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第12話 引きこもり軍師、初陣す
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「なあ、モカ。今日の昼飯は、あの赤毛牛の肉でステーキ丼にしてくれ。卵は白銀鶏のやつを半熟で乗せて」
「はい、ご主人様! かしこまりました!」
ソファの上で寝返りを打ちながら、俺は壁のディスプレイに映し出したオーロラの映像をぼんやりと眺めていた。完璧な引きこもりファームが稼働して以来、我が家の食生活はもはや王侯貴族のそれを遥かに凌駕している。
モカは俺の怠惰なリクエストに、嬉しそうに尻尾を揺らしながらキッチンへと向かっていく。彼女にとって、最高の食材で最高の料理を作り、俺に「うまい」と言わせることが、何よりの喜びになっているようだった。
傍らでは、フィーが工房から持ち帰った資料の山に埋もれ、「この数式を応用すれば、温泉の源泉温度をコンマ一度単位で自動制御できるはず……!」などとブツブツ呟いている。
そして、リビングのもう一方のソファでは、リリアが神妙な面持ちで一枚の羊皮紙を読んでいた。それは、俺が通販魔法で王都から定期的に取り寄せてやっている、最新の新聞だ。彼女が故郷の情勢を知るための、数少ない情報源だった。
平和な午後。
穏やかな空気。
これぞ俺が望んだ、理想の世界だ。
そう、思っていたのだが。
「……ひどい」
ぽつりと、リリアの口からか細い声が漏れた。その声には、怒りと悲しみが滲んでいる。
俺は億劫そうにそちらに視線を向けた。
「どうした、リリア。またお前の叔父さんが何かやらかしたのか?」
「……これを見てくださいまし」
リリアは立ち上がると、震える手で新聞を俺の前に差し出した。俺は寝転がったまま、首だけを動かしてその記事に目を通す。
見出しには、『辺境のエルム村、ゴブリンの大群に襲われ壊滅の危機』とあった。
記事によると、百匹を超える大規模なゴブリンの群れが、アルトリア王国の西の辺境にあるエルム村を襲撃し、村は完全に包囲されているという。村の男たちは必死に抵抗しているが、多勢に無勢。王都に救援要請を送ったものの、グレン公爵率いる現政権は「辺境の些事」として、これを黙殺。騎士団を派遣する気配は全くないらしい。このままでは、村が陥落し、住民が皆殺しにされるのも時間の問題だと書かれていた。
「エルム村は……わたくしがまだ幼い頃、侍女と二人でお忍びで訪れたことがあるのです」
リリアは、遠い目をして語り始めた。
「村の人々は、わたくしが王女とは知らずに、とても親切にしてくれました。リンゴを分けてくれたお婆さん、木登りを教えてくれた悪ガキたち……。皆、貧しいながらも、懸命に生きていた。そんな彼らが、見殺しにされようとしているのです……!」
その声は、悲痛な響きを帯びていた。美しい顔は青ざめ、拳を固く握りしめている。
俺は「ふーん」と気のない返事をすると、再びディスプレイのオーロラに視線を戻した。
「可哀想な話だな。だが、俺には関係ない」
「なっ……!」
俺のあまりに冷淡な態度に、リリアは言葉を失った。
「関係なくなどありません! ユータ様のそのお力があれば、ゴブリンの大群など、きっと瞬く間に追い払えるはずです! どうか、どうか彼らを助けてはいただけませんか!?」
リリアは、俺の前にひざまずき、深く頭を下げた。その金色の髪が、床に触れる。
「この通り、お願いいたします!」
その姿は、数週間前にこの家に逃げ込んできた時と同じ、必死さと悲壮感に満ちていた。
だが、俺の心は動かない。
「断る。何度も言わせるな。俺は家から一歩も出ない。エルム村とやらがどこにあるのか知らんが、そんな遠い場所まで出向くなんて、冗談じゃない」
「ですが……!」
「それに、俺は正義の味方じゃない。ゴブリンに襲われてる奴らが可哀想だから助ける、なんて殊勝な考えは、残念ながら持ち合わせていないんでね」
