ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第63話 死の舞踏と絶対的な力

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『竜の巣』は、王都から遠く離れた険しい山脈の奥深くに存在した。
そこは常に黒い雷雲に覆われ、麓からして生命の気配が一切感じられない死の世界だった。鋭く尖った岩山が、まるで巨大な竜の牙のように天に向かって突き出している。
勇者パーティ『サンクチュアリ』が、その忌まわしき領域に足を踏み入れたのは、出発から五日後のことだった。
「……ここが、『竜の巣』か」
アレクサンダーは、目の前に広がる荒涼とした景色を睨みつけ、不敵に呟いた。その瞳には不安や恐怖の色はない。むしろ、ユキナガへの対抗心と自らの力を証明することへの渇望が、狂気的な輝きとなって宿っていた。
「各自、気を引き締めろ。これより、我々の伝説の新たな一ページが始まるのだ」
彼の言葉に、しかし、誰も力強く応える者はいなかった。
ヴォルフは押し黙ったまま大盾を握る手に汗を滲ませている。セシリアは青ざめた顔で聖印を握りしめ、ただ祈りを捧げていた。グレンだけが表情を変えず、周囲の異常な魔力の流れを興味深そうに観察している。
パーティの士気は最低だった。だが、アレクサンダーはそんな仲間たちの様子など気にも留めていなかった。

彼らが谷間へと続く一本道を進み始めた、その時だった。
空を覆っていた黒い雲の中から、数え切れないほどの影が一斉に降下してきた。
「なっ……! ワイバーンの群れだ!」
ヴォルフが叫ぶ。
その数は、二十、三十……いや、五十は超えているだろう。情報にあったよりも遥かに多い。
「怯むな! 予想通りの出迎えだ! 各個、撃破せよ!」
アレクサンダーは聖剣を抜き放ち、先陣を切ってワイバーンの一体に斬りかかった。彼の剣技は、確かに勇者の名に恥じぬものだった。光の刃がワイバーンの硬い鱗を切り裂き、一体、また一体と屠っていく。
だが、敵の数はあまりにも多すぎた。
「ぐあっ!」
ヴォルフが、背後から襲いかかってきたワイバーンの爪に肩を深く抉られた。「くそっ、連携が……! 四方八方から来やがる!」
ユキナガがいれば、敵の出現位置と数を事前に察知し、最も有利な地形で迎え撃つことができただろう。だが、今の彼らにそれを教えてくれる者はいない。
「セシリア、回復を!」
「はいっ! ヒール!」
セシリアの回復魔法が飛ぶが、乱戦の中ですべての仲間を完璧にカバーすることは不可能だった。彼女自身も上空からの滑空攻撃を避けるので精一杯だった。
「炎の矢よ! フレイムアロー!」
グレンの魔法が数体のワイバーンを撃ち落とす。だが、彼の表情は厳しかった。
(連携が全く機能していない。これでは消耗するだけだ)
彼の予想通り、戦闘は泥沼の様相を呈し始めた。
なんとかワイバーンの第一波を退けた時、パーティはすでに満身創痍だった。
「はぁ……はぁ……。なんて数だ……」
アレクサンダーですら、肩で息をしている。彼の鎧にもいくつかの深い傷が刻まれていた。
「アレクサンダー様、一度退きましょう! このままでは……!」
セシリアが涙ながらに訴える。
だが、アレクサンダーは、その言葉を一笑に付した。
「退く? ここまで来てか? 冗談ではない! 敵は我々の力に恐れをなして一時的に引いただけだ! 今こそ一気に中枢を叩く好機!」
彼の判断はもはや正常ではなかった。焦りが彼の目を曇らせている。
彼は仲間たちの制止を振り切り、一人で谷の奥へと突き進んでいった。
「待ってください!」
「ちくしょう! 行くしかねえのか!」
ヴォルフとセシリアも彼を追って死地へと足を踏み入れていく。グレンだけが、一瞬だけ立ち止まり天を仰いだ。
「……愚かな。だが、面白い。破滅の舞踏を、最後まで見届けるとしよう」
彼は冷たい笑みを浮かべると、ゆっくりと仲間たちの後を追った。

谷の最深部は巨大なクレーターのようになっていた。そして、その中央。
一頭の巨大な竜が静かに眠っていた。
その体長は百メートルはあろうかという山のような巨体。その鱗は黒曜石のように鈍く、そして何よりも硬質な輝きを放っている。閉じられた瞼の下で、その瞳が動くたびに周囲の空間が魔力で揺らめいた。
エンシェントドラゴン。
この『竜の巣』の主。火山でユキナガたちが遭遇したものとは比べ物にならないほどの圧倒的な存在感を放つ、古龍だった。
「……見つけたぞ」
アレクサンダーは、その姿を認めると歓喜に打ち震えた。
(こいつを倒せば……。こいつさえ倒せば、俺はユキナガを超えることができる……!)
彼はもはやパーティのことなど頭にはなかった。ただ、己の栄光のためだけにその聖剣を抜き放った。
「起きろ、古龍! 勇者アレクサンダーが、お前に死を与えに来てやったぞ!」
彼の傲慢な叫びに、エンシェントドラゴンはゆっくりとその瞼を開いた。
その瞳は溶かした黄金のように輝き、そして、僕たち人間など取るに足らない虫けらとしか見ていない絶対的な捕食者の冷たさを宿していた。
ドラゴンは一声、咆哮した。
その咆哮は音波の衝撃となって、周囲の岩山を砕き、大地を揺るがした。
「ぐっ……!」
ヴォルフとセシリアは、その衝撃だけで吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
「聖剣技! ライジング・スラッシュ!」
アレクサンダーだけがその衝撃に耐え、渾身のスキルをドラゴンに向かって放った。光の斬撃が、竜の巨大な顎に直撃する。
だが。
キィン、という甲高い音と共に、斬撃は竜の鱗に弾かれ、傷一つ付けることができなかった。
「……なっ!?」
アレクサンダーの顔に、初めて信じられないという驚愕の色が浮かんだ。彼の勇者の力である聖剣技が、全く通用しない。
ドラゴンは鬱陶しい虫を払うかのように、その巨大な尻尾を薙ぎ払った。
それは音速を超えていた。
アレクサンダーは、反応することすらできずにその一撃をまともに食らった。
「がはっ……!」
彼の体はまるでボールのように吹き飛ばされ、クレーターの壁に叩きつけられた。白銀の鎧は無残に砕け散り、その口からは大量の血が噴き出した。
「アレクサンダー様!」
セシリアの悲鳴が響く。
エンシェントドラゴンはゆっくりと、倒れたアレクサンダーに近づいていく。その巨大な顎が再び開かれた。
内部には、世界の終わりを告げるかのような灼熱の光が渦巻いている。
ドラゴンブレス。
もはや、誰もが死を覚悟した。
だが、その絶望的な光景の中で。
ただ一人、グレンだけは冷静だった。
彼は懐から取り出した黒い水晶を、ドラゴンに向かって翳していた。
(……面白い。これが、Sランクモンスターの力か。私のコレクションに、加える価値がありそうだ)
彼の瞳には仲間を救おうという意志などひとかけらもなかった。
そこにあるのは、目の前の絶対的な力を自分の知識欲を満たすための『標本』としてしか見ていない、狂気の科学者の瞳だった。
パーティの崩壊はもはや避けられない。
それは誰の目にも明らかだった。
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