79 / 87
第86話 帰還、決戦の大地へ
しおりを挟む
光の聖域『太陽のピラミッド』を後にした僕たちは、再び黄金色の砂漠を越え、拠点であるフロンティア号へと帰還した。
船室のテーブルの上には、僕たちがこの新大陸で手に入れた二つの至宝が静かに並べられている。『蛇神の神殿』で得た、宇宙の深淵を宿す『混沌の核』。そして『太陽のピラミッド』で託された、生命の輝きそのものである『光の種』。
闇と光。混沌と秩序。
二つの相反する世界の理。
僕は、この二つの力を完全に我が物とするため船室で深い瞑想に入った。僕の精神の中で二つの巨大なエネルギーが再び激しくぶつかり合う。魂が引き裂かれそうな激しい苦痛。だが、僕は耐えた。
壊すのでも、抑えつけるのでもない。
二つの理を僕という器の中で調和させ、一つの新しい理へと昇華させるのだ。
どれほどの時間が経っただろうか。
僕の意識が、無限の闇と無限の光のその境界線を越えた、その瞬間。
僕のスキルは静かに、そして完全に、その最終形態へと覚醒した。
【地図化(マッピング)】改め、『ワールド・ルーラー(世界の記述者)』。
僕の眼には、もはやただの地図は映っていなかった。
そこにあったのは、この星の過去、現在、そして数秒先の未来までもが、一つの巨大なタペストリーのように織りなす壮大な『物語』そのものだった。
そしてその覚醒した力は、僕に一つの残酷な真実をあまりにも鮮明に見せつけた。
「……まずいな」
瞑想から覚めた僕は、険しい顔で呟いた。
僕の脳内には、旧大陸のリアルタイムの状況が手に取るように映し出されていた。
「どうしたんだ、ユキナガ? 顔色が悪いぜ」
工房から出てきたバルガスが、心配そうに僕の顔を覗き込む。
「見てくれ」
僕は僕が見ているビジョンを、二人の脳内に直接共有した。
二人の目の前に、旧大陸の絶望的な光景が広がる。
各地でダンジョンからモンスターが溢れ出す『スタンピード』が、もはや日常のように頻発していた。ギルドの冒険者たちも王国騎士団もその対処に追われ、疲弊しきっている。
そしてダンジョンから現れるモンスターたちは明らかに異常だった。その体をどす黒い瘴気のようなオーラが覆い、その目は憎悪と狂気に満ちて赤く輝いている。彼らはただの獣ではない。『厄災』の侵食を受け、変質した混沌の手先と化していた。
僕の脳内マップに表示される、世界の『染み』。その侵食速度は僕たちが新大陸にいる間に、加速度的に増していたのだ。
「……なんてことだ。俺たちがのんびり宝探しをしてる間に、故郷はこんなことになっていたのか」
バルガスが悔しそうに拳を握りしめた。
「見て。あの村……」
リリアナが息を呑んだ。
僕たちのビジョンがある辺境の村を映し出す。そこでは黒い瘴気を纏ったオークの群れと、たった三人の冒険者が必死の攻防を繰り広げていた。
元勇者、アレクサンダー。
その傍らで大盾を構えるヴォルフと、聖なる祈りを捧げるセシリア。
彼らは名もなき冒険者として人々を守るために、自分たちの罪を償うために、絶望的な戦いを続けていた。
その姿は、もはや僕たちが知る傲慢で脆い彼らではなかった。確かな覚悟と仲間への信頼をその背に宿した、真の戦士の姿だった。
「……世界の崩壊まで、もう時間がない」
僕は二人に静かに告げた。「このままでは、あと数ヶ月もすれば厄災の侵食は臨界点に達し、旧大陸は修復不可能な混沌に飲み込まれるだろう」
「じゃあ、どうするんだ! このまま新大陸でのんびりしてるわけにはいかねえ!」
バルガスの焦った声が船室に響く。
「ああ。新大陸のさらなる探索も重要だ。だが、今は火急の事態に対処するのが最優先だ」
僕は脳内マップの中心、旧大陸のエーテリオン王国に意識を集中させた。
厄災の侵食は王国中のダンジョンから同時に進行している。だが、その侵食速度が最も速く、そして最も根深い場所が一つだけあった。
王都の北にそびえる、あの塔。
「『天へと至る塔』……」
僕は静かに呟いた。「あの塔こそが、アルケイアが作ったこの世界の管理システムのメインサーバーだ。厄災はまずその中枢を破壊し、世界全体の支配権を奪おうとしている」
「つまり……」
「あの塔の最上階にたどり着き、システムの根幹にアクセスすることができれば、あるいはこの厄災の侵食を根本から食い止めることができるかもしれない。いや、それしか、もう道は残されていない」
