異世界転生特典『絶対安全領域(マイホーム)』~家の中にいれば神すら無効化、一歩も出ずに世界最強になりました~

夏見ナイ

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第60話 後始末はヒロインに丸投げです

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最終決戦、というには、あまりにも、締まらない、幕切れ。
俺が、ソファで、惰眠を貪っている間に、家の外では、歴史的な、後処理が、進められていた。
魔王ゼノンは、俺に、完膚なきまでに、心を折られた結果、なぜか、非常に、素直で、従順な、『元・魔王様』になっていた。
彼は、自ら、家の外へ出ると、呆然と、待機していた、十万の、魔王軍に、対し、威厳ある、しかし、どこか、気の抜けた声で、告げた。
「――聞け、我が、兵たちよ。ただ今をもって、我ら、魔王軍は、アルトリア王国への、侵攻を、完全に、停止する。そして、賢者ユータとの間に、不可侵の、友好条約を、結ぶことになった」
その、あまりにも、突然の、終戦宣言。
魔族たちは、大混乱に、陥った。
「ぜ、ゼノン様!? いったい、どういう、風の吹き回しで……」
「家の中で、何が……」
そんな、部下たちの、戸惑いを、ゼノンは、一言で、黙らせた。
「――賢者の家の、ソファは、すごいぞ」
その、あまりにも、意味不明な、言葉。
だが、絶対君主である、魔王の、決定に、逆らえる者は、誰も、いなかった。
こうして、魔王軍は、武器を、収め、来た時と、同じように、静かに、自分たちの、領地へと、撤退を開始した。
その、撤退作業の、指揮を、取ったのは、アルトリアの、新女王リリアと、その、側近である、フィー。
そして、なぜか、元・魔王ゼノンも、甲斐甲斐しく、その、手伝いをしていた。
「おい、そこの、オーク! 隊列が、乱れているぞ! 美しくない!」
「そこの、リザードマン! 森を、荒らすな! 賢者殿に、叱られる!」
ゼノンは、まるで、几帳面な、風紀委員のように、部下たちの、撤退マナーを、厳しく、指導している。その、変わりように、リリアたちも、魔族たちも、ただ、戸惑うばかりだった。

そんな、歴史的な、和解と、撤退作業が、家の外で、繰り広げられている、間。
俺は、リビングで、モカが淹れてくれた、新しい、紅茶を、すすっていた。
「……ふう。ようやく、本当に、静かになったな」
「はい、ご主人様。もう、誰も、ご主人様のお昼寝を、邪魔しませんよ」
モカは、にこにこと、笑っている。
俺の、膝の上では、ピヨちゃんが、気持ちよさそうに、丸くなっていた。
窓の外からは、遠ざかっていく、魔王軍の、足音と、リリアの、指示の声が、微かに、聞こえてくる。
完璧な、平和。
完璧な、日常。
これこそが、俺が、求めていた、すべてだった。
俺は、満足のため息をつき、ソファに、深く、深く、体を、沈めた。
もう、何も、考える必要はない。
何も、する必要はない。
ただ、この、穏やかな、時間に、身を、委ねていればいい。
その、怠惰で、至福な、思考に、俺の意識が、溶けそうになった、その時。
ガチャリ、と、リビングのドアが開いた。
入ってきたのは、後片付けを終えた、リリアと、フィー、そして、なぜか、元・魔王の、ゼノンだった。
「……おい、なんで、お前まで、いるんだ」
俺が、眉をひそめると、ゼノンは、どこか、申し訳なさそうな、顔で、言った。
「いや、その……リリア殿に、今後の、両国の、関係改善について、協議を、と、誘われてな。ついでに、お前の、家の、ソファの、秘密について、少し、レクチャーを、と……」
「うちを、会議室代わりに、使うな」
「まあまあ、ユータ様。固いことは、仰らずに」
リリアは、にこやかに、笑う。その笑顔には、女王としての、貫禄と、そして、俺に対する、絶対的な、信頼感が、あった。
「それに、ゼノン様から、魔王軍が、これまで、集めてきた、古代の、遺物や、魔導書の、リストを、いただけることになったのです。きっと、ユータ様の、興味を、引くものも、あるはずですわ」
その言葉に、俺の眉が、ぴくりと、動いた。
古代の、遺物。
魔導書。
その、響きは、俺の、退屈を、紛らわす、最高の、オモチャの、匂いがした。
「……まあ、お茶くらいなら、出してやる」
俺は、仕方ない、という顔で、許可を出した。
フィーは、早速、ゼノンを、質問攻めにしている。
「その、魔力の、根源は、負の、感情エネルギーですか? それとも、異界からの、干渉による、ものですか? あなたの、その、美しい、容姿は、遺伝子操作による、ものですか?」
「や、やめろ、そんな、学術的な、目で、私を、見るな……!」
タジタジになる、元・魔王。
リリアは、そんな、二人を、微笑ましそうに、眺めながら、キッチンで、紅茶の準備を始めた。
モカは、ゼノンの、マントの、裾を、興味津々で、くんくんと、嗅いでいる。
「……なんか、変な、匂いがします」
「それは、数千年分の、闇のオーラだ……。嗅ぐな」
門の、外からは、番犬ポチと、ザイードの、不満げな、呻き声が、聞こえてくる。
騒がしい。
実に、騒がしい。
だが、その、騒がしさは、不思議と、不快ではなかった。
それは、俺が、守り抜いた、俺だけの、新しい、『平穏』の、形なのかもしれない。
俺は、そんな、カオスな、リビングの光景を、眺めながら。
知らず知らずのうちに、口元に、笑みを、浮かべていた。
「……まあ、たまには、こういうのも、悪くないか」
俺の、長くて、そして、ひたすらに、面倒くさかった、戦いは、終わった。
そして、ここから、始まるのは。
元・魔王様まで、押しかけてくる、さらに、賑やかで、そして、たぶん、もっと、面倒くさい、日常。
その、新しい、物語の、始まりを、予感しながら。
俺は、ゆっくりと、目を閉じ、ソファの、心地よさに、再び、身を、委ねるのだった。
ああ、やっぱり。
我が家が、一番だな。

**――第四章 完――**
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