隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第43話 夏の終わりの約束、あるいは初めてのお泊まり

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夏祭りの夜、二人だけの花火を見てから、俺と雪城さんの関係はまた一つ新しい形に変わった。
言葉にしなくても、お互いが特別な存在だと、はっきりと認識している。
『完璧なる夏休み計画書』はあの日を境に、少しだけ柔軟なものになった。分刻みのスケジュールは変わらないが、その合間に俺たちが「今、やりたいこと」をする時間が自然と増えていった。
近所の公園でただぼんやりと雲の流れを眺めたり。
古本屋でお互いが面白いと思った漫画を交換して読んだり。
未来の再現ではない、今の俺たちが作り上げる新しい思い出。
その一つ一つが俺たちの心をゆっくりと、しかし確実に満たしていった。

だが、楽しい時間は永遠には続かない。
光り輝いていた夏休みも、終わりが近づいていた。
そして、俺たちの前には最後の、そして最大の敵が立ちはだかっていた。
夏休みの宿題である。

「……終わらない」
八月三十日の夜。俺は自室の机の上で絶望の淵に立っていた。
目の前には手つかずの読書感想文、白紙のままの自由研究レポート、そして解いても解いても終わらない数学の問題集。
計画書通りに毎日コツコツと学習は進めていたはずだった。だが、俺の楽天的な性格とギリギリにならないと本気が出ない悪癖が災いし、最も面倒な大物たちがラスボスのように鎮座している。
「どうしよう……。もう絶対に間に合わない……」
俺が頭を抱えて呻いていると、枕元のスマホがピコン、と軽やかな音を立てた。
雪城さんからのメッセージだった。
『宿題の進捗はいかがですか? 未来のデータによれば、あなたは毎年この時期に絶望しているはずですが』
その全てを見透かしたようなメッセージに、俺はもはや羞恥心すら感じなかった。
俺は震える指で返信する。
『助けてください、雪城先生……。もう僕には無理です……』
それはプライドも何もかも捨て去った、魂からのSOSだった。
メッセージを送ってわずか数秒後。
スマホが再び鳴った。
『承知しました。直ちに救援に向かいます。未来のあなたも、全く同じタイミングで私に泣きついてきましたから』
そのあまりにも頼もしすぎる返信に、俺は本気で神に感謝した。

それから三十分後。
我が家のチャイムが鳴った。
俺が救世主の到来に喜び勇んで玄関のドアを開けると、そこには俺の想像を少しだけ超えた光景が広がっていた。
雪城さんはラフなTシャツにスウェットパンツという、非常にリラックスした服装で立っていた。そしてその手には、勉強道具の入ったバッグだけでなく、明らかに数日分の着替えが入っているであろう小さなボストンバッグまで握られていたのだ。
「……え?」
俺がそのボストンバッグを指さすと、彼女はこともなげに言った。
「あなたの絶望的な状況を考慮した結果、泊まり込みでの集中治療が必要であると判断しました」
「と、泊まり込み!?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
「当たり前です。未来のあなたが宿題が終わらずに泣きついた時は、いつも私がこうして三日三晩、泊まり込みで介助するのが常でしたから」
「常だったのかよ!」
「さあ、時間がありません。早速始めましょう」
彼女は俺の返事も待たずに、ずかずかと家の中へと上がり込んできた。
ちょうどリビングにいた母親は彼女の姿を見るなり、「あら、冬花ちゃん! お泊まり? 待ってたわよー!」と満面の笑みで彼女を迎え入れている。
いつから、お前たちはそんなに仲良くなったんだ。
そして、いつからお泊まりは確定事項になっていたんだ。
俺は自分の知らないところで進んでいく恐るべき『雪城家・懐柔計画』に、戦慄するしかなかった。

俺の部屋に入ると彼女はまず、俺の机の上に山積みになった宿題の残骸を一瞥した。
そして、深いため息をつく。
「……想像以上に重篤な状態ですね。ですが、ご安心を。私という最高のドクターがついています」
彼女はボストンバッグからテキパキと勉強道具を取り出し始めた。その中には自作の参考資料や要点まとめノートまで含まれている。準備が万端すぎる。
「まずは最も時間のかかる読書感想文から片付けます。課題図書は、未来のあなたが最も苦手とした文豪の純文学ですね。私が要点をまとめ、あなたが感想を述べる。その共同作業で一時間で仕上げます」
「一時間!?」
「次に、自由研究。テーマは『近所の河川の生態系調査』でしたね。未来のデータと私が事前に収集した現地データを組み合わせれば、これも二時間で完成します」
「現地データまで!?」
「そして残った数学の問題集は、夜を徹して終わらせます。私が一問一問丁寧に解説しますから、あなたはただ私の言う通りにペンを動かせばいい」
そのあまりにも完璧で、あまりにも強引な計画。
俺はもはや、まな板の上の鯉だった。
彼女に身も心も、そして夏休みの宿題も、全てを委ねるしかない。

地獄の、しかし驚くほど効率的な宿題消化作戦が始まった。
彼女の言う通り、読書感想文はあっという間に原稿用紙を埋めていった。彼女の的確な要約と鋭い考察。それに俺が感じた素直な感想を付け加えるだけで、我ながらなかなかの傑作が誕生した。
自由研究も彼女が用意した膨大なデータのおかげで、まるで専門家のレポートのようなハイクオリティなものが完成してしまった。
「すげえ……お前、マジですげえよ……」
俺が感動と尊敬の念を込めて彼女を見つめると、彼女は完璧なドヤ顔でふんと鼻を鳴らした。
「当然です。未来の夫の評価をここで落とすわけにはいきませんから」
その頼もしすぎる姿に、俺はもう完全に彼女を崇拝していた。

問題は最後の数学だった。
時計の針が深夜を指し示す頃。俺たちの集中力は限界に近づいていた。
「だめだ……もう眠い……」
俺が机に突っ伏すと、彼女は魔法瓶から温かいココアを注いでくれた。
「もう少しです、頑張ってください。未来のあなたはここからが本番でしたよ。『冬花のココアがないと、もう一ミリも動けない』と言って、甘えてきました」
その甘いココアの香りと彼女の優しい声に、俺の眠気は少しだけ吹き飛んだ。
俺たちはそうして、肩を寄せ合うようにして最後の戦いに挑み続けた。
彼女が俺のノートを覗き込むたびに、さらりと彼女の髪が俺の頬をかすめる。
そのたびに俺の心臓は甘い音を立てて跳ねた。
眠気と、ドキドキと、そして二人だけの秘密の時間を共有しているという特別な高揚感。
その不思議な感覚の中で、俺たちの長い、長い夜は更けていった。
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