ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第58話 王家の谷へ

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国王アルトリウスからの勅命を受けた僕たちは、その足で自分たちの家へと戻り、すぐさま『王家の谷』への挑戦準備を開始した。
「王家の墓所、ねえ。なんだか、罰当たりな気がするぜ」
バルガスは、地下工房で対霊体用の特殊な金属を混ぜ込んだウォーハンマーを打ちながら、複雑な表情で言った。ドワーフという種族は、祖先や伝統を重んじる。王の眠りを妨げることへの、本能的な抵抗があるのだろう。
「でも、放置すれば王都が危険に晒される。それに、国王陛下直々のご依頼よ。これは、私たちの義務だわ」
リリアナは、冷静だった。彼女は庭で、浄化作用のある『聖銀草』を煎じ、それを矢尻やレイピアの刃に塗り込む作業をしていた。霊体モンスターに対しては、物理攻撃の効果が薄い。聖なる力を付与した武器が、有効打となるはずだ。
僕も、書斎で『王家の谷』に関する、あらゆる断片的な情報を繋ぎ合わせていた。禁書庫で閲覧した王家の年代記、古代の葬送儀式に関する文献、そして、霊体モンスターの性質についての研究書。
「……なるほど。ここのギミックは、物理的なトラップではないらしいな」
僕はある一つの結論にたどり着いていた。
『王家の谷』の迷宮は、侵入者の精神に直接干渉し、罪悪感や恐怖心を煽って、心を内側から破壊するタイプの、精神的な罠(メンタルトラップ)で構成されている。だから、屈強な騎士団ですら、その奥に進むことができなかったのだ。
だが、それはつまり、僕の【地図化】スキルが、再びその真価を発揮するということでもあった。
僕のスキルは、物理的な構造だけでなく、魔力の流れや、空間に残留する思念のパターンすらも読み取ることができる。精神攻撃の発生源や、その法則性を見抜くことができれば、無効化することも可能だろう。
僕たちは、三日三晩、それぞれのやり方で準備を重ねた。そして、出発の朝。僕たちの顔には、禁断の聖域に挑む緊張と、そしてそれを上回る、謎への探求心が満ち溢れていた。

『王家の谷』は、王都の地下深くに、広大なネットワークのように広がっていた。
僕たちは、王城の地下にある秘密の入り口から、国王から遣わされた一人の近衛騎士の案内で、その禁断の領域へと足を踏み入れた。
「ここから先は、我々も未知の領域です」
騎士は、厳かな石の扉の前で立ち止まると、僕たちに深く一礼した。「フロンティアの皆様の、ご武運を祈っております」
彼に見送られ、僕たちは重い石の扉を開けた。
ひやり、とした冷気が、肌を撫でる。それは、ただの地下の冷気ではなかった。死者の世界から吹き付けてくるような、魂を凍らせる冷たさだった。
通路は、磨き上げられた黒大理石でできており、壁には歴代の王たちの功績を称えるレリーフが延々と続いている。だが、その荘厳な雰囲気とは裏腹に、空間全体が、深い悲しみと、そして静かな怒りのような感情で満たされているのが、肌で感じられた。
「……息が詰まりそうだぜ」
バルガスが、小声で呟いた。
その時だった。
僕たちの前方の闇から、すうっと、半透明の人影が姿を現した。それは、古代の鎧を纏った騎士の姿をしていた。だが、その体は青白く発光し、その瞳には、何の感情もない、空虚な光が宿っている。
「……何人たりとも、王の眠りを妨げることは許さん……」
その声は、風の音のようで、どこか物悲しく響いた。
「来たか。最初の番人だな」
僕が言うのと、霊体の騎士が音もなくこちらへ滑るように突進してくるのが、ほぼ同時だった。その手にした剣が、青白い光を放つ。
