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第73話:新たなる日常と再出発
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エリクサーを巡る激闘から一ヶ月が過ぎた。
王都は何事もなかったかのようにいつもの活気を取り戻していた。だがその水面下ではいくつかの大きな変化が静かに起きていた。
勇者アレクサンダーが自らの称号を返上したという報せは、王宮とギルドの上層部だけに留められ公には発表されなかった。国王アルトリウスの最後の温情だったのかもしれない。
アレクサンダーとヴォルフは回復したセシリアと共にギルドには顔を見せず、どこかへ旅立っていったと聞いた。贖罪の旅。彼らがどこで何をしているのか知る者はいない。だがきっと彼らは彼らなりの新しい道を歩み始めているのだろう。
そして賢者グレン。
彼はあの日以来、完全に精神の均衡を失い、王家の療養施設に厳重な監視の下で収容されているという。彼は壁に向かって一日中、意味不明な数式と『世界のバグ』についての持論を呟き続けているらしい。彼が再び陽の光を浴びる日はおそらくもう来ないだろう。
勇者パーティ『サンクチュアリ』はこうして静かに、そして完全にその歴史の幕を下ろした。
そして僕たち『フロンティア』の日常もまた、新たな局面を迎えていた。
『天へと至る塔』での一件、特に僕が世界の理を書き換えたという事実は、同行したヴォルフとセシリアによってダグラスや国王アルトリウスの耳にも断片的に伝わっていた。
その結果、僕たちに対する彼らの態度はもはやただの有能な冒険者パーティに対するものではなくなっていた。
「ユキナガ殿」
ある日、僕たちの家を訪れたダグラスは僕に対して深々と頭を下げた。「もはや貴殿をただの冒険者として扱うことはできん。貴殿はこの世界の理そのものに干渉しうる我々の理解を超えた存在だ。ギルドとして、そして個人として貴殿の意志を最大限尊重することをここに誓おう」
それはギルドからの事実上の『不可侵宣言』だった。僕たちはギルドの依頼や規則に縛られることなく、自由に行動する権利を得たのだ。
王家からの扱いも同様だった。僕たちの家には定期的に王家秘蔵の古代文献や希少な魔法アイテムが『友好の証』として届けられるようになった。それは僕たちの力を恐れ、そして同時に味方につけておきたいという王家の明確な意思表示だった。
僕たち『フロンティア』は知らず知らずのうちにこの国において誰にも干渉されない特別な地位を築き上げていた。
そんな周囲の変化をよそに、僕たちの家の中は以前と変わらない穏やかな空気に満ちていた。
「ほら、ユキナガ! 口を開けろ!」
バルガスが地下工房で新開発したという栄養満点のドワーフ式携帯食料を、無理やり僕の口に突っ込んできた。「最近また書斎に籠もりっきりだろうが。ちゃんと食わねえと体壊すぞ!」
彼の不器用な優しさが研究に没頭しがちな僕の何よりの支えになっていた。
「ユキナガ、新しいハーブティーができたの。少し休憩にしない?」
リリアナが庭で育てたカモミールを使った安らぐ香りの紅茶を僕の机に置いてくれる。彼女の細やかな気遣いが張り詰めた僕の心を優しく解きほぐしてくれた。
僕たちは家族だった。
互いを気遣い、支え合い、そして共に成長していく。
その温かい日常こそが僕にとって世界の理を探求する上で何よりも大切な心の拠り所となっていた。
あの日、僕が覚醒させた『世界の理を書き換える』力。
僕はあの日以来、その力を一度も使ってはいなかった。
それはあまりにも強大で、そして危険な力だ。世界のソースコードに干渉するということは予期せぬ、さらに致命的なバグを生み出す可能性も孕んでいる。あれはセシリアの命が懸かっているという極限の状況だったからこそ使えた禁断の切り札だった。
僕は自分の力の本当の意味と正しい使い方を見極める必要があった。
そのためにも僕はこの世界のことをもっと知らなければならない。
『厄災』の正体。
古代アルケイア文明がなぜ滅びたのか。
そして僕がなぜこの世界に呼ばれたのか。
僕の探求はまだ始まったばかりだった。
そんなある日、僕は書斎で王家から届けられた一枚の古い羊皮紙の地図を広げていた。
それはこの大陸のさらに東、広大な海の向こう側に存在する『新大陸』と呼ばれるまだほとんど調査が進んでいない土地の不完全な地図だった。
その地図の隅に僕は見慣れた、しかし極めて強力なダンジョンのエネルギー反応を示す古代のシンボルが描かれているのを見つけた。
『沈黙の遺跡』や『天へと至る塔』とも違う、未知のパターンのエネルギー。
僕の冒険者としての血が、そして世界の謎を探求する者としての魂が、その未知なるシンボルに強く、強く惹きつけられていた。
「……見つけた」
僕は静かに呟いた。「俺たちが次に目指すべき場所を」
僕はその地図を手にリビングへと向かった。
そこではバルガスとリリアナがいつものように穏やかな笑顔で僕を待っている。
僕たちの本当の冒険。
それはあるいはこの穏やかな日常を守るための戦いなのかもしれない。
