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第40話 最強の矛、来たる
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策将メフィストが去り、竜将軍バハムートが出撃の時を待つ。
その、嵐の前の静けさは、しかし、案外長くは続かなかった。
ピコン。
その日、俺の脳内に響いた警告音は、いつものそれとは、少しだけ、質が違っていた。
来訪者を告げる、単純なアラートではない。
フィーが森に展開した『絶対防衛網』の、最外殻が、何らかの、強大なエネルギーによって、物理的に、破られたことを示す、緊急警報だった。
「……ちっ。ついに、来たか」
俺は、読んでいた空間魔法の魔導書を、静かに閉じた。
リビングにいた、ヒロインたちの顔にも、緊張が走る。
「ユータ様……!」
「ユータさん、これは……!」
俺は、彼女たちの声を、手で制すると、ディスプレイを起動し、森の、最外殻の映像を、映し出した。
そこに映っていたのは、信じられない、光景だった。
フィーが、空間を歪めて作り出した、迷いの森。その一部が、まるで、巨大な何かに、抉り取られたかのように、綺麗さっぱり、消滅していた。
そして、その、破壊の中心に、一体の、巨人が、立っていた。
全身を、竜の鱗のごとき、漆黒の鎧で覆い、その背丈は、大木をも、見下ろすほど。
そして、その手に、担がれているのは、もはや、斧というよりは、小さな家ほどの大きさがある、巨大な、戦斧。
その姿を見た瞬間、リリアが、息をのんだ。
「……竜将軍、バハムート……! 間違いありません、四天王最強と謳われる、破壊の化身です……!」
その言葉には、隠しきれない、恐怖と、絶望の色が、滲んでいた。
ディスプレイの中の、バハムートは、まるで、目の前の、空間の歪みなど、存在しないかのように、ただ、まっすぐに、俺の家へと、歩みを進めてくる。
彼が、一歩、足を踏み出すたびに、大地が、震え、フィーの、複雑な、幻惑の魔法陣が、物理的な、衝撃によって、いとも、簡単に、砕け散っていく。
「……なるほどな」
俺は、その、圧倒的なまでの、光景を、冷静に、眺めていた。
「小細工が、一切、通用しない、タイプか。炎や氷、言葉で、どうこうなる相手じゃない。ただ、ひたすらに、硬く、そして、重い。純粋な、質量の、暴力。それが、こいつの、正体だ」
「……どう、しますか?」
フィーが、ゴクリと、喉を鳴らしながら、尋ねた。
彼女の、自慢の、防衛網が、まるで、紙切れのように、破られていく。その事実は、彼女の、学者としての、プライドを、深く、傷つけていた。
「ユータ様! わたくしが、出ます!」
リリアが、黄金の鎧と、白銀の盾を、瞬時に、その身にまとい、前に進み出た。
「彼ほどの、相手ならば、わたくしの、この、全力をもって、迎え撃つしか、ありません!」
その瞳には、恐怖を、乗り越えた、女王としての、覚悟が、宿っていた。
俺は、そんな、彼女たちを、見渡し、そして、静かに、首を横に振った。
「……いや。お前たちの、出番じゃない」
「えっ?」
「今回は、俺が、やる」
俺の、その、思いがけない、一言。
リビングにいた、全員が、凍りついた。
「ゆ、ユータ様が……? ですが、あなたは、家から、一歩も……」
「ああ。出ないさ」
俺は、ソファから、ゆっくりと、立ち上がった。
そして、にやりと、不敵な、笑みを浮かべた。
「――迎え撃つのは、面倒だ。だから、こっちから、家ごと、行ってやる」
その言葉の意味を、ヒロリ-166-ンたちが、理解するよりも、早く。
俺は、この『絶対安全領域』の、システムそのものに、新たな、命令を、下した。
「――『絶対安全領域』、第二形態へ移行。コードネーム、『マイホーム・フォートレス』。全機能、起動」
俺が、そう、宣言した、瞬間。
家全体が、今までとは、比較にならないほどの、巨大な、地響きと共に、激しく、揺れ始めた。
「きゃあっ!?」
「な、何が、起きて……!?」
ヒロインたちが、悲鳴を上げ、床に、へたり込む。
家の、土台部分から、ミシミシ、と、巨大な、歯車が、噛み合うような音が、響き渡る。
そして。
ゆっくりと、しかし、確実に。
俺たちの、家が、地面から、浮き上がっていく。
家の、基礎部分の、土や石が、再構成され、巨大な、飛行石の、塊へと、姿を変えていく。
家の、壁や、屋根が、展開し、その下から、巨大な、魔力推進式の、エンジンノズルや、翼のような、安定翼が、姿を現す。
それは、もはや、ただの、一軒家ではなかった。
天に、浮かぶ、巨大な、城。
空飛ぶ、要塞。
『マイホーム・フォートレス』。
