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第57話 王家からの召集
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『天へと至る塔』での昇格試験から、一ヶ月が過ぎた。
僕たち『フロンティア』の名は、もはや王都の冒険者なら知らぬ者はいない、伝説の代名詞となっていた。Aランクパーティとしてギルドに登録された僕たちの元には、高難易度の依頼がひっきりなしに舞い込んでくるようになったが、僕たちはそれらを吟味し、自分たちの目的、すなわち『世界の謎』に繋がる可能性のあるもの以外は、丁重に断っていた。
僕たちの生活は、変わらず穏やかだった。だが、その内実は、以前とは比較にならないほど充実していた。
「どうだユキナガ! この盾を見てくれ!」
バルガスは、地下工房から誇らしげな顔で現れた。その手には、ミスリルとアダマンタイト、そしてエンシェントウッドを幾重にも重ね合わせた、芸術品のような輝きを放つ大盾が握られている。彼が研究を重ねて完成させた、会心の作だった。
「すごいわ。魔力の流れが、完璧に制御されている」
リリアナは、庭で育てた薬草を調合しながら、その盾に込められたドワーフ技術の粋に感嘆の声を上げた。彼女もまた、剣術の訓練と並行して、高度な錬金術の知識を吸収し始めていた。
僕は、王立図書館で得た知識を基に、古代アルケイア文明の文字の解読を進めていた。『沈黙の遺跡』で見た石版の謎は、まだほんの入り口しか解明できていない。だが、一つ一つの文字を解き明かすたびに、この世界の成り立ちに関する、巨大なパズルのピースが、一つずつ手に入っていくような興奮があった。
僕たちは、ただの冒険者パーティではない。
鍛冶師、錬金術師、そして古代史研究家。それぞれの専門分野を持つ、一つの研究チームのような側面も持ち始めていた。これもまた、僕たちが目指す『世界の理』への、アプローチの一つだった。
そんな、穏やかで知的な午後の時間。
その平穏を破るように、僕たちの家の前に、一台の豪奢な馬車が静かに停車した。
黒塗りの車体に、金色の装飾。そして、その扉に刻まれているのは、この国を統べる王家の紋章、『黄金の獅子』。
「……おいおい、冗談だろ」
窓から外の様子を窺っていたバルガスが、呆然とした声を漏らした。
やがて、馬車から降りてきた一人の騎士が、僕たちの家の扉を、丁寧だが力強いノックで叩いた。その騎士が纏う白銀の鎧は、王家に仕える近衛騎士団のものであることを示していた。
リリアナが、緊張した面持ちで扉を開ける。
騎士は、僕たち三人の顔を順に見回すと、兜の面頬を上げ、厳かな口調で言った。
「Aランクパーティ『フロンティア』とお見受けする。国王陛下よりの、勅命である。至急、王城までご足労願いたい」
国王からの、勅命。
それは、ギルドマスターからの呼び出しや、貴族からの依頼とは、全く次元の違う、絶対的な命令だった。
僕とリリアナ、そしてバルガスは、顔を見合わせた。僕たちの物語が、また一つ、新しい、そしてとてつもなく大きなステージへと、否応なく引き上げられた瞬間だった。
王城は、僕がこれまでに見たどの建物よりも、壮麗で、そして威圧的だった。
天を突くようにそびえる白亜の塔。磨き上げられた大理石の床。壁には、歴代の王たちの肖像画や、建国の神話を描いた巨大なタペストリーが飾られている。廊下の至る所に立つ近衛騎士たちは、一分の隙もなく、僕たちの存在を監視するように、鋭い視線を送っていた。
「……へへっ。侯爵様の屋敷が、犬小屋に見えるぜ」
バルガスが、緊張を紛らわすように、僕の耳元で囁いた。彼の額には、大粒の汗が滲んでいる。
「静かに、バルガス。ここは、私たちの知る世界とは違うわ」
