ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第60話 世界のバグと勇者のパッチ

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初代国王アーサーの霊が消え去った霊廟に、静寂が戻った。
僕たち三人は、しばらくの間、言葉もなく立ち尽くしていた。今しがた行われたことが、ただの戦闘ではなく、時を超えた魂の対話であったことを、肌で感じていたからだ。
「……行っちまったな」
バルガスが、砕けた盾の破片を拾い上げながら、感慨深げに呟いた。彼の体は満身創痍だったが、その顔には、試練を乗り越えた者だけが持つ、清々しい達成感が浮かんでいる。
「ええ。なんだか、大きなものを託されてしまったわね」
リリアナも、古代文字のパズルがはめ込まれた石版を、静かな眼差しで見つめていた。
僕も、同じ気持ちだった。
『世界の未来を、お前たちに託そう』
初代国王の最後の言葉が、重く、そして温かく、僕の心に響いていた。
僕たちは、もはや自分たちのためだけに戦っているのではない。この国の、そしてこの世界の歴史そのものを、背負って進む覚悟が、僕たちの胸に芽生え始めていた。
「行こう」
僕は、二人の仲間に声をかけた。「王が、俺たちに見せようとした『真実』を、確かめに」
僕たちは、霊廟の中央に出現した、地下深くへと続く螺旋階段を、一歩一歩、踏みしめるように下りていった。
階段は、どこまでも続いているかのように長かった。空気は、下に行くほどに冷たく、そして古びていく。まるで、時間そのものを遡っているかのような、不思議な感覚だった。
やがて、僕たちは階段の終点、一つの巨大な扉の前にたどり着いた。
その扉は、これまでに見たどの扉とも違っていた。それは、物理的な素材でできているのではなく、まるで空間そのものが捻じれて固まったかのような、黒い亀裂のように見えた。その表面は、星空のように無数の光点が明滅し、不気味な脈動を繰り返している。
「……なんだ、こりゃ。扉、なのか?」
バルガスが、警戒しながらウォーハンマーを構えた。
「分からない。でも、この向こう側から、とてつもなく強大で、そして邪悪な気配を感じるわ」
リリアナも、レイピアを抜き放ち、臨戦態勢に入る。
僕の【地図化】スキルも、この扉の向こう側をスキャンしようとすると、激しいノイズに阻まれて、正確な情報を得ることができなかった。まるで、この世界の『理』そのものが、そこでは通用しないかのように。
僕が、意を決してその黒い亀裂に手を触れた、その瞬間。
扉は、音もなく内側へと開き、僕たちは、その向こう側の光景に、完全に言葉を失った。
そこは、空間ではなかった。
混沌。
あらゆる色彩が混じり合い、あらゆる形が溶け合い、あらゆる音が不協和音となって響き渡る、悪夢そのものを具現化したかのような、冒涜的な世界が広がっていた。
そして、その混沌の中心。
一つの、巨大な『石版』が、鎖に繋がれるようにして、宙に浮いていた。
それは、『沈黙の遺跡』で見たものよりも、遥かに大きく、そして古びていた。石版の表面には、僕が解読を進めている古代アルケイア文明の文字が、びっしりと刻まれている。
だが、その文字は、絶えず形を変え、蠢き、まるで生きているかのようだった。
そして、その石版からは、国王アーサーが言っていた『不吉な魔力』が、黒い霧のように溢れ出し、周囲の空間を侵食し、歪めていた。
「あれが……『厄災』の欠片……」
僕は、呆然と呟いた。
僕たちが近づくと、石版に刻まれた文字が、僕たちの脳内に直接、その意味を語りかけてきた。それは、古代アルケイアの民が、絶望の淵で遺した、最後のメッセージだった。