それが、俺の家の、真の、姿だった。
◇
「……何だ、あれは」
竜将軍バハムートは、思わず、足を止めた。
目の前の、小さな家が、轟音と共に、変形し、そして、空へと、浮かび上がっていく。
その、あまりにも、荒唐無稽な、光景。
彼の、数千年の、人生の中でも、一度として、見たことのない、異常事態。
やがて、空に浮かんだ『城』は、その、城首を、ゆっくりと、バハムートへと、向けた。
そして、城の中心部――かつて、玄関があったであろう場所が、巨大な、砲口のように、開き、そこから、凄まじいほどの、魔力が、収束していくのが、見えた。
「……面白い」
バハムートは、初めて、心の底から、歓喜の、笑みを浮かべた。
「そうだ、それでこそ、我が、好敵手よ!」
彼は、その手に持った、巨大な戦斧を、構え直した。
彼の、全身の、闘気が、極限まで、高まっていく。
「――見せてみろ、賢者! 貴様の、その、城の力とやらを!」
空飛ぶ、要塞 vs 最強の、竜将軍。
絶対的な、防御と、絶対的な、攻撃。
最強の、矛と、最強の、盾。
その、決戦の火蓋が、今、切って、落とされようとしていた。
◇
「……さて、と」
俺は、家の、操縦席――もとい、リビングの、ソファに、深く、腰掛けたまま、メインディスプレイに映る、バハムートの姿を、見据えていた。
家の、飛行は、完全に、自動操縦だ。俺は、ただ、座って、命令を下すだけ。実に、快適だ。
「主砲、エネルギー充填、完了。いつでも、撃てます」
フィーが、いつの間にか、艦長のようになっている。
「ユータ様、目標、真正面です!」
リリアも、砲撃手のようだ。
「ご主人様、お茶、淹れました!」
モカは、いつも通り、メイドだった。
俺は、彼女が淹れてくれた、紅茶を、一口、すすり、そして、静かに、告げた。
「――主砲、発射」
その、一言を、合図に。
俺の、家の、リビングの、窓の外が、一瞬、真っ白な、光に、包まれた。
そして、一条の、巨大な、光の奔流が、眼下の、竜将軍バハムートに向かって、放たれた。
それは、この家の、全ての魔力を、一点に、収束させた、究極の、破壊光線。
名付けて、『我が家(マイホーム)バスターキャノン』。
その、あまりにも、ふざけた名前の、しかし、その威力は、星すらも、砕きかねない、一撃が。
地上最強の、戦士へと、降り注いだ。
世界の、運命を、左右する、頂上決戦。
その、勝敗の、行方は。
まだ、誰にも、分からなかった。
その、嵐の前の静けさは、しかし、案外長くは続かなかった。
ピコン。
その日、俺の脳内に響いた警告音は、いつものそれとは、少しだけ、質が違っていた。
来訪者を告げる、単純なアラートではない。
フィーが森に展開した『絶対防衛網』の、最外殻が、何らかの、強大なエネルギーによって、物理的に、破られたことを示す、緊急警報だった。
「……ちっ。ついに、来たか」
俺は、読んでいた空間魔法の魔導書を、静かに閉じた。
リビングにいた、ヒロインたちの顔にも、緊張が走る。
「ユータ様……!」
「ユータさん、これは……!」
俺は、彼女たちの声を、手で制すると、ディスプレイを起動し、森の、最外殻の映像を、映し出した。
そこに映っていたのは、信じられない、光景だった。
フィーが、空間を歪めて作り出した、迷いの森。その一部が、まるで、巨大な何かに、抉り取られたかのように、綺麗さっぱり、消滅していた。
そして、その、破壊の中心に、一体の、巨人が、立っていた。
全身を、竜の鱗のごとき、漆黒の鎧で覆い、その背丈は、大木をも、見下ろすほど。
そして、その手に、担がれているのは、もはや、斧というよりは、小さな家ほどの大きさがある、巨大な、戦斧。
その姿を見た瞬間、リリアが、息をのんだ。
「……竜将軍、バハムート……! 間違いありません、四天王最強と謳われる、破壊の化身です……!」
その言葉には、隠しきれない、恐怖と、絶望の色が、滲んでいた。
ディスプレイの中の、バハムートは、まるで、目の前の、空間の歪みなど、存在しないかのように、ただ、まっすぐに、俺の家へと、歩みを進めてくる。
彼が、一歩、足を踏み出すたびに、大地が、震え、フィーの、複雑な、幻惑の魔法陣が、物理的な、衝撃によって、いとも、簡単に、砕け散っていく。
「……なるほどな」
俺は、その、圧倒的なまでの、光景を、冷静に、眺めていた。
「小細工が、一切、通用しない、タイプか。炎や氷、言葉で、どうこうなる相手じゃない。ただ、ひたすらに、硬く、そして、重い。純粋な、質量の、暴力。それが、こいつの、正体だ」
「……どう、しますか?」
フィーが、ゴクリと、喉を鳴らしながら、尋ねた。
