異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ

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第35話 招かれざる来訪者たち(団体様)

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氷将軍アイゼンとの一戦(というか一方的な温泉ミストサウナ攻撃)から、一ヶ月が経過した。
あの戦いの後、フィーが森全体に展開した『対ストーカー用・絶対防衛網』と、冒険者や魔法結社が広めてくれた悪評のおかげで、我が家を訪れる不届き者は、ぱったりと途絶えた。
ようやく、俺の理想としていた、完璧に平穏で、誰にも邪魔されない、引きこもり生活が、戻ってきたのだ。

「……んー、最高だ」

俺は、リビングのソファの上で、モカの膝枕を堪能しながら、うっとりと呟いた。
窓から差し込む木漏れ日は、穏やかで。
キッチンからは、モカがランチに作っているオムライスの、いい匂いがしてくる。
テーブルでは、リリアとフィーが、静かにお茶を飲みながら、チェスに興じている。
「チェックメイトですわ、フィー様」
「くっ……! またですか! あなた、いつの間に、こんなに強く……!」
「ユータ様から、兵法と定跡の基礎を教えていただきましたから」
「何ですって!? ユータさん、わたくしにも教えてください!」
「やだ。面倒くさい」
そんな、どこにでもある、平和な家庭の会話。
これだ。これこそが、俺が求めていた、至高の時間。
俺は、このまま、永遠に、この時間が続けばいい、と、心の底から願っていた。
だが、どうやら、この世界の『物語の神様』とやらは、俺に、安らかな隠居生活を送らせるつもりは、毛頭ないらしい。

その日。
我が家の平穏は、過去最大級の、団体客によって、無慈悲にも、打ち破られることになった。
ピコン、ピコン、ピコン、ピコン!
俺の脳内に、設置以来、初めてとなる、連続した、けたたましい警告音が鳴り響いた。
「……なんだ、今度は」
俺は、うんざりしながら、ディスプレイを起動した。
そこに映し出された光景に、俺は、思わず、目を見開いた。
森の、東西南北、すべての方向から。
同時に、複数の集団が、俺の家を目指して、進行してきていたのだ。
その数、少なくとも、四組。
東からは、アルトリア王国の、金の獅子の紋章を掲げた、一団の騎士たち。その先頭には、王族しか乗ることを許されない、豪奢な馬車がある。
西からは、純白のローブに身を包んだ、聖職者らしき一団。手には聖印を握りしめ、何やら厳かな聖歌を歌いながら、行進している。
南からは、様々な人種の、しかし、一様に、鋭い知性の光を宿した、学者風の一団。彼らは、様々な観測用の魔道具を手に、森の異常な魔力構造を、調査しながら進んでいる。
そして、北からは――。
禍々しい、紫色の軍旗。
その旗の下に集うのは、明らかに、人間ではない。オーク、ゴブリン、リザードマン。多種多様な魔族で構成された、小規模ながらも、精鋭部隊。
「……おいおい、嘘だろ」
俺は、思わず、呟いた。
「王国騎士団、教国の聖職者、魔法学院の調査団。そして、魔王軍の斥候部隊。……なんかの、お祭りか?」
「これは……!」
ディスプレイを覗き込んだリリアが、絶句した。
「東の馬車……あれは、我が父、国王陛下がお使いになる、御料車です! なぜ、父上が、こんな場所に!?」
「西の集団は、おそらく、聖教会の『聖遺物捜索隊』でしょう」
フィーが、冷静に、しかし、わずかに顔をしかめながら、付け加えた。
「彼らは、神の奇跡が宿るとされる、古代の聖遺物(アーティファクト)を、世界中から探し集めている、狂信的な集団です。おそらく、『賢者の家』そのものを、新たな聖遺物と見なしたのでしょう」
「南は、わたくしの古巣、王立魔法学院の、同僚たちですね。この森の、特異な魔力構造に、学術的な興味を引かれたに違いありません」
それぞれの、来訪の理由。
どれもこれも、俺にとっては、迷惑極まりない理由ばかりだ。
「……で、北の連中は、言うまでもないか」
斥候にしては、数が多すぎる。おそらく、これまでの敗北を踏まえ、本格的な戦闘を視野に入れた、威力偵察部隊だろう。
四方から、同時に、迫り来る、面倒事の塊。
「……どうする、ユータさん」
フィーが、俺の顔を窺うように、尋ねた。
「これだけの、多様な集団を、同時に相手にするのは、いくら、この家が安全だとはいえ……」
「そうだな」
俺は、腕を組み、少しだけ、考えた。
今までは、一組ずつ、個別に対応してきた。だが、今回は、そうはいかない。
下手に、一つの集団を攻撃すれば、それが、他の集団を刺激し、予期せぬ、連鎖反応を引き起こすかもしれない。
たとえば、俺たちが魔王軍を攻撃したのを、王国側が『賢者の家は、我々の味方である』と、勝手に解釈するかもしれない。
あるいは、王国騎士団を追い返したのを、魔王軍が『賢者と交渉の余地あり』と、勘違いするかもしれない。
それは、面倒だ。
俺は、誰の味方でもない。俺は、俺の、平穏の味方だ。
だから、取るべき行動は、一つしかない。
「……全員、平等に、追い返す」
俺は、きっぱりと、宣言した。
「相手が、王様だろうが、神父だろうが、魔物だろうが、関係ない。俺の家の敷地に、無断で立ち入ろうとする奴は、すべて、敵だ。例外なく、叩き出す」
その、あまりにも、不遜な言葉。
だが、その言葉には、この家の主としての、絶対的な、意志が、込められていた。
「リリア。お前の親父さんが来てるが、構わないな?」
俺が尋ねると、リリアは、一瞬、悲しそうな顔をしたが、すぐに、強く、首を横に振った。
「はい。今のわたくしは、アルトリアの王女である前に、あなたの家に居候させてもらっている、ただのリリアです。あなたの決定に、従います」
その瞳には、もはや、迷いはなかった。
「よし、決まりだ」
俺は、ソファから立ち上がると、家の中心へと、歩いていった。
「お前たちは、家の中で、見てろ。今回は、お前たちの出番じゃない」
「えっ? では、ユータ様が、直接……?」
「いや」
俺は、にやりと、笑った。
「今回は、この『家』そのものに、仕事をしてもらう」
俺は、家の中心の床に、そっと、手を触れた。
そして、この『絶対安全領域』の、システムそのものに、直接、命令を下す。
「――『自動迎撃システム(オート・カウンター)』、起動。モード、『不法侵入者・強制排除』。ターゲット、敷地境界線に接近する、全ての、動く物体」
俺の、言葉に呼応して。
家全体が、ぶるり、と、わずかに、震えた。
それは、まるで、眠っていた巨大な獣が、目を覚ましたかのような、静かな、しかし、圧倒的な、胎動。
家の、壁、床、天井。その、いたるところに、淡い光で、魔法陣の回路が、浮かび上がる。
我が家、『絶対安全領域』が、今、その真の姿――自律思考型の、超巨大迎撃要塞としての、機能を、初めて、起動させた瞬間だった。
「――さあ、始めようか。俺の、聖域を荒らす、馬鹿どもへの、盛大な、お仕置きの時間をな」
俺の、静かな宣言が、これから始まる、一方的な、蹂躙劇の、開始を告げた。
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