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第80話:新たな羅針盤と世界の染み
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星空の祭壇での超越的存在ウロボロスとの対話を終えた僕たちは、再び混沌としたジャングルの中を拠点であるフロンティア号へと向かって歩いていた。
僕の手のひらには蛇神から託された『混沌の核』が静かな存在感を放っている。それはまるで生きているかのように時折、温かい脈動を僕に伝えていた。
「しかし、とんでもねえことになっちまったな」
バルガスが巨大なシダの葉をウォーハンマーで薙ぎ払いながら、興奮冷めやらぬ様子で言った。「世界のシステムを修復するだなんて。俺たち、いつからそんな大層な仕事を引き受けることになったんだ?」
彼の言葉には戸惑いよりも困難な挑戦への喜びが満ち溢れている。
「でも少しだけ分かる気がするわ」
リリアナが木の根を軽やかに飛び越えながら静かに続けた。「ユキナガがこの世界に呼ばれたのはきっとそのためだったのよ。そして私たちが彼と出会ったのもきっと運命だったんだわ」
彼女は僕に向かって絶対的な信頼を込めた微笑みを向けた。
二人の言葉が僕の胸を温かくする。
そうだ。僕が背負った運命はあまりにも重い。だがこの仲間たちがいればどんな重荷だって分かち合うことができる。
「運命か。だとしたらずいぶんと厄介なものに選ばれたもんだな」
僕はそう言って笑った。僕たちの間にはもはや悲壮感など微塵もなかった。ただこれから始まる途方もない冒険への尽きることのない期待があるだけだった。
数日後、僕たちはようやくフロンティア号へと帰還した。
潮の香りと馴染んだ木の匂いが僕たちを優しく迎えてくれる。長かったジャングルでの野営生活から解放され、僕たちは久しぶりに自分たちの城での安息を得た。
バルガスは早速工房で新大陸で手に入れた未知の鉱石の分析を始め、リリアナは船上のハーブ園で新種の薬草の世話を焼きながら長旅の疲れを癒やしていた。
僕は一人、船長室に籠もりテーブルの上に『混沌の核』を置いてじっとそれを見つめていた。
この黒い宝石に秘められた力。
混沌の理。
それは一体、僕の【地図化】スキルにどんな変化をもたらすのか。
僕は意を決してその核にそっと手を触れた。そして意識を集中させ、僕のスキルとこの混沌の力を同調させようと試みた。
瞬間、僕の脳内にこれまでに経験したことのないほどの膨大な情報が洪水のように流れ込んできた。
それは旧大陸の整然とした、しかしどこか無機質な『システム』の情報ではなかった。
生命の誕生、進化、そして淘汰。無秩序で暴力的で、しかし圧倒的な生命力に満ち溢れたこの星の原初の記憶。
僕の【地図化】スキルが悲鳴を上げた。二つのあまりにも異質な理が僕の精神の中で激しく衝突し、その魂を引き裂こうとする。蛇神の警告が現実のものとなったのだ。
(……くっ!)
僕は歯を食いしばり必死に耐えた。
壊すな。融合させろ。
システムの『理』と混沌の『理』。その両方を受け入れ、そして乗りこなすんだ。
僕の意識は無限に広がる情報の海の中で一つの小さな舟のように激しく揺さぶられた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
やがて荒れ狂う嵐が嘘のように凪いでいった。
僕の精神の中で二つの巨大な歯車がゆっくりと、しかし確かに噛み合ったのを感じた。
僕ははっと目を開けた。全身は冷たい汗でぐっしょりと濡れている。
だが僕の世界は完全にその姿を変えていた。
僕の脳内マップはもはやただの三次元地図ではなかった。
それはこの星そのものを俯瞰する神の視点。
旧大陸と新大陸。二つの大陸が同時に僕の意識の中に広がっている。
そしてその地図の上にはこれまで見えなかった新たな情報が浮かび上がっていた。
黒い染み。
それは『王家の谷』の最深部からまるで癌細胞のようにじわじわと世界中に広がっていた。
『厄災』の侵食。
その進行状況が僕の眼にはっきりと見えていたのだ。
染みはまだ小さい。だが確実に、そして着実にその領域を広げている。特に旧大陸に点在するいくつかの高ランクダンジョンの周辺ではその侵食速度が速まっているのが分かった。
ダンジョンという『隔離病棟』の機能が限界に近づいている証拠だ。
「……猶予はない、か」
僕は静かに呟いた。
このまま放置すれば数年、いや数ヶ月のうちに厄災の侵食は世界の理そのものを崩壊させ、取り返しのつかない事態を引き起こすだろう。
僕たちの世界のシステムを『修復』するという目標はもはや悠長な夢物語ではない。一刻を争う現実的な課題となっていた。
その夜、僕はリビングでバルガスとリリアナに僕のスキルが遂げた新たな進化と、そして世界の危機的状況について全てを話した。
