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第74話 縁結びの祈り、あるいは未来への願い
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完璧なナビゲーター、雪城冬花のおかげで、俺たちの班別行動初日は大成功のうちに終わった。
夕暮れ時、俺たちは最後の目的地である清水寺へと続く賑やかな参道を歩いていた。
両脇には八つ橋や漬物、京扇子などを売る店がずらりと並び、観光客でごった返している。
「うわー、すげえ人だな!」
「見て見て、あのお団子、美味しそう!」
班のメンバーは最後の自由時間を満喫しようと目を輝かせている。
だが、俺の心は別の場所にあった。
隣を歩く冬花のことだ。
彼女は相変わらず涼しい顔で前を見つめている。だが、その足取りは心なしかいつもより速い気がした。まるで何かに引き寄せられるように。
彼女の真の目的。
それが、この先にある。俺はそう直感していた。
清水の舞台にたどり着いた俺たちは、その壮大な景色に思わず息を呑んだ。
眼下には紅葉で色づき始めた木々の海が広がり、その向こうには夕日に染まる京都の街並みが一望できる。
「絶景だな……」
陽平がしみじみと呟く。
天宮さんも、「すごい……来てよかったね」と、うっとりとその景色に見入っていた。
俺もその美しさにしばらく言葉を失った。
未来の俺たちも、この景色を二人で見たのだろうか。
そんなことを考えていると、ふと隣にいたはずの冬花の姿がないことに気づいた。
「あれ?」
俺がきょろきょろと周りを見回すと、彼女は少し離れた場所で、あるものをじっと見つめていた。
それは清水寺の境内にある、小さいが多くの人で賑わう一角。
『地主神社』
その古びた鳥居に掲げられた看板には、大きく『縁結び』の文字が書かれていた。
「……あそこか」
俺は全てを悟った。
彼女の本当の目的はここだったのだ。
彼女は俺に気づくと、少しだけ恥ずかしそうにはにかんだ。
そして、小さな声で「行きましょう」と俺を誘った。
俺は何も言わずにこくりと頷き、彼女の後についていく。
陽平や天宮さんたちも、俺たちのその様子を何かを察したように黙って見守ってくれていた。
地主神社は良縁を願う若い女性たちで溢れかえっていた。
その熱気と、どこか切実な願いが渦巻く空間に俺は少しだけ気圧される。
だが、彼女はそんな雰囲気に臆することなく、まっすぐに本殿へと向かっていった。
そして、賽銭箱の前に立つと静かに目を閉じて、深く、深く頭を下げた。
その祈る姿は、あまりにも真剣で、あまりにも美しかった。
長い睫毛が夕日を浴びてキラキラと輝いている。
きつく結ばれた唇からは、彼女の揺るぎない強い願いが伝わってくるようだった。
俺は、その横顔から目を離すことができなかった。
ただ、呆然と、その神々しいまでの姿に見惚れていた。
彼女は一体、何を祈っているのだろう。
未来で結ばれることは、もう確定しているはずだ。
なのになぜ今ここで、こんなにも真剣に縁結びの神に祈りを捧げているのだろうか。
その答えは、聞かなくても分かった。
彼女が願っているのは、未来の約束された幸福なんかじゃない。
今の俺との絆だ。
未来とか、運命とか、そういうものに頼らない、俺と彼女自身の力で結ばれる新しい未来。
そのあまりにも健気で、あまりにも一途な願い。
それを思うと、俺の胸は切なさでいっぱいになった。
長い、長い祈りを終えた彼女がゆっくりと顔を上げた。
その表情は、どこか、すっきりとした清々しいものに見えた。
「……お待たせしました」
彼女はそう言って、俺にふわりと微笑んだ。
その笑顔は今までで一番穏やかで、そして優しかった。
俺は何も言わずに、ただ微笑み返した。
言葉はいらなかった。
彼女のその笑顔だけで、彼女の願いの全てが俺に伝わってきたから。
「……あなたも、祈らないのですか?」
彼女が不思議そうに尋ねてくる。
俺は少しだけ照れながら首を横に振った。
「俺はいいよ」
「なぜです?」
「だって」
俺は彼女のその深い碧色の瞳を、真っ直ぐに見つめ返して言った。
「俺の願いは、もうここにあるから」
俺のその不意打ちの告白。
それを聞いた彼女の顔が、ぽっと夕焼けよりも赤く染まった。
彼女は何も言えずに、ただ俯いてしまう。
そのあまりにも初々しい反応に、俺はどうしようもない愛おしさを感じていた。
もう神頼みなんて必要ない。
俺たちの未来は、俺たちがこの手で掴み取るんだ。
俺は固くそう誓った。
縁結びの神社を後にした俺たちは、再び班のメンバーと合流した。
陽平が「よう、お二人さん。神様には、ちゃんとお願いしてきたか?」とニヤニヤしながらからかってくる。
俺は、「うるさい」と一言だけ返した。
だが、その声にはもう何の照れもなかった。
ただ確かな自信と幸福感だけが満ち溢れていた。
俺の隣で彼女が嬉しそうにはにかんでいる。
その小さな幸せ。
それこそが、俺が守りたかった全てだった。
修学旅行の初日はこうして、俺たちの絆をより強く、深く結びつけて暮れていった。
