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第75話:大海原の脅威と海に浮かぶ要塞
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フロンティア号の船出は順風満帆だった。
バルガスが設計した魔法の帆は風の魔力を効率よく捉え、僕たちの船を驚くべき速度で大海原の彼方へと運んでいく。リリアナが船内に作った小さなハーブ園は潮風の中でも元気に育ち、僕たちの食卓に彩りと癒やしを与えてくれた。
僕は船首に立ち、広大な水平線を眺めながら来る日も来る日も【地図化】スキルを展開し続けていた。
僕の脳内マップにはまだ誰も描いたことのないこの大海原の正確な海図がリアルタイムで記録されていく。海底の地形、海流の複雑な流れ、そして巨大な海獣たちの生息域。全てが貴重な情報として僕の中に蓄積されていった。
航海を始めて一週間が過ぎた頃。
穏やかだった海が突如としてその顔を変えた。
空は鉛色の厚い雲に覆われ、穏やかだった波は山のような巨大なうねりへと変わっていく。
「嵐だ! とんでもねえのが来るぞ!」
マストの上で見張りをしていたバルガスが警鐘を鳴らした。
僕たちはすぐさま嵐への備えを開始した。魔法の帆を畳み、船内の全てのものを固縛する。だが嵐の規模は僕たちの想像を遥かに超えていた。
船はまるで木の葉のように荒れ狂う波間に翻弄された。天を突くほどの巨大な波が何度も甲板に叩きつけられ、船体が悲鳴のような軋みを上げる。
「くそっ! このままじゃ船がバラバラになっちまう!」
バルガスが舵を必死に握りしめながら叫んだ。
その時だった。
嵐の海の中からさらに巨大な、絶望的な影が姿を現した。
それは伝説の海獣、クラーケンだった。
何十本もの巨大な触手が海中から伸び上がり、僕たちのフロンティア号をまるで玩具のように締め上げ始めたのだ。
「きゃあっ!」
船体が大きく傾き、リリアナが悲鳴を上げた。
触手の一本が僕たちのマストを薙ぎ払い、へし折ろうとする。
「させっかよ!」
バルガスは舵をリリアナに任せると、その巨大な触手に向かってウォーハンマーを構えた。「【城塞化】!」
彼は船の上という不安定な足場でありながら完璧なタイミングでマストを守るように黄金の壁を出現させた。触手の攻撃は激しい音と共に城塞に弾かれる。
だが敵は一体ではない。次々と別の触手が船体の至る所から襲いかかってくる。
「キリがないわ!」
リリアナがレイピアで触手の先端を切り裂くが、すぐに再生してしまう。
僕も状況の分析を続けていた。
クラーケンの本体は海中深く、船の真下に潜んでいる。この無数の触手は本体から伸びるほんの一部に過ぎない。触手をいくら攻撃しても根本的な解決にはならない。
本体を直接叩くしかない。
だがどうやって?
