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第33話 絶対零度の来訪者
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「――ピヨ! ピヨ! ギャオー! ギャオーッ!」
ある日の朝。我が家の天気予報士であるピヨちゃんが、いつもとは全く違う、けたたましい鳴き声を上げて、家中を走り回っていた。
「どうしたんだ、ピヨちゃん。今日は嵐の予報か?」
俺が、ソファで寝ぼけ眼をこすりながら尋ねると、ピヨちゃんは俺の肩に飛び乗り、必死に翼をばたつかせながら、外の方向を嘴で指し示した。
「ユータ様! 大変です! 外が……!」
キッチンから飛び出してきたモカが、窓の外を指さして、青い顔で叫んだ。
俺たちが窓の外を見ると、そこには、信じられない光景が広がっていた。
夏だというのに。
緑豊かだったはずの森の木々が、家を中心とした半径数百メートルの範囲で、すべて、真っ白に、凍りついている。
地面は、分厚い氷に覆われ、まるで、巨大なスケートリンクのようだ。空気は、ガラスが割れるように張り詰め、吐く息が、白く染まる。
明らかに、異常気象などではない。
これは、極めて強力な、氷の魔法によるものだ。
「……なるほどな。嵐(ストーム)じゃなくて、氷(アイス)のお出ましか」
俺は、肩の上のピヨちゃんを撫でながら、冷静に呟いた。
ディスプレイを起動するまでもない。この異常現象の中心にいる人物は、一人しかいない。
魔王軍四天王、『氷将軍・アイゼン』。
その、冷たい殺意が、不可視の結界越しにすら、ひしひしと伝わってくる。
「……見事なものです」
工房から出てきたフィーが、凍てついた森の光景を眺め、学者としての感嘆の声を漏らした。
「この一帯の、熱エネルギーそのものを、根こそぎ奪い去っている。空間そのものを、絶対零度に近い状態へと変貌させているのです。これは、もはや、魔法というより、物理法則の書き換えに近い。炎将軍グレンデルとは、次元が違います」
「フィー様! 感心している場合ではありませんわ!」
リリアが、黄金の鎧と白銀の盾を身につけながら、焦ったように叫んだ。彼女の体からは、神器の力か、あるいは、王族としての威光か、寒さを感じさせないオーラが立ち上っている。
「このままでは、家の結界も……!」
リリアの懸念は、もっともだった。
家の外壁が、ミシミシ、と、嫌な音を立て始めた。外壁を覆う氷が、その体積を膨張させ、家そのものを、内側から圧し潰そうとしているのだ。
『絶対安全領域』は、外部からの直接的な攻撃は完全に無効化する。だが、今回のように、周囲の環境そのものを、極低温という『状態異常』に書き換えられた場合、話は別かもしれない。
家の内部の温度は、俺のスキルで快適に保たれている。だが、家の『外側』は、今、確実に、氷の脅威に晒されていた。
「……なるほど。力任せの馬鹿とは、一味違うな」
俺は、ようやく、事態の深刻さを、少しだけ、認識した。
こいつは、今までの連中とは違う。
家のドアをノックするのではなく、家が建っている地面ごと、冷凍保存しようとしているのだ。
実に、陰湿で、そして、効果的な攻撃だった。
◇
「……どうだ」
凍てついた森の中心で、氷将軍アイゼンは、静かに呟いた。
彼の周囲には、絶対零度の冷気が、オーラのように渦巻いている。彼が立つ地面には、草一本、生えていない。あらゆる生命が、彼の前では、活動を停止する。
「いかなる結界も、この『絶対凍土(コキュートス)』の前では、無意味。分子の運動を停止させれば、魔法の術式も、その構造を維持することはできない。やがて、その亀裂から、我が冷気が侵入し、中のすべてを、永遠の氷像へと変えてくれるだろう」