だが、この穏やかな時間が嵐の前の静けさに過ぎないことを、俺はまだ知らなかった。
本当の試練は、これから始まるのだから。
夕暮れ時、俺たちは最後の目的地である清水寺へと続く賑やかな参道を歩いていた。
両脇には八つ橋や漬物、京扇子などを売る店がずらりと並び、観光客でごった返している。
「うわー、すげえ人だな!」
「見て見て、あのお団子、美味しそう!」
班のメンバーは最後の自由時間を満喫しようと目を輝かせている。
だが、俺の心は別の場所にあった。
隣を歩く冬花のことだ。
彼女は相変わらず涼しい顔で前を見つめている。だが、その足取りは心なしかいつもより速い気がした。まるで何かに引き寄せられるように。
彼女の真の目的。
それが、この先にある。俺はそう直感していた。
清水の舞台にたどり着いた俺たちは、その壮大な景色に思わず息を呑んだ。
眼下には紅葉で色づき始めた木々の海が広がり、その向こうには夕日に染まる京都の街並みが一望できる。
「絶景だな……」
陽平がしみじみと呟く。
天宮さんも、「すごい……来てよかったね」と、うっとりとその景色に見入っていた。
俺もその美しさにしばらく言葉を失った。
未来の俺たちも、この景色を二人で見たのだろうか。
そんなことを考えていると、ふと隣にいたはずの冬花の姿がないことに気づいた。
「あれ?」
俺がきょろきょろと周りを見回すと、彼女は少し離れた場所で、あるものをじっと見つめていた。
それは清水寺の境内にある、小さいが多くの人で賑わう一角。
『地主神社』
その古びた鳥居に掲げられた看板には、大きく『縁結び』の文字が書かれていた。
「……あそこか」
俺は全てを悟った。
彼女の本当の目的はここだったのだ。
彼女は俺に気づくと、少しだけ恥ずかしそうにはにかんだ。
そして、小さな声で「行きましょう」と俺を誘った。
俺は何も言わずにこくりと頷き、彼女の後についていく。
陽平や天宮さんたちも、俺たちのその様子を何かを察したように黙って見守ってくれていた。
地主神社は良縁を願う若い女性たちで溢れかえっていた。
その熱気と、どこか切実な願いが渦巻く空間に俺は少しだけ気圧される。
だが、彼女はそんな雰囲気に臆することなく、まっすぐに本殿へと向かっていった。
そして、賽銭箱の前に立つと静かに目を閉じて、深く、深く頭を下げた。
その祈る姿は、あまりにも真剣で、あまりにも美しかった。
長い睫毛が夕日を浴びてキラキラと輝いている。
きつく結ばれた唇からは、彼女の揺るぎない強い願いが伝わってくるようだった。
俺は、その横顔から目を離すことができなかった。
ただ、呆然と、その神々しいまでの姿に見惚れていた。
彼女は一体、何を祈っているのだろう。
未来で結ばれることは、もう確定しているはずだ。
なのになぜ今ここで、こんなにも真剣に縁結びの神に祈りを捧げているのだろうか。
その答えは、聞かなくても分かった。
彼女が願っているのは、未来の約束された幸福なんかじゃない。
今の俺との絆だ。
未来とか、運命とか、そういうものに頼らない、俺と彼女自身の力で結ばれる新しい未来。
そのあまりにも健気で、あまりにも一途な願い。
それを思うと、俺の胸は切なさでいっぱいになった。
長い、長い祈りを終えた彼女がゆっくりと顔を上げた。
その表情は、どこか、すっきりとした清々しいものに見えた。
「……お待たせしました」
彼女はそう言って、俺にふわりと微笑んだ。
その笑顔は今までで一番穏やかで、そして優しかった。
俺は何も言わずに、ただ微笑み返した。
言葉はいらなかった。
彼女のその笑顔だけで、彼女の願いの全てが俺に伝わってきたから。
「……あなたも、祈らないのですか?」
彼女が不思議そうに尋ねてくる。
俺は少しだけ照れながら首を横に振った。
「俺はいいよ」
「なぜです?」
「だって」
俺は彼女のその深い碧色の瞳を、真っ直ぐに見つめ返して言った。
「俺の願いは、もうここにあるから」
俺のその不意打ちの告白。
それを聞いた彼女の顔が、ぽっと夕焼けよりも赤く染まった。
彼女は何も言えずに、ただ俯いてしまう。
そのあまりにも初々しい反応に、俺はどうしようもない愛おしさを感じていた。
もう神頼みなんて必要ない。
俺たちの未来は、俺たちがこの手で掴み取るんだ。
俺は固くそう誓った。
縁結びの神社を後にした俺たちは、再び班のメンバーと合流した。
陽平が「よう、お二人さん。神様には、ちゃんとお願いしてきたか?」とニヤニヤしながらからかってくる。
俺は、「うるさい」と一言だけ返した。
だが、その声にはもう何の照れもなかった。
ただ確かな自信と幸福感だけが満ち溢れていた。
俺の隣で彼女が嬉しそうにはにかんでいる。
その小さな幸せ。
それこそが、俺が守りたかった全てだった。
修学旅行の初日はこうして、俺たちの絆をより強く、深く結びつけて暮れていった。
だが、この穏やかな時間が嵐の前の静けさに過ぎないことを、俺はまだ知らなかった。
本当の試練は、これから始まるのだから。
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