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第18話 中間テストと勉強会
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雨の匂いと共に自覚した恋心は、厄介な副作用を俺にもたらしていた。
月宮雫を、まともに見られない。
相合傘の翌日、教室で彼女の姿を視界に入れただけで、俺の心臓は持ち場を放棄して喉元まで駆け上がってくる。肩が触れ合った感触、袖を掴まれた時の温もり、雨に濡れた横顔。それらがフラッシュバックして、顔に熱が集まるのが分かった。
俺の挙動不審は、すぐに彼女にも伝わってしまった。
休み時間に目が合っても、俺が慌てて逸らしてしまう。授業中の秘密の会話も、どこかぎこちない。
昼休みの図書室。いつもの閲覧席で、雫は心配そうに俺を見つめ、ノートに文字を書いた。
『航くん、体調悪い?』
その気遣いが、今の俺には嬉しくもあり、同時に胸を締め付けた。
違うんだ。体調が悪いんじゃない。君を意識しすぎて、どうにかなってしまいそうなだけなんだ。
そんなこと、言えるはずもない。俺は曖celebiouslyに笑って、手話で『大丈夫。少し寝不足なだけ』と返した。彼女はまだ納得いかない顔をしていたが、それ以上は追及してこなかった。
そんな気まずい空気が俺たちの間に漂い始めた頃、ホームルームで中間テスト一週間前が告げられた。
途端に、クラス全体がそわそわとしたテストムードに包まれる。健太は「うげー、まじかよ。赤点だけは避けねえと」と頭を抱えていた。
その日の昼休み。
図書室で、俺は思い切って切り出してみることにした。このままでは、彼女に余計な心配をかけてしまうだけだ。何か、自然に隣にいられる口実が必要だった。
『テスト勉強、どうする?』
俺がノートにそう書くと、雫は待ってましたとばかりに、しかし表情は曇らせて返事を書いた。
『数学が……すごく苦手』
ノートには、泣き顔の顔文字が添えられていた。そのしょんぼりとした様子に、俺の心の中で何かが決まった。
チャンスだ。
これは、神様がくれたチャンスなんだ。
俺は自分の心臓に「落ち着け」と命令しながら、ペンを走らせた。
『よかったら、放課後、一緒に勉強しない? 俺、数学は得意だから、教えるよ』
書いた文字が、少しだけ震えていたかもしれない。
恋心を自覚してから初めての、俺からの積極的な誘い。断られたらどうしよう。迷惑がられたら?
数秒が、永遠のように感じられた。
俺のメッセージを読んだ雫は、数回、ぱちぱちと瞬きをした。
そして、次の瞬間。
その表情が、まるで暗闇に光が差したかのように、ぱあっと明るく輝いた。
彼女は、俺が今まで見た中で一番力強く、ぶんぶんと首を縦に振った。その喜びように、俺の不安は一瞬で吹き飛んでしまった。
その日の放課後。
俺たちは、いつもの閲覧席ではなく、勉強用の大きな長机に向かい合っていた。いや、正確には、隣同士に座っていた。
「隣の方が、教えやすいから」
俺がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にしながらも、こくりと頷いてくれた。
肩が触れ合いそうな距離。俺の心臓は、もう限界突破寸前だった。
静かな図書室に、ペンを走らせるカリカリという音だけが響く。
俺は彼女のノートを覗き込み、彼女が躓いている問題の解き方を、一つ一つ丁寧に説明していく。
「ここの公式は、こうやって使うんだ。まず、この数字をここに代入して……」
俺が声を潜めて説明すると、彼女は真剣な眼差しで俺の指先とノートを交互に見つめ、こくこくと頷く。
ふわり、と彼女の髪からシャンプーの甘い香りがして、俺の思考回路がショートしそうになった。集中しろ、俺。今は先生役なんだぞ。
雫は、驚くほど飲み込みが早かった。
俺が一度教えると、すぐに理解して、似たような問題を自分の力ですらすらと解いていく。
そして、一問解き終えるごとに、嬉しそうに、そして誇らしげに、俺の方を見てふわりと微笑むのだ。
その笑顔は、どんなご褒美よりも俺の心を満たした。
ああ、ダメだ。可愛いすぎる。
俺は彼女の笑顔から視線を逸らし、意味もなく自分の参考書をめくって、平常心を保つのに必死だった。
静かな空間。
差し込む西日。
隣で真剣に問題に取り組む、好きな女の子。
ペンを走らせる音と、時々交わされる小さな声や、指先だけの会話。
それは、世界で一番静かで、贅沢な時間だった。
ただの勉強会。それだけのはずなのに、俺にとっては、どんなデートよりも特別で、かけがえのない時間に感じられた。
やがて、閉館時間を告げるチャイムが鳴り響く。
あっという間の時間だった。
俺たちが荷物をまとめていると、雫がノートの隅に、小さな文字で何かを書き込んだ。そして、それを恥ずかしそうに俺に見せてくる。
『ありがとう。すごく分かりやすかったです』
その言葉だけで、今日の疲れが全て吹き飛んでいく。
彼女はペンを置くと、少しだけ躊躇うように指を動かした。
『また明日も……お願い、できますか?』
その問いかけるような眼差しに、俺の心臓は鷲掴みにされた。
断る理由なんて、どこにもない。
俺は、最高の笑顔で頷き返した。
「もちろん。テストが終わるまで、毎日付き合うよ」
俺の言葉に、彼女は心の底から安堵したように、そして嬉しそうに、ふわりと微笑んだ。
テスト期間中、この特別な放課後が毎日続く。
その事実が、どうしようもなく嬉しくて。
