようと、今の俺たちなら跳ね返せる。俺たちは、もうあいつの知る俺たちじゃない」
僕の言葉に、二人は力強く頷いた。
この一件は、僕たちの間にあった最後のわだかまりのようなものを、完全に消し去ってくれた。僕は、過去の復讐心から解放された。そして二人は、僕に守られるだけの存在ではなく、僕を、そしてこの『フロンティア』という城を守るための、頼もしい守護者としての自覚を新たにした。
僕たちの絆は、敵の来訪によって、皮肉にもさらに強固なものとなったのだ。
「さて、邪魔者の話はもう終わりだ。俺たちの冒険の続きをしよう」
僕は、書斎から持ち出した『天へと至る塔』の資料を、テーブルの上に広げた。「この塔の攻略準備を、本格的に始めるぞ」
僕の言葉に、二人の顔が、未来への期待に輝いた。僕たちの視線は、もはや過去にはなく、天高くそびえる、未知なる塔の頂だけを見据えていた。
その数日後、僕たちの元に、再びギルドからの呼び出しがかかった。
使いに来た職員は、以前とは比べ物にならないほど丁寧な態度で、僕たちをギルドマスター室へと案内した。
「また呼び出しか。今度は一体なんだってんだ。俺たちは、しばらくダンジョンには潜ってねえぞ」
バルガスが、不思議そうに首を傾げる。
僕も、少し訝しく思いながら、重厚な扉を開けた。
ギルドマスターのダグラスは、山のような書類から顔を上げると、僕たちを値踏みするような鋭い目で見た。
「来たか、『フロンティア』。いや、Bランクパーティ『攻略神』と呼ぶべきか」
彼の言葉には、からかいと、そして隠しきれない賞賛の色が混じっていた。
「今日は、お前たちに一つの『提案』があって、来てもらった」
彼は、一枚の羊皮紙をテーブルの上に滑らせた。それは、王国とギルド本部の印章が押された、公式な辞令書だった。
「単刀直入に言おう。お前たちに、Aランクへの昇格試験を、受ける権利を与える」
「「ええっ!?」」
さすがに、これにはバルガスとリリアナも驚きの声を上げた。Bランクに上がってから、まだ一ヶ月も経っていない。あまりにも早すぎる、異例中の異例の抜擢だった。
「ま、待ってください、ギルドマスター! 俺たちが、もうAランクの試験を?」
バルガスが、信じられないといった様子で聞き返す。
「そうだ」ダグラスは、静かに頷いた。「お前たちのこれまでの実績は、もはやBランクという器には収まりきらん。ギルド本部も、そして王国の上層部も、お前たちの力を高く評価している。そして、その力が本物かどうかを、公式な場で確かめたいと考えているのだ」
彼の言葉は、僕たちの存在が、もはや一冒険者パーティの域を超え、国家レベルの注目を集める案件になっていることを示唆していた。
「もちろん、これは強制ではない。だが、もしこの試験に合格すれば、お前たちは名実ともに、この国で最高位の冒険者となる。あらゆる特権と、そして栄誉が、お前たちのものになるだろう」
その言葉に、バルガスはごくりと唾を飲んだ。リリアナも、緊張した面持ちで僕を見つめている。
僕は、冷静にダグラスに問いかけた。
「……試験の内容は?」
僕の問いに、ダグラスは、全てを見通すような笑みを浮かべた。
「お前たちが、すでに狙いを定めている場所だ」
彼は、窓の外、王都の北方に広がる霧深い山脈を指差した。
「高難易度ダンジョン、『天へと至る塔』。その、未だ誰も到達できていない、第十五階層までたどり着くこと。それが、お前たちに課せられた昇格試験だ」
その言葉を聞いた瞬間、僕たちの間にあった緊張は、一気に燃え上がるような闘志へと変わった。
僕たちが、自分たちの次の目標として定めていた場所。それが、最高の舞台として、公式に用意されたのだ。
「へっ……へへへっ、面白え! やってやろうじゃねえか!」
バルガスが、抑えきれない興奮に、声を震わせた。「俺たちの力を、ギルドにも、王国にも、思い知らせてやるぜ!」
「ええ。ユキナガのナビゲートがあれば、きっと……!」
リリアナも、その碧眼を挑戦の光に輝かせている。
僕は、静かに頷いた。
「その試験、お受けします」
僕の返答に、ダグラスは満足げに、そして深く頷いた。
「そう言うと思っていた。試験は、一週間後だ。多くの貴族やギルド関係者が、お前たちの挑戦を見守ることになるだろう。せいぜい、我々を失望させるなよ、『攻略神』」
彼の最後の言葉は、僕たちへの、最大級の期待の表れだった。