その答えを見つけるために僕たちは再び旅に出る。
まだ誰も知らない新たな世界の『地図』を、その手で描き出すために。
王都は何事もなかったかのようにいつもの活気を取り戻していた。だがその水面下ではいくつかの大きな変化が静かに起きていた。
勇者アレクサンダーが自らの称号を返上したという報せは、王宮とギルドの上層部だけに留められ公には発表されなかった。国王アルトリウスの最後の温情だったのかもしれない。
アレクサンダーとヴォルフは回復したセシリアと共にギルドには顔を見せず、どこかへ旅立っていったと聞いた。贖罪の旅。彼らがどこで何をしているのか知る者はいない。だがきっと彼らは彼らなりの新しい道を歩み始めているのだろう。
そして賢者グレン。
彼はあの日以来、完全に精神の均衡を失い、王家の療養施設に厳重な監視の下で収容されているという。彼は壁に向かって一日中、意味不明な数式と『世界のバグ』についての持論を呟き続けているらしい。彼が再び陽の光を浴びる日はおそらくもう来ないだろう。
勇者パーティ『サンクチュアリ』はこうして静かに、そして完全にその歴史の幕を下ろした。
そして僕たち『フロンティア』の日常もまた、新たな局面を迎えていた。
『天へと至る塔』での一件、特に僕が世界の理を書き換えたという事実は、同行したヴォルフとセシリアによってダグラスや国王アルトリウスの耳にも断片的に伝わっていた。
その結果、僕たちに対する彼らの態度はもはやただの有能な冒険者パーティに対するものではなくなっていた。
「ユキナガ殿」
ある日、僕たちの家を訪れたダグラスは僕に対して深々と頭を下げた。「もはや貴殿をただの冒険者として扱うことはできん。貴殿はこの世界の理そのものに干渉しうる我々の理解を超えた存在だ。ギルドとして、そして個人として貴殿の意志を最大限尊重することをここに誓おう」
それはギルドからの事実上の『不可侵宣言』だった。僕たちはギルドの依頼や規則に縛られることなく、自由に行動する権利を得たのだ。
王家からの扱いも同様だった。僕たちの家には定期的に王家秘蔵の古代文献や希少な魔法アイテムが『友好の証』として届けられるようになった。それは僕たちの力を恐れ、そして同時に味方につけておきたいという王家の明確な意思表示だった。
僕たち『フロンティア』は知らず知らずのうちにこの国において誰にも干渉されない特別な地位を築き上げていた。
そんな周囲の変化をよそに、僕たちの家の中は以前と変わらない穏やかな空気に満ちていた。
「ほら、ユキナガ! 口を開けろ!」
バルガスが地下工房で新開発したという栄養満点のドワーフ式携帯食料を、無理やり僕の口に突っ込んできた。「最近また書斎に籠もりっきりだろうが。ちゃんと食わねえと体壊すぞ!」
彼の不器用な優しさが研究に没頭しがちな僕の何よりの支えになっていた。
「ユキナガ、新しいハーブティーができたの。少し休憩にしない?」
リリアナが庭で育てたカモミールを使った安らぐ香りの紅茶を僕の机に置いてくれる。彼女の細やかな気遣いが張り詰めた僕の心を優しく解きほぐしてくれた。
僕たちは家族だった。
互いを気遣い、支え合い、そして共に成長していく。
その温かい日常こそが僕にとって世界の理を探求する上で何よりも大切な心の拠り所となっていた。
あの日、僕が覚醒させた『世界の理を書き換える』力。
僕はあの日以来、その力を一度も使ってはいなかった。
それはあまりにも強大で、そして危険な力だ。世界のソースコードに干渉するということは予期せぬ、さらに致命的なバグを生み出す可能性も孕んでいる。あれはセシリアの命が懸かっているという極限の状況だったからこそ使えた禁断の切り札だった。
僕は自分の力の本当の意味と正しい使い方を見極める必要があった。
そのためにも僕はこの世界のことをもっと知らなければならない。
『厄災』の正体。
古代アルケイア文明がなぜ滅びたのか。
そして僕がなぜこの世界に呼ばれたのか。
僕の探求はまだ始まったばかりだった。
そんなある日、僕は書斎で王家から届けられた一枚の古い羊皮紙の地図を広げていた。
それはこの大陸のさらに東、広大な海の向こう側に存在する『新大陸』と呼ばれるまだほとんど調査が進んでいない土地の不完全な地図だった。
その地図の隅に僕は見慣れた、しかし極めて強力なダンジョンのエネルギー反応を示す古代のシンボルが描かれているのを見つけた。
『沈黙の遺跡』や『天へと至る塔』とも違う、未知のパターンのエネルギー。
僕の冒険者としての血が、そして世界の謎を探求する者としての魂が、その未知なるシンボルに強く、強く惹きつけられていた。
「……見つけた」
僕は静かに呟いた。「俺たちが次に目指すべき場所を」
僕はその地図を手にリビングへと向かった。
そこではバルガスとリリアナがいつものように穏やかな笑顔で僕を待っている。
僕たちの本当の冒険。
それはあるいはこの穏やかな日常を守るための戦いなのかもしれない。
その答えを見つけるために僕たちは再び旅に出る。
まだ誰も知らない新たな世界の『地図』を、その手で描き出すために。
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