僕たちの次の、そしておそらくは最後の目標が定まった。
「帰るぞ」
僕は二人の仲間を見回した。「俺たちの故郷へ。そして、俺たちの最後の戦場へ」
僕の決断に、二人はこれまでで最も力強い、覚悟に満ちた表情で頷いた。
フロンティア号は、その日のうちに針路を百八十度転換させた。
目指すは東。旧大陸、エーテリオン王国。
僕たちの船は新大陸で得た新たな力と、世界の運命を背負うという重い使命を乗せて、荒波を切り裂きながら故郷へと突き進んでいく。
船首に立つ僕の脳裏には、様々な人々の顔が浮かんでいた。
ギルドマスターのダグラス。ランズデール侯爵とアルフレッド様。僕たちの活躍に夢と希望を託してくれた、名もなき冒険者たち。
そして今もどこかで、必死に戦い続けているであろうかつての仲間たち。
僕はもう、彼らを憎んではいない。
ただ、守りたい。
僕が愛した、この不完全でかけがえのない世界を。
僕がこの手で築き上げた、仲間たちとの穏やかな日常を。
そのために俺は戦う。
『ワールド・ルーラー(世界の記述者)』として。
この世界の新しい『地図』を、この手で描き出すために。
僕の瞳の奥で混沌の核と光の種が、静かに、しかし力強く共鳴し、まだ見ぬ決戦の時を告げていた。
僕たち『フロンティア』の最後の伝説が、今、始まろうとしていた。
船室のテーブルの上には、僕たちがこの新大陸で手に入れた二つの至宝が静かに並べられている。『蛇神の神殿』で得た、宇宙の深淵を宿す『混沌の核』。そして『太陽のピラミッド』で託された、生命の輝きそのものである『光の種』。
闇と光。混沌と秩序。
二つの相反する世界の理。
僕は、この二つの力を完全に我が物とするため船室で深い瞑想に入った。僕の精神の中で二つの巨大なエネルギーが再び激しくぶつかり合う。魂が引き裂かれそうな激しい苦痛。だが、僕は耐えた。
壊すのでも、抑えつけるのでもない。
二つの理を僕という器の中で調和させ、一つの新しい理へと昇華させるのだ。
どれほどの時間が経っただろうか。
僕の意識が、無限の闇と無限の光のその境界線を越えた、その瞬間。
僕のスキルは静かに、そして完全に、その最終形態へと覚醒した。
【地図化(マッピング)】改め、『ワールド・ルーラー(世界の記述者)』。
僕の眼には、もはやただの地図は映っていなかった。
そこにあったのは、この星の過去、現在、そして数秒先の未来までもが、一つの巨大なタペストリーのように織りなす壮大な『物語』そのものだった。
そしてその覚醒した力は、僕に一つの残酷な真実をあまりにも鮮明に見せつけた。
「……まずいな」
瞑想から覚めた僕は、険しい顔で呟いた。
僕の脳内には、旧大陸のリアルタイムの状況が手に取るように映し出されていた。
「どうしたんだ、ユキナガ? 顔色が悪いぜ」
工房から出てきたバルガスが、心配そうに僕の顔を覗き込む。
「見てくれ」
僕は僕が見ているビジョンを、二人の脳内に直接共有した。
二人の目の前に、旧大陸の絶望的な光景が広がる。
各地でダンジョンからモンスターが溢れ出す『スタンピード』が、もはや日常のように頻発していた。ギルドの冒険者たちも王国騎士団もその対処に追われ、疲弊しきっている。
そしてダンジョンから現れるモンスターたちは明らかに異常だった。その体をどす黒い瘴気のようなオーラが覆い、その目は憎悪と狂気に満ちて赤く輝いている。彼らはただの獣ではない。『厄災』の侵食を受け、変質した混沌の手先と化していた。
僕の脳内マップに表示される、世界の『染み』。その侵食速度は僕たちが新大陸にいる間に、加速度的に増していたのだ。
「……なんてことだ。俺たちがのんびり宝探しをしてる間に、故郷はこんなことになっていたのか」
バルガスが悔しそうに拳を握りしめた。
「見て。あの村……」
リリアナが息を呑んだ。
僕たちのビジョンがある辺境の村を映し出す。そこでは黒い瘴気を纏ったオークの群れと、たった三人の冒険者が必死の攻防を繰り広げていた。
元勇者、アレクサンダー。
その傍らで大盾を構えるヴォルフと、聖なる祈りを捧げるセシリア。
彼らは名もなき冒険者として人々を守るために、自分たちの罪を償うために、絶望的な戦いを続けていた。