俺は冷たく言い放ち、完全に彼女に背を向けた。
これで、話は終わりだ。彼女も、俺の性格はもう理解しているはずだ。これ以上、無駄な問答は続かないだろう。
しかし。
「……ユータ様が、家からお出になる必要はありません」
背後から聞こえてきたのは、諦めの言葉ではなかった。静かだが、強い意志を秘めた声だった。
俺は意外に思い、ゆっくりと振り返る。
リリアは、顔を上げていた。その瞳には涙が浮かんでいたが、もはや懇願の色はない。代わりに、交渉人のような、真剣な光が宿っていた。
「わたくしが、一人で行きます」
「……ほう?」
予想外の言葉に、俺は少しだけ興味をそそられた。
「お前一人で、百匹のゴブリン相手に何ができるって言うんだ?」
「もちろん、今のわたくし一人では何もできません。ですが、ユータ様のお力添えがあれば、話は別です」
リリアは、まっすぐに俺の目を見据えて続けた。
「ユータ様は、この安全な家の中から、ディスプレイで戦場の様子を見て、わたくしに指示を送ってくださるだけでいいのです。どこに伏兵がいるか、敵の弱点はどこか、それを教えていただきたいのです」
「……軍師ごっこ、か」
「はい。そして、武器や物資も、わたくしでは用意できません。通販魔法で、現地に送っていただけないでしょうか。強力な剣や鎧、回復薬があれば、わたくしでも戦えます」
その提案は、俺の怠惰な脳を少しだけ刺激した。
家から一歩も出ずに、ディスプレイでリアルタイムの戦況を見ながら、遠隔でユニット(リリア)を操作し、チートアイテムを供給して無双させる。
それはまるで、リアルタイムストラテジーゲームだ。それも、神視点のチートプレイヤーとして参加するようなもの。
(……面白い、かもしれない)
面倒なのは嫌いだ。だが、退屈なのも、同じくらい嫌いだ。
この完璧な引きこもり生活は、快適すぎるが故に、少しだけ刺激に欠けていたのも事実だった。
外の世界のゴタゴタに首を突っ込むのは御免だが、安全な家の中から、ゲーム感覚で介入するだけなら、悪くない娯楽になるかもしれない。
何より、このままリリアの頼みを断り続けて、彼女が毎日鬱々とした顔で過ごすようになれば、この家の居心地のいい空気が損なわれる。それは、俺の平穏にとってマイナスだ。ここで一つ貸しを作っておけば、今後の生活がよりスムーズになるという打算もあった。
俺は腕を組み、ふむ、と考え込むふりをした。
リリアが固唾をのんで、俺の返事を待っている。フィーもいつの間にか研究を中断し、興味深そうに俺たちのやり取りを見守っていた。キッチンからは、モカが心配そうにこちらを覗いている。
やがて、俺は重々しく口を開いた。
「……条件がある」
その言葉に、リリアの顔がぱっと輝いた。
「家から一歩も出ない。これは絶対だ。それから、これはあくまで、俺の退屈しのぎのゲームだということを忘れるな。俺が飽きたら、即座に手を引く。それでもいいか?」
「はい! もちろんです!」
「よし、交渉成立だ。やってやるよ、引きこもり軍師とやらを」
俺がそう言うと、リリアは「ありがとうございます……! ありがとうございます、ユータ様!」と、心の底から嬉しそうに、再び深々と頭を下げた。
話がまとまれば、行動は早い。
まず、リリアの装備を整える必要があった。
「リリア、お前の剣は?」
「追手から逃げる際に、失ってしまいました……」
「そうか。なら、新しいのを買ってやる」
俺は通販魔法で、王都で一番と評判の武具屋のカタログをディスプレイに表示させた。そこには、ミスリル製の剣やら、オリハルコンの鎧やら、涎が出そうな高級品がずらりと並んでいる。
「予算は気にしなくていい。好きなのを選べ」
「え、ええ!? こ、こんな高価なもの……!」
「ユニットの初期装備が貧弱だと、ゲームの難易度が上がるだろうが。さっさと選べ」
