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第三話 ユニークスキル【全自動化(フルオート)】
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ハッと意識が覚醒した。
見慣れた、染みだらけの天井が視界に映る。軋む体を起こすと、そこは間違いなく俺の家のベッドの上だった。餓死寸前だったはずの体は、不思議と力がみなぎっている。腹の底から湧き上がるような、穏やかな活力が全身を巡っていた。
夢だったのか。怠惰の神イナーシアも、無限の空間も、全ては飢えが見せた幻覚だったのだろうか。
だとしたら、この体力の回復ぶりはどう説明がつく。
俺がぼんやりとそんなことを考えていると、不意に脳内に直接、情報が流れ込んできた。それは知識として、あるいは原体験として、ごく自然に俺の中に溶け込んでいく。
【ユニークスキル:全自動化(フルオート)】
《概要》
あらゆる事象を自動化するスキル。登録されたプロセスを、術者の魔力を消費して自動で実行する。
《登録方法》
1.術者が一度だけ実行した物理的行動。
2.術者が頭の中で完璧に構築した論理的プロセス。
《実行条件》
・プロセスの実行に必要な魔力が、術者の最大MPを下回っていること。
・魔力が尽きた場合、自動化は停止する。
《魔力回復》
・時間経過と共に自動で回復する。
……スキル。本物だ。
俺はごくりと唾を飲んだ。夢じゃない。俺は本当に、怠惰を極めるための究極の力を手に入れたんだ。
興奮で心臓が早鐘を打つ。前世の記憶が蘇ってから、これほど感情が高ぶったのは初めてだった。だが、まずは落ち着け。浮かれている場合じゃない。このスキルを最大限に活用するためには、その仕様を正確に把握する必要がある。
完璧な怠惰のためには、完璧な計画が不可欠だ。
俺はベッドから降り、足元に転がっていた手頃な木の枝を拾い上げた。まずは試してみるのが一番だ。
「行動の登録…」
俺は意識を集中し、頭の中でスキルを発動させるイメージを描いた。すると、今行った「木の枝を拾い上げる」という一連の動作が、一つのパッケージとして脳内に保存される感覚があった。
次に、俺はその登録した行動に【木の枝拾い】と名付け、実行を命じた。
「自動実行(オート・ラン)」
唱えた瞬間、俺の体からごく僅かな魔力が吸い取られるのを感じた。そして、目の前で信じられない光景が広がる。
床に置いた木の枝が、ふわりと宙に浮いた。
見えない何者かに持ち上げられたかのように、枝はゆっくりと上昇し、俺の目の前でぴたりと静止する。まるで「どうぞ」と差し出されているようだ。
「……おお」
思わず感嘆の声が漏れた。これは凄い。本当に、俺が何もしなくても行動が再現される。俺は差し出された枝を、恐る恐る手で受け取った。ひんやりとした木の感触が、これが現実であることを雄弁に物語っていた。
俺は再び枝を床に置き、もう一度【木の枝拾い】を実行した。結果は同じ。枝は自動で持ち上げられ、俺の前に差し出される。魔力の消費も微々たるものだ。これなら何度でも繰り返せる。
次に、もう少し複雑なことを試してみよう。
俺は部屋の隅にある暖炉に向かった。火はとっくに消え、冷たい灰が溜まっている。俺は火打ち石を取り出し、一度だけ火口に火花を散らして火種を作った。そして、その一連の動作を【着火】として登録する。
「自動実行」
再び魔力が消費される。すると、暖炉の前に置いた火打ち石と火口がひとりでに動き出した。カチ、カチ、と石が打ち鳴らされ、数回目で見事に火花が火口に移る。小さな赤い光が、すぐに燻って消えた。
成功だ。これも自動化できる。
次から次へと、俺は試行を繰り返した。
床の埃を箒で掃く。その動作を【掃除】として登録。
桶に水を汲む。その動作を【水汲み】として登録。
乾いたパンをかじる。その動作を【食事】として登録。
どれも完璧に機能した。俺の魔力がある限り、これらの雑事は全て自動で行われる。もう俺が汗水流して働く必要は一切ないのだ。
笑いが込み上げてきた。最高だ。これこそ俺が求めていた力。イナーシアには感謝しないといけないな。まあ、面倒だからしないけど。
一通り基本的な動作を試した後、俺は一つの重要な点に思い至った。
魔力だ。
このスキルは、俺の魔力を動力源としている。つまり、俺の魔力量が尽きれば、この素晴らしい自動化システムも停止してしまう。完璧な怠惰ライフを永続させるためには、魔力管理が最重要課題となる。