僕の脳内マップが、一つの可能性を示した。
クラーケンの本体の周囲には強力な魔力障壁が張られている。だがその障壁は全ての触手が同時に攻撃を行う瞬間、ほんの一瞬だけ薄くなるのだ。おそらく攻撃に膨大な魔力を消費するためだろう。
その一瞬を突くしかない。
「二人とも、聞け!」
僕は荒れ狂う嵐の中で作戦を叫んだ。「今から俺がヤツの全ての触手の注意を引く! お前たちはその隙に船の両舷に分かれろ!」
僕は船首に備え付けられていた小型の魔導砲の照準を合わせた。そしてクラーケンの触手ではなく、その本体がいるであろう海面に向かって光の弾を連射した。
挑発。
僕の狙い通りクラーケンは激昂した。海中に潜んでいた本体が巨大な眼を爛々と輝かせながらゆっくりと浮上してくる。そしてその全ての触手が僕という一点を狙って天高く振り上げられた。
「バルガス、リリアナ! 今だ!」
僕は叫んだ。「バルガスは右舷からヤツの魔力障壁に向かって城塞の『槍』を全力で突き刺せ! リリアナは左舷からその衝撃で生まれた障壁の亀裂に【縮地】で飛び込み、本体の眼を貫け!」
それは海の上という最悪の足場で、完璧なタイミングと連携を要求される神業のような作戦だった。
「「おおおおおおおっ!」」
二人の雄叫びが嵐の轟音の中で一つになった。
バルガスの【城塞化】はもはやただの壁ではない。彼の意志に応じて鋭い槍の穂先のように変形し、クラーケンの魔力障壁へと射出された。
リリアナはその槍が障壁に着弾し、僅かな亀裂を生み出すコンマ数秒の瞬間を見逃さなかった。
彼女の姿が船上から消える。
そして次の瞬間。
海中から浮上してきたクラーケンの巨大な眼球の、その中心で銀色の閃光が煌めいた。
『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
クラーケンは宇宙の果てまで響き渡るかのような絶叫を上げた。
その巨体を締め付けていた力が嘘のように緩む。無数の触手は力なく海へと落ちていき、その巨大な本体もまたゆっくりと海の深淵へと沈んでいった。
嵐はまるで主を失ったかのように急速にその勢いを弱め始めた。
鉛色の雲が割れ、その隙間から太陽の光が僕たちのフロンティア号を祝福するように照らし出した。
僕たち三人は水浸しになった甲板の上で互いの姿を確認し、そして破顔した。
「……へっ。海の化け物も大したことなかったな」
バルガスがずぶ濡れのまま豪快に笑う。
「ええ。私たちの船は不沈艦だものね」
リリアナも誇らしげに胸を張った。
僕たちの船は傷ついた。マストは折れ、船体のあちこちが損傷している。
だが沈んではいない。
そして何より僕たちの心は折れてはいなかった。
この大海原の試練を乗り越えたことで僕たちの絆は、そしてこのフロンティア号という僕たちの城は、さらに強く揺るぎないものとなったのだ。
僕は水平線の彼方、新大陸があるであろう方向を静かに見据えた。
どんな困難が待ち受けていようともこの仲間たちとこの船があれば僕たちはどこへでも行ける。
僕たちの本当の冒険はまだ始まったばかりなのだ。
バルガスが設計した魔法の帆は風の魔力を効率よく捉え、僕たちの船を驚くべき速度で大海原の彼方へと運んでいく。リリアナが船内に作った小さなハーブ園は潮風の中でも元気に育ち、僕たちの食卓に彩りと癒やしを与えてくれた。
僕は船首に立ち、広大な水平線を眺めながら来る日も来る日も【地図化】スキルを展開し続けていた。
僕の脳内マップにはまだ誰も描いたことのないこの大海原の正確な海図がリアルタイムで記録されていく。海底の地形、海流の複雑な流れ、そして巨大な海獣たちの生息域。全てが貴重な情報として僕の中に蓄積されていった。
航海を始めて一週間が過ぎた頃。
穏やかだった海が突如としてその顔を変えた。
空は鉛色の厚い雲に覆われ、穏やかだった波は山のような巨大なうねりへと変わっていく。
「嵐だ! とんでもねえのが来るぞ!」
マストの上で見張りをしていたバルガスが警鐘を鳴らした。
僕たちはすぐさま嵐への備えを開始した。魔法の帆を畳み、船内の全てのものを固縛する。だが嵐の規模は僕たちの想像を遥かに超えていた。
船はまるで木の葉のように荒れ狂う波間に翻弄された。天を突くほどの巨大な波が何度も甲板に叩きつけられ、船体が悲鳴のような軋みを上げる。
「くそっ! このままじゃ船がバラバラになっちまう!」
バルガスが舵を必死に握りしめながら叫んだ。
その時だった。
嵐の海の中からさらに巨大な、絶望的な影が姿を現した。
それは伝説の海獣、クラーケンだった。
何十本もの巨大な触手が海中から伸び上がり、僕たちのフロンティア号をまるで玩具のように締め上げ始めたのだ。
「きゃあっ!」
船体が大きく傾き、リリアナが悲鳴を上げた。
触手の一本が僕たちのマストを薙ぎ払い、へし折ろうとする。
「させっかよ!」
バルガスは舵をリリアナに任せると、その巨大な触手に向かってウォーハンマーを構えた。「【城塞化】!」
彼は船の上という不安定な足場でありながら完璧なタイミングでマストを守るように黄金の壁を出現させた。触手の攻撃は激しい音と共に城塞に弾かれる。
だが敵は一体ではない。次々と別の触手が船体の至る所から襲いかかってくる。
「キリがないわ!」
リリアナがレイピアで触手の先端を切り裂くが、すぐに再生してしまう。
僕も状況の分析を続けていた。
クラーケンの本体は海中深く、船の真下に潜んでいる。この無数の触手は本体から伸びるほんの一部に過ぎない。触手をいくら攻撃しても根本的な解決にはならない。
本体を直接叩くしかない。
だがどうやって?