リリアナも、いつになく硬い表情で、周囲を警戒していた。
やがて、僕たちは玉座の間へと通された。
天井は、教会のドームのように高く、ステンドグラスから差し込む光が、部屋全体を荘厳な色で染めている。その広大な空間の、一番奥。幾段も高い壇上に、巨大な玉座が置かれ、そこに一人の男が腰掛けていた。
エーテリオン王国、国王、アルトリウス・フォン・エーテリオン。
年の頃は六十代だろうか。白くなった髪と髭が、その威厳を際立たせている。その体は、年の割に鍛え上げられており、その瞳は、鷹のように鋭く、僕たち一人一人の魂の奥底までを見透かすような、圧倒的な力を持っていた。
僕たち三人は、玉座の前で、深く頭を垂れた。
「面を上げよ」
国王の、低く、しかしよく通る声が、玉座の間に響き渡った。
僕たちが顔を上げると、国王は満足げに頷いた。
「お前たちが、『フロンティア』か。噂には聞いていたが、なるほど、良い眼をしている。特に、そこのリーダー、ユキナガとやら」
彼の視線が、僕に真っ直ぐに突き刺さる。「『攻略神』。大仰な二つ名だが、お前のこれまでの功績を聞けば、それもあながち誇張ではあるまい」
その言葉には、探るような響きがあった。
「過分なお言葉、恐悦至極に存じます」
僕は、当たり障りのなく答えた。
「ふん。謙遜はよせ。我が息子、アルフレッドもお前たちには世話になった。ランズデール侯爵からも、お前たちの異能ぶりは、嫌というほど聞かされておる」
国王は、玉座からゆっくりと立ち上がると、壇上を下り、僕たちの目の前まで歩み寄ってきた。その一挙手一投足が、王としての絶対的な自信に満ちている。
「今日は、お前たちに、王家として、正式な依頼があって呼んだ。これは、ギルドを通さぬ、極秘中の極秘任務だと思え」
彼が手を振ると、玉座の間にいた大臣や騎士たちが、一礼して静かに退室していった。広大な空間に、僕たち四人だけが残される。
国王は、声を潜め、本題を切り出した。
「お前たちに調査してもらいたい場所がある。それは、王家の者と、王が特別に許可した者しか、足を踏み入れることを許されぬ、禁断の聖域」
彼は、僕たちの目を見据え、その名を告げた。
「『王家の谷』。それが、お前たちの次の舞台だ」
王家の谷。
その名を聞いた時、僕の脳裏に、王立図書館の禁書庫で読んだ、ある文献の一節が蘇った。
『王家の谷、それは生と死の狭間。歴代の王の魂が、現し世と常夜を繋ぐ門番として、今なお眠り続ける場所』
「『王家の谷』は、その名の通り、我がエーテリオン王国の、歴代の王たちが眠る広大な地下墓所だ」
国王は、僕の心中を見透かすかのように、説明を続けた。「だが、それはただの墓ではない。一つの、極めて特殊なダンジョンでもある。内部は、強力な霊体モンスターが守護しており、生半可な覚悟で足を踏み入れた者は、二度と生きては戻れぬ」
「なぜ、我々が、そのような聖域に?」
僕が尋ねると、国王は苦々しい顔で答えた。
「近年、その谷の奥から、不吉な魔力が漏れ出し始めているのだ。それは、日に日に強まっており、放置すれば、いずれ王都そのものを脅かす災厄になりかねん。騎士団の精鋭や、宮廷魔術師たちを何度か調査に派遣したが、誰一人として、最深部までたどり着くことができずにいる」
「霊体モンスターが、それほどまでに強力なのですか」
「それもある。だが、最大の理由は、谷の内部構造が、極めて複雑怪奇なことにある。まるで、侵入者の精神を惑わし、破滅させるためだけに設計されたかのような、悪意に満ちた迷宮なのだ」
その言葉に、僕はピンと来た。
「……そこで、俺の【地図化】スキルに、白羽の矢が立った、と」
「いかにも」
