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第43話 女王の決意と引きこもりの同意
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竜将軍バハムート改め、『ポチ』が、我が家の門番となってから、一ヶ月。
世界は、奇妙な、そして、張り詰めた、静寂に包まれていた。
魔王軍からの、新たな、そして、最後の四天王からの、襲撃はない。
王国や教会も、もはや、この森を、禁足地として、完全に、無視を決め込んでいる。
「……平和だ」
俺は、ソファの上で、ポチから没収した、巨大な戦斧を、爪楊枝代わりに、歯の隙間を掃除しながら、呟いた。この戦斧、超硬度の魔導金属でできているらしく、爪楊枝としては、最高に使い勝手がいい。
「ユータ様、そのような、危険なもので、お口の中を……!」
リリアが、いつものように、母親のような、小言を言う。
「大丈夫だ。俺の歯の方が、硬い」
「そういう、問題では、ありません!」
そんな、いつも通りの、平和なやり取り。
俺は、この、退屈で、しかし、至高の日常が、永遠に続くものだと、信じて、疑わなかった。
その、静寂を、破ったのは、リリア、その人だった。
その夜。
夕食後の、お茶の時間。
リリアは、いつもと、違う、真剣な、そして、覚悟を決めた、表情で、俺の前に、正座した。
その、ただならぬ、雰囲気に、フィーも、モカも、そして、俺も、自然と、彼女に、注目する。
「……ユータ様」
リリアは、深く、息を吸い込むと、静かに、しかし、力強く、言った。
「わたくし、決意いたしました」
「……何をだ?」
「わたくしの、故郷、アルトリア王国を、叔父である、グレン公爵と、その背後にいる、魔王軍の手から、取り戻します」
その言葉には、もはや、以前のような、か弱さや、迷いは、一切、なかった。
それは、一人の、女王としての、揺るぎない、決意表明だった。
俺は、紅茶のカップを、ソーサーに置き、腕を組んだ。
「……ほう。で、どうするんだ? お前、一人で、城に、乗り込むのか?」
「いいえ」
リリアは、首を横に振った。
「わたくしの、父である、国王に、まだ、忠誠を誓っている、貴族や、騎士たちが、地方に、残っているはずです。彼らと、連絡を取り、兵を挙げ、正義の旗の下に、王都を、解放するのです」
「……つまり、戦争、か。面倒なこと、この上ないな」
俺は、心底、うんざりしたように、言った。
「分かっているはずだ、リリア。俺は、家から、一歩も、出ない。お前の、国盗り物語に、付き合うつもりは、毛頭ないぞ」
俺が、冷たく、突き放すと、リリアは、静かに、頷いた。
「はい。重々、承知しております。あなた様に、戦ってほしいなどとは、申しません。ただ……」
彼女は、その、美しい、アクアマリンの瞳で、まっすぐに、俺を、見据えた。
「これまでと、同じように、あなたの、その、お力を、少しだけ、お借りしたいのです。軍師として、戦場を、見通す、その『目』を。そして、わたくしたちを、支える、その『支援』を」
その、願い。
それは、俺にとって、断るには、十分すぎるほど、面倒な、案件だった。
だが。
俺は、なぜか、即座に、断ることが、できなかった。
俺の脳裏に、この数ヶ月の、日々が、蘇る。
この家に、逃げ込んできた、泥だらけの、王女。
俺の、無茶苦茶な、要求に、文句を言いながらも、付き合ってくれた、最初の、同居人。
俺の、平穏を守るために、自ら、剣を取り、戦場へと、赴いた、気高き、騎士。
こいつは、俺の、日常の、一部に、なってしまっていた。
こいつが、本気で、悩んで、苦しんで、そして、覚悟を決めた、というのなら。
その、顔を、見て見ぬふりをするのは、どうにも、寝覚めが、悪い。
