俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ

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第83話:クリエイターとしての航海

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「追憶のセレナーデ」は社会現象となった。
映画は公開後、瞬く間に興行収入記録を塗り替え、国内外のあらゆる映画賞を総なめにした。蓮の作ったサウンドトラックは映画音楽としては異例のミリオンセラーを記録し、瑠奈が歌う主題歌はその年のレコード大賞を満場一致で受賞した。
藤堂蓮、朝霧陽葵、星宮瑠奈。
三人の名前はそれぞれの業界で、もはや誰もが知る不動の存在となっていた。

嵐は完全に過ぎ去り、その跡には輝かしい栄光だけが残された。
だが蓮はその成功に決して驕ることはなかった。
彼はクリエイターとしての新たな航海へと既に舵を切っていたのだ。

スターライト・エージェンシーの一室。
蓮はプロデューサーの橘と向かい合って座っていた。
「……それで、話というのは?」

「君に新しい仕事を任せたい」
橘は煙草の煙と共に言った。
「スターライト・エージェンシー内に新しい音楽レーベルを立ち上げる。ren君、君をそのレーベルの総合プロデューサーとして迎え入れたい」
それは破格の、そして蓮の才能を最大限に評価したオファーだった。

「俺がプロデューサー……?」

「そうだ」
橘は頷いた。
「君には才能を見出し、磨き上げ、世に送り出す天賦の才がある。Fallen Idolの成功が何よりの証拠だ。これからは君自身の創作活動と並行して後進の育成にも力を貸してほしい。君が面白いと思う才能を君自身の裁量で自由にプロデュースしてくれて構わない」

それは蓮にとって、あまりにも魅力的でそして責任の重い提案だった。
自分の音楽を作るだけではない。
誰かの夢を、人生を背負うということ。
自分にそんな資格があるのだろうか。

蓮の脳裏に陽葵の顔が浮かんだ。
彼女の才能を誰よりも信じ、その輝きを間近で見てきた。
あの喜びを、感動をもう一度別の誰かと分かち合えるのなら。

「……やらせてください」
蓮の答えに迷いはなかった。
「俺のやり方でよければ」

「望むところだ」
橘は満足げに笑った。
こうして蓮の名を冠した新しいレーベル『ren music』が誕生した。

蓮のプロデューサーとしての初仕事はオーディションで自ら見つけ出した一人の無名の少女だった。
彼女はまだ高校生で、ギター一本で自分の部屋から弾き語りの動画を配信しているだけの、どこにでもいるような女の子。
だがその声には聴く者の心を裸にするような不思議な力があった。
蓮は彼女の才能に惚れ込んだ。

「君の歌は素晴らしい。だがまだ原石だ」
レコーディングスタジオで、蓮は厳しくしかし愛情のこもった目で少女を見つめた。
「君が本当に伝えたいことは何だ? 君の歌で世界に何を叫びたい?」

それはかつて陽葵を指導した時とはまた違うアプローチだった。
技術ではない。
アーティストとしての魂の在り方を問う。
少女は戸惑い、悩み、そして泣いた。
だが蓮は決して答えを与えなかった。
彼女が自らの力で答えを見つけ出すのを辛抱強く待ち続けた。

それは蓮にとって自分自身と向き合う作業でもあった。
自分は何のために音楽を作るのか。
自分が本当に伝えたいものは何なのか。
プロデューサーとして誰かの才能と向き合うことは、クリエイターとしての自分自身の核をより深く見つめ直すきっかけとなったのだ。

数ヶ月後。
蓮がプロデュースしたその少女のデビューシングルは、チャートの片隅で静かに、しかし確かな輝きを放ち始めた。
それは派手なヒットではなかった。
だが音楽を本当に愛する人々の間で『本物だ』と熱狂的な支持を集めていった。
蓮のクリエイターとしての新たな航海は、順風満帆にその帆を広げ始めたのだった。

そしてその成功を誰よりも喜んでくれたのは陽葵だった。
「先輩! あの曲、聴きました! すごく、すごく素敵です! あの子の声の魅力が最大限に引き出されてる……! やっぱり先輩はすごいです!」
電話の向こうで陽葵が自分のことのように興奮している。

「お前こそ最近すごいじゃないか。主演アニメ、第二期の制作が決まったんだってな」
「はい! 先輩のおげです!」
「俺は何もしてない。お前の実力だよ」

互いの成功を喜び合える。
高め合える。
そんな最高の関係。

だが互いにそれぞれの世界で責任が重くなるにつれて。
二人がゆっくりと会える時間は確実に減っていった。
多忙なスケジュールのほんの僅かな合間を縫って会うのがやっとだった。
その僅かなすれ違いが二人の未来にどんな影を落とすのか。
幸せの絶頂にいた彼らはまだ気づくことができなかった。
ただ、それぞれの航海が輝かしいものであることだけを信じて。
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