国王は、満足げに頷いた。「お前のその『攻略神』の眼ならば、あるいは、この千年の謎に包まれた迷宮の、真の姿を暴き出せるかもしれん。そして、魔力の源泉を突き止め、それを鎮める手立てを見つけ出せるかもしれん」
それは、僕たちの力を最大限に評価した上での、名指しの依頼だった。
だが、国王の話は、それだけでは終わらなかった。
「そして、この依頼には、もう一つの、裏の目的がある」
彼は、さらに声を潜めた。「『王家の谷』の最深部には、我が王家に、代々口伝でのみ伝えられてきた、一つの伝説がある。そこに、この国の成り立ち、ひいては、『世界の理』そのものに関する、古代の遺物が眠っている、とな」
『世界の理』。
その言葉を聞いた瞬間、僕の心臓が、大きく高鳴った。
『沈黙の遺跡』で見た、あの石版。ダンジョンの真実。世界の厄災。
全ての謎が、この『王家の谷』に繋がっているのかもしれない。
これは、ただの依頼ではない。僕が追い求めてきた、答えへの、最大の近道だ。
「この依頼、どうだ。引き受けるか、フロンティア」
国王の問いに、僕の答えは、もう決まっていた。
金のためではない。名誉のためでもない。
ただ、真実を知るために。
「謹んで、お受けいたします。我々『フロンティア』の全てを懸けて、必ずや、陛下の御期待に応えてみせましょう」
僕は、深く、そして力強く、頭を下げた。
バルガスも、リリアナも、僕の決意を察し、無言で僕に倣って頭を垂れた。僕たちの心は、完全に一つになっていた。
僕の返答に、国王は、満足げな、そしてどこか意味深な笑みを浮かべた。
「……頼んだぞ、『攻略神』。そして、もし、お前たちが最深部で何かを見つけたのなら……」
彼は、僕にだけ聞こえる声で、こう付け加えた。
「その『真実』が、たとえこの国を揺るがすほどの、恐ろしいものであったとしても、決して、目を逸らすでないぞ」
その言葉の真意を、僕はまだ、知る由もなかった。
王城を後にした僕たちの背中に、王都の夕日が、長く、濃い影を落としていた。
僕たちの、これまでで最も危険で、そして最も重要な冒険が、今、始まろうとしていた。
僕たち『フロンティア』の名は、もはや王都の冒険者なら知らぬ者はいない、伝説の代名詞となっていた。Aランクパーティとしてギルドに登録された僕たちの元には、高難易度の依頼がひっきりなしに舞い込んでくるようになったが、僕たちはそれらを吟味し、自分たちの目的、すなわち『世界の謎』に繋がる可能性のあるもの以外は、丁重に断っていた。
僕たちの生活は、変わらず穏やかだった。だが、その内実は、以前とは比較にならないほど充実していた。
「どうだユキナガ! この盾を見てくれ!」
バルガスは、地下工房から誇らしげな顔で現れた。その手には、ミスリルとアダマンタイト、そしてエンシェントウッドを幾重にも重ね合わせた、芸術品のような輝きを放つ大盾が握られている。彼が研究を重ねて完成させた、会心の作だった。
「すごいわ。魔力の流れが、完璧に制御されている」
リリアナは、庭で育てた薬草を調合しながら、その盾に込められたドワーフ技術の粋に感嘆の声を上げた。彼女もまた、剣術の訓練と並行して、高度な錬金術の知識を吸収し始めていた。
僕は、王立図書館で得た知識を基に、古代アルケイア文明の文字の解読を進めていた。『沈黙の遺跡』で見た石版の謎は、まだほんの入り口しか解明できていない。だが、一つ一つの文字を解き明かすたびに、この世界の成り立ちに関する、巨大なパズルのピースが、一つずつ手に入っていくような興奮があった。
僕たちは、ただの冒険者パーティではない。
鍛冶師、錬金術師、そして古代史研究家。それぞれの専門分野を持つ、一つの研究チームのような側面も持ち始めていた。これもまた、僕たちが目指す『世界の理』への、アプローチの一つだった。
そんな、穏やかで知的な午後の時間。
その平穏を破るように、僕たちの家の前に、一台の豪奢な馬車が静かに停車した。