『これを読む者へ。我らが犯した、罪の記録をここに記す』
『我らは、この世界を愛した。だが、それ故に、我らはこの世界を冒涜した』
『この世界は、完璧ではなかった。時折、その理に綻びが生じ、世界の理から外れた、異質な存在――すなわち『バグ』――が生まれることがあった。それは、自然の摂理の一部であったのかもしれない』
『だが、我らはそれを許さなかった。我らは、我らが持つ高度な科学技術で、この世界を、我らの理想とする完璧な『システム』へと、作り替えようとしたのだ』
石版の言葉は、衝撃的な真実を語り始めた。
『我らは、世界中に『ダンジョン』という名の、巨大なデバッグ・プログラムを設置した。それは、『バグ』を自動的に検知し、隔離し、そして修正するための、巨大なパッチ・サーバーだった』
『そして、そのシステムの管理者として、我らは『勇者』という名の、強力なアンチウイルス・プログラムを創造した。勇者とは、システムに害をなすバグを、強制的に削除するための、神々の『パッチ』なのだ』
勇者が、パッチ?
ダンジョンが、サーバー?
僕の頭は、混乱した。だが、石版の言葉は、さらに絶望的な真実を告げる。
『だが、我らの試みは、失敗した。我らが世界に加えた過剰な干渉は、世界の理そのものを歪めてしまった。完璧なシステムを目指した結果、我らは、システムそのものを破壊しかねない、致命的な『バグ』――すなわち、この『厄災』――を生み出してしまったのだ』
『この厄災は、我らが作ったシステムを逆用し、ダンジョンを通じて、世界そのものを侵食し始めた。我らは、それを止めることができなかった。我らにできることは、最後の力を振り絞り、この厄災の核となる情報を、この石版に封印し、王家の谷の最深部に隠すことだけだった』
『そして、我らのシステムが生み出した、最後の『勇者』が、いずれこの場所を訪れることを、ただ祈るのみ』

石版の言葉が、途切れた。
僕たちは、あまりの衝撃に、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
この世界の、驚くべき真実。
ダンジョンも、勇者も、全ては古代文明が作り出した、世界管理システムの一部だった。そして、僕たちが今目にしているこの『厄災』は、そのシステムの暴走によって生まれた、最悪の産物。
「……なんだよ、それ……」
バルガスが、絞り出すような声で言った。「じゃあ、勇者ってのは、何なんだよ。神に選ばれた英雄じゃなかったのかよ……」
「……ただの、プログラム……」
リリアナも、青ざめた顔で呟いている。
僕の心の中では、全てのピースが、一つの恐ろしい絵へと繋がり始めていた。
僕が、この世界に転移してきた意味。
『世界の外側より訪れし者』。
僕もまた、この巨大なシステムに介入するために送り込まれた、イレギュラーな存在なのではないか?
僕の【地図化】スキルは、この世界のシステム、その設計図を読み解くための、特殊なデバッグ・ツールなのではないか?
僕が考えていると、石版から溢れ出す黒い霧が、形を成し始めた。それは、僕たちの絶望や混乱を糧とするかのように、一つの巨大な、不定形の怪物へと姿を変えていく。
『……システムエラー……イレギュラーな存在を検知……排除シマス……』
その怪物から、無機質な、機械のような声が響き渡った。
「こいつ……! この石版を守る、最後の番人か!」
バルガスが、ウォーハンマーを構える。
だが、僕は冷静だった。
僕の脳内には、今しがた石版から得た、膨大な情報が流れ込んでいる。この世界のシステム、その根幹に関わる、ソースコードのような情報が。
そして、僕の【地図化】スキルは、その情報を基に、目の前の敵の『バグ』を、すでに特定していた。
「バルガス、リリアナ。心配するな」
僕は、二人に向かって、静かに言った。「こいつは、ただのエラーメッセージだ。俺が、今からデバッグしてやる」
僕の瞳の奥で、無数の光の線が、勝利へと続く、ただ一本のコマンドラインを構築していた。
世界の真実の一端に触れた僕たちの冒険は、ついに、この世界の理そのものへと、挑戦する段階へと足を踏み入れたのだ。
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