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第27話 繋がる想い、あるいは奇跡の逆転劇
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俺たちのチーム、『チーム天宮』の初戦が始まった。
対戦相手は、運動部員の多い男子を中心とした、バランスの取れた強敵。正直、厳しい戦いが予想された。
「見てろよ、雪城さん」
心の中でそう呟き、俺はコートに立った。不思議と、足の震えはなかった。体育館の向こう側で、彼女が俺だけを見つめている。その事実が、俺に確かな勇気を与えてくれていた。
試合が始まると、やはり地力に勝る相手チームの猛攻に晒された。
次々と味方がアウトになっていく。俺も必死にボールを避け、時にキャッチを試みるが、なかなか上手くいかない。
「相沢くん、危ない!」
俺を庇うようにして、天宮さんがボールに当たり、アウトになってしまった。
「ご、ごめん!」
「ううん、気にしないで! 外から応援してるから!」
彼女はベンチに戻っても、太陽のような笑顔で俺たちを励まし続けてくれる。その姿は、まさに天使だった。だが、今の俺の心は、コートサイドにいるもう一人の『女神』に完全に占められている。
試合は終盤に差し掛かり、俺たちのチームの内野は、俺を含めて残り三人。相手はまだ五人も残っている。絶体絶命の状況だった。
「優斗、集中しろ!」
陽平が叫ぶ。そうだ、まだ終わったわけじゃない。
相手チームの男子が、勝利を確信した笑みを浮かべ、俺を目掛けてボールを投げてきた。速い。だが、今の俺には、そのボールの軌道が、スローモーションのように見えた。
雪城さんの特訓の成果か、それとも、彼女が見てくれているという安心感か。
俺は、練習の時とは比べ物にならないほど冷静だった。
ボールの芯を、真っ直ぐに見据える。
そして、両手で、がっしりと、そのボールを受け止めた。
「……よしっ!」
完璧なキャッチ。自分でも信じられないくらい、綺麗にボールが手に収まった。
「ナイスキャッチ、優斗!」
陽平の声が飛ぶ。俺は、掴んだボールを手に、一瞬だけ雪城さんの方を見た。
彼女は、表情こそ変えないが、その瞳が「やればできるじゃないですか」と語っているように見えた。
俺は、力強く頷き返すと、向き直って相手コートにボールを投げ返した。
そのボールは、今までで一番力が乗っていて、相手の一人を確実にアウトにした。
そこから、俺たちの反撃が始まった。
俺と陽平、そしてもう一人のチームメイト。三人で必死にボールを回し、相手を一人、また一人と減らしていく。
だが、相手も必死だ。俺たちの内野も、ついに陽平がアウトになり、俺一人になってしまった。相手は、まだ二人が残っている。
もはや、万事休すか。
誰もがそう思った、その時。
俺の投げたボールが、相手のエース格の男子にキャッチされてしまった。
まずい。これで、俺もアウトになる。
男子は、勝ち誇ったように笑い、俺に向かってボールを投げようと振りかぶった。
俺は、覚悟を決めて身構えた。
―――その時だった。
「相沢くん、諦めないで!」
ベンチから、天宮さんの声が響き渡った。
その声に、俺はハッとして顔を上げる。諦めるな。そうだ、まだだ。
俺の脳裏に、今までの雪城さんとの日々が蘇る。
未来の嫁だと告げられた、あの放課後。
完璧な手作り弁当。
ホラー映画で、俺の腕にしがみついていた温もり。
そして、俺だけに見せてくれた、あの笑顔。
俺は、こんなところで負けるわけにはいかないんだ。
相手の男子がボールを投げた。
俺は、体育の授業で雪城さんが見せた動きを、必死に思い出しながら、横に飛んだ。
床に倒れ込みながら、ボールを避ける。
ギリギリで、かわした。
体育館が、どっと沸く。
「すげえ!」「避けたぞ!」
俺はすぐに立ち上がり、呼吸を整えた。まだだ。まだ、終わっていない。
だが、状況は変わらない。ボールは相手が持ったままだ。
もう一度投げられる。次こそは、避けきれないかもしれない。
そんな絶望的な状況の中、奇跡は起きた。
相手チームのもう一人の選手が、焦りからか、味方からパスを受け損ねてボールを落としてしまったのだ。
ルール上、ボールを落とせばアウトになる。