黒塗りの車体に、金色の装飾。そして、その扉に刻まれているのは、この国を統べる王家の紋章、『黄金の獅子』。
「……おいおい、冗談だろ」
窓から外の様子を窺っていたバルガスが、呆然とした声を漏らした。
やがて、馬車から降りてきた一人の騎士が、僕たちの家の扉を、丁寧だが力強いノックで叩いた。その騎士が纏う白銀の鎧は、王家に仕える近衛騎士団のものであることを示していた。
リリアナが、緊張した面持ちで扉を開ける。
騎士は、僕たち三人の顔を順に見回すと、兜の面頬を上げ、厳かな口調で言った。
「Aランクパーティ『フロンティア』とお見受けする。国王陛下よりの、勅命である。至急、王城までご足労願いたい」
国王からの、勅命。
それは、ギルドマスターからの呼び出しや、貴族からの依頼とは、全く次元の違う、絶対的な命令だった。
僕とリリアナ、そしてバルガスは、顔を見合わせた。僕たちの物語が、また一つ、新しい、そしてとてつもなく大きなステージへと、否応なく引き上げられた瞬間だった。
王城は、僕がこれまでに見たどの建物よりも、壮麗で、そして威圧的だった。
天を突くようにそびえる白亜の塔。磨き上げられた大理石の床。壁には、歴代の王たちの肖像画や、建国の神話を描いた巨大なタペストリーが飾られている。廊下の至る所に立つ近衛騎士たちは、一分の隙もなく、僕たちの存在を監視するように、鋭い視線を送っていた。
「……へへっ。侯爵様の屋敷が、犬小屋に見えるぜ」
バルガスが、緊張を紛らわすように、僕の耳元で囁いた。彼の額には、大粒の汗が滲んでいる。
「静かに、バルガス。ここは、私たちの知る世界とは違うわ」
リリアナも、いつになく硬い表情で、周囲を警戒していた。
やがて、僕たちは玉座の間へと通された。
天井は、教会のドームのように高く、ステンドグラスから差し込む光が、部屋全体を荘厳な色で染めている。その広大な空間の、一番奥。幾段も高い壇上に、巨大な玉座が置かれ、そこに一人の男が腰掛けていた。
エーテリオン王国、国王、アルトリウス・フォン・エーテリオン。
年の頃は六十代だろうか。白くなった髪と髭が、その威厳を際立たせている。その体は、年の割に鍛え上げられており、その瞳は、鷹のように鋭く、僕たち一人一人の魂の奥底までを見透かすような、圧倒的な力を持っていた。
僕たち三人は、玉座の前で、深く頭を垂れた。
「面を上げよ」
国王の、低く、しかしよく通る声が、玉座の間に響き渡った。
僕たちが顔を上げると、国王は満足げに頷いた。
「お前たちが、『フロンティア』か。噂には聞いていたが、なるほど、良い眼をしている。特に、そこのリーダー、ユキナガとやら」
彼の視線が、僕に真っ直ぐに突き刺さる。「『攻略神』。大仰な二つ名だが、お前のこれまでの功績を聞けば、それもあながち誇張ではあるまい」
その言葉には、探るような響きがあった。
「過分なお言葉、恐悦至極に存じます」
僕は、当たり障りのなく答えた。
「ふん。謙遜はよせ。我が息子、アルフレッドもお前たちには世話になった。ランズデール侯爵からも、お前たちの異能ぶりは、嫌というほど聞かされておる」
国王は、玉座からゆっくりと立ち上がると、壇上を下り、僕たちの目の前まで歩み寄ってきた。その一挙手一投足が、王としての絶対的な自信に満ちている。
「今日は、お前たちに、王家として、正式な依頼があって呼んだ。これは、ギルドを通さぬ、極秘中の極秘任務だと思え」
彼が手を振ると、玉座の間にいた大臣や騎士たちが、一礼して静かに退室していった。広大な空間に、僕たち四人だけが残される。
国王は、声を潜め、本題を切り出した。
「お前たちに調査してもらいたい場所がある。それは、王家の者と、王が特別に許可した者しか、足を踏み入れることを許されぬ、禁断の聖域」
