異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ

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第48話 鉄壁の守りと猛牛の焦り

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夜が明ける頃、それはついに姿を現した。
ティル・ナ・ログ市の城壁から、遥か東の地平線。そこに、黒い帯のような一団が見え始め、それは、徐々に、その巨大な全貌を現していく。
掲げられた旗印は、グレン公爵家のもの。鋼鉄の鎧で身を固めた歩兵の列、その両翼を固める騎兵隊、そして、後方には、巨大な破城槌や投石器といった、攻城兵器がずらりと並んでいる。
総兵力、五千。
その軍勢が放つ、無言の圧力は、大地を震わせ、空気を重くする。
「……来たか」
城壁の上で、ケネス伯爵が、緊張に顔を強張らせながら、呟いた。隣には、黄金の鎧をまとったリリアが、静かに、その軍勢を見据えている。
城壁の上の兵士たちは、一度は奮い立ったものの、実際に、敵の、圧倒的な、大軍を目の当たりにし、再び、顔に、恐怖の色を浮かべ始めていた。
その、不安を、感じ取ったのか、リリアは、ゆっくりと、前に進み出た。
そして、その、凛とした声を、城壁全体に、響き渡らせた。
「恐れることは、ありません! 敵は、数こそ多いですが、所詮は、圧政に与する、不義の軍勢! 我らには、正義と、民の支持、そして、賢者様の、ご加護があります!」
その声には、彼女の、神器の鎧が持つ、『カリスマ増幅』の効果が、乗っていた。
兵士たちの、心に、直接、響き渡り、その、恐怖を、勇気へと、変えていく。
「おお……!」
「そうだ! 我々には、リリア様と、賢者様が、ついている!」
兵士たちの士気が、再び、燃え上がる。
その、様子を、俺は、リビングの、ディスプレイで、満足げに、眺めていた。
『いいぞ、リリア。その調子だ。演説が、板についてきたな』
『……もう、慣れましたわ。それより、ユータ様。敵の、陣形は?』
リリアの、念話に、俺は、立体マップに表示された、詳細な、敵の、配置データを、指し示した。
『典型的な、中央突破だ。総大将の、ボルテスって奴は、その、”猛牛”って、あだ名の通り、小細工なしの、真正面からの、力押ししか、能がないらしい。実に、分かりやすい、馬鹿だ』
俺は、ソファで、寝転がったまま、敵将の、戦術を、一刀両断する。
『作戦は、変更なし。徹底的な、防衛戦に、徹しろ。敵が、疲弊し、焦り始めた時が、勝機だ』
『承知いたしました』



