スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ

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第41話:大手商会との契約

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アルカディア村が生み出す特産品の数々はテルマの街を越え、ついに王都の経済をも揺るがし始めていた。
特にゴールデン商会のテルマ支店が事実上の活動停止に追い込まれたことで生じたパワーバランスの空白は、他の大手商会にとってまたとない好機と映っていた。
王都の商人たちは誰もが血眼になって、新たな黄金郷『アルカディア』との交易ルートを確立しようと躍起になっていた。

そんなある日。
アルカディア村の門の前に、一際豪華な装飾が施された一台の馬車が停まった。
馬車の扉から現れたのは柔和な笑みを浮かべた初老の紳士。その身なりは質素だが上質な生地で作られており、その佇まいには長年の経験によって培われたであろう確かな風格が漂っていた。

「突然の訪問、失礼いたします。私は王都に拠点を置きます『シルバークレイン商会』の会頭、セバスチャンと申します。この村の領主であられるアルフォンス様にご挨拶をと思い、馳せ参じました」

シルバークレイン商会。
その名は俺も聞き覚えがあった。ゴールデン商会と並び、この国で一、二を争う大手商会だ。だがゴールデン商会が時に強引な手段も厭わないことで知られているのに対し、シルバークレイン商会は誠実な取引と長期的な信頼関係を重んじることで有名だった。

俺はセバスチャンと名乗る会頭を、村の応接室へと通した。
シルフィとリズベット、そして会計係の男も同席する。
セバスチャンは俺たちの前に深々と頭を下げた。
「まずは此度の代官バルトークの件、そしてゴールデン商会の非道な行いについて、同じ商人として深くお詫び申し上げます。彼らの行いは商いの道を著しく汚すものであり、断じて許されるものではありません」

彼の丁寧で誠実な態度は、ジェラールとは対極にあった。俺たちは彼の言葉にただ静かに耳を傾けた。
「さて、本日は他でもございません」
セバスチャンは本題に入った。「アルカディア村と我がシルバークレイン商会との間で、正式な交易協定を結ばせてはいただけないかとお願いに上がりました」

彼は懐から分厚い契約書の案を取り出した。
「貴村の生み出すポーション、高品質な野菜、そして耐火布や特殊な香辛料。そのどれもが王都、ひいては大陸全土の市場を席巻する可能性を秘めております。我々は、その価値に見合う最高の価格で買い取らせていただくことをお約束します。また貴村が必要とする物資――塩や砂糖、鉄鉱石といったこの地では手に入りにくいものも、我々が責任を持って安定供給いたします」

彼の提案は非常に魅力的だった。
これまではテルマの街の小規模な商人たちと個別に取引を行ってきた。だが村の生産量が増えるにつれて、その方式では限界が見え始めていた。
大手商会と組むことで販路は一気に拡大し、村の経済はさらに安定するだろう。

だが俺には懸念もあった。
「あんたたちはゴールデン商会のように、俺たちの村を支配しようとはしないか? 俺たちの富を独占しようとはしないか?」
俺の問いに、セバスチャンは穏やかに、しかしきっぱりと首を横に振った。

「アルフォンス様。商いとは本来、どちらか一方が儲けるものではございません。売り手と買い手、双方が利益を得て共に発展していく。それこそが長続きする真の商いだと、私は信じております」
彼は真っ直ぐに俺の目を見て言った。
「我々は貴村の支配など望んでおりません。ただ、対等な『パートナー』として共に未来を築いていきたい。そう願っているだけでございます」

その言葉に嘘は感じられなかった。
俺は同席している仲間たちに視線を送った。
シルフィもリズベットも、そして会計係の男も皆、静かに頷いている。
彼らもまたセバスチャンという男の誠実さを、見抜いていたのだろう。

「……分かった。あんたたちを信じよう」
俺は決断した。「契約を結ぼう。アルカディア村はシルバークレイン商会を、正式な交易パートナーとして認める」

俺の言葉に、セバスチャンの顔が心からの喜びに輝いた。
「おお……! ありがとうございます、アルフォンス様! このご恩は決して忘れません!」

その場で俺たちは契約書に署名を取り交わした。
それはアルカディア村が初めて外部の世界と結んだ、公式な協定だった。
この契約によって俺たちの村は、商業拠点としても大きく発展していくことになる。

契約の締結を祝し、俺はセバスチャンを村の食堂へと案内した。
オーギュストが腕によりをかけて作った、ダンジョン産の食材をふんだんに使った料理と『マイルド・ボルケーノソース』がテーブルに並ぶ。
「こ、これは……! なんという美味……! 私がこれまで食してきたどんな宮廷料理をも凌駕しておりますぞ!」
セバスチャンは一口食べるごとに、感動の声を上げた。

その様子を俺たちは微笑ましく眺めていた。
この食事もまた俺たちの村が持つ、大きな力の一つなのだ。

食事が終わる頃、セバスチャンは俺にそっと耳打ちした。
「アルフォンス様。一つ、耳に入れておきたい情報がございます」
彼の表情は先ほどまでの陽気さから一転し、真剣なものになっていた。
「王都にて不穏な噂が流れております。『竜の牙』というAランクの冒険者パーティが、急激にその力を失いBランクへの降格勧告を受けたと」
「竜の牙……」
その名を聞いた瞬間、俺の心臓がわずかに跳ねた。

「噂によれば彼らが弱体化したのは、あるメンバーを追放してからだとか。そのメンバーは戦闘には役立たないが、パーティの雑務や装備の管理、そして何より質の良いポーションの調達を一手に担っていた、と」
セバスチャンは探るような目で俺を見た。
「……奇しくもそのメンバーがいなくなってから、テルマの街に奇跡のポーションが現れた。何か繋がりがあるのかもしれませんな」

彼は俺がその追放されたメンバーであることに、ほぼ確信を持っているのだろう。
だが彼はそれを追及しようとはしなかった。
「もし彼らが逆恨みからアルフォンス様に何らかの危害を加えようとするようなことがあれば、我が商会も決して黙ってはおりません。お困りの際は、いつでもお声がけください」
それは商会の会頭としてではなく、一人の友人としての温かい申し出のように響いた。

セバスチャンの馬車が夕日に染まる道を王都へと帰っていく。
その背中を見送りながら、俺はガイウスたちのことを考えていた。
彼らが落ちぶれている。
その事実に胸がすくような思いはなかった。むしろどこか空虚で、物悲しい気持ちがした。
彼らとは袂を分かった。だがかつては、同じ釜の飯を食った仲間だったのだ。

俺は首を振って感傷を振り払った。
俺にはもう俺の場所がある。守るべき仲間と村がある。
過去を振り返っている暇などない。

アルカディア村はシルバークレイン商会という強力なパートナーを得て、新たな発展の時代を迎えようとしていた。
村の富は増え人々は豊かになり、俺たちの理想郷は着実にその姿を現実にしつつあった。
その輝きがやがて、失意の底にいるかつての仲間たちの嫉『妬と憎悪の炎を再び燃え上がらせることになるとも知らずに。
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