異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ

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第11話 引きこもりファーム計画

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錬金工房の成功は、我が家の日常に革命をもたらした。
特に、俺の規格外の魔力とフィーの専門知識が生み出した奇跡の産物――『超・魔力活性剤』によって、家庭菜園の作物は、もはや野菜というより魔物に近いレベルで巨大化し、その味もまた常識外れの美味さだった。
バスケットボール大のトマト、赤ん坊の頭ほどあるジャガイモ、大人の腕より太いニンジン。それらの異常な食材を、モカが目を輝かせながら調理し、食卓は毎日、収穫祭のような賑わいを見せている。
「このシチュー、お野菜の味が濃くて、すごく美味しいです!」
モカが作ったポトフを頬張りながら、彼女自身が一番幸せそうな顔をしている。
「ええ、本当に。これほどの食材、王宮の晩餐会でもお目にかかれませんわ。この農耕技術さえあれば、アルトリアの食糧事情は劇的に改善されるでしょうに……」
リリアは感嘆しつつも、どこか憂いを帯びた表情で呟く。彼女の頭の中は、常に故郷の民のことでいっぱいなのだろう。
俺はそんなリリアの感傷には付き合わず、巨大な焼きジャガイモにバターをたっぷり乗せて頬張りながら、次の計画に思いを巡らせていた。
「……なあ、フィー」
「はい、なんでしょう、ユータさん」
食事中も、手にした羊皮紙に何やら数式を書き連ねていたフィーが顔を上げる。
「家庭菜園レベルじゃ、まだ物足りない。どうせなら、もっと大規模で、完全に自動化された農場と牧場が欲しい。俺がソファに寝転がったまま、この世界の全食材を網羅できるような、完璧な食料自給システムを構築したいんだが」
「……素晴らしいアイデアです!」
俺の怠惰極まりない提案に、フィーはカッと目を見開き、興奮で立ち上がった。
「農場と牧場! 食の安定供給は、文明の礎! そして、あなたのその力とわたくしの知識を組み合わせれば、前人未到の、いえ、神々の領域にすら匹敵するような、究極の生産システムを構築できるやもしれません!」
「おお、なんか話がでかくなってきたな」
「お任せください! 今すぐにでも、設計に取り掛かります!」
フィーは食事を中断し、猛烈な勢いで工房へと駆け込んでいった。その背中からは、研究者の狂気にも似た情熱が立ち上っているように見えた。
こうして、俺の「一歩も家から出ずに美食を極める」という、極めて個人的な欲望から始まった『引きこもりファーム計画』は、本格的に始動したのだった。

数時間後。
フィーが工房から持ってきたのは、羊皮紙の束だった。そこには、彼女の知識と情熱が詰め込まれた、究極の農場と牧場の設計図が、びっしりと描き込まれていた。
「まず、農場ですが、ただ土地を耕すだけでは三流です」
フィーは一枚の設計図をテーブルに広げた。
「この家の裏手一帯を、巨大なガラス質のドームで覆います。このドームは、あなたの力で天候や日照時間を完全にコントロールできるようにします。雨の日も雪の日も、ドームの中は常に作物の育成に最適な環境が保たれるのです」
「全天候型ドームか。悪くない」
「次に土壌です。地面には、先日の『超・魔力活性剤』をさらに改良した栄養素を循環させるためのパイプラインを網の目のように埋設します。これにより、土の栄養価は常に最高の状態に維持されます」
「なるほど」
「そして、極めつけがこれです!」
フィーが自信満々に指さしたのは、無数のゴーレムが描かれた図面だった。
「あなたのゴーレム生成術を応用し、役割ごとに特化した『農業ゴーレム』軍団を配備します。種まきゴーレム、水やりゴーレム、害虫駆除ゴーレム、そして収穫ゴーレム。あなたは、工房に設置するコンソールから、簡単な指示を送るだけでいいのです。『ジャガイモを百個収穫しろ』と。そうすれば、あとは彼らがすべて自動でやってくれます」
その完璧なまでのオートメーション計画に、俺は思わずゴクリと喉を鳴らした。ソファどころか、ベッドの中からでも農業経営ができてしまうではないか。まさに、怠惰の理想郷。
「牧場も同様です」
フィーは次の設計図を広げる。
「動物たちがストレスなく過ごせるよう、温度管理、自動給餌、そして排泄物の自動清掃システムを完備した、最高の環境を用意します。家畜の健康状態は常に魔術的にモニタリングされ、病気の兆候があれば即座に治療が施されます」
「……至れり尽くせりだな」
「ええ。最高の環境で育った家畜は、最高の肉やミルク、卵を提供してくれますから」
完璧な設計だった。もはや、人間の出る幕はどこにもない。
俺は満足げに頷くと、フィーが描いた設計図の束を手に取った。
「よし、気に入った。今すぐ、これを現実にしよう」