俺が促すと、リリアはおずおずと、しかし剣士の目で真剣に武器を選び始めた。最終的に彼女が選んだのは、軽量で扱いやすい、美しい装飾が施されたミスリル製の細剣だった。俺はついでに、同じくミスリル製の軽量な胸当てと手甲、そして最高級の回復薬(ポーション)をダース単位で購入し、すべてをリリアの目の前に転送した。
「こ、これが……わたくしの新しい力……」
真新しい剣を手に、リリアは武者震いしている。
「ユータさん、お待ちを!」
そこへ、フィーが口を挟んできた。
「既製品の武具では、あなたの力の十分の一も引き出せません! このフィーにお任せいただければ、錬金工房で、彼女専用の、最高の武具を創り上げてみせます!」
「ほう? チューンナップもできるのか。ますますゲームっぽくなってきたな」
俺はにやりと笑った。
「いいだろう、フィー。やってみろ。最高の逸品を期待する」
「お任せください!」
フィーはリリアと彼女の新しい武具を連れて、意気揚々と工房へと消えていった。
「ご主人様、お昼ご飯ができましたけど……」
ステーキ丼の乗ったお盆を持ったモカが、おずおずと声をかけてくる。
「ああ、すまん。今、それどころじゃない」
俺はモカにそう言うと、ディスプレイに向き直った。
「さて、と。まずは、戦場の情報収集からだな」
俺はディスプレイに、エルム村周辺の地理情報を、可能な限り詳細に表示させた。地形、森の深さ、川の流れ、そして、ゴブリンたちの布陣。
すべての情報が、俺の頭の中にインプットされていく。
「……なるほどな。こりゃ、素人がまともにやり合って勝てる相手じゃない」
ゴブリンたちは、数に任せて無秩序に攻めているわけではなかった。狡猾なリーダーに率いられ、村の弱点を的確に突き、補給路を断つように包囲網を敷いている。
だが、神の視点を持つ俺の目から見れば、その布陣は穴だらけだった。
「面白い。実に、面白いじゃないか」
俺の口元に、不敵な笑みが浮かんだ。
それは、これから始まる虐殺(ゲーム)を前にした、絶対的な強者の笑みだった。
引きこもり軍師、ユータ。
初陣の相手は、百匹のゴブリン。
俺の理想の引きこもり生活を守るための、初めてのリモートワークが、今、始まろうとしていた。
「はい、ご主人様! かしこまりました!」
ソファの上で寝返りを打ちながら、俺は壁のディスプレイに映し出したオーロラの映像をぼんやりと眺めていた。完璧な引きこもりファームが稼働して以来、我が家の食生活はもはや王侯貴族のそれを遥かに凌駕している。
モカは俺の怠惰なリクエストに、嬉しそうに尻尾を揺らしながらキッチンへと向かっていく。彼女にとって、最高の食材で最高の料理を作り、俺に「うまい」と言わせることが、何よりの喜びになっているようだった。
傍らでは、フィーが工房から持ち帰った資料の山に埋もれ、「この数式を応用すれば、温泉の源泉温度をコンマ一度単位で自動制御できるはず……!」などとブツブツ呟いている。
そして、リビングのもう一方のソファでは、リリアが神妙な面持ちで一枚の羊皮紙を読んでいた。それは、俺が通販魔法で王都から定期的に取り寄せてやっている、最新の新聞だ。彼女が故郷の情勢を知るための、数少ない情報源だった。
平和な午後。
穏やかな空気。
これぞ俺が望んだ、理想の世界だ。
そう、思っていたのだが。
「……ひどい」
ぽつりと、リリアの口からか細い声が漏れた。その声には、怒りと悲しみが滲んでいる。
俺は億劫そうにそちらに視線を向けた。
「どうした、リリア。またお前の叔父さんが何かやらかしたのか?」
「……これを見てくださいまし」
リリアは立ち上がると、震える手で新聞を俺の前に差し出した。俺は寝転がったまま、首だけを動かしてその記事に目を通す。
見出しには、『辺境のエルム村、ゴブリンの大群に襲われ壊滅の危機』とあった。
記事によると、百匹を超える大規模なゴブリンの群れが、アルトリア王国の西の辺境にあるエルム村を襲撃し、村は完全に包囲されているという。村の男たちは必死に抵抗しているが、多勢に無勢。王都に救援要請を送ったものの、グレン公爵率いる現政権は「辺境の些事」として、これを黙殺。騎士団を派遣する気配は全くないらしい。このままでは、村が陥落し、住民が皆殺しにされるのも時間の問題だと書かれていた。
