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第59話 歴代の王、魂の試練
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初代国王アーサーの霊体が放つプレッシャーは、物理的な圧力となって僕たちの体を締め付けた。それは、単純な魔力の強さではない。一国の王として、民を背負い、歴史を築き上げてきた者の、魂の重みそのものだった。
「……こいつは、ヤベえな」
バルガスが、ウォーハンマーを握る手に汗を滲ませながら、呻いた。「サラマンダーロードやドラゴンとは、格が違う。戦う前から、魂ごと持っていかれそうだぜ」
「ええ。憎しみや悪意じゃない。もっと、純粋で、だからこそ抗いがたい、強い意志を感じるわ」
リリナも、レイピアの切っ先をわずかに震わせながら、警戒を解いていない。
僕の脳内マップも、アーサー王のシンボルを、これまでにない特殊な色で表示していた。赤でも、青でもない。威厳を示す、黄金色。それは、彼が敵意だけで動いているわけではないことを示唆していた。
これは、試練なのだ。
僕たちが、この国の、そして世界の深淵に触れる資格があるのかを問う、魂の試練。
「来るぞ!」
僕が叫んだのと、アーサー王が音もなく動き出したのが、ほぼ同時だった。
彼は、霊体とは思えないほどの、鋭く、そして洗練された剣技で、僕たちに襲いかかってきた。その一振り一振りには、王としての迷いのない決断力と、国を守るための絶対的な意志が込められている。
「バルガス、正面を抑えろ!」
「おうよ!」
バルガスは、腹の底から雄叫びを上げると、新しい大盾を構えて突進した。アーサー王の光の剣と、バルガスのミスリル合金の盾が激突し、甲高い金属音と、魔力の火花が広間に咲き乱れる。
「ぐっ……! なんて重い剣だ!」
バルガスは歯を食いしばり、必死にその猛攻を受け止めている。だが、アーサー王の剣技は、ただ重いだけではなかった。彼は、バルガスの盾のわずかな隙間を狙い、的確に追撃を繰り出してくる。
「リリアナ、援護を!」
「ええ!」
リリアナが、バルガスの死角をカバーするように、神速の剣技で割り込む。彼女の聖銀を帯びたレイピアが、アーサー王の霊体に何度も突き立てられた。だが、その傷は、すぐに再生してしまう。
「ダメだ、ユキナガ! 私の攻撃が、ほとんど効いていない!」
「分かっている! ヤツの霊体は、この霊廟に眠る、歴代の王たちの膨大な魔力によって、常に補給されているんだ! 普通に戦っても、ジリ貧になるだけだ!」
僕の【地図化】スキルは、広間に並ぶ他の石棺から、無数の魔力のラインがアーサー王へと流れ込んでいるのを捉えていた。この広間そのものが、彼にとっての力の源泉なのだ。
ならば、その供給を断つしかない。
だが、どうやって? 歴代の王の石棺を破壊するわけにはいかない。それは、この国の歴史そのものを冒涜する行為だ。
(考えろ……! 何かあるはずだ。この試練を乗り越えるための、『解法』が……!)
僕は、戦況を見守りながら、思考をフル回転させた。
アーサー王は、なぜ僕たちを試すのか?
『我らの封印を継ぐ資格があるのか』
彼はそう言った。それはつまり、僕たちに、力だけでなく、王としての『資質』を求めているということではないか。
王の資質とは、何か。
民を守る力。国を導く知恵。そして、歴史を敬い、未来を築く、強い意志。
その時、僕の脳裏に、王立図書館の禁書庫で読んだ、ある文献の一節が閃光のように蘇った。
『初代国王アーサーは、五人の忠実な騎士と共に、この国を建国した。騎士たちは、それぞれ、勇気、知恵、慈悲、誠実、そして希望を象徴する聖遺物を授かったという』
五人の騎士。五つの聖遺物。
僕は、広間の壁に刻まれたレリーフに、改めて視線を向けた。そこには、アーサー王と共に戦う、五人の騎士の姿が描かれている。そして、それぞれの騎士が、剣、書物、聖杯、天秤、そして竪琴を手にしていた。
これだ!
