ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第86話 帰還、決戦の大地へ

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光の聖域『太陽のピラミッド』を後にした僕たちは、再び黄金色の砂漠を越え、拠点であるフロンティア号へと帰還した。
船室のテーブルの上には、僕たちがこの新大陸で手に入れた二つの至宝が静かに並べられている。『蛇神の神殿』で得た、宇宙の深淵を宿す『混沌の核』。そして『太陽のピラミッド』で託された、生命の輝きそのものである『光の種』。
闇と光。混沌と秩序。
二つの相反する世界の理。
僕は、この二つの力を完全に我が物とするため船室で深い瞑想に入った。僕の精神の中で二つの巨大なエネルギーが再び激しくぶつかり合う。魂が引き裂かれそうな激しい苦痛。だが、僕は耐えた。
壊すのでも、抑えつけるのでもない。
二つの理を僕という器の中で調和させ、一つの新しい理へと昇華させるのだ。
どれほどの時間が経っただろうか。
僕の意識が、無限の闇と無限の光のその境界線を越えた、その瞬間。
僕のスキルは静かに、そして完全に、その最終形態へと覚醒した。
【地図化(マッピング)】改め、『ワールド・ルーラー(世界の記述者)』。
僕の眼には、もはやただの地図は映っていなかった。
そこにあったのは、この星の過去、現在、そして数秒先の未来までもが、一つの巨大なタペストリーのように織りなす壮大な『物語』そのものだった。
そしてその覚醒した力は、僕に一つの残酷な真実をあまりにも鮮明に見せつけた。

「……まずいな」
瞑想から覚めた僕は、険しい顔で呟いた。
僕の脳内には、旧大陸のリアルタイムの状況が手に取るように映し出されていた。
「どうしたんだ、ユキナガ? 顔色が悪いぜ」
工房から出てきたバルガスが、心配そうに僕の顔を覗き込む。
「見てくれ」
僕は僕が見ているビジョンを、二人の脳内に直接共有した。
二人の目の前に、旧大陸の絶望的な光景が広がる。
各地でダンジョンからモンスターが溢れ出す『スタンピード』が、もはや日常のように頻発していた。ギルドの冒険者たちも王国騎士団もその対処に追われ、疲弊しきっている。
そしてダンジョンから現れるモンスターたちは明らかに異常だった。その体をどす黒い瘴気のようなオーラが覆い、その目は憎悪と狂気に満ちて赤く輝いている。彼らはただの獣ではない。『厄災』の侵食を受け、変質した混沌の手先と化していた。
僕の脳内マップに表示される、世界の『染み』。その侵食速度は僕たちが新大陸にいる間に、加速度的に増していたのだ。
「……なんてことだ。俺たちがのんびり宝探しをしてる間に、故郷はこんなことになっていたのか」
バルガスが悔しそうに拳を握りしめた。
「見て。あの村……」
リリアナが息を呑んだ。
僕たちのビジョンがある辺境の村を映し出す。そこでは黒い瘴気を纏ったオークの群れと、たった三人の冒険者が必死の攻防を繰り広げていた。
元勇者、アレクサンダー。
その傍らで大盾を構えるヴォルフと、聖なる祈りを捧げるセシリア。
彼らは名もなき冒険者として人々を守るために、自分たちの罪を償うために、絶望的な戦いを続けていた。
その姿は、もはや僕たちが知る傲慢で脆い彼らではなかった。確かな覚悟と仲間への信頼をその背に宿した、真の戦士の姿だった。

「……世界の崩壊まで、もう時間がない」
僕は二人に静かに告げた。「このままでは、あと数ヶ月もすれば厄災の侵食は臨界点に達し、旧大陸は修復不可能な混沌に飲み込まれるだろう」
「じゃあ、どうするんだ! このまま新大陸でのんびりしてるわけにはいかねえ!」
バルガスの焦った声が船室に響く。
「ああ。新大陸のさらなる探索も重要だ。だが、今は火急の事態に対処するのが最優先だ」
僕は脳内マップの中心、旧大陸のエーテリオン王国に意識を集中させた。
厄災の侵食は王国中のダンジョンから同時に進行している。だが、その侵食速度が最も速く、そして最も根深い場所が一つだけあった。
王都の北にそびえる、あの塔。
「『天へと至る塔』……」
僕は静かに呟いた。「あの塔こそが、アルケイアが作ったこの世界の管理システムのメインサーバーだ。厄災はまずその中枢を破壊し、世界全体の支配権を奪おうとしている」
「つまり……」
「あの塔の最上階にたどり着き、システムの根幹にアクセスすることができれば、あるいはこの厄災の侵食を根本から食い止めることができるかもしれない。いや、それしか、もう道は残されていない」
僕たちの次の、そしておそらくは最後の目標が定まった。
「帰るぞ」
僕は二人の仲間を見回した。「俺たちの故郷へ。そして、俺たちの最後の戦場へ」
僕の決断に、二人はこれまでで最も力強い、覚悟に満ちた表情で頷いた。

フロンティア号は、その日のうちに針路を百八十度転換させた。
目指すは東。旧大陸、エーテリオン王国。
僕たちの船は新大陸で得た新たな力と、世界の運命を背負うという重い使命を乗せて、荒波を切り裂きながら故郷へと突き進んでいく。
船首に立つ僕の脳裏には、様々な人々の顔が浮かんでいた。
ギルドマスターのダグラス。ランズデール侯爵とアルフレッド様。僕たちの活躍に夢と希望を託してくれた、名もなき冒険者たち。
そして今もどこかで、必死に戦い続けているであろうかつての仲間たち。
僕はもう、彼らを憎んではいない。
ただ、守りたい。
僕が愛した、この不完全でかけがえのない世界を。
僕がこの手で築き上げた、仲間たちとの穏やかな日常を。
そのために俺は戦う。
『ワールド・ルーラー(世界の記述者)』として。
この世界の新しい『地図』を、この手で描き出すために。
僕の瞳の奥で混沌の核と光の種が、静かに、しかし力強く共鳴し、まだ見ぬ決戦の時を告げていた。
僕たち『フロンティア』の最後の伝説が、今、始まろうとしていた。
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