「エルム村は……わたくしがまだ幼い頃、侍女と二人でお忍びで訪れたことがあるのです」
リリアは、遠い目をして語り始めた。
「村の人々は、わたくしが王女とは知らずに、とても親切にしてくれました。リンゴを分けてくれたお婆さん、木登りを教えてくれた悪ガキたち……。皆、貧しいながらも、懸命に生きていた。そんな彼らが、見殺しにされようとしているのです……!」
その声は、悲痛な響きを帯びていた。美しい顔は青ざめ、拳を固く握りしめている。
俺は「ふーん」と気のない返事をすると、再びディスプレイのオーロラに視線を戻した。
「可哀想な話だな。だが、俺には関係ない」
「なっ……!」
俺のあまりに冷淡な態度に、リリアは言葉を失った。
「関係なくなどありません! ユータ様のそのお力があれば、ゴブリンの大群など、きっと瞬く間に追い払えるはずです! どうか、どうか彼らを助けてはいただけませんか!?」
リリアは、俺の前にひざまずき、深く頭を下げた。その金色の髪が、床に触れる。
「この通り、お願いいたします!」
その姿は、数週間前にこの家に逃げ込んできた時と同じ、必死さと悲壮感に満ちていた。
だが、俺の心は動かない。
「断る。何度も言わせるな。俺は家から一歩も出ない。エルム村とやらがどこにあるのか知らんが、そんな遠い場所まで出向くなんて、冗談じゃない」
「ですが……!」
「それに、俺は正義の味方じゃない。ゴブリンに襲われてる奴らが可哀想だから助ける、なんて殊勝な考えは、残念ながら持ち合わせていないんでね」
俺は冷たく言い放ち、完全に彼女に背を向けた。
これで、話は終わりだ。彼女も、俺の性格はもう理解しているはずだ。これ以上、無駄な問答は続かないだろう。
しかし。
「……ユータ様が、家からお出になる必要はありません」
背後から聞こえてきたのは、諦めの言葉ではなかった。静かだが、強い意志を秘めた声だった。
俺は意外に思い、ゆっくりと振り返る。
リリアは、顔を上げていた。その瞳には涙が浮かんでいたが、もはや懇願の色はない。代わりに、交渉人のような、真剣な光が宿っていた。
「わたくしが、一人で行きます」
「……ほう?」
予想外の言葉に、俺は少しだけ興味をそそられた。
「お前一人で、百匹のゴブリン相手に何ができるって言うんだ?」
「もちろん、今のわたくし一人では何もできません。ですが、ユータ様のお力添えがあれば、話は別です」
リリアは、まっすぐに俺の目を見据えて続けた。
「ユータ様は、この安全な家の中から、ディスプレイで戦場の様子を見て、わたくしに指示を送ってくださるだけでいいのです。どこに伏兵がいるか、敵の弱点はどこか、それを教えていただきたいのです」
「……軍師ごっこ、か」
「はい。そして、武器や物資も、わたくしでは用意できません。通販魔法で、現地に送っていただけないでしょうか。強力な剣や鎧、回復薬があれば、わたくしでも戦えます」
その提案は、俺の怠惰な脳を少しだけ刺激した。
家から一歩も出ずに、ディスプレイでリアルタイムの戦況を見ながら、遠隔でユニット(リリア)を操作し、チートアイテムを供給して無双させる。
それはまるで、リアルタイムストラテジーゲームだ。それも、神視点のチートプレイヤーとして参加するようなもの。
(……面白い、かもしれない)
面倒なのは嫌いだ。だが、退屈なのも、同じくらい嫌いだ。
この完璧な引きこもり生活は、快適すぎるが故に、少しだけ刺激に欠けていたのも事実だった。
外の世界のゴタゴタに首を突っ込むのは御免だが、安全な家の中から、ゲーム感覚で介入するだけなら、悪くない娯楽になるかもしれない。
