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第五話 怠惰の敵、それは生活費
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朝は鳥のさえずりと共に始まる。もちろん、俺が起きるわけではない。ベッドの中で微睡みながら、思考だけで命令を下す。
『システム起動』
窓が開き、新鮮な空気が部屋を満たす。厨房では朝食の準備が始まり、香ばしいパンの匂いが漂ってくる。掃除用の箒や雑巾たちが、昨夜のうちに俺が散らかした僅かな痕跡を片付けていく。
完璧だ。実に完璧な朝だ。
思考の最適化も進み、今では日常的な家事全般を【日常生活パッケージ】として一括管理している。消費魔力も当初の半分以下に抑えることに成功した。俺は文字通り、指一本動かすことなく王様のような生活を送っていた。
この至福が永遠に続く。俺は本気でそう信じ始めていた。
その日も、俺はベッドの上で運ばれてきた昼食のスープをすすっていた。いつも通りの、野菜がたっぷり入った滋味深いスープ。のはずだった。
「ん?」
スプーンですくったスープの中身が、やけに寂しいことに気づいた。いつもならゴロゴロと入っているはずのジャガイモが見当たらない。ニンジンの破片がいくつか浮いているだけだ。
気のせいか。そう思おうとしたが、一度気になるともう駄目だった。ここ数日の食事を思い返してみる。確かに、日に日に具材が貧相になってきている気がする。
嫌な予感が胸をよぎった。
俺はすぐに新たなプロセスを設計した。【食料庫在庫確認】。食料庫にある全ての食材をリストアップし、その残量を俺に報告させるシステムだ。
実行すると、すぐに脳内へ情報が流れ込んできた。
《在庫リスト》
・乾燥豆:残り約三日分
・干し肉:残り二枚
・小麦粉:袋の底に僅か
・塩:残り僅か
・野菜類:在庫ゼロ
「……ゼロ?」
思わず声が出た。野菜が、ない。スープに入っていたニンジンの破片が、最後の一個だったのだ。他の食材も、もって数日というところか。
俺の完璧な怠惰ライフを支えていた食料が、もう尽きかけようとしていた。
血の気が引くのを感じた。食料がなければ、当然生きてはいけない。この家で優雅に寝転がっていることもできなくなる。
いや、待て。落ち着け。食料がないなら、買えばいいだけだ。そうだ、金を使えばいい。両親が遺してくれた蓄えがまだあるはずだ。
俺は震える思考で、次の命令を下した。【貯蔵金確認】。寝室の床下に隠してある古い壺の中身を、俺の目の前に持ってこさせる。
床板が静かに持ち上がり、埃をかぶった壺が姿を現した。壺はゆっくりと宙に浮き、俺の前に運ばれてくる。そして、ゆっくりと傾いた。
カラカラ、と乾いた音がして、数枚の硬貨がシーツの上に転がり落ちた。
一枚、二枚、三枚……全部で、五枚。
くすんだ銅貨が五枚。それだけだった。
俺は絶句した。嘘だろ。これだけ? 村の市場でパンを数個買ったら消えてしまう程度の金額だ。肉や野菜なんて、夢のまた夢。
どうして、もっと早く気づかなかったんだ。引きこもって怠惰な生活を満喫している間に、俺の生命線はとっくに尽きかけていたのだ。
ぞわり、と背筋に冷たいものが走った。
金がない。食料もない。このままでは、俺に残された道は一つしかない。
働く、ということだ。
「……っ!」
頭を殴られたような衝撃。前世の記憶が、濁流のように脳裏を駆け巡る。鳴り止まない電話。積み上げられた書類の山。上司の怒声。終わらない残業。蛍光灯の白い光。そして、冷たいデスクに突っ伏して動かなくなった、かつての俺の姿。
「嫌だ……!」
俺は頭を抱えた。絶対に嫌だ。二度とあんな思いをするものか。誰かのために、金のために、自分の時間と命をすり減らすなんて、もうごめんだ。