「俺の最大MPは、どのくらいなんだ?」
残念ながら、この世界にはゲームのようなステータス画面は存在しない。自分の魔力量を知るには、体感で把握するしかない。俺は【木の枝拾い】を連続で実行し、どれくらいで魔力切れを起こすか試してみることにした。
実行、実行、実行。
延々と繰り返される無機質な動作。床の枝が浮き上がり、俺の手に渡され、また床に落ちる。その繰り返し。
百回、二百回と繰り返したあたりで、体に僅かな倦怠感を覚え始めた。これが魔力枯渇の前兆か。三百回を超えたところで、明確な疲労感に変わる。そして、三百五十回目を過ぎたあたりで、ついに木の枝は動かなくなった。
同時に、ずしりとした疲労感が全身を襲う。立っているのも億劫になるほどの脱力感。なるほど、魔力切れとはこういう感覚か。
俺はふらつく足でベッドに戻り、倒れ込んだ。
三百五十回。単純計算だが、これが俺のMPということになるだろう。木の枝を拾うという極めて単純な動作で、これだけ消費する。もっと複雑な【掃除】や【着火】なら、さらに燃費は悪くなるはずだ。
「……省エネ化が必要だな」
完璧な怠惰のためには、思考停止してはいけない。いかに効率よく、少ない魔力で最大の効果を発揮させるか。その設計こそが、このスキルを使いこなす鍵になる。
例えば【掃除】。ただ箒で掃くだけでなく、「まず窓を開けて換気し、次に天井の埃を払い、壁を拭き、最後に床を掃く」という一連のプロセスを完璧に設計して登録すれば、より少ない魔力で部屋全体を綺麗にできるかもしれない。
「行動の登録」だけではない。もう一つの登録方法、「術者が頭の中で完璧に構築した論理的プロセス」。これこそがキモだ。俺自身の行動をトレースさせるだけでは、効率に限界がある。だが、頭の中で理想的な動きを設計し、それを登録すれば、俺自身の身体能力や技術を超えた結果を生み出せる可能性がある。
怠惰に生きるための、知的労働。
矛盾しているようだが、構わない。これは未来永劫続く安楽な生活のための、ほんのわずかな初期投資だ。前世で叩き込まれた業務効率化のノウハウが、こんな形で役立つ時が来るとはな。
疲労した体が、心地よい眠りを要求していた。魔力は寝ていれば回復するらしい。
俺は安堵のため息をつき、ゆっくりと目を閉じた。
これから始まる。誰にも邪魔されず、何もせず、ただ生きるだけの毎日が。
まずはこの家を、完璧な全自動引きこもり要塞に改造することから始めよう。壮大な計画の第一歩だ。
見慣れた、染みだらけの天井が視界に映る。軋む体を起こすと、そこは間違いなく俺の家のベッドの上だった。餓死寸前だったはずの体は、不思議と力がみなぎっている。腹の底から湧き上がるような、穏やかな活力が全身を巡っていた。
夢だったのか。怠惰の神イナーシアも、無限の空間も、全ては飢えが見せた幻覚だったのだろうか。
だとしたら、この体力の回復ぶりはどう説明がつく。
俺がぼんやりとそんなことを考えていると、不意に脳内に直接、情報が流れ込んできた。それは知識として、あるいは原体験として、ごく自然に俺の中に溶け込んでいく。
【ユニークスキル:全自動化(フルオート)】
《概要》
あらゆる事象を自動化するスキル。登録されたプロセスを、術者の魔力を消費して自動で実行する。
《登録方法》
1.術者が一度だけ実行した物理的行動。
2.術者が頭の中で完璧に構築した論理的プロセス。
《実行条件》
・プロセスの実行に必要な魔力が、術者の最大MPを下回っていること。
・魔力が尽きた場合、自動化は停止する。
《魔力回復》
・時間経過と共に自動で回復する。
……スキル。本物だ。
俺はごくりと唾を飲んだ。夢じゃない。俺は本当に、怠惰を極めるための究極の力を手に入れたんだ。
興奮で心臓が早鐘を打つ。前世の記憶が蘇ってから、これほど感情が高ぶったのは初めてだった。だが、まずは落ち着け。浮かれている場合じゃない。このスキルを最大限に活用するためには、その仕様を正確に把握する必要がある。
完璧な怠惰のためには、完璧な計画が不可欠だ。
俺はベッドから降り、足元に転がっていた手頃な木の枝を拾い上げた。まずは試してみるのが一番だ。
「行動の登録…」
俺は意識を集中し、頭の中でスキルを発動させるイメージを描いた。すると、今行った「木の枝を拾い上げる」という一連の動作が、一つのパッケージとして脳内に保存される感覚があった。
次に、俺はその登録した行動に【木の枝拾い】と名付け、実行を命じた。
「自動実行(オート・ラン)」