「――全軍、突撃ィィィィッ!」

討伐軍の、陣地から、”猛牛”ボルテス将軍の、野太い、号令が、響き渡った。
彼は、その名の通り、巨大な、水牛の角を、あしらった、兜をかぶり、その、筋骨隆々の、巨体は、小山のようだった。
「ひねり潰せ! あの、反逆者どもを、一人、残らず、血祭りに、あげてやれ!」
ボルテスの、檄に応じて、討伐軍の、兵士たちが、「うおおおっ!」と、雄叫びを上げながら、城壁へと、殺到した。
後方からは、投石器が、唸りを上げて、巨大な、石弾を、放ち始める。
ティル・ナ・ログ市の、城壁に、いよいよ、討伐軍の、第一波が、襲いかかった。
「――放て!」
城壁の上から、ケネス伯爵が、叫ぶ。
それに応じ、城壁の、弓兵たちが、一斉に、矢を、放った。
空を、黒く、埋め尽くすほどの、矢の雨。
それは、数日前まで、この街には、存在しなかったはずの、圧倒的な、物量。
「なっ!? なんだ、この矢の数は!?」
ボルテス将軍は、その、予想外の、反撃に、目を見開いた。
反乱軍の、矢は、すぐに、尽きるはずだった。だが、城壁から、放たれる、矢の雨は、一向に、止む気配がない。それどころか、その、一本一本が、上質な、鉄製であり、兵士たちの、盾や、鎧を、容易く、貫いていく。
「ぐわあっ!」
「矢が、盾を、貫通するぞ!」
討伐軍の、前衛は、城壁に、たどり着く前に、次々と、矢の餌食となり、倒れていった。
「ひるむな! 進め! 破城槌を、城門へ!」
ボルテスは、怒鳴りつける。
兵士たちは、必死に、矢の雨を、かいくぐり、巨大な、破城槌を、城門へと、ぶつけ始めた。
ドォン! ドォン!
重い、衝撃音が、響き渡る。
だが、城門は、びくともしない。
それも、そのはず。
昨夜のうちに、俺が、空間魔法の、応用で、城門の、内側に、亜空間を、固定し、その、衝撃を、すべて、別次元へと、逃がす、細工を、しておいたのだ。
彼らが、殴っているのは、もはや、ただの、門ではなく、異次元そのものだった。
「なぜだ!? なぜ、城門が、壊れん!」
ボルテスの、焦りは、募る一方だった。
投石器の、攻撃も、同様だった。
放たれた、石弾は、城壁に、当たる、寸前で、まるで、見えない、クッションに、ぶつかったかのように、勢いを、失い、ぽとり、と、地面に、落ちる。
これも、フィーが、俺の、指示通りに、城壁の、周囲に、展開した、衝撃吸収の、魔法障壁の、効果だった。
攻撃が、全く、通じない。
敵の、矢は、無限に、降り注いでくる。
時間が、経てば、経つほど、討伐軍の、兵士たちの、士気は、下がり、消耗していく。
「……おかしい。何もかもが、おかしい……」
ボルテスは、戦場の、あまりの、異常さに、悪寒を、感じ始めていた。
まるで、こちらの、全ての、攻撃が、事前に、読まれているかのようだ。
そして、相手は、まるで、底なしの、物量を、持っている。
これは、もはや、戦争ではない。
まるで、巨大な、からくりの、上で、踊らされているような、感覚。
「……これが、『賢者』の、力、というのか……?」
ボルテスは、城壁の上で、静かに、こちらを、見下ろしている、黄金の、姫騎士の姿を、睨みつけ、ギリ、と、歯を食いしばった。
彼の、猛牛のような、闘争本能が、今、得体の知れない、恐怖によって、上書きされようとしていた。



「……いい感じに、煮詰まってきたな」
俺は、リビングで、優雅に、紅茶を飲みながら、ディスプレイに映る、ボルテスの、焦りきった、顔を、眺めていた。
「敵の、士気は、低下。兵士たちの、疲労も、ピークに、達している。そろそろ、次の、段階に、移るか」
俺は、イヤリングを通して、リリアに、新たな、指示を、送った。
『――リリア、聞こえるか』
『はい、ユータ様。いつでも』
『今から、城門を、開ける。お前は、精鋭の、騎兵、百騎を、率いて、外へ、出ろ。目的は、敵の、大将、ボルテスの、首だ』
『……! 出撃、ですのね!』
リリアの声が、武者震いしているのが、伝わってくる。
『ああ。だが、真正面から、突っ込むなよ。お前たちの、役目は、陽動だ』
俺は、立体マップ上に、一本の、光の、ラインを、描いた。
それは、ボルテスの、本陣の、側面を、大きく、迂回する、ルートだった。
『お前たちが、敵の、側面を、突く、ふりをして、敵の、陣形を、乱せ。本命は、別にある』
「本命……?」
「そうだ」
俺は、にやりと、笑った。
そして、別の、通信チャンネルを開き、森の、影の中で、息を潜めていた、我が家の、最強の、暗殺者に、静かに、告げた。
『――モカ。出番だ。お前の、獲物は、分かってるな?』
イヤリングの、向こう側から。
『……はい、ご主人様。あの、一番、大きくて、うるさい、牛さんの、首。取ってきます』
という、可愛らしい、しかし、確かな、殺意を、秘めた、声が、返ってきた。
猛牛、ボルテス将軍。
彼の、命運は。
たった今、一人の、引きこもりの、指先一つで、尽きようとしていた。
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