これで、一対一。同点だ。
体育館のボルテージは、最高潮に達していた。
最後の一球。
ボールは、中央のライン上に置かれ、俺と相手のエースが、それを奪い合う形になった。
ホイッスルが鳴り、俺は全力で走った。
相手の方が、わずかに速い。ボールに手が届くのは、相手が先だ。
負ける。
そう思った瞬間、俺の耳に、二つの声が同時に響いた。
「相沢くん、頑張って!」
それは、天宮さんの、太陽のように明るい声援。
そして、もう一つ。
俺にしか聞こえない、静かで、しかし凛とした声。
『優斗さん。未来のあなたなら、ここで勝ちます』
雪城さんの声だった。
その二つの声が、俺の背中を押した。
俺は、最後の力を振り絞り、ボールに向かって、体を投げ出した。
相手の指先が、ボールに触れる。
だが、俺の指先も、同時にボールに触れていた。
ボールは、どちらの手にも収まらず、不規則に跳ねて、高く、高く、宙を舞った。
「「「あっ!」」」
体育館中の誰もが、そのボールの行方を見守る。
ボールは、放物線を描き、そして、相手チームのエースの男子の、頭上へと落下していく。
彼は、真上に上がったボールに反応できず、呆然とそれを見上げている。
そして、ボールは、彼の頭に、ぽとり、と当たった。
信じられない光景に、体育館は一瞬、静まり返った。
そして、審判のホイッスルが、高らかに鳴り響く。
試合終了。
俺たちの、奇跡のような、逆転勝利だった。
勝った。
俺は、その場にへたり込んだ。全身の力が抜けて、指一本動かせない。
チームメイトたちが、わっと俺の周りに駆け寄ってくる。
「すげえよ、優斗!」「お前がヒーローだ!」
陽平に肩を叩かれ、天宮さんに「すごかったよ!」と手を握られ、俺はただ、夢の中にいるような気分だった。
そして、人垣の向こう側。
遠く離れた場所で、試合を見つめていた雪城冬花が、小さく、本当に小さく、拍手をしていたのを、俺は見逃さなかった。
その表情は、やはりクールなままだったけれど。
その瞳の奥に、確かな誇りと、安堵の色が浮かんでいるのが、俺にははっきりと分かった。
俺たちの想いが、繋がった瞬間だった。
この勝利は、俺一人のものじゃない。
みんなの声援と、そして、彼女の信じる心が起こした、奇跡だったのだ。
俺は、込み上げてくる熱い感情を胸に、ただ、青いTシャツを着た彼女の姿を、見つめ続けていた。
対戦相手は、運動部員の多い男子を中心とした、バランスの取れた強敵。正直、厳しい戦いが予想された。
「見てろよ、雪城さん」
心の中でそう呟き、俺はコートに立った。不思議と、足の震えはなかった。体育館の向こう側で、彼女が俺だけを見つめている。その事実が、俺に確かな勇気を与えてくれていた。
試合が始まると、やはり地力に勝る相手チームの猛攻に晒された。
次々と味方がアウトになっていく。俺も必死にボールを避け、時にキャッチを試みるが、なかなか上手くいかない。
「相沢くん、危ない!」
俺を庇うようにして、天宮さんがボールに当たり、アウトになってしまった。
「ご、ごめん!」
「ううん、気にしないで! 外から応援してるから!」
彼女はベンチに戻っても、太陽のような笑顔で俺たちを励まし続けてくれる。その姿は、まさに天使だった。だが、今の俺の心は、コートサイドにいるもう一人の『女神』に完全に占められている。
試合は終盤に差し掛かり、俺たちのチームの内野は、俺を含めて残り三人。相手はまだ五人も残っている。絶体絶命の状況だった。
「優斗、集中しろ!」
陽平が叫ぶ。そうだ、まだ終わったわけじゃない。
相手チームの男子が、勝利を確信した笑みを浮かべ、俺を目掛けてボールを投げてきた。速い。だが、今の俺には、そのボールの軌道が、スローモーションのように見えた。
雪城さんの特訓の成果か、それとも、彼女が見てくれているという安心感か。
俺は、練習の時とは比べ物にならないほど冷静だった。
ボールの芯を、真っ直ぐに見据える。
そして、両手で、がっしりと、そのボールを受け止めた。
「……よしっ!」
完璧なキャッチ。自分でも信じられないくらい、綺麗にボールが手に収まった。
「ナイスキャッチ、優斗!」
陽平の声が飛ぶ。俺は、掴んだボールを手に、一瞬だけ雪城さんの方を見た。
彼女は、表情こそ変えないが、その瞳が「やればできるじゃないですか」と語っているように見えた。
