外れスキル【修復】で追放された私、氷の公爵様に「君こそが運命だ」と溺愛されてます~その力、壊れた聖剣も呪われた心も癒せるチートでした~

夏見ナイ

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第43話:世界樹の若木

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国王陛下の厳かな号令の下、謁見の間にいた全ての者たちが、ぞろぞろと中庭へと移動を始めた。
その行列は、さながら歴史的な奇跡を目撃しようとする巡礼者のようだった。先頭を歩くのは、近衛騎士に護衛された国王陛下。そのすぐ後ろに、聖剣エクシードを携えたアシュレイ様と、彼にエスコートされる私が続く。その後ろからは、好奇と期待、そして疑念の入り混じった視線を向ける貴族たちが、途切れることなくついてきていた。
「世界樹の若木、か。……陛下も、なかなか意地の悪いことをなさる」
私の隣を歩きながら、アシュレイ様が誰にも聞こえないように、低い声で囁いた。その声には、呆れと、そして私への絶対的な信頼が滲んでいる。
「大丈夫です、アシュレイ様」
私も、囁き声で答えた。
「公爵邸の花壇で、一度経験しておりますから」
「ああ。だからこそ、私は少しも心配していない。むしろ、君がこれから起こす奇跡を、特等席で見られるのが楽しみなくらいだ」
彼はそう言って、悪戯っぽく微笑んだ。その軽やかなやりとりに、私の心はすっかり落ち着きを取り戻していた。

やがて私たちは、王宮の中庭に辿り着いた。
そこは、王宮の中でも最も美しいと謳われる場所だった。手入れの行き届いた芝生、色とりどりの花が咲き誇る花壇、そして清らかな水を湛えた池。
しかし、その美しい庭園の中央に、その場違いな存在はあった。
一本の、枯れ木。
高さは、大人の背丈ほどしかない。だが、その幹は古木のようにねじれ、かつては神々しいまでの生命力を宿していたことを窺わせる。しかし、今やその枝には一枚の葉もなく、樹皮は乾ききってひび割れ、まるで何百年も前に命を終えた化石のように、静かに佇んでいるだけだった。
あれが、世界樹の若木。
エルフ族の国から、友好の証として百年前に贈られた、国の秘宝。かつては、季節を問わず銀色に輝く葉を茂らせ、その葉に触れた者には、癒やしと長寿の加護が与えられたという。
しかし、数十年前に原因不明のまま枯れ始め、今ではこの無残な姿を晒している。
貴族たちが、遠巻きにその枯れ木を見つめ、囁き合っている。
「……やはり、どう見ても完全に枯れている」
「これを蘇らせるなど、神でもない限り不可能だ」
「あの娘も、さすがにこれを見て青ざめているのではないか?」
その声は、私の耳にも届いていた。だが、私の心は少しも揺らがなかった。
私は知っている。
見た目がどうであれ、その奥底に、たとえわずかでも生命の記憶が残っているのなら、私の力は届くのだと。
国王が、枯れ木の前に用意された椅子に腰を下ろした。そして、私に向き直り、厳かに告げた。
「リナリア・エルフィールドよ。準備はよいか」
「はい、陛下」
私は、アシュレイ様に向かって一度だけ頷いた。彼の瞳が、『信じている』と、強く語りかけてくれている。
私は、彼から一歩前に進み出た。
全ての視線が、私一人に集中する。貴族たちの好奇、国王の期待、そして、姉と第二王子の、悪意に満ちた視線。
その全てを、私は背中で受け止めた。
私は、ゆっくりと世界樹の若木の前に歩み寄った。そして、しゃがみこむと、その乾ききった、ひび割れた幹に、そっと両手を触れさせた。
ひんやりとした、生命の気配が全く感じられない感触。
公爵邸の花壇の土よりも、さらに深く、その命は眠りについているようだった。
だが、絶望的ではなかった。
その幹の、最も深い芯の部分に、私は感じた。
まるで、消えかけの蝋燭の灯火のように、本当に、本当に微かな、温かい生命の残滓を。
まだ、間に合う。
私は目を閉じ、意識を集中させた。
スキル【修-復】。
お願い、目覚めて。
百年の眠りから、あなたの本当の姿を取り戻して。
私は、公爵邸の花壇を蘇らせた時と同じように、この若木が持つ本来の『完璧な状態』を、強く、強くイメージした。
銀色に輝く葉を茂らせ、生命力に満ち溢れ、周囲に癒やしのオーラを放っている、美しい姿を。
私の内なる力が、黄金色の輝きとなって、両手から溢れ出す。その光は、まるで乾いた大地に染み込む水のように、枯れ木の幹の中へと、ゆっくりと、しかし確実に浸透していった。
私の全身から、力が注ぎ込まれていく。
公爵邸の花壇の時よりも、さらに多くの力が必要だった。それだけ、この若木の命の灯火は、消えかけていたのだ。
額に、汗が滲む。
だが、私は決して手を離さなかった。
私の背後で、貴族たちが息をのむ気配がする。
何かが、起ころうとしている。その予感に、中庭の空気が張り詰めていく。
私は、ただひたすらに、祈り続けた。
蘇って。
あなた自身の、美しい姿に。
その、瞬間だった。
私の手が触れている幹から、ぽっ、と。
小さな、本当に小さな、緑色の芽が、一つ、顔を出した。
それは、これから始まる、奇跡の、ほんの始まりに過ぎなかった。
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