ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第74話:新大陸への船出

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リビングの暖炉の火が和やかに揺らめいている。僕が書斎から持ち出した古びた羊皮紙の地図を大きなテーブルの上に広げると、バルガスとリリアナは興味深そうにそれを覗き込んできた。
「なんだ、こりゃ。見たことねえ大陸だな」
バルガスがその無骨な指で地図に描かれた未知の大陸の海岸線をなぞった。
「新大陸……。海の向こうにこんなに広い世界が広がっていたなんて」
リリアナもその瞳を輝かせている。
「ああ。そして俺たちの次の目的地はここだ」
僕は地図の一点、強力なダンジョンの存在を示す古代のシンボルを指差した。「ここにはまだ俺たちの知らない新たな『世界の理』の断片が眠っているはずだ。俺はそれを見つけに行きたい」
僕の言葉に二人は顔を見合わせ、そしてまるで示し合わせたかのようににやりと笑った。
「へへっ、ようやく骨のありそうな冒険の話が出てきたな!」
バルガスが嬉しそうに拳を鳴らす。
「ええ。この家での穏やかな生活も素敵だけど、やっぱり私たちは冒険者だものね」
リリアナもその碧眼に探求の光を宿していた。
僕たちの心はもう決まっていた。
Aランクパーティとなり王家からの後援も得た今、僕たちの活動範囲はもはやこのエーテリオン王国だけには留まらない。
僕たちは世界の謎を解き明かすため、新大陸へと旅立つことを決意した。

出発までの準備はこれまでにないほど大掛かりなものになった。
新大陸への渡航には当然、船が必要だ。僕たちはランズデール侯爵の紹介で王都でも指折りの造船技師と契約を結んだ。
「ただの船じゃダメだ!」
バルガスは自ら設計図を引き、造船技師たちと熱い議論を交わしていた。「船体にはエンシェントウッドとミスリル合金を使う! 嵐にも巨大な海獣の襲撃にも耐えられる、海に浮かぶ『要塞』を造るんだ!」
彼のドワーフとしての知識と技術が今度は船造りの分野で遺憾なく発揮されていた。
リリアナは長期航海に備えて大量の食料と、そして何よりも重要な薬草の準備に奔走していた。
「船の上でもハーブを育てられるように特別なプランターを用意しないと。それに新大陸には未知の病気があるかもしれないわ。あらゆる毒に対応できる万能解毒薬の研究も進めないと」
彼女の錬金術師としての才能が僕たちの旅の生命線を支えることになるだろう。
僕は王立図書館のさらに奥深く、初代国王の許可がなければ入れない『禁断の書庫』で新大陸に関するわずかな文献を探し求めていた。
そこには古代アルケイア文明が遺したと思われる断片的な航海日誌が残されていた。
『東の大陸……そこは、我らが『システム』の及ばぬ理の外の地……。星の理ではなく、混沌の理が支配する原初の土地……』
その謎めいた記述が僕の知的好奇心をさらに掻き立てた。

数ヶ月後。
王都の港には一隻の壮麗で、そして明らかに異質な船がその威容を誇示するように停泊していた。
船体は流線型の美しいフォルムを持ちながらも、バルガスが設計した通りミスリル合金で補強された重厚な装甲に覆われている。マストには風の魔力を受けて自動で帆を張る魔法の帆布が使われていた。船首にはリリアナがデザインした翼を広げた銀色の鳥の彫刻が飾られている。
船の名は『フロンティア号』。
僕たちの新たな冒険の翼だ。
「すげえ……。本当にできちまったな、俺たちの船が」
バルガスが感慨深げにその船を見上げている。
「ええ。私たちの新しいお城ね」
リリアナも満足げに微笑んでいた。
僕たちの船出の日には多くの人々が見送りに来てくれた。
ギルドマスターのダグラス。ランズデール侯爵とすっかり逞しくなったアルフレッド様。僕たちの活躍に憧れる若い冒険者たち。
そしてその人垣の少し離れた場所に。
質素な旅装束を身につけた三人の男女の姿があった。
アレクサンダー、ヴォルフ、そしてセシリア。
アレクサンダーはもう聖剣を佩いてはいなかった。その腰にはありふれた鉄の剣が一本だけ。だがその顔にはかつての憎悪も屈辱もない。ただ静かで穏やかな表情があった。
彼と僕の視線が一瞬だけ交差した。
彼は僕に向かって小さく、しかし確かに頷いてみせた。それは言葉にならない彼なりの激励と、そして感謝の印だったのかもしれない。
僕もまた静かに頷き返した。
僕たちの間の全ての物語は本当に終わったのだ。
彼らにも彼らなりの新しい道がある。僕たちにも僕たちの新しい道がある。その道がいつかまたどこかで交差することがあるのかもしれない。だがそれはまた別の物語だ。

「出航の時間だ」
僕が言うと、三人は頷きフロンティア号のタラップを上がった。
「面舵いっぱーい! 新大陸に向けて出航だああああ!」
バルガスが船長のように朗々とした声を張り上げる。
魔法の帆が風を孕み、僕たちの船はゆっくりと、しかし力強く港を離れていった。
岸壁から僕たちの名を呼ぶ多くの声が聞こえる。
僕たちはその声に大きく手を振って応えた。
僕たちの第一章は終わった。
追放から始まり、最高の仲間と出会い、過去の因縁を乗り越え、この国で伝説となった。
そして今、第二章の幕が上がる。
まだ誰も知らない未知なる大陸。
世界の理の外側にあるという原初の土地。
そこにどんな謎が、どんな冒険が、そしてどんな『世界の真実』が待ち受けているのか。
僕の【地図化】スキルはまだ真っ白な広大な海の地図を、そしてその先にある未知なる大陸の輪郭を期待に満ちて描き出し始めていた。
僕たち『フロンティア』の本当の冒険。
それは今、この大海原から始まるのだ。
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