僕の脳内マップが、一つの可能性を示した。
クラーケンの本体の周囲には強力な魔力障壁が張られている。だがその障壁は全ての触手が同時に攻撃を行う瞬間、ほんの一瞬だけ薄くなるのだ。おそらく攻撃に膨大な魔力を消費するためだろう。
その一瞬を突くしかない。
「二人とも、聞け!」
僕は荒れ狂う嵐の中で作戦を叫んだ。「今から俺がヤツの全ての触手の注意を引く! お前たちはその隙に船の両舷に分かれろ!」
僕は船首に備え付けられていた小型の魔導砲の照準を合わせた。そしてクラーケンの触手ではなく、その本体がいるであろう海面に向かって光の弾を連射した。
挑発。
僕の狙い通りクラーケンは激昂した。海中に潜んでいた本体が巨大な眼を爛々と輝かせながらゆっくりと浮上してくる。そしてその全ての触手が僕という一点を狙って天高く振り上げられた。
「バルガス、リリアナ! 今だ!」
僕は叫んだ。「バルガスは右舷からヤツの魔力障壁に向かって城塞の『槍』を全力で突き刺せ! リリアナは左舷からその衝撃で生まれた障壁の亀裂に【縮地】で飛び込み、本体の眼を貫け!」
それは海の上という最悪の足場で、完璧なタイミングと連携を要求される神業のような作戦だった。
「「おおおおおおおっ!」」
二人の雄叫びが嵐の轟音の中で一つになった。
バルガスの【城塞化】はもはやただの壁ではない。彼の意志に応じて鋭い槍の穂先のように変形し、クラーケンの魔力障壁へと射出された。
リリアナはその槍が障壁に着弾し、僅かな亀裂を生み出すコンマ数秒の瞬間を見逃さなかった。
彼女の姿が船上から消える。
そして次の瞬間。
海中から浮上してきたクラーケンの巨大な眼球の、その中心で銀色の閃光が煌めいた。
『ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
クラーケンは宇宙の果てまで響き渡るかのような絶叫を上げた。
その巨体を締め付けていた力が嘘のように緩む。無数の触手は力なく海へと落ちていき、その巨大な本体もまたゆっくりと海の深淵へと沈んでいった。
嵐はまるで主を失ったかのように急速にその勢いを弱め始めた。
鉛色の雲が割れ、その隙間から太陽の光が僕たちのフロンティア号を祝福するように照らし出した。
僕たち三人は水浸しになった甲板の上で互いの姿を確認し、そして破顔した。
「……へっ。海の化け物も大したことなかったな」
バルガスがずぶ濡れのまま豪快に笑う。
「ええ。私たちの船は不沈艦だものね」
リリアナも誇らしげに胸を張った。
僕たちの船は傷ついた。マストは折れ、船体のあちこちが損傷している。
だが沈んではいない。
そして何より僕たちの心は折れてはいなかった。
この大海原の試練を乗り越えたことで僕たちの絆は、そしてこのフロンティア号という僕たちの城は、さらに強く揺るぎないものとなったのだ。
僕は水平線の彼方、新大陸があるであろう方向を静かに見据えた。
どんな困難が待ち受けていようともこの仲間たちとこの船があれば僕たちはどこへでも行ける。
僕たちの本当の冒険はまだ始まったばかりなのだ。
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