ギルドを出た僕たちの足取りは、これまでにないほど軽く、そして力強かった。
Aランク昇格試験。そして、目標は『天へと至る塔』。
これ以上ない、最高の舞台が整った。
僕たちの力、僕たちの絆が、本物であることを、世界に示す時が来たのだ。
僕の脳裏には、塔の頂にあるという『世界の理』の姿が、ぼんやりと浮かんでいた。
僕たちの冒険は、この塔を登ることで、新たな、そしてより深遠なステージへと進むことになるだろう。
その予感が、僕の心を強く、そして激しく震わせていた。
僕たち『フロンティア』の、本当の伝説が、今、始まろうとしていた。
道行く人々の賑わいや、家々の窓から漏れる温かい光が、彼の孤独と屈辱を、より一層際立たせる。
彼の頭の中では、先ほどの光景が、何度も繰り返し再生されていた。
『断る』
ユキナガの、冷たく、そして揺るぎない拒絶の言葉。
『うちのリーダーを無能呼ばわりできるのは、この世に一人もいねえ』
あのドワーフの、剥き出しの敵意と忠誠心。
『私が、あなたを殺す』
あのハーフエルフの、氷のように冷たい殺意。
彼らは、かつて自分たちが見捨てた、ハズレスキルの寄せ集めだったはずだ。それがなぜ、あんなにも強く、そして揺るぎない絆で結ばれているのか。なぜ、ユキナガという男のために、命を懸けることすら厭わないのか。
理解できない。
アレクサンダーは、生まれて初めて、自分が決して手に入れることのできないものの存在を、まざまざと見せつけられた。それは、聖剣でも、勇者の称号でも、王家の血筋でもない。『仲間との信頼』という、あまりにも単純で、そして何よりも強固な力だった。
自分がユキナガを追放し、仲間を罵倒し、孤立していく一方で、ユキナガは自分が見捨てた者たちを拾い上げ、彼らと真のパーティを築き上げていた。
その事実が、アレクサンダーのプライドを、回復不能なまでに粉砕した。
「……ユキナガ」
彼の唇から、呪詛のような声が漏れた。
驚愕は、とうに過ぎ去っていた。今、彼の心を支配しているのは、どす黒く燃え盛る、純粋な嫉妬と憎悪だけだ。
なぜ、俺ではなく、あいつが。
なぜ、俺が失ったものを、あいつが持っている。
許せない。
あの男の成功も、あの男の仲間も、あの男が持つ全てが、許せない。
(力ずくで、奪い取ってやる)
彼の思考は、もはや正常ではなかった。
(あいつの仲間を、引き剥がし、あいつを再び孤独にする。そして、俺の足元に跪かせ、俺の『駒』として使うのだ。それこそが、あいつにふさわしい末路だ)
歪んだ独占欲と破壊衝動が、彼の魂を完全に蝕んでいく。
彼は、ユキナガを、そして『フロンティア』を、叩き潰すための、邪悪な計画を練り始めた。その瞳には、もはや勇者の面影はなく、ただただ、破滅へと突き進む狂信者の光だけが宿っていた。
勇者アレクサンダーの、本当の凋落が、この瞬間から始まった。
アレクサンダーが去った後の僕たちの家には、嵐が過ぎ去った後のような、静かな、しかしどこか晴れやかな空気が流れていた。
「へっ、ざまあみやがれってんだ! これで、あの勇者様も少しは自分の立場を思い知っただろうぜ」
バルガスは、まだ興奮冷めやらぬ様子で、ミスリルの小手をガチャガチャと鳴らしている。
「ええ。でも、少し心配ね。彼は、このまま黙っているような人には見えなかった」
リリアナが、冷静に分析する。彼女の言う通り、アレクサンダーの最後の目は、ただの敗者のものではなかった。何か、良からぬことを企んでいる、危険な光をしていた。
「心配するな」
僕は、そんな二人に向かって静かに言った。「どんな手を使ってこようと、今の俺たちなら跳ね返せる。俺たちは、もうあいつの知る俺たちじゃない」
僕の言葉に、二人は力強く頷いた。
この一件は、僕たちの間にあった最後のわだかまりのようなものを、完全に消し去ってくれた。僕は、過去の復讐心から解放された。そして二人は、僕に守られるだけの存在ではなく、僕を、そしてこの『フロンティア』という城を守るための、頼もしい守護者としての自覚を新たにした。
僕たちの絆は、敵の来訪によって、皮肉にもさらに強固なものとなったのだ。
「さて、邪魔者の話はもう終わりだ。俺たちの冒険の続きをしよう」
僕は、書斎から持ち出した『天へと至る塔』の資料を、テーブルの上に広げた。「この塔の攻略準備を、本格的に始めるぞ」
