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第69話 機械仕掛けの神殿
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『嵐の回廊』は、僕の『風の地図』の前では、ただの通り道に過ぎなかった。
僕の完璧なナビゲートに従い、七人の臨時パーティは、誰一人として脱落することなく、荒れ狂う暴風と雷鳴の中を駆け抜けた。ヴォルフは風の壁を盾とし、リリアナは凪の瞬間を突いてサンダーバードを狩り、グレンの魔法が僕たちの進路を切り開く。
後方では、バルガスとアレクサンダーが、協力してセシリアの担架を守っていた。アレクサンダーは、僕の指示が絶対的なものであることを認めざるを得ず、ただ黙々と、自分の役割をこなしていた。彼のプライドは、この異次元の攻略劇の前で、もはや何の役にも立たなかった。
僕たちは、他のパーティが数週間かけても突破できないであろう『嵐の回廊』を、わずか数時間で踏破した。
二十階層を越え、僕たちはさらに塔の上層を目指していく。
階層ごとに、塔はその顔を劇的に変えた。
ある階は、全てが逆さまになった『反転世界』。僕たちは、天井を地面として歩き、シャンデリアのように生える石筍の間を駆け抜けた。
ある階は、時間が歪んだ『老朽の廃墟』。そこでは、一歩進むごとに数年の時が経過し、僕たちの装備は錆びつき、体は老いていく。だが、僕のスキルはその時間の流れの法則性すらも見抜き、最も老化の影響が少ない『時の回廊』を発見し、僕たちを導いた。
アレクサンダーたちは、もはや驚くことさえ忘れていた。彼らはただ、僕の指示に従う機械のように、未知なるダンジョンを進んでいく。ユキナガという存在が、自分たちの理解を遥かに超えた、規格外の『何か』であることを、彼らは認めざるを得なかった。
そして、僕たちは第三十階層へとたどり着いた。
その扉を開けた瞬間、僕たちの目に飛び込んできたのは、これまでの自然の脅威とは全く異なる、人工的な光景だった。
そこは、巨大な機械仕掛けの神殿だった。
天井からは、無数の巨大な歯車が、複雑に噛み合いながら回転している。床は、磨き上げられた真鍮でできており、その下を青白い魔力エネルギーが、回路のように流れているのが見えた。空気は、油と、金属が焼ける匂いで満たされている。
「……なんだ、ここは。まるで、時計の中みてえだな」
バルガスが、呆然と呟いた。彼のドワーフとしての本能が、この場所に込められた、古代の超技術に畏敬の念を抱いているようだった。
そして、その神殿の奥。
巨大な玉座に、一体のガーディアンが鎮座していた。
それは、ミスリルゴーレムよりもさらに巨大で、そして複雑な構造をしていた。その体は、黄金と白銀の合金でできており、その背中からは、何本もの機械仕掛けのアームが、昆虫の足のように伸びている。その両目には、冷たい知性を宿した、サファイアのような宝石が埋め込まれていた。
僕の脳内マップが、その名を告げる。
『古代兵器『クロノス・ギア』を検知。極めて高度な自律思考ルーチンと、戦闘能力を有す』
「……どうやら、こいつがこの階層の門番らしいな」
僕がそう言った瞬間、クロノス・ギアのサファイアの目が、僕たちを捉えた。
『……侵入者を認識。これより、排除プロセスに移行します』
その声は、合成音声のように無機質だったが、明確な殺意が込められていた。
ガーディアンが、ゆっくりと玉座から立ち上がる。その動きに合わせて、周囲の歯車が回転速度を上げ、神殿全体が、一つの巨大な戦闘機械として覚醒していくのが分かった。
「来るぞ! 総員、戦闘態勢!」
僕の号令と共に、七人がそれぞれの武器を構える。