彼女の、自慢の、防衛網が、まるで、紙切れのように、破られていく。その事実は、彼女の、学者としての、プライドを、深く、傷つけていた。
「ユータ様! わたくしが、出ます!」
リリアが、黄金の鎧と、白銀の盾を、瞬時に、その身にまとい、前に進み出た。
「彼ほどの、相手ならば、わたくしの、この、全力をもって、迎え撃つしか、ありません!」
その瞳には、恐怖を、乗り越えた、女王としての、覚悟が、宿っていた。
俺は、そんな、彼女たちを、見渡し、そして、静かに、首を横に振った。
「……いや。お前たちの、出番じゃない」
「えっ?」
「今回は、俺が、やる」
俺の、その、思いがけない、一言。
リビングにいた、全員が、凍りついた。
「ゆ、ユータ様が……? ですが、あなたは、家から、一歩も……」
「ああ。出ないさ」
俺は、ソファから、ゆっくりと、立ち上がった。
そして、にやりと、不敵な、笑みを浮かべた。
「――迎え撃つのは、面倒だ。だから、こっちから、家ごと、行ってやる」
その言葉の意味を、ヒロリ-166-ンたちが、理解するよりも、早く。
俺は、この『絶対安全領域』の、システムそのものに、新たな、命令を、下した。
「――『絶対安全領域』、第二形態へ移行。コードネーム、『マイホーム・フォートレス』。全機能、起動」
俺が、そう、宣言した、瞬間。
家全体が、今までとは、比較にならないほどの、巨大な、地響きと共に、激しく、揺れ始めた。
「きゃあっ!?」
「な、何が、起きて……!?」
ヒロインたちが、悲鳴を上げ、床に、へたり込む。
家の、土台部分から、ミシミシ、と、巨大な、歯車が、噛み合うような音が、響き渡る。
そして。
ゆっくりと、しかし、確実に。
俺たちの、家が、地面から、浮き上がっていく。
家の、基礎部分の、土や石が、再構成され、巨大な、飛行石の、塊へと、姿を変えていく。
家の、壁や、屋根が、展開し、その下から、巨大な、魔力推進式の、エンジンノズルや、翼のような、安定翼が、姿を現す。
それは、もはや、ただの、一軒家ではなかった。
天に、浮かぶ、巨大な、城。
空飛ぶ、要塞。
『マイホーム・フォートレス』。
それが、俺の家の、真の、姿だった。
◇
「……何だ、あれは」
竜将軍バハムートは、思わず、足を止めた。
目の前の、小さな家が、轟音と共に、変形し、そして、空へと、浮かび上がっていく。
その、あまりにも、荒唐無稽な、光景。
彼の、数千年の、人生の中でも、一度として、見たことのない、異常事態。
やがて、空に浮かんだ『城』は、その、城首を、ゆっくりと、バハムートへと、向けた。
そして、城の中心部――かつて、玄関があったであろう場所が、巨大な、砲口のように、開き、そこから、凄まじいほどの、魔力が、収束していくのが、見えた。
「……面白い」
バハムートは、初めて、心の底から、歓喜の、笑みを浮かべた。
「そうだ、それでこそ、我が、好敵手よ!」
彼は、その手に持った、巨大な戦斧を、構え直した。
彼の、全身の、闘気が、極限まで、高まっていく。
「――見せてみろ、賢者! 貴様の、その、城の力とやらを!」
空飛ぶ、要塞 vs 最強の、竜将軍。
絶対的な、防御と、絶対的な、攻撃。
最強の、矛と、最強の、盾。
その、決戦の火蓋が、今、切って、落とされようとしていた。
◇
「……さて、と」
俺は、家の、操縦席――もとい、リビングの、ソファに、深く、腰掛けたまま、メインディスプレイに映る、バハムートの姿を、見据えていた。
家の、飛行は、完全に、自動操縦だ。俺は、ただ、座って、命令を下すだけ。実に、快適だ。
「主砲、エネルギー充填、完了。いつでも、撃てます」
フィーが、いつの間にか、艦長のようになっている。
「ユータ様、目標、真正面です!」
リリアも、砲撃手のようだ。
「ご主人様、お茶、淹れました!」
モカは、いつも通り、メイドだった。
俺は、彼女が淹れてくれた、紅茶を、一口、すすり、そして、静かに、告げた。
「――主砲、発射」
その、一言を、合図に。
俺の、家の、リビングの、窓の外が、一瞬、真っ白な、光に、包まれた。
そして、一条の、巨大な、光の奔流が、眼下の、竜将軍バハムートに向かって、放たれた。
それは、この家の、全ての魔力を、一点に、収束させた、究極の、破壊光線。
名付けて、『我が家(マイホーム)バスターキャノン』。
その、あまりにも、ふざけた名前の、しかし、その威力は、星すらも、砕きかねない、一撃が。
地上最強の、戦士へと、降り注いだ。
世界の、運命を、左右する、頂上決戦。
その、勝敗の、行方は。
まだ、誰にも、分からなかった。
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