俺は、力強く頷き返すと、向き直って相手コートにボールを投げ返した。
そのボールは、今までで一番力が乗っていて、相手の一人を確実にアウトにした。
そこから、俺たちの反撃が始まった。
俺と陽平、そしてもう一人のチームメイト。三人で必死にボールを回し、相手を一人、また一人と減らしていく。
だが、相手も必死だ。俺たちの内野も、ついに陽平がアウトになり、俺一人になってしまった。相手は、まだ二人が残っている。
もはや、万事休すか。
誰もがそう思った、その時。
俺の投げたボールが、相手のエース格の男子にキャッチされてしまった。
まずい。これで、俺もアウトになる。
男子は、勝ち誇ったように笑い、俺に向かってボールを投げようと振りかぶった。
俺は、覚悟を決めて身構えた。
―――その時だった。
「相沢くん、諦めないで!」
ベンチから、天宮さんの声が響き渡った。
その声に、俺はハッとして顔を上げる。諦めるな。そうだ、まだだ。
俺の脳裏に、今までの雪城さんとの日々が蘇る。
未来の嫁だと告げられた、あの放課後。
完璧な手作り弁当。
ホラー映画で、俺の腕にしがみついていた温もり。
そして、俺だけに見せてくれた、あの笑顔。
俺は、こんなところで負けるわけにはいかないんだ。
相手の男子がボールを投げた。
俺は、体育の授業で雪城さんが見せた動きを、必死に思い出しながら、横に飛んだ。
床に倒れ込みながら、ボールを避ける。
ギリギリで、かわした。
体育館が、どっと沸く。
「すげえ!」「避けたぞ!」
俺はすぐに立ち上がり、呼吸を整えた。まだだ。まだ、終わっていない。
だが、状況は変わらない。ボールは相手が持ったままだ。
もう一度投げられる。次こそは、避けきれないかもしれない。
そんな絶望的な状況の中、奇跡は起きた。
相手チームのもう一人の選手が、焦りからか、味方からパスを受け損ねてボールを落としてしまったのだ。
ルール上、ボールを落とせばアウトになる。
これで、一対一。同点だ。
体育館のボルテージは、最高潮に達していた。
最後の一球。
ボールは、中央のライン上に置かれ、俺と相手のエースが、それを奪い合う形になった。
ホイッスルが鳴り、俺は全力で走った。
相手の方が、わずかに速い。ボールに手が届くのは、相手が先だ。
負ける。
そう思った瞬間、俺の耳に、二つの声が同時に響いた。
「相沢くん、頑張って!」
それは、天宮さんの、太陽のように明るい声援。
そして、もう一つ。
俺にしか聞こえない、静かで、しかし凛とした声。
『優斗さん。未来のあなたなら、ここで勝ちます』
雪城さんの声だった。
その二つの声が、俺の背中を押した。
俺は、最後の力を振り絞り、ボールに向かって、体を投げ出した。
相手の指先が、ボールに触れる。
だが、俺の指先も、同時にボールに触れていた。
ボールは、どちらの手にも収まらず、不規則に跳ねて、高く、高く、宙を舞った。
「「「あっ!」」」
体育館中の誰もが、そのボールの行方を見守る。
ボールは、放物線を描き、そして、相手チームのエースの男子の、頭上へと落下していく。
彼は、真上に上がったボールに反応できず、呆然とそれを見上げている。
そして、ボールは、彼の頭に、ぽとり、と当たった。
信じられない光景に、体育館は一瞬、静まり返った。
そして、審判のホイッスルが、高らかに鳴り響く。
試合終了。
俺たちの、奇跡のような、逆転勝利だった。
勝った。
俺は、その場にへたり込んだ。全身の力が抜けて、指一本動かせない。
チームメイトたちが、わっと俺の周りに駆け寄ってくる。
「すげえよ、優斗!」「お前がヒーローだ!」
陽平に肩を叩かれ、天宮さんに「すごかったよ!」と手を握られ、俺はただ、夢の中にいるような気分だった。
そして、人垣の向こう側。
遠く離れた場所で、試合を見つめていた雪城冬花が、小さく、本当に小さく、拍手をしていたのを、俺は見逃さなかった。
その表情は、やはりクールなままだったけれど。
その瞳の奥に、確かな誇りと、安堵の色が浮かんでいるのが、俺にははっきりと分かった。
俺たちの想いが、繋がった瞬間だった。
この勝利は、俺一人のものじゃない。
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