クロノス・ギアは、まず、その背中から伸びる機械仕掛けのアームを、僕たちに向かって射出してきた。アームの先端は、鋭いドリルや、高圧の蒸気を噴射するノズルになっており、その攻撃は多彩で、予測が難しい。
「ヴォルフ、バルガス! 前衛を固めろ! 二人の盾で、完璧な防壁を築け!」
「「おう!」」
二人のタンクが、パーティの前に立ちはだかる。ヴォルフの動的な防御と、バルガスの静的な防御が組み合わさることで、それはもはやただの壁ではない。あらゆる攻撃をいなし、受け流し、そして吸収する、究極の防衛ラインとなっていた。
「グレン、アレクサンダー! 魔法と剣で、アームの数を減らせ!」
「フン!」
「くっ……!」
二人は、それぞれの得物で、防壁の隙間から攻撃を仕掛ける。グレンの魔法がアームの関節を焼き、アレクサンダーの聖剣がその装甲を切り裂く。
だが、破壊されたアームは、すぐに神殿の壁から新たな部品が供給され、自己修復していく。キリがない。
「リリアナ!」
「ええ!」
「ヤツの本体を叩く! だが、ヤツの周囲には、強力な電磁バリアが張られている! 直接は近づけない!」
僕のマップには、クロノス・ギア本体を取り巻く、不可視のエネルギー障壁が表示されていた。
「どうすればいいの!?」
「バリアのエネルギーは、この神殿の四隅にある、四つの動力炉から供給されている! まずは、それを破壊するんだ!」
僕は、神殿の四隅にある、巨大な水晶塔を指差した。
「だが、動力炉には、それぞれ異なる『解除コード』が設定されている! それを解かなければ、破壊はできない!」
それは、力押しだけでは決して突破できない、知恵の試練だった。
「解除コードは、俺が解く!」
僕は、書斎で解読した、古代アルケイア文明の数式パターンを、脳内で高速で組み立てていた。
「リリアナ、最初の動力炉へ! コードは、『三、一、四、一、五』だ! その順番で、炉のパネルに触れろ!」
「分かったわ!」
リリアナが、戦場を駆け抜け、最初の動力炉へとたどり着く。彼女が、僕の告げた数字の順番でパネルに触れると、動力炉を覆っていたバリアが、音もなく消滅した。
「よし! 破壊しろ!」
リリアナのレイピアが、動力炉のコアを貫く。一体の動力炉が、機能を停止した。
クロノス・ギアの周囲のバリアが、わずかに揺らめいた。
「次だ! 二つ目の動力炉! アレクサンダー、お前が行け!」
僕は、あえて、アレクサンダーに指示を出した。「コードは、『二、七、一、八、二』!」
「……俺が?」
彼は、一瞬戸惑った。だが、すぐに覚悟を決めた顔で、戦場へと飛び出していった。彼は、僕の『駒』としての役割を、ただ黙々と、しかし完璧に、果たそうとしていた。
僕の頭脳が、この機械仕掛けの神殿のシステムを、ハッキングするかのように、次々と解体していく。
僕の指揮が、七人の仲間たちを、一つの完璧な攻略チームとして、機能させる。
一つ、また一つと、動力炉が破壊されていく。
クロノス・ギアの動きが、焦りからか、次第に荒々しくなっていくのが分かった。
そして、ついに、最後の動力炉が、ヴォルフの渾身の一撃によって砕け散った。
その瞬間、クロノス・ギア本体を守っていた電磁バリアが、完全に消滅した。
「……今だ!」
僕は、最後の号令をかけた。「全員、本体に総攻撃をかけろ! ヤツを、鉄屑に変えてやれ!」
「「「おおおおおおお!」」」
七人の雄叫びが、機械仕掛けの神殿に響き渡った。
それは、かつてバラバラだった者たちが、一つの目的のために、完全に一つになった瞬間だった。
僕たちは、もはやただの臨時パーティではない。
僕の指揮の下で、伝説の勇者パーティすらも超える、究極の攻略機械へと、変貌を遂げていたのだ。
そして、その光景を、後方でセシリアを看病していたグレンが、その眼鏡の奥の瞳を、興奮に細めて見つめていた。
(……素晴らしい。なんと美しい、破壊のシンフォニーだ。ユキナガ……貴様は、やはり、神か、あるいは悪魔か。どちらにせよ、私の最高の研究対象であることに、変わりはない)