彼は、氷の芸術家が、自らの作品の完成を待つように、静かに、その時を待っていた。
彼の計算では、あと数時間もすれば、家の結界に最初の亀裂が入り、半日後には、完全に崩壊するはずだった。
賢者とやらが、どのような魔法の使い手であろうと、この、逃げ場のない、絶対的な死からは、逃れることはできない。
それが、彼の、絶対的な自信だった。
彼は、凍てつく木々が、風も無いのに、きいきいと悲鳴を上げる音を、BGM代わりに聞きながら、ゆっくりと、目を閉じた。
◇
「……まずいな。このままだと、家が物理的に圧し潰されるぞ」
俺は、ソファから立ち上がり、ミシミシと音を立てる壁を見つめた。
「ユータ様! わたくしが、外に出て、あの男を!」
リリアが、剣の柄に手をかけ、勇ましく申し出る。
「駄目だ」
俺は、即座に、それを却下した。
「相手は、空間そのものを凍らせる化け物だ。お前が外に出た瞬間、鎧ごと、一瞬で冷凍マグロにされるのがオチだ」
「で、ですが、このままでは……!」
「ご主人様……! 家が、壊れちゃいます……!」
モカが、泣きそうな顔で、俺にすがりついてくる。
リビングの空気に、初めて、焦りと、絶望の色が、濃く、立ち込めた。
俺も、内心、少しだけ、焦っていた。
この『絶対安全領域』は、完璧だと思っていた。だが、まさか、こんな攻められ方があったとは。盲点だった。
どうする。
どうすれば、この状況を、打開できる。
家の外に出ずに。
安全な、家の中から。
この、絶対零度の脅威を、排除できる、方法は……。
「…………ん?」
俺の脳裏に、ふと、一つの光景が、浮かんだ。
それは、数日前に、俺自身が、この家に創り出した、ある施設。
極上の癒し空間。
疲労回復と、魔力回復の湯。
そして、その施設が、大量に生み出す、副産物。
高温の、蒸気。
「…………くくっ」
俺の口から、思わず、笑いが漏れた。
「あ、そうだ。なんだ、灯台下暗し、とは、このことか」
「ユータ様……?」
リ・-162-リアたちが、怪訝な顔で、俺を見る。
俺は、彼女たちの不安を、一掃するかのように、にやりと、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「お前ら、見てろ。今から、この家で、一番、温かいもので、あのアイス野郎を、もてなしてやる」
俺は、家の裏手、先日完成したばかりの、温泉郷に、意識を集中させた。
そして、念じる。
『温泉施設の、ボイラー室、及び、配管システム、全機能、最大出力! 沸騰させた源泉の、高温高圧の蒸気を、家の外壁に設置した、全方位排気口から、一斉に、放出せよ!』
その瞬間。
家の外壁の、いたるところに、見えなかった排気口が、姿を現した。
そして、次の瞬間。
シューーーーーーーーーーッ!
という、凄まじい音と共に。
摂氏数百度に達する、超高温の蒸気が、全方位に向かって、一斉に、噴射された。
それは、まるで、家そのものが、巨大な蒸気機関車になったかのような、圧巻の光景。
絶対零度に凍てついていた、家の周囲の空間が、その、暴力的なまでの熱量によって、一瞬にして、飽和状態の蒸気に、包み込まれた。
真っ白な蒸気が、森全体を覆い尽くし、視界を、完全に、奪っていく。
◇
「……なんだ、この熱は」
瞑想していたアイゼンは、突然の、急激な温度変化に、目を見開いた。
さっきまで、絶対零度の、静寂の世界だったはずが、今は、まるで、巨大なサウナの中に放り込まれたかのような、灼熱と、高湿度の地獄へと、変貌している。
彼が作り出した氷の森は、高温の蒸気に触れた瞬間に、凄まじい音を立てて溶け、蒸発していく。
ジュウウウウウウウウ!