それに、だ。
グレン公爵と、魔王軍を、このまま、放置しておけば、いずれ、また、何らかの形で、俺の、平穏を、脅かしに来るだろう。
ならば、いっそのこと、こっちから、火種を、完全に、消し去ってしまった方が、長期的には、俺の、引きこもりライフのためになるかもしれない。
「……はあ」
俺は、深く、深く、ため息をついた。
そして、降参するように、両手を、上げた。
「……分かったよ。やってやる」
「……! 本当、ですか!?」
リリアの顔が、ぱあっと、輝いた。
「ただし、条件がある」
俺は、釘を刺す。
「俺は、あくまで、軍師。家から、一歩も、出ない。全ての、実務は、お前たちが、やれ。俺は、ソファの上から、高みの見物を、決め込むだけだ。それから、この戦争は、俺の、壮大な、リアルタイムストラテジーゲームだ。お前は、その、最強の、駒。俺の指示には、絶対に従ってもらう。……それで、いいな?」
その、あまりにも、不遜な、条件。
だが、リリアは、迷いなく、力強く、頷いた。
「はい! あなたが、そう望むなら、わたくしは、あなたの、最強の剣となり、最強の盾となりましょう!」
「よし、交渉成立だ」
俺は、そう言うと、立ち上がった。
そして、リビングの中央に、巨大な、立体的な、アルトリア王国の、マップを、投影した。
「――では、早速、作戦会議を、始めるぞ。引きこもり軍師による、王国奪還作戦、第一フェーズの、開始だ」
俺の、その一言。
それが、この国の、歴史を、大きく、塗り替える、長い、長い、戦いの、始まりを告げる、ゴングとなった。
隣では、フィーが、「面白くなってきましたね!」と、目を輝かせ。
モカが、「リリア様、がんばれー!」と、小さな、旗を振っている。
そして、俺は。
これから始まる、最大級の、面倒事を、前にして、なぜか、少しだけ、心が、高揚している自分に、気づいていた。
退屈な、平和よりも。
もしかしたら、俺は、こういう、ゲームのような、刺激を、求めていたのかもしれない、と。
そう、思いながら。
世界は、奇妙な、そして、張り詰めた、静寂に包まれていた。
魔王軍からの、新たな、そして、最後の四天王からの、襲撃はない。
王国や教会も、もはや、この森を、禁足地として、完全に、無視を決め込んでいる。
「……平和だ」
俺は、ソファの上で、ポチから没収した、巨大な戦斧を、爪楊枝代わりに、歯の隙間を掃除しながら、呟いた。この戦斧、超硬度の魔導金属でできているらしく、爪楊枝としては、最高に使い勝手がいい。
「ユータ様、そのような、危険なもので、お口の中を……!」
リリアが、いつものように、母親のような、小言を言う。
「大丈夫だ。俺の歯の方が、硬い」
「そういう、問題では、ありません!」
そんな、いつも通りの、平和なやり取り。
俺は、この、退屈で、しかし、至高の日常が、永遠に続くものだと、信じて、疑わなかった。
その、静寂を、破ったのは、リリア、その人だった。
その夜。
夕食後の、お茶の時間。
リリアは、いつもと、違う、真剣な、そして、覚悟を決めた、表情で、俺の前に、正座した。
その、ただならぬ、雰囲気に、フィーも、モカも、そして、俺も、自然と、彼女に、注目する。
「……ユータ様」
リリアは、深く、息を吸い込むと、静かに、しかし、力強く、言った。
「わたくし、決意いたしました」
「……何をだ?」
「わたくしの、故郷、アルトリア王国を、叔父である、グレン公爵と、その背後にいる、魔王軍の手から、取り戻します」
その言葉には、もはや、以前のような、か弱さや、迷いは、一切、なかった。
それは、一人の、女王としての、揺るぎない、決意表明だった。
俺は、紅茶のカップを、ソーサーに置き、腕を組んだ。
「……ほう。で、どうするんだ? お前、一人で、城に、乗り込むのか?」
「いいえ」