僕の言葉に、二人の顔が、未来への期待に輝いた。僕たちの視線は、もはや過去にはなく、天高くそびえる、未知なる塔の頂だけを見据えていた。
その数日後、僕たちの元に、再びギルドからの呼び出しがかかった。
使いに来た職員は、以前とは比べ物にならないほど丁寧な態度で、僕たちをギルドマスター室へと案内した。
「また呼び出しか。今度は一体なんだってんだ。俺たちは、しばらくダンジョンには潜ってねえぞ」
バルガスが、不思議そうに首を傾げる。
僕も、少し訝しく思いながら、重厚な扉を開けた。
ギルドマスターのダグラスは、山のような書類から顔を上げると、僕たちを値踏みするような鋭い目で見た。
「来たか、『フロンティア』。いや、Bランクパーティ『攻略神』と呼ぶべきか」
彼の言葉には、からかいと、そして隠しきれない賞賛の色が混じっていた。
「今日は、お前たちに一つの『提案』があって、来てもらった」
彼は、一枚の羊皮紙をテーブルの上に滑らせた。それは、王国とギルド本部の印章が押された、公式な辞令書だった。
「単刀直入に言おう。お前たちに、Aランクへの昇格試験を、受ける権利を与える」
「「ええっ!?」」
さすがに、これにはバルガスとリリアナも驚きの声を上げた。Bランクに上がってから、まだ一ヶ月も経っていない。あまりにも早すぎる、異例中の異例の抜擢だった。
「ま、待ってください、ギルドマスター! 俺たちが、もうAランクの試験を?」
バルガスが、信じられないといった様子で聞き返す。
「そうだ」ダグラスは、静かに頷いた。「お前たちのこれまでの実績は、もはやBランクという器には収まりきらん。ギルド本部も、そして王国の上層部も、お前たちの力を高く評価している。そして、その力が本物かどうかを、公式な場で確かめたいと考えているのだ」
彼の言葉は、僕たちの存在が、もはや一冒険者パーティの域を超え、国家レベルの注目を集める案件になっていることを示唆していた。
「もちろん、これは強制ではない。だが、もしこの試験に合格すれば、お前たちは名実ともに、この国で最高位の冒険者となる。あらゆる特権と、そして栄誉が、お前たちのものになるだろう」
その言葉に、バルガスはごくりと唾を飲んだ。リリアナも、緊張した面持ちで僕を見つめている。
僕は、冷静にダグラスに問いかけた。
「……試験の内容は?」
僕の問いに、ダグラスは、全てを見通すような笑みを浮かべた。
「お前たちが、すでに狙いを定めている場所だ」
彼は、窓の外、王都の北方に広がる霧深い山脈を指差した。
「高難易度ダンジョン、『天へと至る塔』。その、未だ誰も到達できていない、第十五階層までたどり着くこと。それが、お前たちに課せられた昇格試験だ」
その言葉を聞いた瞬間、僕たちの間にあった緊張は、一気に燃え上がるような闘志へと変わった。
僕たちが、自分たちの次の目標として定めていた場所。それが、最高の舞台として、公式に用意されたのだ。
「へっ……へへへっ、面白え! やってやろうじゃねえか!」
バルガスが、抑えきれない興奮に、声を震わせた。「俺たちの力を、ギルドにも、王国にも、思い知らせてやるぜ!」
「ええ。ユキナガのナビゲートがあれば、きっと……!」
リリアナも、その碧眼を挑戦の光に輝かせている。
僕は、静かに頷いた。
「その試験、お受けします」
僕の返答に、ダグラスは満足げに、そして深く頷いた。
「そう言うと思っていた。試験は、一週間後だ。多くの貴族やギルド関係者が、お前たちの挑戦を見守ることになるだろう。せいぜい、我々を失望させるなよ、『攻略神』」
彼の最後の言葉は、僕たちへの、最大級の期待の表れだった。
ギルドを出た僕たちの足取りは、これまでにないほど軽く、そして力強かった。
Aランク昇格試験。そして、目標は『天へと至る塔』。
これ以上ない、最高の舞台が整った。
僕たちの力、僕たちの絆が、本物であることを、世界に示す時が来たのだ。
僕の脳裏には、塔の頂にあるという『世界の理』の姿が、ぼんやりと浮かんでいた。
僕たちの冒険は、この塔を登ることで、新たな、そしてより深遠なステージへと進むことになるだろう。
その予感が、僕の心を強く、そして激しく震わせていた。
僕たち『フロンティア』の、本当の伝説が、今、始まろうとしていた。
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