ドラゴンに攫われた聖女ですが、このドラゴン、めちゃくちゃ過保護でイケメンです

夏見ナイ

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第七十一話 誓いの指輪

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カイザーからのあまりにも突然で、そしてあまりにも真摯なプロポーズ。
彼の腕の中で、私はただ幸せに打ち震えていた。
薬指にはめられた竜の鱗の指輪が、彼の揺るぎない愛情の証のように温かく輝いている。
「……返事は聞かなくても分かっているな」
カイザーが私の耳元で囁くように言った。その声には確信と、そしてどうしようもないほどの愛おしさが込められていた。
「……ずるいです」
私は彼の胸に顔をうずめたまま、拗ねたように呟いた。
「こんな決戦の前夜に言うなんて」
「今しかないと思った」
彼は私の髪を優しく撫でながら答えた。
「お前に生きて帰る理由を与えておきたかった。……いや、俺自身が生きて帰るための理由が欲しかったというべきか」
そのあまりにも不器用で、そして正直な言葉に、私の胸がきゅんと締め付けられる。
ああ、この人は。
この強くて、賢くて、そして少しだけ臆病な竜を、私は心の底から愛しているのだ。
「……はい」
私は彼の腕の中から顔を上げた。そして涙で濡れた瞳のまま、彼を真っ直ぐに見つめ返した。
「あなたの番になります。全てが終わったら……いいえ、この戦いが終わらなくても。私の魂はもうずっと前からあなたのものです」
私の精一杯の愛の告白。
それを聞いて、カイザーの整いすぎた顔がくしゃりと幸せそうに綻んだ。
彼は何も言わずに、ただ私の唇にそっと自分の唇を重ね合わせた。
今度の口づけは、前回のような触れるだけのものではなかった。
深く、そしてお互いの魂を確かめ合うような情熱的な口づけ。
時間も場所も、そしてすぐそこに二人の友人がいることさえも忘れて、私たちはただ求め合うように互いを貪った。

「……随分と長いな」
少し離れた場所で、レオンが呆れたように腕を組みながら呟いた。
その隣で、ゼノヴィアもやれやれといった様子でため息をつく。
「まあ、無理もないわ。片や数千年の初恋。片や十八年の初恋。溜まりに溜まったものが爆発しているのでしょう」
そのあまりにも的確な分析に、レオンは苦笑いを浮かべた。
「……少し妬けるな」
ぽつりとそんな言葉が彼の口から漏れた。
ゼノヴィアは驚いたように彼の方を見つめる。
「あら? あなた、まだ彼女のことを……」
「いや、違う」
レオンは慌てて首を振った。
「そういう意味ではない。ただ……羨ましいのさ。あそこまで誰かを真っ直ぐに愛せるということが」
彼は星空を見上げた。
その青い瞳には、どこか遠い過去を懐かしむような色が浮かんでいた。
「俺にも昔いたんだ。守りたいと心から思った人が」
「……」
「だが俺は守れなかった。勇者という宿命が俺から彼女を奪っていった。……いや、違うな。俺が勇者であることを言い訳にして、彼女から逃げたんだ」
その静かな告白。
ゼノヴィアは何も言わずに、ただ彼の横顔を見つめていた。
「だから彼らが羨ましい。どんな困難があろうと互いを信じ、そして共に戦おうとしている。……俺にはできなかったことだ」
その声には深い深い後悔が滲んでいた。
ゼノヴィアはふっと息を吐いた。
そして普段の彼女からは想像もつかないような優しい声で言った。
「……あなたもまだやり直せるのではなくて?」
「え……?」
レオンが驚いたように彼女を見つめ返す。
「その守れなかったという人、もうこの世にはいないの?」
「いや、生きている。……だが今更どの面を下げて会えと……」
「馬鹿ね」
ゼノヴィアはぴしゃりと言い放った。
「女というものはね、いつまでも待っているものなのよ。たとえ口では罵倒したとしてもね。……この戦いが終わったら会いに行ってみることね。勇者の仮面を脱ぎ捨てて。ただの一人の男として」
そのあまりにも的確で、そして温かい助言。
レオンは呆然と彼女の美しい顔を見つめていた。
氷の魔女と恐れられる彼女。
その冷たい仮面の下に、こんなにも深い優しさが隠されていたとは。
「……ありがとう」
彼は心からの感謝を込めて言った。
ゼノヴィアはふいっと顔を背けた。
その白い頬が月光の下でほんのりと赤く染まっているのを、レオンは見逃さなかった。
二人の間にもまた、新しい絆の種が静かに芽吹こうとしていた。

やがて長い長い口づけが終わる。
私とカイザーは名残惜しそうに唇を離した。
その瞳は、お互いに熱っぽく潤んでいた。
「……さて」
カイザーはごほんと一つ咳払いをして、気まずさを誤魔化すように言った。
「そろそろ最後の準備をするとしよう」
私たちの決戦前夜は終わった。
それぞれの想いを胸に。
それぞれの誓いを胸に。
私たちは明日、戦場へと赴く。
私の薬指で誓いの指輪が静かに、しかし力強く輝いていた。
それはどんな暗闇の中にあっても決して失われることのない、希望の光そのものだった。
愛の誓い。
それは私たちを何よりも強くする最強の魔法。
私はその魔法を胸に抱いて、決戦の朝を待った。
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