ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第79話:第三の選択

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蛇神ウロボロスの問いかけが星空の祭壇に重く響き渡った。
システムの延命か、混沌への回帰か。世界の運命を左右する二者択一。
バルガスとリリアナは息を詰めて僕の言葉を待っている。彼らは僕がどちらを選ぼうとも、その決断に最後まで従う覚悟を決めているようだった。その絶対的な信頼が僕の心を支えていた。
僕はゆっくりと顔を上げ、蛇神の黒い宝石のような瞳をまっすぐに見つめ返した。
「……どちらも選ばない」
僕の静かな、しかしきっぱりとした答えに、祭壇の間の空気がわずかに揺らめいた。
ウロボロスの声が僕の脳内に再び響く。その声には初めて純粋な『興味』の色が宿っていた。
『……ほう。面白いことを言う。ならばお前は第三の道があるとでも言うのか』
「道は作るものだ」
僕は言い切った。「あんたが言う通り、アルケイアのシステムは不完全で傲慢だったのかもしれない。だがそのシステムが千年以上もの間この世界を『厄災』から守ってきたのもまた事実だ。それを今更すべて壊して混沌に還せばいいなんて、あまりにも無責任だ」
僕は旧大陸で出会った人々を、その日常を思い浮かべていた。ギルドで騒ぐ冒険者たち、市場で働く商人、そして僕たちに家を売ってくれたあの人の良い不動産屋。彼らの生活は全てその不完全なシステムの上で成り立っている。
「かと言ってこのまま緩やかな滅びを待つのもごめんだ。俺たちは未来を諦めるためにここまで来たんじゃない」
僕は隣に立つかけがえのない仲間たちを見た。
「俺が選ぶのは第三の道だ」
僕は蛇神に向かって堂々と宣言した。
「システムを壊すのでも維持するのでもない。『修復』する。アルケイアが遺した過ちを俺たちの手で正し、そしてあんたが言う混沌の理とも共存できる新しいシステムをこの手で作り上げる。それこそが俺がこの世界で為すべきことだ」
それは神の領域にさえ踏み込むかのような、あまりにも壮大で傲慢ともいえる宣言だった。
だが僕には確信があった。
世界の『設計図』を読み解き、その理にさえ干渉できるこの【地図化】スキル。
そしてどんな困難も共に乗り越えてくれる最高の仲間たち。
僕たちならそれができるはずだ。
僕のあまりにも大胆な答えにウロボロスはしばらくの間沈黙した。
星空の祭壇に永遠にも感じられるような静寂が流れる。
やがてその声が再び僕の脳内に響き渡った。それはどこか楽しげで、そして満足げな響きを帯びていた。
『……ククク。ははははは! 実に面白い! 人の子よ、いや、異世界の若者よ! それこそが我が見たかった新たな可能性の光だ!』
蛇神は心底楽しそうに笑った。
『システムの創造者でも混沌の化身でもない。その両者を理解し、乗り越えようとする第三の存在。それこそがこの星が本当に必要としていたものやもしれん』
蛇神の石像がまばゆい光を放ち始めた。
『よかろう。お前のその途方もない夢に我も賭けてみるとしよう』
石像の黒い宝石の瞳の一つがゆっくりと台座から外れ、僕の前へとふわりと浮かんできた。それは手のひらに収まるほどの大きさで、その内部にはまるで銀河そのものが閉じ込められているかのように無数の星々が渦巻いていた。
『これを受け取るがいい。それは混沌の理の源泉。この神殿の、そしてこの大陸の力の核そのものだ。それがあればお前はシステムの理だけでなく混沌の理にも干渉することができるようになるだろう』
僕は恐る恐るその黒い宝石『混沌の核』に手を伸ばした。
指先が触れた瞬間、僕の脳内にアルケイアのシステムとは全く異なるもう一つの、広大で生命力に満ち溢れた世界のソースコードが流れ込んできた。
僕の【地図化】スキルが再びその器を大きく広げ、進化していくのが分かった。
『だが忘れるな』
蛇神の声が厳かに告げる。『二つの相反する理をその身に宿すということは、常にその魂が引き裂かれる危険を伴うということだ。道を誤ればお前自身が新たな『厄災』となりかねん』
「……覚悟の上だ」
僕はその忠告を胸に深く刻み込んだ。
『よろしい。ならば行け。そしてお前の信じる『新しい地図』をこの星に描いてみせるがいい』
その言葉を最後にウロボロスの声は僕の脳内から消え去った。
蛇神の石像は光を失い、ただの巨大な石の彫刻へと戻っていた。
僕たちの新大陸での最初のダンジョン攻略は、こうして世界の運命そのものを左右するほどの大きな転換点を迎えることになった。

僕たちは混沌の核を手に静まり返った神殿を後にした。
帰り道、バルガスが興奮した様子で僕に話しかけてきた。
「すげえじゃねえか、ユキナガ! 世界を作り直すだなんて! さすがは俺たちのリーダーだ! スケールが違うぜ!」
「ええ。でも本当にそんなことが可能なのかしら……?」
リリアナは期待と、そして少しの不安が入り混じった表情で僕を見つめている。
「……分からない」
僕は正直に答えた。「途方もなく困難な道であることだけは確かだ。俺一人では絶対に不可能だろう」
僕は立ち止まり二人に向き直った。
「だから改めて頼みたい。お前たちの力をこれからも俺に貸してくれないか。この無謀な夢を一緒に追いかけてはくれないか」
僕の心からの言葉に二人は顔を見合わせて優しく微笑んだ。
「何言ってやがる、今更」
バルガスが僕の肩をその大きな手でバンと叩いた。「俺たちは最初からそのつもりだぜ。あんたが描く地図の先にある景色を一緒に見るってな」
「そうよ、ユキナガ」
リリアナも強く頷いた。「あなたはもう一人じゃない。私たち『フロンティア』はどんな時もあなたのそばにいるわ。世界の果てまで、いえ、その先まで」
二人の温かく、そして力強い言葉が僕の胸を満たした。
そうだ。
俺は一人じゃない。
この最高の仲間たちがいれば、どんな困難な道だってきっと歩いていける。
僕たちは再び顔を見合わせて笑った。
その笑顔は世界の運命を背負う悲壮感など微塵もない、ただ仲間と共にまだ見ぬ未来へと冒険に出る冒険者たちの純粋な笑顔だった。
僕たち『フロンティア』の本当の、そして最大の冒険が今、この瞬間から始まったのだ。
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