という音が、森のいたるところで鳴り響き、彼の自慢の『絶対凍土』が、みるみるうちに、解除されていく。
「馬鹿な……! 俺の冷気が、熱で、中和されているだと!?」
それだけではない。
彼の、氷で構成された体そのものが、この灼熱の蒸気によって、ダメージを受け始めていた。
体の表面が、じゅうじゅうと音を立てて、溶けていく。
「ぐ……! あ……ああああああっ!」
アイゼンは、生まれて初めて、自らの体が『溶ける』という、屈辱的な苦痛に、悲鳴を上げた。
彼は、慌てて、さらに強力な冷気を放ち、自分の体を守ろうとする。
だが、無駄だった。
家から供給される蒸気は、無限だ。
温泉の源泉がある限り、いくらでも、熱を、生み出すことができる。
冷気と、蒸気。
氷と、熱。
二つの、相反する力が、壮絶な、消耗戦を繰り広げる。
だが、その勝敗は、火を見るよりも、明らかだった。
やがて。
「……はあ……はあ……」
アイゼンは、膝をつき、荒い息を吐いていた。
彼の体は、あちこちが溶け、もはや、原型を留めていない。自慢の氷のローブも、ぼろぼろだ。
魔力も、ほとんど、残っていない。
一方、家から噴射される蒸気の勢いは、一向に、衰える気配がない。
「……完敗、か」
アイゼンは、乾いた笑いを漏らした。
力任せのグレンデルを、馬鹿にしていた、自分自身が。
まさか、こんな、原始的な、『熱』という力に、敗北するとは。
彼は、ふらつきながら、立ち上がった。
そして、この屈辱を、魔王様に報告するため、最後の力を振り絞り、転移魔法で、その場から、撤退した。
後に残されたのは、氷が溶けて、水浸しになった、生暖かい森と。
そして、何事もなかったかのように、静かに佇む、一軒の家だけだった。
「……ふう。これで、一件落着、だな」
俺は、リビングで、湯上がりのフルーツ牛乳を飲みながら、満足げに呟いた。
「家の周りが、少し、湿っぽくなっちまったが。まあ、ピヨちゃんの予報通り、明日には、晴れて乾くだろ」
俺の、あまりにも、のんきな一言。
それを聞いたヒロインたちは、ただ、顔を見合わせ、深いため息をつくことしか、できなかった。
魔王軍四天王、二人目。
氷将軍アイゼンは、こうして、我が家の、新設された温泉施設の、排熱蒸気によって、完璧に、そして、あまりにもあっけなく、撃退されたのだった。
ある日の朝。我が家の天気予報士であるピヨちゃんが、いつもとは全く違う、けたたましい鳴き声を上げて、家中を走り回っていた。
「どうしたんだ、ピヨちゃん。今日は嵐の予報か?」
俺が、ソファで寝ぼけ眼をこすりながら尋ねると、ピヨちゃんは俺の肩に飛び乗り、必死に翼をばたつかせながら、外の方向を嘴で指し示した。
「ユータ様! 大変です! 外が……!」
キッチンから飛び出してきたモカが、窓の外を指さして、青い顔で叫んだ。
俺たちが窓の外を見ると、そこには、信じられない光景が広がっていた。
夏だというのに。
緑豊かだったはずの森の木々が、家を中心とした半径数百メートルの範囲で、すべて、真っ白に、凍りついている。
地面は、分厚い氷に覆われ、まるで、巨大なスケートリンクのようだ。空気は、ガラスが割れるように張り詰め、吐く息が、白く染まる。
明らかに、異常気象などではない。
これは、極めて強力な、氷の魔法によるものだ。
「……なるほどな。嵐(ストーム)じゃなくて、氷(アイス)のお出ましか」
俺は、肩の上のピヨちゃんを撫でながら、冷静に呟いた。
ディスプレイを起動するまでもない。この異常現象の中心にいる人物は、一人しかいない。
魔王軍四天王、『氷将軍・アイゼン』。
その、冷たい殺意が、不可視の結界越しにすら、ひしひしと伝わってくる。
「……見事なものです」
工房から出てきたフィーが、凍てついた森の光景を眺め、学者としての感嘆の声を漏らした。
「この一帯の、熱エネルギーそのものを、根こそぎ奪い去っている。空間そのものを、絶対零度に近い状態へと変貌させているのです。これは、もはや、魔法というより、物理法則の書き換えに近い。炎将軍グレンデルとは、次元が違います」
「フィー様! 感心している場合ではありませんわ!」
リリアが、黄金の鎧と白銀の盾を身につけながら、焦ったように叫んだ。彼女の体からは、神器の力か、あるいは、王族としての威光か、寒さを感じさせないオーラが立ち上っている。