「バルガス、リリアナ! よく聞け!」
僕は、二人に叫んだ。「ヤツを倒す必要はない! この試練は、武力で乗り越えるものじゃない! 俺たちの、王としての資質を示せばいいんだ!」
「資質だと!? どうやってだよ!」
バルガスが、攻撃を受け流しながら叫び返す。
「この広間にある、五つの仕掛けを解くんだ! それぞれの仕掛けが、王に求められる五つの徳目を象徴している! それらを全て満たした時、王は我々を認めるはずだ!」
僕は、脳内マップに表示された、広間の五ヶ所にある特殊な魔力反応を指し示した。
「まず、勇気! バルガス、ヤツの最大の攻撃を、城塞ではなく、お前の肉体と盾だけで受け止めてみせろ! 逃げない勇気を示すんだ!」
「なっ……! 無茶言うな! 死んじまうぜ!」
「死なせはしない! 俺の未来予測は、お前が耐えられるギリギリのラインを見極めている! 俺を信じろ!」
僕の言葉に、バルガスは一瞬ためらった。だが、すぐに覚悟を決めた顔で、不敵に笑った。
「へっ、面白え! やってやろうじゃねえか! リーダーの無茶振りをこなしてこそ、フロンティアの盾役だ!」
彼は、城塞を解き、自らの肉体だけで、アーサー王の渾身の一撃に備えた。
「次に、知恵! リリアナ、東の壁にある、古代文字のパズルを解け! あれは、歴代の王たちが解いてきた、知恵の試練だ!」
「古代文字!? 私に、そんな知識は……!」
「俺が、口頭で答えを教える! お前は、俺の言葉を信じて、石版を操作するんだ!」
リリアナもまた、僕の無茶な要求に戸惑いながらも、強く頷いた。
そして、僕は残る三つの試練へと向かった。
西の壁にある、枯れた苗木が植えられた祭壇。『慈悲』の試練。僕は、リリアナが調合したポーションの中から、生命力を活性化させる薬を選び、その苗木に注いだ。
南の祭壇には、傾いた天秤が置かれている。『誠実』の試練。僕は、自分のバックパックから、これまで手に入れた金貨と、ただの石ころを、寸分違わぬ重さになるように、天秤の両皿に乗せた。富に目がくらまぬ、公平さの証明だ。
そして、北の祭壇には、弦の切れた竪琴があった。『希望』の試練。僕は、リリアナの銀色の髪を一本もらい、それを弦の代わりとして竪琴に張った。絶望的な状況でも、希望を見出す創意工夫を示すために。
その間にも、バルガスはアーサー王の猛攻に、血反吐を吐きながら耐え続けていた。リリアナも、僕の指示に従い、必死で古代文字のパズルを解いている。
僕たちの行動は、バラバラに見えた。だが、その根底にあるのは、互いへの絶対的な信頼だった。
そして、ついに、その瞬間は訪れた。
僕が、竪琴に最後の弦を張り終えた、その時。
バルガスが、アーサー王の最大の一撃を、盾を砕かれながらも、その身一つで受け止めた。
リリアナが、最後の古代文字の石版を、正しい位置にはめ込んだ。
広間にあった五つの祭壇が、一斉にまばゆい光を放った。
その光に包まれ、アーサー王の動きが、ピタリと止まった。
彼は、ゆっくりと光の剣を消すと、僕たち三人の姿を、その威厳に満ちた瞳で見つめた。
その瞳には、もはや敵意はなかった。そこにあったのは、深い満足と、そして後継者を見つけたことへの、安堵の色だった。
『……見事だ、異世界の若者たちよ』
彼の声が、僕たちの心に、穏やかに響き渡った。
『お前たちは、力だけでなく、王の徳をも示した。勇気、知恵、慈悲、誠実、そして希望。その全てを、確かに、その魂に宿している』
彼は、僕たちに向かって、静かに一礼した。王が、臣下ではない者に頭を下げる、最大限の敬意の表れだった。
『資格は、認められた。我らの遺志を、そして、この世界の未来を、お前たちに託そう』
彼の言葉と共に、広間の中央、彼がいた場所の床が、光の粒子となって消えていく。
その下から現れたのは、さらに地下深くへと続く、螺旋階段だった。
『行け。そして、見るがいい。我らが、命を懸けて封印した、この世界の『真実』の姿を』