俺はフィーを連れて、家の裏手の広大な空き地に出た。
そして、設計図の内容を頭に叩き込み、両手を地面にかざして、強く念じる。
(――創造(クリエイト))
その瞬間、地面がまるで生き物のように隆起し、形を変え始めた。
ゴゴゴゴゴ、と地響きが鳴り響き、巨大なガラスドームが空を覆い、ハイテクな厩舎がみるみるうちに組み上がっていく。地面の下では魔法のパイプラインが走り、ドームの中には役割分担された農業ゴーレムたちが次々と生成され、整然と並んでいく。
リリアとモカは、家の中からその天地創造のような光景を、口をあんぐりと開けて見守っていた。
ほんの数分で、昨日までただの空き地だった場所は、フィーの設計図を寸分違わず再現した、近未来的な農場と牧場へと変貌を遂げた。
「……す、すごい……」
フィーですら、自らが描いた理想が、あまりにもあっけなく現実のものとなったことに、言葉を失っている。
「さて、と。箱はできたが、肝心の中身がまだだな」
俺はそう言うと、次に牧場に目を向けた。立派な厩舎はあるが、そこに住む家畜がいない。
「フィー。この世界で一番美味い肉になる牛と、一番美味い卵を産む鶏は、どの品種で、どこで手に入る?」
「え、ええと……」
突然の質問に、フィーは慌てて鞄から分厚い本を取り出して調べ始めた。
「確か、南方のホーンベル村で飼育されている『赤毛牛』が肉質最高と評判です。鶏なら、東のミストラル地方の『白銀鶏』が産む卵が珍重されていますね。ですが、どちらもここからはかなりの距離が……」
「問題ない」
俺はフィーの言葉を遮り、にやりと笑った。
「その村の場所さえ分かれば、あとは『通販』で買ってくるだけだ」

俺はリビングに戻ると、ディスプレイにホーンベル村ののどかな牧草地を映し出した。そこでは、赤茶色の毛並みをした、見るからに健康そうな牛たちがのんびりと草を食んでいる。
俺はその中から、一番まるまると太った若い雌牛にターゲットを絞った。
(よし、お前に決めた)
俺は通販魔法を発動。牛の持ち主であろう、近くの小屋にいた農夫のおっさんの懐に、相場より少し多めの金貨を直接転送してやった。
突然懐が重くなったことに気づいたおっさんは、「ひいっ! 神様からのお布施だ!」と驚いてひっくり返ったが、俺の知ったことではない。
代金の支払いが済んだのを確認し、俺はターゲットの赤毛牛に向かって念じる。
(転送)
その瞬間、牧草地にいた牛の姿が掻き消え、次の瞬間には、我が家の牧場の真新しい厩舎の中に、ぽつんと出現した。
牛は一瞬きょとんとしていたが、目の前に用意された最高級の干し草と清潔な水、そして快適な環境に、すぐに満足そうな声を上げて落ち着いた。
「……来た」
「……来ましたわね」
「……牛さんです」
俺とリリアとモカは、ディスプレイと、牧場の監視用モニターを交互に見ながら、その奇跡の瞬間を見届けた。
同じ要領で、今度はミストラル地方から美しい白銀の羽を持つ鶏を数羽、購入した。
こうして、わずか一時間足らずで、我が家の『引きこもりファーム』は、最高の家畜たちを迎えて本格的に稼働を開始したのだった。

それからの日々は、まさに食の楽園だった。
全自動農場で収穫された新鮮な野菜。牧場で搾りたての濃厚なミルクと、産みたての温かい卵。
モカはそれらの最高の食材を使い、毎日腕によりをかけて、俺たちの胃袋を幸せで満たしてくれた。
焼きたてのパン、新鮮な卵のオムレツ、チーズフォンデュ、クリームシチュー、そして自家製アイスクリーム。俺の家の食卓は、もはや三ツ星レストランのフルコースすら凌駕するレベルに達していた。
「……完璧だ」
食後のデザートに、モカ特製のプリンを味わいながら、俺はソファの上で満足のため息をついた。
「これで、食料の心配は一切なくなった。通販で食材を調達する手間すら省ける。これぞ、究極の引きこもりライフだ」
俺の言葉に、フィーは「いえ、まだです! 次は温泉を掘り当てて、究極のリラクゼーション空間を!」と息巻き、モカは「明日はチーズケーキを作りますね、ご主人様!」と嬉しそうに笑う。
リリアだけが、その賑やかな光景を少し寂しそうな目で見つめながら、ぽつりと呟いた。
「これだけの恵みが……この家にしかないなんて……」
その小さな呟きは、リビングの喧騒の中に溶けて消えた。
だが、その言葉が、俺の完璧な引きこもり生活に、新たな波乱を呼び込むことになるのを、この時の俺はまだ知らなかった。
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