俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた

夏見ナイ

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第99話:未来のためのプロポーズ

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二人だけのアンコールが終わった後、丘の上には心地よい静寂が戻ってきた。
藤堂蓮は隣に立つ朝霧陽葵の横顔をそっと見つめた。月明かりに照らされたその頬はほんのりと赤く染まっている。その瞳は幸せそうに潤んでいた。

可愛い。
心の底からそう思った。
そして、どうしようもないほどの愛しさが胸いっぱいに広がっていく。
もう迷いはなかった。
失うことへの恐怖も過去のトラウマも、今の蓮の前では何の意味も持たなかった。
このかけがえのない光を一生この手で守り抜く。
その覚悟はもう揺るがない。

「……陽葵」
蓮は静かに彼女の名前を呼んだ。
そのいつもとは違う真剣な声の響きに、陽葵は少しだけ驚いたように蓮の顔を見上げた。
「はい……?」

蓮は何も言わずに彼女の前に一歩踏み出した。
そして、その潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめ返す。
その瞳には今まで見たこともないほど深く、そして誠実な光が宿っていた。
陽葵の心臓が大きくドクンと鳴った。
これから何が起ころうとしているのか。
彼女は予感していた。

蓮はゆっくりとポケットに手を入れた。
取り出したのは、あの夜渡せなかった小さなベルベットの箱。
彼はその箱を陽葵の目の前で静かに開いた。

中にはプラチナのリングが夜空の星を映して、キラキラと輝いている。
あの夜、陽葵が自分の指にはめられた指輪。
だが、こうして改めて蓮の手の中から差し出されると、その輝きは全く違う特別な意味を持っているように見えた。

「……遠回り、しちまったな」
蓮が少しだけ照れくさそうに言った。
「たくさん傷つけた。たくさん泣かせた。……本当に、ごめん」

「……ううん」
陽葵は首を横に振った。
涙がまた溢れてきそうになるのを必死で堪える。

「でも、俺はもう逃げない」
蓮の声は震えていなかった。
そこには一人の男としての揺るぎない決意があった。
「お前と、陽葵と、一緒に未来を歩いていきたい。嬉しいことも悲しいことも、全部二人で分かち合っていきたいんだ」

彼はそっと陽葵の左手を取った。
その手は少しだけ冷たく、そして震えていた。
蓮は、その手を温めるように優しく包み込む。

そして彼は言った。
世界で一番シンプルで、
世界で一番美しい、愛の言葉を。

「俺の人生という物語のヒロインは、陽葵、君だけだ。……結婚、してください」

静寂。
夜風が二人の間をそっと吹き抜けていった。
眼下に広がる始まりの場所が、二人の運命の瞬間を静かに見守っている。

陽葵の瞳から堪えていた涙が、大粒の雫となってぽろぽろとこぼれ落ちた。
だが、その顔は泣き顔ではなかった。
今まで蓮が見たどの笑顔よりも、
アカデミー賞のステージで輝いていたどんな笑顔よりも、
美しく、そして幸せに満ち溢れた最高の笑顔だった。

「…………はいっ!」

か細い、しかし世界中の誰よりもはっきりと。
彼女はそう答えた。
その一言に彼女の全ての想いが込められていた。

蓮の顔が安堵と喜びにくしゃりと歪んだ。
彼は震える手で箱の中から指輪を取り出すと、改めて陽葵の左手の薬指にそれをそっとはめた。
永遠の誓いの証。
それは世界で一番小さく、そして一番大きな約束。

蓮は指輪がはめられたその華奢な指先にそっと唇を寄せた。
そして顔を上げると、涙で濡れた笑顔の愛しい恋人を強く、強く抱きしめた。

もう言葉はいらなかった。
ただ、互いの温もりと鼓動だけがそこにあった。
長い長い物語は、今、この瞬間に最高のハッピーエンドを迎えたのだ。

そして、ここから新しい物語が始まる。
二人で共に奏でていく、未来という名のどこまでも続く美しいメディが。
夜空の星たちがそんな二人を祝福するように、ひときわ強く、そして優しく輝いていた。
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