隣の席のクールな銀髪美少女、俺にだけデレるどころか未来の嫁だと宣言してきた

夏見ナイ

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第91話 運命の日、一週間前。あるいは最後の夜の約束

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二月に入り、運命のバレンタインデーまであと一週間となった。
俺たちの日常は、静かな、しかし張り詰めた緊張感に支配されていた。
学校の廊下を歩く時も、階段を上り下りする時も、俺と冬花は常にお互いの存在を五感の全てで感じ取っていた。
まるで背中合わせで、見えない敵と戦う二人の兵士のように。
周囲のクラスメイトたちは、そんな俺たちの異様な雰囲気に気づく由もない。
「なあ、バレンタイン、誰かにチョコあげるの?」
「本命は、やっぱ手作りだよねー!」
教室では、そんな甘くて浮かれた会話が飛び交っている。
そのあまりにも平和な日常と、俺たちが置かれたあまりにも過酷な現実。
そのギャップが、俺の胸をちりちりと焦がしていた。
この当たり前の温かい日常を。
俺は絶対に守り抜かなければならない。

運命の日が一日、また一日と近づくにつれて、『運命の修正力』の攻撃はさらに悪質さを増していった。
俺の体育館シューズがカッターナイフで切り裂かれていたり。
自転車のブレーキワイヤーが何者かによって緩められていたり。
それはもはや「不運」という言葉では片付けられない、明確な悪意を持った攻撃だった。
犯人は分からない。
人為的な嫌がらせなのか。
それとも運命そのものが人の形を借りて、俺たちを追い詰めようとしているのか。
警察に相談することも考えた。
だが、どう説明すればいい?
『未来から来た彼女を守るために、運命と戦っているんです』とでも言うのか。
俺たちは誰にも助けを求めることができない。
この孤独な戦いを、二人だけで乗り越えるしかなかった。
俺は登下校も休み時間も、片時も冬花のそばを離れなかった。
俺が彼女を守る。
その一心だった。
彼女もまた、俺の食事や睡眠時間にまで気を配り、俺のコンディションが最高の状態で決戦の日を迎えられるようにサポートしてくれた。
俺たちは、お互いを守り合い、支え合いながらその日を待っていた。

そしてついに、運命の日の前日。
二月十三日の夜が訪れた。
外は冷たい冬の雨が、静かに降っていた。
俺は自室のベッドの上で、明日起こりうる全ての可能性を頭の中でシミュレーションしていた。
家から一歩も出ない。
それが俺たちの立てた、唯一にして絶対の作戦。
だが本当にそれだけで、運命の魔の手から逃れられるのだろうか。
不安が胸をよぎる。
その時、枕元のスマホが静かに震えた。
冬花からの着信だった。

「……もしもし」
『……私です』
電話の向こうから聞こえてくる彼女の声。
それはいつもと同じ、クールで落ち着いた声だった。
だがその奥に、鋼のような硬い覚悟が隠されているのを俺は感じ取った。
『明日の最終確認です。午前零時を回った瞬間から、あなたは絶対に家から一歩も出てはいけません。誰が訪ねてきても、どんな緊急の連絡が入っても、です』
「……ああ。分かってる」
『インターホンも電話も無視してください。私からの連絡も、です』
「え?」
その意外な言葉に、俺は聞き返した。
『明日、私はあなたに連絡しません。もし私を名乗る人物から連絡があっても、それは運命が仕掛けた罠の可能性があります』
彼女は淡々と続ける。
そのあまりにも徹底した警戒態SEI。
俺は改めて、この戦いの困難さを思い知らされた。
「……分かった。お前も絶対に家から出るなよ」
俺がそう言うと、電話の向こうで彼女がふっと息を吐くのが分かった。
そして、しばらくの沈黙の後。
彼女は今までで一番優しく、そして一番悲しい声で言った。

『優斗さん』
『もし、万が一……。私に何かあっても』
『あなたは、あなたの人生を生きてください』

その言葉。
それは彼女の遺言のようだった。
俺の心臓が、どくん、と大きく、そして冷たく脈打った。
「……何、言ってんだよ」
俺の声は震えていた。
『運命の修正力は、あなただけでなく干渉者である私自身を標的にする可能性もあります』
彼女は静かに告白した。
『もしそうなった時……。もし私が消えるようなことがあっても。あなたは決して自分を責めないで』
『私が望んだことです。あなたを守るためなら、私は……』
「ふざけるな!」
俺は思わず叫んでいた。
彼女のその、あまりにも悲しい自己犠牲の覚悟。
俺はそれが許せなかった。
俺はお前に守られるためだけに、ここにいるんじゃない。
お前と一緒に戦うために、ここにいるんだ。

俺は電話の向こうの彼女に、はっきりと告げた。
その悲しい覚悟を、俺の言葉で打ち砕くために。
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