初代国王アーサーの霊体は、その言葉を最後に、満足げな笑みを浮かべながら、光の中へと静かに消えていった。
後に残されたのは、僕たち三人と、世界の最深部へと続く、禁断の道だけだった。
僕たちは、互いの傷を癒やしながら、静かに、しかし力強く、その階段へと、足を踏み出した。
魂の試練を乗り越えた僕たちは、もはやただの冒険者ではない。
世界の未来を託された、遺志の継承者となっていた。
「……こいつは、ヤベえな」
バルガスが、ウォーハンマーを握る手に汗を滲ませながら、呻いた。「サラマンダーロードやドラゴンとは、格が違う。戦う前から、魂ごと持っていかれそうだぜ」
「ええ。憎しみや悪意じゃない。もっと、純粋で、だからこそ抗いがたい、強い意志を感じるわ」
リリナも、レイピアの切っ先をわずかに震わせながら、警戒を解いていない。
僕の脳内マップも、アーサー王のシンボルを、これまでにない特殊な色で表示していた。赤でも、青でもない。威厳を示す、黄金色。それは、彼が敵意だけで動いているわけではないことを示唆していた。
これは、試練なのだ。
僕たちが、この国の、そして世界の深淵に触れる資格があるのかを問う、魂の試練。
「来るぞ!」
僕が叫んだのと、アーサー王が音もなく動き出したのが、ほぼ同時だった。
彼は、霊体とは思えないほどの、鋭く、そして洗練された剣技で、僕たちに襲いかかってきた。その一振り一振りには、王としての迷いのない決断力と、国を守るための絶対的な意志が込められている。
「バルガス、正面を抑えろ!」
「おうよ!」
バルガスは、腹の底から雄叫びを上げると、新しい大盾を構えて突進した。アーサー王の光の剣と、バルガスのミスリル合金の盾が激突し、甲高い金属音と、魔力の火花が広間に咲き乱れる。
「ぐっ……! なんて重い剣だ!」
バルガスは歯を食いしばり、必死にその猛攻を受け止めている。だが、アーサー王の剣技は、ただ重いだけではなかった。彼は、バルガスの盾のわずかな隙間を狙い、的確に追撃を繰り出してくる。
「リリアナ、援護を!」
「ええ!」
リリアナが、バルガスの死角をカバーするように、神速の剣技で割り込む。彼女の聖銀を帯びたレイピアが、アーサー王の霊体に何度も突き立てられた。だが、その傷は、すぐに再生してしまう。
「ダメだ、ユキナガ! 私の攻撃が、ほとんど効いていない!」
「分かっている! ヤツの霊体は、この霊廟に眠る、歴代の王たちの膨大な魔力によって、常に補給されているんだ! 普通に戦っても、ジリ貧になるだけだ!」
僕の【地図化】スキルは、広間に並ぶ他の石棺から、無数の魔力のラインがアーサー王へと流れ込んでいるのを捉えていた。この広間そのものが、彼にとっての力の源泉なのだ。
ならば、その供給を断つしかない。
だが、どうやって? 歴代の王の石棺を破壊するわけにはいかない。それは、この国の歴史そのものを冒涜する行為だ。
(考えろ……! 何かあるはずだ。この試練を乗り越えるための、『解法』が……!)
僕は、戦況を見守りながら、思考をフル回転させた。
アーサー王は、なぜ僕たちを試すのか?
『我らの封印を継ぐ資格があるのか』
彼はそう言った。それはつまり、僕たちに、力だけでなく、王としての『資質』を求めているということではないか。
王の資質とは、何か。
民を守る力。国を導く知恵。そして、歴史を敬い、未来を築く、強い意志。
その時、僕の脳裏に、王立図書館の禁書庫で読んだ、ある文献の一節が閃光のように蘇った。
『初代国王アーサーは、五人の忠実な騎士と共に、この国を建国した。騎士たちは、それぞれ、勇気、知恵、慈悲、誠実、そして希望を象徴する聖遺物を授かったという』
五人の騎士。五つの聖遺物。
僕は、広間の壁に刻まれたレリーフに、改めて視線を向けた。そこには、アーサー王と共に戦う、五人の騎士の姿が描かれている。そして、それぞれの騎士が、剣、書物、聖杯、天秤、そして竪琴を手にしていた。
これだ!