恋を自覚しただけで、世界はこんなにも輝いて見えるのか。
退屈だったはずのテスト勉強が、今は待ち遠しくてたまらない、二人だけの秘密のデートになっていた。
月宮雫を、まともに見られない。
相合傘の翌日、教室で彼女の姿を視界に入れただけで、俺の心臓は持ち場を放棄して喉元まで駆け上がってくる。肩が触れ合った感触、袖を掴まれた時の温もり、雨に濡れた横顔。それらがフラッシュバックして、顔に熱が集まるのが分かった。
俺の挙動不審は、すぐに彼女にも伝わってしまった。
休み時間に目が合っても、俺が慌てて逸らしてしまう。授業中の秘密の会話も、どこかぎこちない。
昼休みの図書室。いつもの閲覧席で、雫は心配そうに俺を見つめ、ノートに文字を書いた。
『航くん、体調悪い?』
その気遣いが、今の俺には嬉しくもあり、同時に胸を締め付けた。
違うんだ。体調が悪いんじゃない。君を意識しすぎて、どうにかなってしまいそうなだけなんだ。
そんなこと、言えるはずもない。俺は曖celebiouslyに笑って、手話で『大丈夫。少し寝不足なだけ』と返した。彼女はまだ納得いかない顔をしていたが、それ以上は追及してこなかった。
そんな気まずい空気が俺たちの間に漂い始めた頃、ホームルームで中間テスト一週間前が告げられた。
途端に、クラス全体がそわそわとしたテストムードに包まれる。健太は「うげー、まじかよ。赤点だけは避けねえと」と頭を抱えていた。
その日の昼休み。
図書室で、俺は思い切って切り出してみることにした。このままでは、彼女に余計な心配をかけてしまうだけだ。何か、自然に隣にいられる口実が必要だった。
『テスト勉強、どうする?』
俺がノートにそう書くと、雫は待ってましたとばかりに、しかし表情は曇らせて返事を書いた。
『数学が……すごく苦手』
ノートには、泣き顔の顔文字が添えられていた。そのしょんぼりとした様子に、俺の心の中で何かが決まった。
チャンスだ。
これは、神様がくれたチャンスなんだ。
俺は自分の心臓に「落ち着け」と命令しながら、ペンを走らせた。
『よかったら、放課後、一緒に勉強しない? 俺、数学は得意だから、教えるよ』
書いた文字が、少しだけ震えていたかもしれない。
恋心を自覚してから初めての、俺からの積極的な誘い。断られたらどうしよう。迷惑がられたら?
数秒が、永遠のように感じられた。
俺のメッセージを読んだ雫は、数回、ぱちぱちと瞬きをした。
そして、次の瞬間。
その表情が、まるで暗闇に光が差したかのように、ぱあっと明るく輝いた。
彼女は、俺が今まで見た中で一番力強く、ぶんぶんと首を縦に振った。その喜びように、俺の不安は一瞬で吹き飛んでしまった。
その日の放課後。
俺たちは、いつもの閲覧席ではなく、勉強用の大きな長机に向かい合っていた。いや、正確には、隣同士に座っていた。
「隣の方が、教えやすいから」
俺がそう言うと、彼女は顔を真っ赤にしながらも、こくりと頷いてくれた。
肩が触れ合いそうな距離。俺の心臓は、もう限界突破寸前だった。
静かな図書室に、ペンを走らせるカリカリという音だけが響く。
俺は彼女のノートを覗き込み、彼女が躓いている問題の解き方を、一つ一つ丁寧に説明していく。
「ここの公式は、こうやって使うんだ。まず、この数字をここに代入して……」
俺が声を潜めて説明すると、彼女は真剣な眼差しで俺の指先とノートを交互に見つめ、こくこくと頷く。
ふわり、と彼女の髪からシャンプーの甘い香りがして、俺の思考回路がショートしそうになった。集中しろ、俺。今は先生役なんだぞ。
雫は、驚くほど飲み込みが早かった。
俺が一度教えると、すぐに理解して、似たような問題を自分の力ですらすらと解いていく。
そして、一問解き終えるごとに、嬉しそうに、そして誇らしげに、俺の方を見てふわりと微笑むのだ。
その笑顔は、どんなご褒美よりも俺の心を満たした。
ああ、ダメだ。可愛いすぎる。
俺は彼女の笑顔から視線を逸らし、意味もなく自分の参考書をめくって、平常心を保つのに必死だった。
静かな空間。
差し込む西日。
隣で真剣に問題に取り組む、好きな女の子。
ペンを走らせる音と、時々交わされる小さな声や、指先だけの会話。
それは、世界で一番静かで、贅沢な時間だった。
ただの勉強会。それだけのはずなのに、俺にとっては、どんなデートよりも特別で、かけがえのない時間に感じられた。
やがて、閉館時間を告げるチャイムが鳴り響く。
あっという間の時間だった。
俺たちが荷物をまとめていると、雫がノートの隅に、小さな文字で何かを書き込んだ。そして、それを恥ずかしそうに俺に見せてくる。
『ありがとう。すごく分かりやすかったです』
その言葉だけで、今日の疲れが全て吹き飛んでいく。
彼女はペンを置くと、少しだけ躊躇うように指を動かした。
『また明日も……お願い、できますか?』
その問いかけるような眼差しに、俺の心臓は鷲掴みにされた。
断る理由なんて、どこにもない。
俺は、最高の笑顔で頷き返した。
「もちろん。テストが終わるまで、毎日付き合うよ」
俺の言葉に、彼女は心の底から安堵したように、そして嬉しそうに、ふわりと微笑んだ。
テスト期間中、この特別な放課後が毎日続く。
その事実が、どうしようもなく嬉しくて。
恋を自覚しただけで、世界はこんなにも輝いて見えるのか。
退屈だったはずのテスト勉強が、今は待ち遠しくてたまらない、二人だけの秘密のデートになっていた。
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