唱えた瞬間、俺の体からごく僅かな魔力が吸い取られるのを感じた。そして、目の前で信じられない光景が広がる。
床に置いた木の枝が、ふわりと宙に浮いた。
見えない何者かに持ち上げられたかのように、枝はゆっくりと上昇し、俺の目の前でぴたりと静止する。まるで「どうぞ」と差し出されているようだ。
「……おお」
思わず感嘆の声が漏れた。これは凄い。本当に、俺が何もしなくても行動が再現される。俺は差し出された枝を、恐る恐る手で受け取った。ひんやりとした木の感触が、これが現実であることを雄弁に物語っていた。
俺は再び枝を床に置き、もう一度【木の枝拾い】を実行した。結果は同じ。枝は自動で持ち上げられ、俺の前に差し出される。魔力の消費も微々たるものだ。これなら何度でも繰り返せる。
次に、もう少し複雑なことを試してみよう。
俺は部屋の隅にある暖炉に向かった。火はとっくに消え、冷たい灰が溜まっている。俺は火打ち石を取り出し、一度だけ火口に火花を散らして火種を作った。そして、その一連の動作を【着火】として登録する。
「自動実行」
再び魔力が消費される。すると、暖炉の前に置いた火打ち石と火口がひとりでに動き出した。カチ、カチ、と石が打ち鳴らされ、数回目で見事に火花が火口に移る。小さな赤い光が、すぐに燻って消えた。
成功だ。これも自動化できる。
次から次へと、俺は試行を繰り返した。
床の埃を箒で掃く。その動作を【掃除】として登録。
桶に水を汲む。その動作を【水汲み】として登録。
乾いたパンをかじる。その動作を【食事】として登録。
どれも完璧に機能した。俺の魔力がある限り、これらの雑事は全て自動で行われる。もう俺が汗水流して働く必要は一切ないのだ。
笑いが込み上げてきた。最高だ。これこそ俺が求めていた力。イナーシアには感謝しないといけないな。まあ、面倒だからしないけど。
一通り基本的な動作を試した後、俺は一つの重要な点に思い至った。
魔力だ。
このスキルは、俺の魔力を動力源としている。つまり、俺の魔力量が尽きれば、この素晴らしい自動化システムも停止してしまう。完璧な怠惰ライフを永続させるためには、魔力管理が最重要課題となる。
「俺の最大MPは、どのくらいなんだ?」
残念ながら、この世界にはゲームのようなステータス画面は存在しない。自分の魔力量を知るには、体感で把握するしかない。俺は【木の枝拾い】を連続で実行し、どれくらいで魔力切れを起こすか試してみることにした。
実行、実行、実行。
延々と繰り返される無機質な動作。床の枝が浮き上がり、俺の手に渡され、また床に落ちる。その繰り返し。
百回、二百回と繰り返したあたりで、体に僅かな倦怠感を覚え始めた。これが魔力枯渇の前兆か。三百回を超えたところで、明確な疲労感に変わる。そして、三百五十回目を過ぎたあたりで、ついに木の枝は動かなくなった。
同時に、ずしりとした疲労感が全身を襲う。立っているのも億劫になるほどの脱力感。なるほど、魔力切れとはこういう感覚か。
俺はふらつく足でベッドに戻り、倒れ込んだ。
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「……省エネ化が必要だな」
完璧な怠惰のためには、思考停止してはいけない。いかに効率よく、少ない魔力で最大の効果を発揮させるか。その設計こそが、このスキルを使いこなす鍵になる。
例えば【掃除】。ただ箒で掃くだけでなく、「まず窓を開けて換気し、次に天井の埃を払い、壁を拭き、最後に床を掃く」という一連のプロセスを完璧に設計して登録すれば、より少ない魔力で部屋全体を綺麗にできるかもしれない。
「行動の登録」だけではない。もう一つの登録方法、「術者が頭の中で完璧に構築した論理的プロセス」。これこそがキモだ。俺自身の行動をトレースさせるだけでは、効率に限界がある。だが、頭の中で理想的な動きを設計し、それを登録すれば、俺自身の身体能力や技術を超えた結果を生み出せる可能性がある。
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矛盾しているようだが、構わない。これは未来永劫続く安楽な生活のための、ほんのわずかな初期投資だ。前世で叩き込まれた業務効率化のノウハウが、こんな形で役立つ時が来るとはな。
疲労した体が、心地よい眠りを要求していた。魔力は寝ていれば回復するらしい。
俺は安堵のため息をつき、ゆっくりと目を閉じた。
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