「バルガス、リリアナ! よく聞け!」
僕は、二人に叫んだ。「ヤツを倒す必要はない! この試練は、武力で乗り越えるものじゃない! 俺たちの、王としての資質を示せばいいんだ!」
「資質だと!? どうやってだよ!」
バルガスが、攻撃を受け流しながら叫び返す。
「この広間にある、五つの仕掛けを解くんだ! それぞれの仕掛けが、王に求められる五つの徳目を象徴している! それらを全て満たした時、王は我々を認めるはずだ!」
僕は、脳内マップに表示された、広間の五ヶ所にある特殊な魔力反応を指し示した。
「まず、勇気! バルガス、ヤツの最大の攻撃を、城塞ではなく、お前の肉体と盾だけで受け止めてみせろ! 逃げない勇気を示すんだ!」
「なっ……! 無茶言うな! 死んじまうぜ!」
「死なせはしない! 俺の未来予測は、お前が耐えられるギリギリのラインを見極めている! 俺を信じろ!」
僕の言葉に、バルガスは一瞬ためらった。だが、すぐに覚悟を決めた顔で、不敵に笑った。
「へっ、面白え! やってやろうじゃねえか! リーダーの無茶振りをこなしてこそ、フロンティアの盾役だ!」
彼は、城塞を解き、自らの肉体だけで、アーサー王の渾身の一撃に備えた。
「次に、知恵! リリアナ、東の壁にある、古代文字のパズルを解け! あれは、歴代の王たちが解いてきた、知恵の試練だ!」
「古代文字!? 私に、そんな知識は……!」
「俺が、口頭で答えを教える! お前は、俺の言葉を信じて、石版を操作するんだ!」
リリアナもまた、僕の無茶な要求に戸惑いながらも、強く頷いた。
そして、僕は残る三つの試練へと向かった。
西の壁にある、枯れた苗木が植えられた祭壇。『慈悲』の試練。僕は、リリアナが調合したポーションの中から、生命力を活性化させる薬を選び、その苗木に注いだ。
南の祭壇には、傾いた天秤が置かれている。『誠実』の試練。僕は、自分のバックパックから、これまで手に入れた金貨と、ただの石ころを、寸分違わぬ重さになるように、天秤の両皿に乗せた。富に目がくらまぬ、公平さの証明だ。
そして、北の祭壇には、弦の切れた竪琴があった。『希望』の試練。僕は、リリアナの銀色の髪を一本もらい、それを弦の代わりとして竪琴に張った。絶望的な状況でも、希望を見出す創意工夫を示すために。
その間にも、バルガスはアーサー王の猛攻に、血反吐を吐きながら耐え続けていた。リリアナも、僕の指示に従い、必死で古代文字のパズルを解いている。
僕たちの行動は、バラバラに見えた。だが、その根底にあるのは、互いへの絶対的な信頼だった。
そして、ついに、その瞬間は訪れた。
僕が、竪琴に最後の弦を張り終えた、その時。
バルガスが、アーサー王の最大の一撃を、盾を砕かれながらも、その身一つで受け止めた。
リリアナが、最後の古代文字の石版を、正しい位置にはめ込んだ。
広間にあった五つの祭壇が、一斉にまばゆい光を放った。
その光に包まれ、アーサー王の動きが、ピタリと止まった。
彼は、ゆっくりと光の剣を消すと、僕たち三人の姿を、その威厳に満ちた瞳で見つめた。
その瞳には、もはや敵意はなかった。そこにあったのは、深い満足と、そして後継者を見つけたことへの、安堵の色だった。
『……見事だ、異世界の若者たちよ』
彼の声が、僕たちの心に、穏やかに響き渡った。
『お前たちは、力だけでなく、王の徳をも示した。勇気、知恵、慈悲、誠実、そして希望。その全てを、確かに、その魂に宿している』
彼は、僕たちに向かって、静かに一礼した。王が、臣下ではない者に頭を下げる、最大限の敬意の表れだった。
『資格は、認められた。我らの遺志を、そして、この世界の未来を、お前たちに託そう』
彼の言葉と共に、広間の中央、彼がいた場所の床が、光の粒子となって消えていく。
その下から現れたのは、さらに地下深くへと続く、螺旋階段だった。
『行け。そして、見るがいい。我らが、命を懸けて封印した、この世界の『真実』の姿を』
初代国王アーサーの霊体は、その言葉を最後に、満足げな笑みを浮かべながら、光の中へと静かに消えていった。
後に残されたのは、僕たち三人と、世界の最深部へと続く、禁断の道だけだった。
僕たちは、互いの傷を癒やしながら、静かに、しかし力強く、その階段へと、足を踏み出した。
魂の試練を乗り越えた僕たちは、もはやただの冒険者ではない。
世界の未来を託された、遺志の継承者となっていた。
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