外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第40話:いざ、王宮へ

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アイゼンベルク公爵家の壮麗な馬車は、石畳の道を滑るように進んでいた。
車内は、外の喧騒が嘘のように静かだった。柔らかなビロード張りの座席に、私とアシュレイ様は並んで腰掛けている。彼の肩が、私の肩に触れそうなほど近い。その距離に、私の心臓は落ち着きなく脈打っていた。
「……緊張しているか、リナリア」
窓の外を流れる景色を眺めていたアシュレイ様が、ふと、優しい声で私に問いかけた。
「はい。少しだけ」
私は、素直に頷いた。どれだけ覚悟を決め、自信を持とうとしても、これから起こるであろう出来事を思うと、どうしても指先が冷たくなってしまう。
すると、アシュレイ様は、何も言わずに、私の冷たい手をそっと握ってくれた。彼の大きな手のひらは、いつもと変わらず温かくて、私の不安をゆっくりと溶かしてくれるようだった。
「大丈夫だ」
彼は、まるで魔法の呪文のように、その言葉を繰り返す。
「君は、一人ではない。私が、必ず隣にいる。どんな時も、君から目を離しはしない」
その紫の瞳が、絶対的な信頼と愛情を込めて、私を見つめている。
「君はただ、胸を張っていればいい。君が成し遂げた奇跡は、何よりも雄弁な真実だ。誰も、それを否定することなどできはしない」
「……はい」
私は、彼の温かい手を握り返した。その確かな感触が、私の心に、最後の勇気を灯してくれる。
そうだ。私は、一人ではない。
この人がいれば、きっと大丈夫。
馬車の窓から、王宮の壮麗な姿が見えてきた。白亜の城壁と、天を突くようにそびえ立ついくつもの尖塔。それは、この国の権威と歴史の象C徴であり、これから私が挑むべき舞台そのものだった。
馬車が、王宮の正門をゆっくりと通過する。衛兵たちが、アイゼンベルク公爵家の紋章を見て、一斉に敬礼するのが見えた。
やがて、馬車は謁見の間へと続く、大理石の車寄せに静かに停止した。
御者が扉を開けると、そこにはすでに、王宮の侍従長が出迎えのために控えていた。
アシュレイ様は先に馬車を降りると、振り返って、私に手を差し伸べた。その仕草は、あまりにも自然で、そして完璧に優雅だった。
私は、その手を取った。
彼に導かれるまま、馬車のステップをゆっくりと降りる。純白のドレスの裾が、大理石の上にふわりと広がった。
その瞬間、周囲の空気が、一瞬だけ止まったような気がした。
出迎えた侍従長も、周りに控えていた衛兵たちも、皆、息をのんで私を見つめていた。彼らの目には、驚愕と、そして信じられないものを見るかのような、畏敬の色が浮かんでいる。
「……アイゼンベル-ク公爵閣下、並びにリナリア様。ようこそお越しくださいました」
侍従長が、我に返ったように、慌てて深くお辞儀をした。その声は、わずかに上ずっていた。
アシュレイ様は、そんな彼らの反応など気にも留めず、私の腰にそっと手を回した。
「陛下は、すでにお待ちかねかな」
「は、はい。謁見の間にて、お待ちでございます。こちらへ」
侍従長に先導され、私たちは、王宮の奥深くへと続く、長い長い廊下を歩き始めた。
私の胸には、二つの感情が同居していた。
これから起こるであろう出来事への、どうしようもない不安。
そして、この頼もしい守護者が隣にいてくれるという、絶対的な安心感。
二つの感情が、私の心の中で、まるでメリーゴーランドのように、くるくると回り続けている。
磨き上げられた大理石の床に、私たちの足音が静かに響く。壁に飾られた歴代の国王の肖像画が、まるで私たちの運命を見定めるかのように、静かに私たちを見下ろしていた。
アシュレイ様は、私の歩く速度に合わせて、ゆっくりと、しかし確かな足取りで進んでいく。彼の腰に回された手は、力強く、そして温かい。
その温もりが、私に語りかけているようだった。
『何も、恐れることはない』と。
やがて、私たちの目の前に、ひときわ大きく、そして豪華な彫刻が施された、巨大な扉が現れた。
謁見の間へと続く、最後の扉。
侍従長が、扉の前に立つ二人の近衛兵に、厳かに合図を送る。
ギイ、という重々しい音を立てて、扉がゆっくりと、内側へと開かれていく。
その向こうには、眩いばかりの光と、そして、私たちの運命を左右する人々が、待っている。
アシュレイ様は、私の耳元で、囁いた。
「さあ、行こうか。リナリア」
「はい、アシュレイ様」
私は、不安と安心感を胸の奥にしまい込み、ただ、前だけを見据えた。
これから始まるのは、私の人生を懸けた、一度きりの舞台。
私は、彼にエスコートされ、その輝かしくも険しい舞台へと、静かに、しかし確かな一歩を、踏み出した。
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