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蓮は、初めて瑠奈の目を真っ直ぐ見つめて言った。
しおりを挟む蓮は少しだけ照れくさそうに笑った。
「今の俺があるのは、君がいたからだ」
そのあまりにもストレートで温かい言葉。
瑠奈の瞳にじわりと涙が滲んだ。
自分がずっと、ずっと欲しかった言葉。
それは恋人としての愛の言葉ではなく、一人の人間として自分の存在を認めてくれる感謝の言葉だったのかもしれない。
「……ばか」
瑠奈は涙声でそう呟いた。
「そんなこと、今さら言うなんて。……ずるいわよ」
彼女はシャンパングラスで顔を隠すようにして俯いた。
蓮はそんな彼女の姿を、優しい穏やかな目で見つめていた。
長い、長いトンネルだった。
嫉妬と後悔とすれ違いの、暗くて寒いトンネル。
だが、そのトンネルを二人はようやく抜け出すことができたのだ。
「……陽葵ちゃんのこと、幸せにしてあげなさいよ」
涙を拭った瑠奈が少しだけ意地悪そうな目で蓮を睨んだ。
「あんなにいい子、他にいないんだから。もし泣かせたりしたら……私が承知しないわよ」
それは恋敵としてではなく、親友としての温かい忠告だった。
「……分かってる」
蓮は力強く頷いた。
その時、テラスのドアがそっと開いた。
ひょっこりと顔を出したのは陽葵だった。
「あ……。お二人とも、ここにいたんですね。お邪魔でしたか?」
彼女は少しだけ気まずそうに尋ねる。
「ううん、全然」
瑠奈はいつもの悪戯っぽい笑顔に戻って、陽葵に手招きをした。
「ちょうど、この朴念仁にあなたの素晴らしさを説教してあげてたところよ」
「ええっ!?」
顔を真っ赤にする陽葵。
「もう、瑠奈さん!」
三人は顔を見合わせて、声を上げて笑った。
その笑い声は冬の澄み切った夜空に高く、高く響き渡った。
過去からの解放。
それは劇的な何かではなく、こんな何気ない穏やかな会話の中で静かに訪れるものなのかもしれない。
長かった三人の歪な物語は、今、この瞬間に完全に清算された。
そして、ここから始まるのは互いを深くリスペ-クトし合う、三人の対等なクリエイターとしての新しい物語。
蓮は隣で笑う陽葵と瑠奈の、二人の美しい横顔を心に焼き付けた。
この奇跡のような瞬間を、自分は一生忘れないだろうと。
そして、この二人と共にこれからも最高の音楽を、物語を作っていこうと。
心の底からそう誓った。
夜空の星が、三人の新たな門出を祝福するようにひときわ強く輝いていた。
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