「このままでは、家の結界も……!」
リリアの懸念は、もっともだった。
家の外壁が、ミシミシ、と、嫌な音を立て始めた。外壁を覆う氷が、その体積を膨張させ、家そのものを、内側から圧し潰そうとしているのだ。
『絶対安全領域』は、外部からの直接的な攻撃は完全に無効化する。だが、今回のように、周囲の環境そのものを、極低温という『状態異常』に書き換えられた場合、話は別かもしれない。
家の内部の温度は、俺のスキルで快適に保たれている。だが、家の『外側』は、今、確実に、氷の脅威に晒されていた。
「……なるほど。力任せの馬鹿とは、一味違うな」
俺は、ようやく、事態の深刻さを、少しだけ、認識した。
こいつは、今までの連中とは違う。
家のドアをノックするのではなく、家が建っている地面ごと、冷凍保存しようとしているのだ。
実に、陰湿で、そして、効果的な攻撃だった。
◇
「……どうだ」
凍てついた森の中心で、氷将軍アイゼンは、静かに呟いた。
彼の周囲には、絶対零度の冷気が、オーラのように渦巻いている。彼が立つ地面には、草一本、生えていない。あらゆる生命が、彼の前では、活動を停止する。
「いかなる結界も、この『絶対凍土(コキュートス)』の前では、無意味。分子の運動を停止させれば、魔法の術式も、その構造を維持することはできない。やがて、その亀裂から、我が冷気が侵入し、中のすべてを、永遠の氷像へと変えてくれるだろう」
彼は、氷の芸術家が、自らの作品の完成を待つように、静かに、その時を待っていた。
彼の計算では、あと数時間もすれば、家の結界に最初の亀裂が入り、半日後には、完全に崩壊するはずだった。
賢者とやらが、どのような魔法の使い手であろうと、この、逃げ場のない、絶対的な死からは、逃れることはできない。
それが、彼の、絶対的な自信だった。
彼は、凍てつく木々が、風も無いのに、きいきいと悲鳴を上げる音を、BGM代わりに聞きながら、ゆっくりと、目を閉じた。
◇
「……まずいな。このままだと、家が物理的に圧し潰されるぞ」
俺は、ソファから立ち上がり、ミシミシと音を立てる壁を見つめた。
「ユータ様! わたくしが、外に出て、あの男を!」
リリアが、剣の柄に手をかけ、勇ましく申し出る。
「駄目だ」
俺は、即座に、それを却下した。
「相手は、空間そのものを凍らせる化け物だ。お前が外に出た瞬間、鎧ごと、一瞬で冷凍マグロにされるのがオチだ」
「で、ですが、このままでは……!」
「ご主人様……! 家が、壊れちゃいます……!」
モカが、泣きそうな顔で、俺にすがりついてくる。
リビングの空気に、初めて、焦りと、絶望の色が、濃く、立ち込めた。
俺も、内心、少しだけ、焦っていた。
この『絶対安全領域』は、完璧だと思っていた。だが、まさか、こんな攻められ方があったとは。盲点だった。
どうする。
どうすれば、この状況を、打開できる。
家の外に出ずに。
安全な、家の中から。
この、絶対零度の脅威を、排除できる、方法は……。
「…………ん?」
俺の脳裏に、ふと、一つの光景が、浮かんだ。
それは、数日前に、俺自身が、この家に創り出した、ある施設。
極上の癒し空間。
疲労回復と、魔力回復の湯。
そして、その施設が、大量に生み出す、副産物。
高温の、蒸気。
「…………くくっ」
俺の口から、思わず、笑いが漏れた。
「あ、そうだ。なんだ、灯台下暗し、とは、このことか」
「ユータ様……?」
リ・-162-リアたちが、怪訝な顔で、俺を見る。
俺は、彼女たちの不安を、一掃するかのように、にやりと、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「お前ら、見てろ。今から、この家で、一番、温かいもので、あのアイス野郎を、もてなしてやる」
俺は、家の裏手、先日完成したばかりの、温泉郷に、意識を集中させた。
そして、念じる。
『温泉施設の、ボイラー室、及び、配管システム、全機能、最大出力! 沸騰させた源泉の、高温高圧の蒸気を、家の外壁に設置した、全方位排気口から、一斉に、放出せよ!』
その瞬間。
家の外壁の、いたるところに、見えなかった排気口が、姿を現した。
そして、次の瞬間。
シューーーーーーーーーーッ!
