隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第9話 連絡先交換(強制)とスタンプの嵐

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図書室での特訓を終え、俺と雪城さんは並んで家路についていた。
街灯がぽつりぽつりと灯り始めた道は、昼間の喧騒が嘘のように静かだ。隣を歩く彼女は、相変わらず背筋を伸ばし、涼しい顔で前を見つめている。
今日の出来事を反芻する。朝の待ち伏せ、クラス中からの視線、完璧すぎる手作り弁当、そして屈辱の『あーん』。極めつけは、放課後のスパルタ数学指導。あまりにも濃密すぎる一日だった。
俺の平穏は、もはや風前の灯火だ。
だが、不思議と気分は悪くなかった。数学の問題が解けた時の高揚感や、彼女の作った弁当の美味さが、まだ心の奥でじんわりと温かい余韻を残している。
この感情は何だろう。絆され始めているのか? いや、断じて違う。これは一種のストックホルム症候群に違いない。侵略者に対して、親近感を覚えてしまうというアレだ。

「じゃあ、俺はこっちだから」
自宅へと続く角を曲がる手前で、俺は足を止めた。さすがに、家の前まで送らせるわけにはいかない。
「ああ、ここで別れよう」
「承知しました」
彼女はあっさりと頷いた。少し拍子抜けする。もっと食い下がってくるかと思った。
「それじゃあ、また明日」
俺が踵を返そうとした、その時。
「お待ちください」
静かな声が、俺の背中に突き刺さった。嫌な予感がする。振り返ると、彼女はスマホを片手に、俺をじっと見つめていた。
「連絡先を交換しましょう」
「……は?」
「ですから、連絡先を交換しましょう、と申し上げました」
彼女は淀みない口調で繰り返す。
俺は思わず眉をひそめた。「なんで?」
「学校で毎日会うだろ。別に必要ないじゃないか」
「必要です」
彼女はきっぱりと言い切った。
「未来では、緊急時に備え、常にお互いの所在を確認できるよう連絡を取り合っていました。それに、あなたが寝坊した際には、私がモーニングコールで起こすのが日課でしたから」
「モーニングコール……」
その甘美な響きに、俺の心が一瞬揺らいだ。この完璧美少女に、毎朝電話で起こしてもらえるのか。それは、ちょっと、いや、かなり魅力的かもしれない。
……いやいや、何を考えているんだ俺は!
「いらない! 俺は自力で起きる!」
「そうですか。では、これは業務連絡用のツールとして登録します」
「業務ってなんだよ!」
「明日の勉強の範囲を連絡するためです。あなたの学力管理は、妻である私の最重要任務の一つ。口頭での伝達では、あなたが忘れる可能性が十二分に考えられます」
ぐうの音も出ない。確かに、俺は三歩歩けば鳥になるタイプの脳みそをしている自覚はある。
「それに、あなたの生活習慣も管理する必要があります。夜更かしをしていないか、きちんと食事を摂っているか。メッセージで定期的に確認させていただきます」
「それ、完全に監視じゃねえか!」
「未来のあなたは、それを『愛情』と呼んで喜んでいました」
未来の俺、どんだけ彼女にメロメロだったんだ。少し見下げ果てたぞ。
俺が抵抗を続けていると、彼女はすっと俺の目の前にスマホを突き出した。画面には、QRコードが表示されている。
「さあ、どうぞ。それとも、私があなたのスマホを操作して登録しましょうか?」
その目は、笑っていなかった。本気だ。
周囲には、もう誰もいない。ここで抵抗を続けても、不毛な時間が過ぎるだけだ。俺は観念して、天を仰いだ。
「……わかったよ。交換すればいいんだろ」
俺は諦めて自分のスマホを取り出し、彼女のQRコードを読み込んだ。画面に『雪城冬花』という名前が表示される。まるで、何かとんでもない契約書にサインしてしまったような気分だった。

家に帰り、夕食と風呂を済ませて自室のベッドに寝転がる。
どっと疲労感が押し寄せてきた。今日は本当に色々ありすぎた。もう何も考えずに眠ってしまいたい。
そう思った矢先、枕元のスマホがブブッと短く震えた。
手に取って画面を見ると、メッセージアプリの通知だった。送り主は、もちろん。

『雪城冬花』

俺はごくりと喉を鳴らし、メッセージを開いた。
『本日の復習範囲です。数学I、P.48-52。添付ファイルの練習問題を、明日までに解いておくこと』
メッセージには、PDFファイルが添付されていた。中身は、彼女が作ったであろうオリジナル問題集のようだ。
「……うわ、ガチのやつだ」
やっぱり業務連絡だったか。俺は少しだけホッとした。クールな彼女らしい、実に事務的なメッセージだ。
『了解』とだけ短く返信して、スマホを置こうとした。

ブブブブッ!

その瞬間、スマホが狂ったように震えだした。
慌てて画面を見ると、雪城さんからのメッセージが、とんでもない勢いで表示されていく。

『夕食は何を食べましたか?』
『栄養バランスは偏っていませんか?』
『お風呂には入りましたか?』
『湯冷めしないように、髪はきちんと乾かしてください』
『宿題は終わりましたか?』
『夜更かしは肌の敵です。未来のあなたも、よく寝不足でクマを作っていました』

質問と報告と未来情報が入り混じった、怒涛のメッセージ攻勢。俺は呆気に取られて、画面をただ見つめることしかできなかった。なんだこれは。俺の母親より母親らしいぞ。
返信に窮していると、今度は別のものが送られてきた。
スタンプだ。
最初に送られてきたのは、丸っこいペンギンがぺこりとお辞儀をしているスタンプだった。『よろしくお願いします』という文字が添えられている。
か、可愛い……。
そう思ったのも束の間、スタンプの連投が始まった。
ぴょんぴょん飛び跳ねるうさぎ。首をかしげる子犬。『すごい!』と目をキラキラさせる猫。頬を赤らめてもじもじするハムスター。
そのどれもが、彼女のクールでミステリアスなイメージとはかけ離れた、とんでもなく可愛らしいデザインのスタンプだった。
俺のスマホの通知欄は、あっという間にファンシーな動物たちで埋め尽くされていく。
俺は混乱した。あの氷の女王、雪城冬花が、こんなキュートなスタンプを嬉々として連打しているのか? 信じられない。想像すると、シュールすぎて逆に面白い。

俺が呆然としていると、ピコン、と一つだけ普通のメッセージが届いた。
『これらのスタンプは、未来のあなたが『可愛いから、冬花に使ってほしい』と言ってプレゼントしてくれたものです。あなたのセンスは、昔から素晴らしいですね』
……未来の俺、グッジョブ。
そして、なんて恐ろしい置き土産を残してくれたんだ。
クールな彼女が、俺の選んだ可愛いスタンプを、一生懸命送ってきている。
その光景を想像しただけで、なんだか胸がむず痒くなってくる。
鳴りやまない通知音を聞きながら、俺は頭を抱えた。
学校では隣の席、プライベートではスマホの中。俺の生活は、もはや完全に彼女の侵食下にある。
逃げ場はない。
俺は深いため息をつくと、『スタンプ、可愛いな』とだけ返信した。
すぐに、『ありがとうございます!』という文字と共に、満面の笑みで花を撒き散らすアザラシのスタンプが送られてきた。
……もう、どうにでもなれ。
俺はスマホを伏せて、無理やり目を閉じた。
彼女のパブリックイメージと、俺だけが知るプライベートな姿。そのギャップが、あまりにも激しすぎた。
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