異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ

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第30話 招かれざる魔法結社

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「ユータさん、敵は、おそらく古代魔法の探求を目的とする、非合法の魔法結社『黄昏の蛇』の者たちかと思われます」

フィーが、冷静な声で分析結果を報告する。彼女は、工房から持ち出した巨大な水晶玉に、侵入者たちの魔力の波形を映し出し、その特徴から、彼らの正体を割り出したらしい。
「『黄昏の蛇』……。聞いたこともない名前ですわね」
リリアが、訝しげに眉をひそめる。
「当然です。彼らは、歴史の表舞台には決して姿を現しません。失われた古代魔法を復活させるためなら、禁断の人体実験や、遺跡の盗掘など、いかなる非道な手段も厭わない、危険な魔術師の集団。各国の王家からも、危険思想団体として指名手配されています」
「そんな奴らが、何のためにこの家に?」
「目的は、おそらく、この『家』そのものでしょう」
フィーは、きっぱりと言い切った。
「炎将軍を退け、Aランク冒険者を赤子扱いする、規格外の力。彼らにとって、この家は、失われた古代文明の遺産、あるいは、未知の魔法体系の源泉に見えるはずです。研究対象として、喉から手が出るほど欲しいに違いありません」
「迷惑な話だな。人の家を、実験サンプルみたいに言うな」
俺は、心底うんざりして、ソファの上で寝返りを打った。
ディスプレイの中では、黒ローブの集団が、フィーの作った迷いの森を、着実に突破しつつあった。彼らは、リーダーらしき男の指示に従い、一糸乱れぬ連携で空間魔法を行使している。その練度は、非常に高い。
「……どうやら、ただのチンピラじゃなさそうだな」
俺の呟きに、リビングの空気が、わずかに緊張する。
「リリア、フィー。また、お前たちの出番だ」
「はい」
「承知いたしました」
二人は、もはや慣れた様子で、静かに立ち上がった。
「だが、今回は、少し趣向を変える」
俺は、にやりと、口の端を吊り上げた。
「前回のように、正面から叩き潰すだけじゃ、芸がない。それに、相手は空間魔法の使い手だ。下手に近づけば、どこへ飛ばされるか分かったもんじゃない。だから――」
俺は、ヒロインたちに、新たな『ゲーム』のルールを告げた。
「お前たちは、家から出るな。今回は、俺の新しいオモチャの、性能テストに付き合ってもらう」



「――団長! 見えてきました! あれが、噂の『賢者の家』です!」

黒ローブの集団の一人が、興奮した声で、森の奥に見えてきた一軒家を指さした。
団長と呼ばれた、ひときわ背の高い男は、フードの奥の目を細め、その家を観察する。
「……ふむ。確かに、強力な結界が張られている。だが、我らの『次元回廊』の前では、無意味だ。この程度の守り、こじ開けるのは、赤子の手をひねるより容易い」
団長は、自信に満ちた声で、そう断言した。
彼ら『黄昏の蛇』は、空間魔法を極めたエリート集団だ。物理的な壁も、魔法的な障壁も、彼らにとっては、ただの『座標』の違いでしかない。
「よし、全-160-員、最終準備にかかれ! これから、この聖域の『扉』を、我らの手でこじ開ける! 中にいる賢者とやらを生け捕りにし、この家の秘密、すべてを我らのものとするのだ!」
「「「はっ!」」」
団長の号令に、ローブの魔術師たちが、一斉に詠唱を開始した。
彼らの周囲の空間が、ぐにゃり、と歪み始める。家の不可視の結界を、無視して、その内側へと直接繋がる、異次元のトンネルを、無理やり穿とうとしているのだ。
「――『次元の扉(ディメンション・ドア)』、開け!」
団長が高らかに宣言した、その瞬間だった。
家の庭の地面が、突然、音もなく、幾何学的な模様に光り始めた。
それは、フィーが、俺の魔力を使って、昨夜のうちに仕掛けておいた、トラップ魔法陣だった。
「なっ!? これは……転移魔法陣!?」
団長が、異変に気づいた時には、すでに手遅れだった。
魔法陣は、まばゆい光を放ち、その場にいた『黄昏の蛇』のメンバー全員を、一瞬にして包み込んだ。
「ぐわあああっ!?」
彼らが悲鳴を上げる間もなく、その姿は、光と共に、その場から掻き消えていた。