二人は僕が見せる脳内マップのイメージを真剣な眼差しで見つめていた。
「……これが世界の本当の姿か。思ったよりヤバい状況なんだな」
バルガスが厳しい顔で唸った。
「ええ。この黒い染みが人々の暮らす街にまで及んだら……。考えただけでも恐ろしいわ」
リリアナも顔を曇らせている。
「だが嘆いていても始まらない」
僕はテーブルの上に新大陸の、まだほとんどが空白の地図を広げた。「俺たちがやるべきことは一つだ。この世界のシステムを修復するための手がかりを見つけ出す」
「手がかり、ねえ。そいつは一体どこにあるんだ?」
「おそらくこの新大陸に眠る古代の遺跡だ」
僕は地図の上を指でなぞった。「旧大陸のダンジョンはアルケイア文明が作ったいわば『後付け』のシステムだ。だがこの新大陸にはそれよりもさらに古いこの星の原初の理に根差した文明が存在したはずだ。蛇神ウロボロスがその証拠だ」
僕はジャングルで攻略した『蛇神の神殿』の位置に印をつけた。
「この神殿と同じような古代の遺跡がこの大陸にはまだいくつか眠っているはずだ。それらの遺跡にはきっとアルケイアのシステムが生まれる前の世界の『本来の設計図』に関する情報が隠されている。それを見つけ出し解読することができればシステムを修復するための道筋が見えてくるはずだ」
僕の言葉に二人の瞳に再び光が戻った。
絶望的な状況の中にも確かに希望への道筋は存在したのだ。
「へっ、面白え! つまり俺たちはこの新しい大陸で宝探しならぬ『世界の設計図』探しを始めるってわけか!」
「ええ! なんだか壮大な冒険になりそうね!」
僕たちは広大な新大陸の地図を三人で囲んだ。
僕の進化した【地図化】スキルは微弱な魔力の流れを捉え、古代遺跡が存在する可能性のある場所をいくつかの候補として地図上に示していた。
南の巨大な砂漠に眠る『太陽のピラミッド』。
北の極寒の氷河に閉ざされた『氷の神殿』。
そして中央の巨大な大穴、地の底へと続く『奈落の心臓』。
「さて、と」
僕は二人に向かって笑いかけた。「次に俺たちの『地図』に記すべきはどこにする?」
僕の問いに二人は顔を見合わせて最高の笑顔で応えた。
僕たち『フロンティア』の本当の使命。
世界のバグを修正し、失われた設計図を取り戻すための壮大な冒険が今、この新大陸の地図の上から確かに始まったのだ。
僕の手のひらには蛇神から託された『混沌の核』が静かな存在感を放っている。それはまるで生きているかのように時折、温かい脈動を僕に伝えていた。
「しかし、とんでもねえことになっちまったな」
バルガスが巨大なシダの葉をウォーハンマーで薙ぎ払いながら、興奮冷めやらぬ様子で言った。「世界のシステムを修復するだなんて。俺たち、いつからそんな大層な仕事を引き受けることになったんだ?」
彼の言葉には戸惑いよりも困難な挑戦への喜びが満ち溢れている。
「でも少しだけ分かる気がするわ」
リリアナが木の根を軽やかに飛び越えながら静かに続けた。「ユキナガがこの世界に呼ばれたのはきっとそのためだったのよ。そして私たちが彼と出会ったのもきっと運命だったんだわ」
彼女は僕に向かって絶対的な信頼を込めた微笑みを向けた。
二人の言葉が僕の胸を温かくする。
そうだ。僕が背負った運命はあまりにも重い。だがこの仲間たちがいればどんな重荷だって分かち合うことができる。
「運命か。だとしたらずいぶんと厄介なものに選ばれたもんだな」
僕はそう言って笑った。僕たちの間にはもはや悲壮感など微塵もなかった。ただこれから始まる途方もない冒険への尽きることのない期待があるだけだった。
数日後、僕たちはようやくフロンティア号へと帰還した。
潮の香りと馴染んだ木の匂いが僕たちを優しく迎えてくれる。長かったジャングルでの野営生活から解放され、僕たちは久しぶりに自分たちの城での安息を得た。
バルガスは早速工房で新大陸で手に入れた未知の鉱石の分析を始め、リリアナは船上のハーブ園で新種の薬草の世話を焼きながら長旅の疲れを癒やしていた。
僕は一人、船長室に籠もりテーブルの上に『混沌の核』を置いてじっとそれを見つめていた。
この黒い宝石に秘められた力。
混沌の理。
それは一体、僕の【地図化】スキルにどんな変化をもたらすのか。
僕は意を決してその核にそっと手を触れた。そして意識を集中させ、僕のスキルとこの混沌の力を同調させようと試みた。
瞬間、僕の脳内にこれまでに経験したことのないほどの膨大な情報が洪水のように流れ込んできた。
それは旧大陸の整然とした、しかしどこか無機質な『システム』の情報ではなかった。
生命の誕生、進化、そして淘汰。無秩序で暴力的で、しかし圧倒的な生命力に満ち溢れたこの星の原初の記憶。
僕の【地図化】スキルが悲鳴を上げた。二つのあまりにも異質な理が僕の精神の中で激しく衝突し、その魂を引き裂こうとする。蛇神の警告が現実のものとなったのだ。
(……くっ!)