何より、このままリリアの頼みを断り続けて、彼女が毎日鬱々とした顔で過ごすようになれば、この家の居心地のいい空気が損なわれる。それは、俺の平穏にとってマイナスだ。ここで一つ貸しを作っておけば、今後の生活がよりスムーズになるという打算もあった。
俺は腕を組み、ふむ、と考え込むふりをした。
リリアが固唾をのんで、俺の返事を待っている。フィーもいつの間にか研究を中断し、興味深そうに俺たちのやり取りを見守っていた。キッチンからは、モカが心配そうにこちらを覗いている。
やがて、俺は重々しく口を開いた。
「……条件がある」
その言葉に、リリアの顔がぱっと輝いた。
「家から一歩も出ない。これは絶対だ。それから、これはあくまで、俺の退屈しのぎのゲームだということを忘れるな。俺が飽きたら、即座に手を引く。それでもいいか?」
「はい! もちろんです!」
「よし、交渉成立だ。やってやるよ、引きこもり軍師とやらを」
俺がそう言うと、リリアは「ありがとうございます……! ありがとうございます、ユータ様!」と、心の底から嬉しそうに、再び深々と頭を下げた。
話がまとまれば、行動は早い。
まず、リリアの装備を整える必要があった。
「リリア、お前の剣は?」
「追手から逃げる際に、失ってしまいました……」
「そうか。なら、新しいのを買ってやる」
俺は通販魔法で、王都で一番と評判の武具屋のカタログをディスプレイに表示させた。そこには、ミスリル製の剣やら、オリハルコンの鎧やら、涎が出そうな高級品がずらりと並んでいる。
「予算は気にしなくていい。好きなのを選べ」
「え、ええ!? こ、こんな高価なもの……!」
「ユニットの初期装備が貧弱だと、ゲームの難易度が上がるだろうが。さっさと選べ」
俺が促すと、リリアはおずおずと、しかし剣士の目で真剣に武器を選び始めた。最終的に彼女が選んだのは、軽量で扱いやすい、美しい装飾が施されたミスリル製の細剣だった。俺はついでに、同じくミスリル製の軽量な胸当てと手甲、そして最高級の回復薬(ポーション)をダース単位で購入し、すべてをリリアの目の前に転送した。
「こ、これが……わたくしの新しい力……」
真新しい剣を手に、リリアは武者震いしている。
「ユータさん、お待ちを!」
そこへ、フィーが口を挟んできた。
「既製品の武具では、あなたの力の十分の一も引き出せません! このフィーにお任せいただければ、錬金工房で、彼女専用の、最高の武具を創り上げてみせます!」
「ほう? チューンナップもできるのか。ますますゲームっぽくなってきたな」
俺はにやりと笑った。
「いいだろう、フィー。やってみろ。最高の逸品を期待する」
「お任せください!」
フィーはリリアと彼女の新しい武具を連れて、意気揚々と工房へと消えていった。
「ご主人様、お昼ご飯ができましたけど……」
ステーキ丼の乗ったお盆を持ったモカが、おずおずと声をかけてくる。
「ああ、すまん。今、それどころじゃない」
俺はモカにそう言うと、ディスプレイに向き直った。
「さて、と。まずは、戦場の情報収集からだな」
俺はディスプレイに、エルム村周辺の地理情報を、可能な限り詳細に表示させた。地形、森の深さ、川の流れ、そして、ゴブリンたちの布陣。
すべての情報が、俺の頭の中にインプットされていく。
「……なるほどな。こりゃ、素人がまともにやり合って勝てる相手じゃない」
ゴブリンたちは、数に任せて無秩序に攻めているわけではなかった。狡猾なリーダーに率いられ、村の弱点を的確に突き、補給路を断つように包囲網を敷いている。
だが、神の視点を持つ俺の目から見れば、その布陣は穴だらけだった。
「面白い。実に、面白いじゃないか」
俺の口元に、不敵な笑みが浮かんだ。
それは、これから始まる虐殺(ゲーム)を前にした、絶対的な強者の笑みだった。
引きこもり軍師、ユータ。
初陣の相手は、百匹のゴブリン。
俺の理想の引きこもり生活を守るための、初めてのリモートワークが、今、始まろうとしていた。
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