彼は、僕たちの目を見据え、その名を告げた。
「『王家の谷』。それが、お前たちの次の舞台だ」
王家の谷。
その名を聞いた時、僕の脳裏に、王立図書館の禁書庫で読んだ、ある文献の一節が蘇った。
『王家の谷、それは生と死の狭間。歴代の王の魂が、現し世と常夜を繋ぐ門番として、今なお眠り続ける場所』
「『王家の谷』は、その名の通り、我がエーテリオン王国の、歴代の王たちが眠る広大な地下墓所だ」
国王は、僕の心中を見透かすかのように、説明を続けた。「だが、それはただの墓ではない。一つの、極めて特殊なダンジョンでもある。内部は、強力な霊体モンスターが守護しており、生半可な覚悟で足を踏み入れた者は、二度と生きては戻れぬ」
「なぜ、我々が、そのような聖域に?」
僕が尋ねると、国王は苦々しい顔で答えた。
「近年、その谷の奥から、不吉な魔力が漏れ出し始めているのだ。それは、日に日に強まっており、放置すれば、いずれ王都そのものを脅かす災厄になりかねん。騎士団の精鋭や、宮廷魔術師たちを何度か調査に派遣したが、誰一人として、最深部までたどり着くことができずにいる」
「霊体モンスターが、それほどまでに強力なのですか」
「それもある。だが、最大の理由は、谷の内部構造が、極めて複雑怪奇なことにある。まるで、侵入者の精神を惑わし、破滅させるためだけに設計されたかのような、悪意に満ちた迷宮なのだ」
その言葉に、僕はピンと来た。
「……そこで、俺の【地図化】スキルに、白羽の矢が立った、と」
「いかにも」
国王は、満足げに頷いた。「お前のその『攻略神』の眼ならば、あるいは、この千年の謎に包まれた迷宮の、真の姿を暴き出せるかもしれん。そして、魔力の源泉を突き止め、それを鎮める手立てを見つけ出せるかもしれん」
それは、僕たちの力を最大限に評価した上での、名指しの依頼だった。
だが、国王の話は、それだけでは終わらなかった。
「そして、この依頼には、もう一つの、裏の目的がある」
彼は、さらに声を潜めた。「『王家の谷』の最深部には、我が王家に、代々口伝でのみ伝えられてきた、一つの伝説がある。そこに、この国の成り立ち、ひいては、『世界の理』そのものに関する、古代の遺物が眠っている、とな」
『世界の理』。
その言葉を聞いた瞬間、僕の心臓が、大きく高鳴った。
『沈黙の遺跡』で見た、あの石版。ダンジョンの真実。世界の厄災。
全ての謎が、この『王家の谷』に繋がっているのかもしれない。
これは、ただの依頼ではない。僕が追い求めてきた、答えへの、最大の近道だ。
「この依頼、どうだ。引き受けるか、フロンティア」
国王の問いに、僕の答えは、もう決まっていた。
金のためではない。名誉のためでもない。
ただ、真実を知るために。
「謹んで、お受けいたします。我々『フロンティア』の全てを懸けて、必ずや、陛下の御期待に応えてみせましょう」
僕は、深く、そして力強く、頭を下げた。
バルガスも、リリアナも、僕の決意を察し、無言で僕に倣って頭を垂れた。僕たちの心は、完全に一つになっていた。
僕の返答に、国王は、満足げな、そしてどこか意味深な笑みを浮かべた。
「……頼んだぞ、『攻略神』。そして、もし、お前たちが最深部で何かを見つけたのなら……」
彼は、僕にだけ聞こえる声で、こう付け加えた。
「その『真実』が、たとえこの国を揺るがすほどの、恐ろしいものであったとしても、決して、目を逸らすでないぞ」
その言葉の真意を、僕はまだ、知る由もなかった。
王城を後にした僕たちの背中に、王都の夕日が、長く、濃い影を落としていた。
僕たちの、これまでで最も危険で、そして最も重要な冒険が、今、始まろうとしていた。
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