彼の、歪んだ探求心は、この極限の戦場の中で、さらに燃え上がっていた。
僕の完璧なナビゲートに従い、七人の臨時パーティは、誰一人として脱落することなく、荒れ狂う暴風と雷鳴の中を駆け抜けた。ヴォルフは風の壁を盾とし、リリアナは凪の瞬間を突いてサンダーバードを狩り、グレンの魔法が僕たちの進路を切り開く。
後方では、バルガスとアレクサンダーが、協力してセシリアの担架を守っていた。アレクサンダーは、僕の指示が絶対的なものであることを認めざるを得ず、ただ黙々と、自分の役割をこなしていた。彼のプライドは、この異次元の攻略劇の前で、もはや何の役にも立たなかった。
僕たちは、他のパーティが数週間かけても突破できないであろう『嵐の回廊』を、わずか数時間で踏破した。
二十階層を越え、僕たちはさらに塔の上層を目指していく。
階層ごとに、塔はその顔を劇的に変えた。
ある階は、全てが逆さまになった『反転世界』。僕たちは、天井を地面として歩き、シャンデリアのように生える石筍の間を駆け抜けた。
ある階は、時間が歪んだ『老朽の廃墟』。そこでは、一歩進むごとに数年の時が経過し、僕たちの装備は錆びつき、体は老いていく。だが、僕のスキルはその時間の流れの法則性すらも見抜き、最も老化の影響が少ない『時の回廊』を発見し、僕たちを導いた。
アレクサンダーたちは、もはや驚くことさえ忘れていた。彼らはただ、僕の指示に従う機械のように、未知なるダンジョンを進んでいく。ユキナガという存在が、自分たちの理解を遥かに超えた、規格外の『何か』であることを、彼らは認めざるを得なかった。
そして、僕たちは第三十階層へとたどり着いた。
その扉を開けた瞬間、僕たちの目に飛び込んできたのは、これまでの自然の脅威とは全く異なる、人工的な光景だった。
そこは、巨大な機械仕掛けの神殿だった。
天井からは、無数の巨大な歯車が、複雑に噛み合いながら回転している。床は、磨き上げられた真鍮でできており、その下を青白い魔力エネルギーが、回路のように流れているのが見えた。空気は、油と、金属が焼ける匂いで満たされている。
「……なんだ、ここは。まるで、時計の中みてえだな」
バルガスが、呆然と呟いた。彼のドワーフとしての本能が、この場所に込められた、古代の超技術に畏敬の念を抱いているようだった。
そして、その神殿の奥。
巨大な玉座に、一体のガーディアンが鎮座していた。
それは、ミスリルゴーレムよりもさらに巨大で、そして複雑な構造をしていた。その体は、黄金と白銀の合金でできており、その背中からは、何本もの機械仕掛けのアームが、昆虫の足のように伸びている。その両目には、冷たい知性を宿した、サファイアのような宝石が埋め込まれていた。
僕の脳内マップが、その名を告げる。
『古代兵器『クロノス・ギア』を検知。極めて高度な自律思考ルーチンと、戦闘能力を有す』
「……どうやら、こいつがこの階層の門番らしいな」
僕がそう言った瞬間、クロノス・ギアのサファイアの目が、僕たちを捉えた。
『……侵入者を認識。これより、排除プロセスに移行します』
その声は、合成音声のように無機質だったが、明確な殺意が込められていた。
ガーディアンが、ゆっくりと玉座から立ち上がる。その動きに合わせて、周囲の歯車が回転速度を上げ、神殿全体が、一つの巨大な戦闘機械として覚醒していくのが分かった。
「来るぞ! 総員、戦闘態勢!」
僕の号令と共に、七人がそれぞれの武器を構える。
クロノス・ギアは、まず、その背中から伸びる機械仕掛けのアームを、僕たちに向かって射出してきた。アームの先端は、鋭いドリルや、高圧の蒸気を噴射するノズルになっており、その攻撃は多彩で、予測が難しい。
「ヴォルフ、バルガス! 前衛を固めろ! 二人の盾で、完璧な防壁を築け!」