「……さて、と。第一ラウンドは、こっちのもらい、だな」
俺は、リビングのディスプレイを眺めながら、満足げに頷いた。
画面には、先ほどまで黒ローブの集団がいた場所が、もぬけの殻になっている様子が映し出されている。
「フィーの転移魔法陣、見事に作動したな」
「当然です。あなたの無尽蔵の魔力で駆動する、多重連鎖型の強制転移トラップです。並の魔術師では、抵抗することすら不可能ですよ」
フィーが、少し得意げに胸を張る。
「それで、ユータ様。彼らは、どこへ転送されたのですか?」
リリアが、不思議そうに尋ねた。
俺は、ディスプレイの画面を、指でスワイプするような仕草で、切り替えた。
そこに映し出されたのは、見覚えのある、広大な空間だった。
巨大なガラスドームに覆われ、整然と区画整理された畑が、どこまでも続いている。
「……ここは、家の裏の、農場?」
「ああ。ゲームの舞台を、こっちに移しただけだ」
俺は、にやりと笑った。
そう。俺は、敵を、わざわざ、家の敷地内――俺の『絶対領域』の、ど真ん中に、転送したのだ。



「……ここは、どこだ?」

『黄昏の蛇』の団長は、混乱する頭で、周囲を見渡した。
さっきまでいたはずの薄暗い森とは、全く違う。明るい光に満たされ、清潔で、どこまでも広がる、巨大な温室のような場所。
そして、目の前には、整然と並ぶ、奇妙な人形たちが、静かにこちらを見つめていた。
土と石でできた、カカシのような人形。
その数は、ざっと見て、百体以上。
「……ゴーレム、か? だが、何だ、この数は……」
団長が、呆然と呟いた、その時。
どこからともなく、スピーカーを通したような、気怠げな声が、温室全体に響き渡った。
『――ようこそ、お客様。我が家の、自慢の農場へ』
その声の主が、この家の賢者だと、団長は直感した。
「……何者だ、貴様! 我々を、どこへ連れてきた!」
『言っただろ。俺の家の、庭だよ。お前らは、招かれざる客だ。だが、せっかく来てくれたんだ。少し、遊んでいってやる』
その、どこまでも相手を見下した、絶対者の声。
『――性能テスト、開始。農業ゴーレム軍団、起動。目標、目の前の不法侵入者。モード、『害虫駆除』』
その声が終わると同時に。
広大な農場に整然と並んでいた、百体以上の農業ゴーレムたちが、一斉に、その無機質な頭を、ぐりん、と、『黄昏の蛇』のメンバーたちへと向けた。
そして、その手に持っていた、農具――鍬、鎌、鋤――を、ゆっくりと、しかし、確かな殺意を持って、構えた。
「ひ……ひいいいっ!」
ローブの魔術師の一人が、その異様な光景に、恐怖の悲鳴を上げた。
「う、うろたえるな! たかが、泥人形だ! 魔法で、一掃してやれ!」
団長が檄を飛ばす。
魔術師たちは、一斉に、ゴーレムたちに向かって、攻撃魔法を放った。
炎の矢が、氷の槍が、風の刃が、ゴーレム軍団へと殺到する。
だが。
ゴーレムたちは、その攻撃を、避けるそぶりすら見せない。
魔法は、ゴーレムたちの土の体に直撃し、土煙を上げる。
「やったか!?」
だが、煙が晴れた時、魔術師たちは、絶望に目を見開いた。
ゴーレムたちは、無傷だった。
いや、それどころか、浴びた魔法のエネルギーを吸収し、その体を、さらに硬く、さらに巨大化させているようにすら見えた。
「ば、馬鹿な!? 魔法が、効かない!?」
『――残念だったな。そいつらは、俺が昨日、フィーと一緒に改良した、対魔法装甲付きの、最新モデルだ。お前ら程度の魔法、栄養分にしかならん』
賢者の、嘲笑うかのような声が、再び、響き渡る。
「――さあ、第二ラウンドだ。存分に、味わうがいい。俺の家の、『家庭菜園』の、本当の恐ろしさをな」
その言葉を合図に。
百体を超える、農業ゴーレム軍団が、地響きを立てて、一斉に、『黄昏の蛇』のメンバーたちへと、襲いかかった。
それは、もはや、戦いではなかった。
ただ、一方的な、蹂躙。
『害虫駆除』という名の、徹底的な、お掃除だった。
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