リリアは、首を横に振った。
「わたくしの、父である、国王に、まだ、忠誠を誓っている、貴族や、騎士たちが、地方に、残っているはずです。彼らと、連絡を取り、兵を挙げ、正義の旗の下に、王都を、解放するのです」
「……つまり、戦争、か。面倒なこと、この上ないな」
俺は、心底、うんざりしたように、言った。
「分かっているはずだ、リリア。俺は、家から、一歩も、出ない。お前の、国盗り物語に、付き合うつもりは、毛頭ないぞ」
俺が、冷たく、突き放すと、リリアは、静かに、頷いた。
「はい。重々、承知しております。あなた様に、戦ってほしいなどとは、申しません。ただ……」
彼女は、その、美しい、アクアマリンの瞳で、まっすぐに、俺を、見据えた。
「これまでと、同じように、あなたの、その、お力を、少しだけ、お借りしたいのです。軍師として、戦場を、見通す、その『目』を。そして、わたくしたちを、支える、その『支援』を」
その、願い。
それは、俺にとって、断るには、十分すぎるほど、面倒な、案件だった。
だが。
俺は、なぜか、即座に、断ることが、できなかった。
俺の脳裏に、この数ヶ月の、日々が、蘇る。
この家に、逃げ込んできた、泥だらけの、王女。
俺の、無茶苦茶な、要求に、文句を言いながらも、付き合ってくれた、最初の、同居人。
俺の、平穏を守るために、自ら、剣を取り、戦場へと、赴いた、気高き、騎士。
こいつは、俺の、日常の、一部に、なってしまっていた。
こいつが、本気で、悩んで、苦しんで、そして、覚悟を決めた、というのなら。
その、顔を、見て見ぬふりをするのは、どうにも、寝覚めが、悪い。
それに、だ。
グレン公爵と、魔王軍を、このまま、放置しておけば、いずれ、また、何らかの形で、俺の、平穏を、脅かしに来るだろう。
ならば、いっそのこと、こっちから、火種を、完全に、消し去ってしまった方が、長期的には、俺の、引きこもりライフのためになるかもしれない。
「……はあ」
俺は、深く、深く、ため息をついた。
そして、降参するように、両手を、上げた。
「……分かったよ。やってやる」
「……! 本当、ですか!?」
リリアの顔が、ぱあっと、輝いた。
「ただし、条件がある」
俺は、釘を刺す。
「俺は、あくまで、軍師。家から、一歩も、出ない。全ての、実務は、お前たちが、やれ。俺は、ソファの上から、高みの見物を、決め込むだけだ。それから、この戦争は、俺の、壮大な、リアルタイムストラテジーゲームだ。お前は、その、最強の、駒。俺の指示には、絶対に従ってもらう。……それで、いいな?」
その、あまりにも、不遜な、条件。
だが、リリアは、迷いなく、力強く、頷いた。
「はい! あなたが、そう望むなら、わたくしは、あなたの、最強の剣となり、最強の盾となりましょう!」
「よし、交渉成立だ」
俺は、そう言うと、立ち上がった。
そして、リビングの中央に、巨大な、立体的な、アルトリア王国の、マップを、投影した。
「――では、早速、作戦会議を、始めるぞ。引きこもり軍師による、王国奪還作戦、第一フェーズの、開始だ」
俺の、その一言。
それが、この国の、歴史を、大きく、塗り替える、長い、長い、戦いの、始まりを告げる、ゴングとなった。
隣では、フィーが、「面白くなってきましたね!」と、目を輝かせ。
モカが、「リリア様、がんばれー!」と、小さな、旗を振っている。
そして、俺は。
これから始まる、最大級の、面倒事を、前にして、なぜか、少しだけ、心が、高揚している自分に、気づいていた。
退屈な、平和よりも。
もしかしたら、俺は、こういう、ゲームのような、刺激を、求めていたのかもしれない、と。
そう、思いながら。
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