「バルガス、前へ!」
「おうよ!」
バルガスは、聖銀を混ぜ込んだ新しいウォーハンマーを構え、突進を受け止めた。ガキン! という鈍い音が響く。物理的な剣ではないはずなのに、確かに手応えがあった。
「リリアナ、ヤツの背後を取れ! 霊体の核は、心臓の位置にある!」
僕の脳内マップは、霊体を構成する魔力エネルギーの、最も濃密な部分を『核』として捉えていた。
リリアナは、聖銀草を塗り込んだレイピアを抜き放ち、霊体の騎士の死角へと瞬時に回り込む。そして、その切っ先を、核があるであろう胸の中心へと突き立てた。
「ギ……」
霊体の騎士は、声にならない悲鳴を上げ、その姿が霧のように掻き消えた。後には、小さな魔石のかけらだけが、カランと音を立てて床に落ちた。
「へへっ、大したことねえな! 俺たちの新しい武器がありゃ、幽霊だろうがなんだろうが、関係ねえぜ!」
バルガスが、威勢よく笑う。
だが、僕は楽観していなかった。
「気を抜くな。今のは、ただの前座だ。この谷の本当の恐ろしさは、こんなものじゃない」
僕の警告通り、ダンジョンは奥に進むにつれて、その本性を現し始めた。
現れる霊体モンスターは、次第に数を増し、そして強力になっていく。生前の無念を晴らさんとする宮廷魔術師の亡霊。国を守れなかったことを悔やみ続ける将軍の怨霊。彼らは、強力な魔法や、戦術的な連携を駆使して、僕たちに襲いかかってきた。
僕たちは、苦戦を強いられながらも、三人の連携でそれらを一つ一つ打ち破っていった。
そして、僕たちは一つの巨大な広間に出た。
そこは、何十もの石棺が並べられた、巨大な墓所だった。そして、その中央には、一際大きく、そして豪華な装飾が施された石棺が安置されている。
『初代国王、アーサー・フォン・エーテリオンの霊廟』
石棺に刻まれた文字を、僕は読み上げた。
その瞬間だった。
僕の頭の中に、直接、一つの声が響き渡った。
『……なぜ、来た』
その声は、威厳に満ち、そして深い悲しみを帯びていた。
『なぜ、我らの安息を乱す。お前たちに、その資格があるとでもいうのか』
僕だけでなく、リリアナとバルガスの顔にも、緊張が走る。
「誰だ!?」
バルガスが叫ぶ。
『我は、この国を築きし者。そして、この谷の主』
声と共に、中央の石棺が、ゴゴゴ、と重い音を立てて開いた。
中から現れたのは、黄金の王冠と、豪華なローブを纏った、威厳ある王の姿をした霊体だった。その瞳には、千年分の叡智と、そして国を憂う深い苦悩の色が宿っている。
初代国王、アーサーの霊。
「お前たちの目的は分かっておる。この谷から漏れ出す、不吉な魔力の調査であろう」
彼の声は、僕たちの心に直接響いた。「だが、それは我らが発しているものではない。我らは、むしろ、その魔力を、この谷に封じ込めるために、永劫の眠りについておるのだ」
「封じ込める?」
「そうだ。この谷の、さらにその奥……最深部には、我らが、そして古代アルケイアの民が、命を懸けて封印した、大いなる『厄災』の欠片が眠っている。今、その封印が、弱まり始めているのだ」
『厄災』。
再び、その言葉が出てきた。
「我らは、お前たちの力を試さねばならん」
初代国王アーサーは、その手に、光でできた長剣を召喚した。「お前たちに、我らの封印を継ぐ資格があるのか。我らの悲願を託すに値する器なのか。その魂、その覚悟、この我に見せてみよ!」
彼の霊体から、これまでのどのモンスターとも比較にならないほどの、凄まじいプレッシャーが放たれた。
僕たちの、本当の試練が、今、始まろうとしていた。
これは、ただのボス戦ではない。
この国の歴史そのものと、僕たちが対峙する、魂の試練だった。
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