という、凄まじい音と共に。
摂氏数百度に達する、超高温の蒸気が、全方位に向かって、一斉に、噴射された。
それは、まるで、家そのものが、巨大な蒸気機関車になったかのような、圧巻の光景。
絶対零度に凍てついていた、家の周囲の空間が、その、暴力的なまでの熱量によって、一瞬にして、飽和状態の蒸気に、包み込まれた。
真っ白な蒸気が、森全体を覆い尽くし、視界を、完全に、奪っていく。
◇
「……なんだ、この熱は」
瞑想していたアイゼンは、突然の、急激な温度変化に、目を見開いた。
さっきまで、絶対零度の、静寂の世界だったはずが、今は、まるで、巨大なサウナの中に放り込まれたかのような、灼熱と、高湿度の地獄へと、変貌している。
彼が作り出した氷の森は、高温の蒸気に触れた瞬間に、凄まじい音を立てて溶け、蒸発していく。
ジュウウウウウウウウ!
という音が、森のいたるところで鳴り響き、彼の自慢の『絶対凍土』が、みるみるうちに、解除されていく。
「馬鹿な……! 俺の冷気が、熱で、中和されているだと!?」
それだけではない。
彼の、氷で構成された体そのものが、この灼熱の蒸気によって、ダメージを受け始めていた。
体の表面が、じゅうじゅうと音を立てて、溶けていく。
「ぐ……! あ……ああああああっ!」
アイゼンは、生まれて初めて、自らの体が『溶ける』という、屈辱的な苦痛に、悲鳴を上げた。
彼は、慌てて、さらに強力な冷気を放ち、自分の体を守ろうとする。
だが、無駄だった。
家から供給される蒸気は、無限だ。
温泉の源泉がある限り、いくらでも、熱を、生み出すことができる。
冷気と、蒸気。
氷と、熱。
二つの、相反する力が、壮絶な、消耗戦を繰り広げる。
だが、その勝敗は、火を見るよりも、明らかだった。
やがて。
「……はあ……はあ……」
アイゼンは、膝をつき、荒い息を吐いていた。
彼の体は、あちこちが溶け、もはや、原型を留めていない。自慢の氷のローブも、ぼろぼろだ。
魔力も、ほとんど、残っていない。
一方、家から噴射される蒸気の勢いは、一向に、衰える気配がない。
「……完敗、か」
アイゼンは、乾いた笑いを漏らした。
力任せのグレンデルを、馬鹿にしていた、自分自身が。
まさか、こんな、原始的な、『熱』という力に、敗北するとは。
彼は、ふらつきながら、立ち上がった。
そして、この屈辱を、魔王様に報告するため、最後の力を振り絞り、転移魔法で、その場から、撤退した。
後に残されたのは、氷が溶けて、水浸しになった、生暖かい森と。
そして、何事もなかったかのように、静かに佇む、一軒の家だけだった。
「……ふう。これで、一件落着、だな」
俺は、リビングで、湯上がりのフルーツ牛乳を飲みながら、満足げに呟いた。
「家の周りが、少し、湿っぽくなっちまったが。まあ、ピヨちゃんの予報通り、明日には、晴れて乾くだろ」
俺の、あまりにも、のんきな一言。
それを聞いたヒロインたちは、ただ、顔を見合わせ、深いため息をつくことしか、できなかった。
魔王軍四天王、二人目。
氷将軍アイゼンは、こうして、我が家の、新設された温泉施設の、排熱蒸気によって、完璧に、そして、あまりにもあっけなく、撃退されたのだった。
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