異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ

文字の大きさ
47 / 62

第47話 迫る討伐軍と無限の兵站

しおりを挟む
「――伝令! 伝令! 王都より、討伐軍が出撃! 総大将は、”猛牛”の異名を持つ、ボルテス将軍! 総兵力、五千! 現在、ティル・ナ・ログ市に向け、進軍中とのこと!」

ケネス伯爵の、領主館に設けられた、作戦司令室。
そこに、血相を変えた、斥候兵が、飛び込んできた。
その、報告に、部屋にいた、貴族や、騎士たちの顔が、一斉に、青ざめる。
「ボルテス将軍だと!?」
「あの、猪武者か! 厄介なことになった……!」
「兵力五千に対し、我らが、この街で、動かせる兵は、わずか、千……。五倍の、兵力差。籠城したところで、何日もつか……」
部屋の、空気は、一瞬にして、絶望の色に、染まった。
数日前までの、熱狂が、嘘のように、誰もが、押し黙り、俯いている。
その、重苦しい、沈黙を、破ったのは、上座に座る、リリアの、静かな、一言だった。
「――心配には、及びません」
その、声には、不思議なほどの、落ち着きと、自信が、満ちていた。
貴族たちは、訝しげに、リリアの顔を見る。
彼女は、まだ、十代の、少女だ。
この、絶望的な、状況で、なぜ、そんなにも、平然としていられるのか。
リリアは、そんな、彼らの、視線を、一身に、浴びながら、静かに、続けた。
「わたくしたちには、『賢者』様の、お力添えが、あります。兵力差など、何の問題にも、なりません」
その、言葉。
ある者は、それを、若さ故の、虚勢と、受け取った。
また、ある者は、それを、伝説の、英雄が起こす、奇跡への、期待と、受け取った。
だが、その、本当の、意味を、理解している者は、この場には、一人も、いなかった。
その頃、リリアの耳にだけ、装着された、イヤリングからは、一人の、引きこもりの、気怠げな、声が、響いていた。
『――リリア、聞こえるか。なかなか、いい、演説だったぞ。女優の、才能も、あるんじゃないか?』
『……からかわないでください、ユータ様。それより、本当に、大丈夫なのでしょうか? 兵力差も、ですが、籠城となれば、兵糧や、矢などの、消耗も、激しくなります。この街の、備蓄だけでは、一週間と、持ちません』
リリアの、不安げな、念話。
それに対して、俺は、ソファの上で、ポテチを、かじりながら、鼻で、笑った。
『兵站? そんなもの、心配するだけ、無駄だ』



その夜。
ティル・ナ・ログ市の、城壁の、上。
ケネス伯爵は、眼下に広がる、自分の、街を、見下ろし、深いため息を、ついていた。
兵士たちは、必死に、城門を補強し、矢倉に、油を運び、籠城の、準備を進めている。
だが、その、表情は、皆、暗い。
圧倒的な、兵力差。
そして、絶望的なまでの、物資の、不足。
特に、矢が、足りない。
この街の、武具工房で、昼夜兼行で、生産しても、討伐軍の、第一波を、凌げるか、どうか。
「……やはり、早まったか。姫様に、味方するなどと……」
伯爵の、心に、後悔の念が、よぎった、その時。
「――伯爵様! 大変です!」
一人の、兵士が、城壁を、駆け上がってきた。
その顔は、恐怖と、驚愕に、染まっている。
「な、何事だ! 敵の、奇襲か!」
「い、いえ! それが……! 西の、兵糧庫に……! お、お化けが……!」
「お化けだと!? たわけたことを言うな!」
伯爵は、兵士を、一喝すると、自ら、西の、兵糧庫へと、急いだ。
そして、彼もまた、自分の、目を、疑うことになる。
数時間前まで、底が、見えかけていたはずの、兵糧庫。
その、巨大な、倉庫が。
いつの間にか、ぎっしりと、満杯の、小麦袋で、埋め尽くされていたのだ。
袋には、どれも、見たこともない、不思議な、紋章が、刻まれている。
「……な、なんだ、これは……。いつの間に、誰が……?」
伯爵が、呆然と、立ち尽くしていると、今度は、別の兵士が、駆け込んできた。
「は、伯爵様! 矢倉です! 矢倉が……!」
伯爵が、矢倉へと、向かうと。
そこにもまた、信じられない、光景が、広がっていた。
空っぽだったはずの、矢筒が、すべて、新品の、鉄製の、矢で、満たされている。
その、矢の、一本一本には、やはり、見慣れない、紋章が、刻まれている。
その数は、ざっと見て、数十万本。
この街の、年間生産量を、遥かに、超える、量だった。
「……神の、御業か……」
ケネス伯爵は、その場に、へたり込んだ。
これは、奇跡だ。
『銀の姫騎士』が、もたらした、聖なる、奇跡に、違いない。
その、噂は、あっという間に、城内の、兵士たちの、間に、広まった。
『賢者様が、我々に、無限の、食料と、武器を、与えてくださったぞ!』
『これなら、勝てる! 我々には、神が、ついている!』
数時間前まで、絶望に、沈んでいた、兵士たちの、士気は、一気に、最高潮へと、達した。
彼らは、もはや、討伐軍を、恐れてはいなかった。
自分たちは、伝説の、英雄と、その背後にいる、偉大なる、賢者に、選ばれた、正義の軍勢なのだ、と。
その、熱狂の、中心で。
リリアだけが、静かに、空を、見上げていた。
そして、誰にも、聞こえない、声で、呟く。
『……ユータ様。ありがとうございます』
彼女の、イヤリングからは、俺の、満足げな、声が、返ってきた。
『礼には、及ばん。俺の、ゲームの、駒が、弾切れで、動けなくなったら、つまらないからな。……通販魔法、最高だろ?』



「……完璧な、兵站供給だな」
俺は、リビングの、ディスプレイで、ティル・ナ・ログ市の、熱狂ぶりを、眺めながら、ほくそ笑んでいた。
俺が、やったことは、単純だ。
通販魔法で、大陸の、別の、平和な国から、大量の、小麦と、鉄を、買い付けた。
そして、それを、空間魔法で、直接、ティル・ナ・ログ市の、倉庫へと、転送しただけ。
かかった、費用は、商人マルコから、巻き上げた、金貨の、ほんの、一部。
俺にとっては、ネットショッピングと、大差ない、作業。
だが、その、簡単な、作業が、一つの、都市の、運命を、完全に、変えてしまった。
「ふふふ。情報戦、心理戦、そして、兵站戦。ユータさん、あなたは、もはや、軍師というより、戦争の、神ですね」
フィーが、感心したように、言う。
「うるさい。俺は、引きこもりだ」
俺は、そう、吐き捨てた。
ディスプレイの、マップ上では、”猛牛”ボルテス将軍率いる、討伐軍の、赤い、光点が、ティル・ナ・ログ市へと、着実に、迫ってきていた。
だが、俺の、心は、どこまでも、穏やかだった。
兵力差が、五倍?
それが、どうした。
こっちは、弾薬も、食料も、無限だ。
守る、城壁の、内側には、士気、最高の、兵士たちが、いる。
そして、何より。
この、戦いの、全てを、見通す、神の、『目』が、ここにある。
「……さて、と。ボルテス将軍とやら。お前の、猪突猛進が、どこまで、通用するか。見せてもらおうじゃないか」
俺は、新たな、ポテチの袋を、開けながら、これから始まる、防衛戦という名の、一方的な、ショーの、開幕を、静かに、待っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

処理中です...