その姿は、もはや僕たちが知る傲慢で脆い彼らではなかった。確かな覚悟と仲間への信頼をその背に宿した、真の戦士の姿だった。
「……世界の崩壊まで、もう時間がない」
僕は二人に静かに告げた。「このままでは、あと数ヶ月もすれば厄災の侵食は臨界点に達し、旧大陸は修復不可能な混沌に飲み込まれるだろう」
「じゃあ、どうするんだ! このまま新大陸でのんびりしてるわけにはいかねえ!」
バルガスの焦った声が船室に響く。
「ああ。新大陸のさらなる探索も重要だ。だが、今は火急の事態に対処するのが最優先だ」
僕は脳内マップの中心、旧大陸のエーテリオン王国に意識を集中させた。
厄災の侵食は王国中のダンジョンから同時に進行している。だが、その侵食速度が最も速く、そして最も根深い場所が一つだけあった。
王都の北にそびえる、あの塔。
「『天へと至る塔』……」
僕は静かに呟いた。「あの塔こそが、アルケイアが作ったこの世界の管理システムのメインサーバーだ。厄災はまずその中枢を破壊し、世界全体の支配権を奪おうとしている」
「つまり……」
「あの塔の最上階にたどり着き、システムの根幹にアクセスすることができれば、あるいはこの厄災の侵食を根本から食い止めることができるかもしれない。いや、それしか、もう道は残されていない」
僕たちの次の、そしておそらくは最後の目標が定まった。
「帰るぞ」
僕は二人の仲間を見回した。「俺たちの故郷へ。そして、俺たちの最後の戦場へ」
僕の決断に、二人はこれまでで最も力強い、覚悟に満ちた表情で頷いた。
フロンティア号は、その日のうちに針路を百八十度転換させた。
目指すは東。旧大陸、エーテリオン王国。
僕たちの船は新大陸で得た新たな力と、世界の運命を背負うという重い使命を乗せて、荒波を切り裂きながら故郷へと突き進んでいく。
船首に立つ僕の脳裏には、様々な人々の顔が浮かんでいた。
ギルドマスターのダグラス。ランズデール侯爵とアルフレッド様。僕たちの活躍に夢と希望を託してくれた、名もなき冒険者たち。
そして今もどこかで、必死に戦い続けているであろうかつての仲間たち。
僕はもう、彼らを憎んではいない。
ただ、守りたい。
僕が愛した、この不完全でかけがえのない世界を。
僕がこの手で築き上げた、仲間たちとの穏やかな日常を。
そのために俺は戦う。
『ワールド・ルーラー(世界の記述者)』として。
この世界の新しい『地図』を、この手で描き出すために。
僕の瞳の奥で混沌の核と光の種が、静かに、しかし力強く共鳴し、まだ見ぬ決戦の時を告げていた。
僕たち『フロンティア』の最後の伝説が、今、始まろうとしていた。
23
あなたにおすすめの小説
異世界転移した俺のスキルは【身体魔改造】でした ~腕をドリルに、脚はキャタピラ、脳はスパコン。 追放された機械技師は、神をも超える魔導機兵~
夏見ナイ
ファンタジー
事故で手足を失い絶望した機械技師、相羽カケル。彼が転移したのは、魔法の才能が全ての魔法至上主義の世界だった。
与えられたスキルは【自己魔改造】。自身の体を、素材次第で自由に換装・強化できる唯一無二の能力。失った手足を鉄クズで作り直し、再び立ち上がったカケルだったが、その機械の体は「下賤で禁忌の力」として王国から追放されてしまう。
しかし、辺境の公国で若き女公爵と出会った時、彼の運命は大きく変わる。
「その力、我が国に貸してほしい」
魔法騎士団をドリルアームで粉砕し、城壁をキャタピラで踏破する。これは、役立たずと蔑まれた技師が、やがて神をも超える魔導機兵へと成り上がる物語。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
「お前と居るとつまんねぇ」〜俺を追放したチームが世界最高のチームになった理由(わけ)〜
大好き丸
ファンタジー
異世界「エデンズガーデン」。
広大な大地、広く深い海、突き抜ける空。草木が茂り、様々な生き物が跋扈する剣と魔法の世界。
ダンジョンに巣食う魔物と冒険者たちが日夜戦うこの世界で、ある冒険者チームから1人の男が追放された。
彼の名はレッド=カーマイン。
最強で最弱の男が織り成す冒険活劇が今始まる。
※この作品は「小説になろう、カクヨム」にも掲載しています。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる