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第53話 王都への道、そして最後の砦
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轟音。
ティル・ナ・ログ市の、城壁の上からでも、それは、はっきりと、聞こえた。
遥か、東の、空。
王都が、あるべき、方角が、一瞬、真昼のように、明るく、輝き、そして、巨大な、きのこ雲のような、煙が、立ち上る。
その、あまりにも、非現実的な、光景。
第三の砦、『鉄槌の砦』を、遠巻きに、包囲していた、リリア軍の、兵士たちは、何が起きたのか、理解できず、ただ、呆然と、その光景を、見つめていた。
「……今のは……」
「王都の、方角だ……」
「一体、何が……」
兵士たちが、ざわめく中、リリアだけが、静かに、その、光景を、受け止めていた。
彼女の、耳には、すべての、元凶である、引きこもりの、声が、届いていたからだ。
『――さて、と。これで、ラスボス前の、中ボスは、全部、片付いたな。ご苦労さん、リリア』
その、あまりにも、のんきな、声。
まるで、難しい、パズルゲームを、クリアした後のような、達成感に、満ちている。
『……ユータ様。今の、爆発は……。まさか……』
リリアが、震える声で、尋ねる。
『ああ。敵さんが、ご丁寧に、用意してくれた、爆弾を、敵さんの、本拠地に、送り返してやっただけだ。名付けて、『お荷物転送サービス』。送料無料だ』
その、悪魔的な、作戦内容に、リリアは、もはや、言葉も、なかった。
これが、彼の、戦い方。
血を流さず、犠牲も出さず、しかし、敵を、根こそぎ、そして、情け容赦なく、叩き潰す。
あまりにも、合理的で、そして、あまりにも、人間離れした、戦術。
「……リリア様!」
そこへ、斥候が、駆け寄ってきた。
「ご報告! 第三の砦、敵将ザルツバーグ、王都の爆発を目にし、錯乱! 兵士たちも、完全に、戦意を喪失し、降伏を、申し出ております!」
その、報告に、周囲の、貴族や、騎士たちが、どよめいた。
「なっ! 戦わずして、勝利しただと!?」
「これも……これも、賢者様の、お力なのか……!」
彼らの、リリアと、その背後にいる、賢者への、畏敬の念は、もはや、信仰の域に、達していた。
リリアは、そんな、彼らに、向き直ると、高らかに、宣言した。
「――王都への道は、開かれました! 全軍、これより、王都へと、進軍します! 叔父、グレンの、悪政に、終止符を、打つのです!」
「「「うおおおおおおっ!」」」
勝利の、熱狂に、包まれながら、リリア軍は、ついに、王都へと、その、歩みを、進め始めた。
その、進軍の、先に、何が、待ち受けているのか。
この時の、彼らは、まだ、知る由もなかった。
◇
「……ふう。ようやく、王手、ってとこか」
俺は、リビングのソファで、すっかり、冷めてしまった、紅茶を、すすった。
ディスプレイの、マップ上では、リリア軍を示す、青い光点が、一直線に、王都へと、向かっている。
それを、阻む、赤い光点は、もう、ない。
グレン公爵の、城は、彼自身の、罠によって、半壊。
公爵自身も、爆発に巻き込まれ、生死不明。
もはや、王都には、リリア軍の、入城を、阻む、組織的な、抵抗力は、残っていないだろう。
俺の、ゲームは、もう、終わったようなものだ。
「……楽な、仕事だったな」
俺は、そう、呟き、大きく、伸びをした。
そろそろ、昼寝の時間だ。
だが。
「――ユータさん。まだ、終わってはいませんよ」
静かな、声が、俺を、引き留めた。
声の主は、フィー。
彼女は、いつの間にか、俺の隣に立ち、厳しい、表情で、マップを、見つめていた。
「……どういうことだ?」
「王都に、まだ、一つ、非常に、強力な、魔力反応が、残っています。これは……グレン公爵の、ものではない。もっと、異質で、禍々しい……。おそらく、魔王軍からの、最後の、置き土産でしょう」
フィーの、言葉に、俺は、眉をひそめた。
俺は、ディスプレイの、解像度を、最大まで、上げ、王都の、上空からの、映像に、切り替えた。
そこには、半壊した、城と、混乱に、陥る、街の、様子が、映し出されている。
そして、その、城の、玉座の間に。
確かに、それは、いた。
禍々しい、紫色の、オーラを、まとった、一体の、魔族。
そいつは、瓦礫の、山と化した、玉座の間に、ただ、一人、静かに、立っていた。
その姿は、俺の、家の、門番をしている、ポチ――竜将軍バハムートに、匹敵するほどの、圧倒的な、存在感を、放っている。
「……四天王か?」
「いえ、違います」
フィーは、首を横に振った。
「あれは、四天王では、ありません。ですが、その、魔力量は、先日、捕らえた、竜将軍にも、匹敵、あるいは、それ以上……。おそらく、魔王ゼノンが、直接、創り出した、側近中の、側近。『魔将軍』とでも、呼ぶべき、存在でしょう」
「……最後の、砦、ってわけか」
俺は、舌打ちした。
面倒なこと、この上ない。
「リリアたちに、警告を」
「いえ、その必要は、ありません」
フィーは、静かに、言った。
「彼もまた、この戦いの、結末を、見届けに来た、観客に、すぎませんから」
「……どういうことだ?」
「見ていなさい。彼が、動くのは、リリア様が、王城に、たどり着いた、その時です」
フィーの、予言通り。
その、紫の、魔将軍は、動かなかった。
ただ、静かに、リリア軍が、王都に、入城し、民衆の、熱狂的な、歓迎を受け、そして、王城へと、進んでくるのを、待っていた。
やがて、リリアは、一握りの、精鋭と、共に、半壊した、王城の、玉座の間へと、たどり着いた。
そこに、立っていたのは、彼女の、叔父、グレン公爵の、無残な、亡骸と。
そして、その、亡骸を、見下ろす、一人の、魔将軍。
「……待っていたぞ。アルトリアの、姫」
魔将軍は、ゆっくりと、振り返った。
その顔には、まるで、能面のような、無表情が、張り付いている。
「貴様が、我が、同胞たちを、ことごとく、打ち破ったという、賢者の、手先か」
「……いかにも。わたくしが、『銀の姫騎士』リリアーナ。魔王の、手先よ。ここで、その、悪逆に、終止符を、打ちます!」
リリアは、剣を構え、言い放った。
だが、魔将軍は、動じない。
「……よかろう。だが、ここで、戦うのは、無粋というもの。貴様の、本当の、力は、その、背後にいる、賢者の、力あってこそ、だろう?」
魔将軍は、そう言うと、空間を、指で、なぞった。
すると、彼の、目の前に、一枚の、挑戦状らしき、羊皮紙が、現れた。
「――賢者に、伝えよ。本当の、決着は、この、私と、一対一で、つける、と。場所は、三日後、かつて、竜将軍バハムートが、根城としていた、『竜の顎』。そこで、待つ」
挑戦状は、ふわり、と、リリアの、足元へと、舞い落ちた。
「もし、来なければ、この、王都の、民、全てを、皆殺しにする。……そう、伝えよ」
それが、彼の、最後の、言葉だった。
魔将軍は、そう、言い残すと、その姿を、紫の、霧と共に、掻き消した。
後に、残されたのは、静寂と、一枚の、挑戦状だけ。
王都は、解放された。
だが、本当の、戦いは、まだ、終わってはいなかった。
最後の、そして、最強の、敵が、今、名指しで、俺に、挑戦状を、叩きつけてきたのだ。
ティル・ナ・ログ市の、城壁の上からでも、それは、はっきりと、聞こえた。
遥か、東の、空。
王都が、あるべき、方角が、一瞬、真昼のように、明るく、輝き、そして、巨大な、きのこ雲のような、煙が、立ち上る。
その、あまりにも、非現実的な、光景。
第三の砦、『鉄槌の砦』を、遠巻きに、包囲していた、リリア軍の、兵士たちは、何が起きたのか、理解できず、ただ、呆然と、その光景を、見つめていた。
「……今のは……」
「王都の、方角だ……」
「一体、何が……」
兵士たちが、ざわめく中、リリアだけが、静かに、その、光景を、受け止めていた。
彼女の、耳には、すべての、元凶である、引きこもりの、声が、届いていたからだ。
『――さて、と。これで、ラスボス前の、中ボスは、全部、片付いたな。ご苦労さん、リリア』
その、あまりにも、のんきな、声。
まるで、難しい、パズルゲームを、クリアした後のような、達成感に、満ちている。
『……ユータ様。今の、爆発は……。まさか……』
リリアが、震える声で、尋ねる。
『ああ。敵さんが、ご丁寧に、用意してくれた、爆弾を、敵さんの、本拠地に、送り返してやっただけだ。名付けて、『お荷物転送サービス』。送料無料だ』
その、悪魔的な、作戦内容に、リリアは、もはや、言葉も、なかった。
これが、彼の、戦い方。
血を流さず、犠牲も出さず、しかし、敵を、根こそぎ、そして、情け容赦なく、叩き潰す。
あまりにも、合理的で、そして、あまりにも、人間離れした、戦術。
「……リリア様!」
そこへ、斥候が、駆け寄ってきた。
「ご報告! 第三の砦、敵将ザルツバーグ、王都の爆発を目にし、錯乱! 兵士たちも、完全に、戦意を喪失し、降伏を、申し出ております!」
その、報告に、周囲の、貴族や、騎士たちが、どよめいた。
「なっ! 戦わずして、勝利しただと!?」
「これも……これも、賢者様の、お力なのか……!」
彼らの、リリアと、その背後にいる、賢者への、畏敬の念は、もはや、信仰の域に、達していた。
リリアは、そんな、彼らに、向き直ると、高らかに、宣言した。
「――王都への道は、開かれました! 全軍、これより、王都へと、進軍します! 叔父、グレンの、悪政に、終止符を、打つのです!」
「「「うおおおおおおっ!」」」
勝利の、熱狂に、包まれながら、リリア軍は、ついに、王都へと、その、歩みを、進め始めた。
その、進軍の、先に、何が、待ち受けているのか。
この時の、彼らは、まだ、知る由もなかった。
◇
「……ふう。ようやく、王手、ってとこか」
俺は、リビングのソファで、すっかり、冷めてしまった、紅茶を、すすった。
ディスプレイの、マップ上では、リリア軍を示す、青い光点が、一直線に、王都へと、向かっている。
それを、阻む、赤い光点は、もう、ない。
グレン公爵の、城は、彼自身の、罠によって、半壊。
公爵自身も、爆発に巻き込まれ、生死不明。
もはや、王都には、リリア軍の、入城を、阻む、組織的な、抵抗力は、残っていないだろう。
俺の、ゲームは、もう、終わったようなものだ。
「……楽な、仕事だったな」
俺は、そう、呟き、大きく、伸びをした。
そろそろ、昼寝の時間だ。
だが。
「――ユータさん。まだ、終わってはいませんよ」
静かな、声が、俺を、引き留めた。
声の主は、フィー。
彼女は、いつの間にか、俺の隣に立ち、厳しい、表情で、マップを、見つめていた。
「……どういうことだ?」
「王都に、まだ、一つ、非常に、強力な、魔力反応が、残っています。これは……グレン公爵の、ものではない。もっと、異質で、禍々しい……。おそらく、魔王軍からの、最後の、置き土産でしょう」
フィーの、言葉に、俺は、眉をひそめた。
俺は、ディスプレイの、解像度を、最大まで、上げ、王都の、上空からの、映像に、切り替えた。
そこには、半壊した、城と、混乱に、陥る、街の、様子が、映し出されている。
そして、その、城の、玉座の間に。
確かに、それは、いた。
禍々しい、紫色の、オーラを、まとった、一体の、魔族。
そいつは、瓦礫の、山と化した、玉座の間に、ただ、一人、静かに、立っていた。
その姿は、俺の、家の、門番をしている、ポチ――竜将軍バハムートに、匹敵するほどの、圧倒的な、存在感を、放っている。
「……四天王か?」
「いえ、違います」
フィーは、首を横に振った。
「あれは、四天王では、ありません。ですが、その、魔力量は、先日、捕らえた、竜将軍にも、匹敵、あるいは、それ以上……。おそらく、魔王ゼノンが、直接、創り出した、側近中の、側近。『魔将軍』とでも、呼ぶべき、存在でしょう」
「……最後の、砦、ってわけか」
俺は、舌打ちした。
面倒なこと、この上ない。
「リリアたちに、警告を」
「いえ、その必要は、ありません」
フィーは、静かに、言った。
「彼もまた、この戦いの、結末を、見届けに来た、観客に、すぎませんから」
「……どういうことだ?」
「見ていなさい。彼が、動くのは、リリア様が、王城に、たどり着いた、その時です」
フィーの、予言通り。
その、紫の、魔将軍は、動かなかった。
ただ、静かに、リリア軍が、王都に、入城し、民衆の、熱狂的な、歓迎を受け、そして、王城へと、進んでくるのを、待っていた。
やがて、リリアは、一握りの、精鋭と、共に、半壊した、王城の、玉座の間へと、たどり着いた。
そこに、立っていたのは、彼女の、叔父、グレン公爵の、無残な、亡骸と。
そして、その、亡骸を、見下ろす、一人の、魔将軍。
「……待っていたぞ。アルトリアの、姫」
魔将軍は、ゆっくりと、振り返った。
その顔には、まるで、能面のような、無表情が、張り付いている。
「貴様が、我が、同胞たちを、ことごとく、打ち破ったという、賢者の、手先か」
「……いかにも。わたくしが、『銀の姫騎士』リリアーナ。魔王の、手先よ。ここで、その、悪逆に、終止符を、打ちます!」
リリアは、剣を構え、言い放った。
だが、魔将軍は、動じない。
「……よかろう。だが、ここで、戦うのは、無粋というもの。貴様の、本当の、力は、その、背後にいる、賢者の、力あってこそ、だろう?」
魔将軍は、そう言うと、空間を、指で、なぞった。
すると、彼の、目の前に、一枚の、挑戦状らしき、羊皮紙が、現れた。
「――賢者に、伝えよ。本当の、決着は、この、私と、一対一で、つける、と。場所は、三日後、かつて、竜将軍バハムートが、根城としていた、『竜の顎』。そこで、待つ」
挑戦状は、ふわり、と、リリアの、足元へと、舞い落ちた。
「もし、来なければ、この、王都の、民、全てを、皆殺しにする。……そう、伝えよ」
それが、彼の、最後の、言葉だった。
魔将軍は、そう、言い残すと、その姿を、紫の、霧と共に、掻き消した。
後に、残されたのは、静寂と、一枚の、挑戦状だけ。
王都は、解放された。
だが、本当の、戦いは、まだ、終わってはいなかった。
最後の、そして、最強の、敵が、今、名指しで、俺に、挑戦状を、叩きつけてきたのだ。
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