異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ

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第50話 勝利の美酒と軍師の憂鬱

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ティル・ナ・ログ市の、大勝利。
その、報は、瞬く間に、王国西部全域を、駆け巡った。
五千の、討伐軍を、わずか、千の兵で、しかも、ほとんど、損害なく、撃退した。
その、信じがたい、戦果は、人々の、心を、大きく、揺さぶった。
今まで、グレン公爵の、圧政に、沈黙していた、地方の、貴族や、領主たち。
彼らの、元に、次々と、使者が、訪れるようになる。
使者を、送るのは、もちろん、リリアだ。
いや、正確には、リリアの、補佐役である、フィーが、俺の、指示通りに、動いているだけなのだが。
「――『黄金の姫騎士』リリアーナ様は、仰せである。『正義は、我らにあり。今こそ、立ち上がる時。グレンの、不当な、支配を、打ち破り、真の、王国の、栄光を、取り戻さん』と」
フィーは、『賢者の代理人』として、その、卓越した、弁舌と、交渉術を、駆使し、揺れ動く、貴族たちの、心を、巧みに、掌握していく。
ティル・ナ・ログの、奇跡的な、勝利。
無限とも思える、兵站の、噂。
そして、何よりも、リリアという、正統な、王家の、血筋と、『銀の姫騎士』という、伝説的な、カリスマ。
これらの、要素を、前に、多くの、貴族たちは、雪崩を、打ったように、リリアの、旗下へと、馳せ参じた。
わずか、数週間で、リリア軍は、一万を超える、大軍勢へと、膨れ上がっていた。

その夜。
ティル・ナ・ログ市の、領主館では、盛大な、祝勝の、宴が、開かれていた。
集まった、貴族たちは、口々に、リリアの、武勇と、賢者の、奇跡を、称え、勝利の、美酒に、酔いしれている。
「リリア様、万歳!」
「賢者様に、栄光あれ!」
その、熱狂の、中心で。
リリアは、気品ある、笑みを浮かべながら、貴族たちの、賞賛に、応えていた。
だが、その、耳にだけ、装着された、イヤリングからは、全く、別の、声が、聞こえてきていた。
『……おい、リリア。お前の、目の前にいる、ハゲの、オッサン。さっきから、お前の、胸元ばっかり、見てるぞ。スケベ伯爵だから、気をつけろ』
『……! こ、声が、大きいですわ、ユータ様! 聞こえてしまいます!』
『大丈夫だ。こっちの声は、お前にしか、聞こえん。それより、あそこの、デブ。あいつは、お前の、料理に、毒を盛ろうとして、さっき、フィーに、捕まって、気絶させられた、グレン公爵の、スパイだ。後で、ちゃんと、締め上げておけ』
『……はい。承知、いたしました』
リリアは、完璧な、笑顔を、崩さぬまま、心の中で、深いため息をついた。
華やかな、宴の、裏側で、蠢く、人間の、欲望や、陰謀。
それら、全てが、ユータの、『神の視点』の前では、丸裸だった。
彼女は、もはや、軍を率いる、女王であると、同時に、一人の、引きこもりが、プレイする、ゲームの、主人公でも、あるのだ。
その、奇妙な、現実に、彼女は、時折、めまいを、覚えそうになる。



「……はあ。疲れた」
俺は、リビングの、ソファの上で、大きく、伸びをした。
ディスプレイには、ティル・ナ・ログの、宴会の様子が、リアルタイムで、映し出されている。
俺は、この、数週間、軍師として、働き詰めだった。
まあ、ソファの上から、一歩も、動いてはいないが。
情報の、収集、分析。
戦略の、立案。
兵站の、管理。
そして、リリアたちへの、遠隔指示。
やることは、山ほど、あった。
前世の、ブラック企業での、デスマーチを、思い出す、忙しさだ。
もちろん、快適さは、天と地ほど、違うが。
「ご主人様、お疲れ様です。肩、お揉みしますね」
俺の、背後に、いつの間にか、モカが、立っていた。彼女は、今回の、作戦で、斥候や、暗殺任務を、完璧に、こなし、すでに、この家に、帰還していた。
「……ああ。頼む」
モカの、小さな、しかし、絶妙な、力加減の、マッサージが、俺の、凝り固まった、肩を、ほぐしていく。
「……気持ちいい」
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