「「おう!」」
二人のタンクが、パーティの前に立ちはだかる。ヴォルフの動的な防御と、バルガスの静的な防御が組み合わさることで、それはもはやただの壁ではない。あらゆる攻撃をいなし、受け流し、そして吸収する、究極の防衛ラインとなっていた。
「グレン、アレクサンダー! 魔法と剣で、アームの数を減らせ!」
「フン!」
「くっ……!」
二人は、それぞれの得物で、防壁の隙間から攻撃を仕掛ける。グレンの魔法がアームの関節を焼き、アレクサンダーの聖剣がその装甲を切り裂く。
だが、破壊されたアームは、すぐに神殿の壁から新たな部品が供給され、自己修復していく。キリがない。
「リリアナ!」
「ええ!」
「ヤツの本体を叩く! だが、ヤツの周囲には、強力な電磁バリアが張られている! 直接は近づけない!」
僕のマップには、クロノス・ギア本体を取り巻く、不可視のエネルギー障壁が表示されていた。
「どうすればいいの!?」
「バリアのエネルギーは、この神殿の四隅にある、四つの動力炉から供給されている! まずは、それを破壊するんだ!」
僕は、神殿の四隅にある、巨大な水晶塔を指差した。
「だが、動力炉には、それぞれ異なる『解除コード』が設定されている! それを解かなければ、破壊はできない!」
それは、力押しだけでは決して突破できない、知恵の試練だった。
「解除コードは、俺が解く!」
僕は、書斎で解読した、古代アルケイア文明の数式パターンを、脳内で高速で組み立てていた。
「リリアナ、最初の動力炉へ! コードは、『三、一、四、一、五』だ! その順番で、炉のパネルに触れろ!」
「分かったわ!」
リリアナが、戦場を駆け抜け、最初の動力炉へとたどり着く。彼女が、僕の告げた数字の順番でパネルに触れると、動力炉を覆っていたバリアが、音もなく消滅した。
「よし! 破壊しろ!」
リリアナのレイピアが、動力炉のコアを貫く。一体の動力炉が、機能を停止した。
クロノス・ギアの周囲のバリアが、わずかに揺らめいた。
「次だ! 二つ目の動力炉! アレクサンダー、お前が行け!」
僕は、あえて、アレクサンダーに指示を出した。「コードは、『二、七、一、八、二』!」
「……俺が?」
彼は、一瞬戸惑った。だが、すぐに覚悟を決めた顔で、戦場へと飛び出していった。彼は、僕の『駒』としての役割を、ただ黙々と、しかし完璧に、果たそうとしていた。
僕の頭脳が、この機械仕掛けの神殿のシステムを、ハッキングするかのように、次々と解体していく。
僕の指揮が、七人の仲間たちを、一つの完璧な攻略チームとして、機能させる。
一つ、また一つと、動力炉が破壊されていく。
クロノス・ギアの動きが、焦りからか、次第に荒々しくなっていくのが分かった。
そして、ついに、最後の動力炉が、ヴォルフの渾身の一撃によって砕け散った。
その瞬間、クロノス・ギア本体を守っていた電磁バリアが、完全に消滅した。
「……今だ!」
僕は、最後の号令をかけた。「全員、本体に総攻撃をかけろ! ヤツを、鉄屑に変えてやれ!」
「「「おおおおおおお!」」」
七人の雄叫びが、機械仕掛けの神殿に響き渡った。
それは、かつてバラバラだった者たちが、一つの目的のために、完全に一つになった瞬間だった。
僕たちは、もはやただの臨時パーティではない。
僕の指揮の下で、伝説の勇者パーティすらも超える、究極の攻略機械へと、変貌を遂げていたのだ。
そして、その光景を、後方でセシリアを看病していたグレンが、その眼鏡の奥の瞳を、興奮に細めて見つめていた。
(……素晴らしい。なんと美しい、破壊のシンフォニーだ。ユキナガ……貴様は、やはり、神か、あるいは悪魔か。どちらにせよ、私の最高の研究対象であることに、変わりはない)
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