僕は歯を食いしばり必死に耐えた。
壊すな。融合させろ。
システムの『理』と混沌の『理』。その両方を受け入れ、そして乗りこなすんだ。
僕の意識は無限に広がる情報の海の中で一つの小さな舟のように激しく揺さぶられた。
どれくらいの時間が経っただろうか。
やがて荒れ狂う嵐が嘘のように凪いでいった。
僕の精神の中で二つの巨大な歯車がゆっくりと、しかし確かに噛み合ったのを感じた。
僕ははっと目を開けた。全身は冷たい汗でぐっしょりと濡れている。
だが僕の世界は完全にその姿を変えていた。
僕の脳内マップはもはやただの三次元地図ではなかった。
それはこの星そのものを俯瞰する神の視点。
旧大陸と新大陸。二つの大陸が同時に僕の意識の中に広がっている。
そしてその地図の上にはこれまで見えなかった新たな情報が浮かび上がっていた。
黒い染み。
それは『王家の谷』の最深部からまるで癌細胞のようにじわじわと世界中に広がっていた。
『厄災』の侵食。
その進行状況が僕の眼にはっきりと見えていたのだ。
染みはまだ小さい。だが確実に、そして着実にその領域を広げている。特に旧大陸に点在するいくつかの高ランクダンジョンの周辺ではその侵食速度が速まっているのが分かった。
ダンジョンという『隔離病棟』の機能が限界に近づいている証拠だ。
「……猶予はない、か」
僕は静かに呟いた。
このまま放置すれば数年、いや数ヶ月のうちに厄災の侵食は世界の理そのものを崩壊させ、取り返しのつかない事態を引き起こすだろう。
僕たちの世界のシステムを『修復』するという目標はもはや悠長な夢物語ではない。一刻を争う現実的な課題となっていた。
その夜、僕はリビングでバルガスとリリアナに僕のスキルが遂げた新たな進化と、そして世界の危機的状況について全てを話した。
二人は僕が見せる脳内マップのイメージを真剣な眼差しで見つめていた。
「……これが世界の本当の姿か。思ったよりヤバい状況なんだな」
バルガスが厳しい顔で唸った。
「ええ。この黒い染みが人々の暮らす街にまで及んだら……。考えただけでも恐ろしいわ」
リリアナも顔を曇らせている。
「だが嘆いていても始まらない」
僕はテーブルの上に新大陸の、まだほとんどが空白の地図を広げた。「俺たちがやるべきことは一つだ。この世界のシステムを修復するための手がかりを見つけ出す」
「手がかり、ねえ。そいつは一体どこにあるんだ?」
「おそらくこの新大陸に眠る古代の遺跡だ」
僕は地図の上を指でなぞった。「旧大陸のダンジョンはアルケイア文明が作ったいわば『後付け』のシステムだ。だがこの新大陸にはそれよりもさらに古いこの星の原初の理に根差した文明が存在したはずだ。蛇神ウロボロスがその証拠だ」
僕はジャングルで攻略した『蛇神の神殿』の位置に印をつけた。
「この神殿と同じような古代の遺跡がこの大陸にはまだいくつか眠っているはずだ。それらの遺跡にはきっとアルケイアのシステムが生まれる前の世界の『本来の設計図』に関する情報が隠されている。それを見つけ出し解読することができればシステムを修復するための道筋が見えてくるはずだ」
僕の言葉に二人の瞳に再び光が戻った。
絶望的な状況の中にも確かに希望への道筋は存在したのだ。
「へっ、面白え! つまり俺たちはこの新しい大陸で宝探しならぬ『世界の設計図』探しを始めるってわけか!」
「ええ! なんだか壮大な冒険になりそうね!」
僕たちは広大な新大陸の地図を三人で囲んだ。
僕の進化した【地図化】スキルは微弱な魔力の流れを捉え、古代遺跡が存在する可能性のある場所をいくつかの候補として地図上に示していた。
南の巨大な砂漠に眠る『太陽のピラミッド』。
北の極寒の氷河に閉ざされた『氷の神殿』。
そして中央の巨大な大穴、地の底へと続く『奈落の心臓』。
「さて、と」
僕は二人に向かって笑いかけた。「次に俺たちの『地図』に記すべきはどこにする?」
僕の問いに二人は顔を見合わせて最高の笑顔で応えた。
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