だが、どうすればいい。このまま何もしなければ、待っているのは確実な餓死だ。腹を空かせて無様に死ぬか、それとも誇りを捨てて泥にまみれて働くか。
究極の選択だった。
俺はベッドの上で身をよじり、呻いた。完璧な楽園を手に入れたと思ったのに。こんな基本的な、あまりにも現実的な問題で、全てが崩れ去ろうとしている。
「……いや」
その時、脳裏にあの神の声が蘇った。
『君が、その素晴らしい怠惰をもっと効率的に、もっと完璧に追求するための力を与えよう』
そうだ。俺にはまだ、この【全自動化(フルオート)】があるじゃないか。
このスキルは、ただ家事を楽にするためだけのものじゃない。あらゆる事象を自動化する力。ならば、金儲けだって自動化できるはずだ。俺が働かなくても、金が勝手に入ってくる仕組み。それを作り上げればいいんだ。
労働はしない。だが、頭は使う。怠惰を守るためならば、どんな知的労働も厭わない。
俺はゆっくりと身を起こした。飢えと絶望で淀んでいた瞳に、再び光が宿る。それは、前世で新規プロジェクトの企画を練っていた社畜時代の光と、少しだけ似ていた。
だが、目的が違う。これは、誰かのためじゃない。会社のためでもない。
全ては、俺が最高の怠惰を謳歌するためだ。
「さて、どうやって稼ぐか」
俺は腕を組み、本格的な思考を開始した。働かずに金を得る方法。究極の不労所得システムの構築。
俺の新たな挑戦が、静かに始まろうとしていた。
『システム起動』
窓が開き、新鮮な空気が部屋を満たす。厨房では朝食の準備が始まり、香ばしいパンの匂いが漂ってくる。掃除用の箒や雑巾たちが、昨夜のうちに俺が散らかした僅かな痕跡を片付けていく。
完璧だ。実に完璧な朝だ。
思考の最適化も進み、今では日常的な家事全般を【日常生活パッケージ】として一括管理している。消費魔力も当初の半分以下に抑えることに成功した。俺は文字通り、指一本動かすことなく王様のような生活を送っていた。
この至福が永遠に続く。俺は本気でそう信じ始めていた。
その日も、俺はベッドの上で運ばれてきた昼食のスープをすすっていた。いつも通りの、野菜がたっぷり入った滋味深いスープ。のはずだった。
「ん?」
スプーンですくったスープの中身が、やけに寂しいことに気づいた。いつもならゴロゴロと入っているはずのジャガイモが見当たらない。ニンジンの破片がいくつか浮いているだけだ。
気のせいか。そう思おうとしたが、一度気になるともう駄目だった。ここ数日の食事を思い返してみる。確かに、日に日に具材が貧相になってきている気がする。
嫌な予感が胸をよぎった。
俺はすぐに新たなプロセスを設計した。【食料庫在庫確認】。食料庫にある全ての食材をリストアップし、その残量を俺に報告させるシステムだ。
実行すると、すぐに脳内へ情報が流れ込んできた。
《在庫リスト》
・乾燥豆:残り約三日分
・干し肉:残り二枚
・小麦粉:袋の底に僅か
・塩:残り僅か
・野菜類:在庫ゼロ
「……ゼロ?」
思わず声が出た。野菜が、ない。スープに入っていたニンジンの破片が、最後の一個だったのだ。他の食材も、もって数日というところか。
俺の完璧な怠惰ライフを支えていた食料が、もう尽きかけようとしていた。
血の気が引くのを感じた。食料がなければ、当然生きてはいけない。この家で優雅に寝転がっていることもできなくなる。
いや、待て。落ち着け。食料がないなら、買えばいいだけだ。そうだ、金を使えばいい。両親が遺してくれた蓄えがまだあるはずだ。
俺は震える思考で、次の命令を下した。【貯蔵金確認】。寝室の床下に隠してある古い壺の中身を、俺の目の前に持ってこさせる。
床板が静かに持ち上がり、埃をかぶった壺が姿を現した。壺はゆっくりと宙に浮き、俺の前に運ばれてくる。そして、ゆっくりと傾いた。
カラカラ、と乾いた音がして、数枚の硬貨がシーツの上に転がり落ちた。
一枚、二枚、三枚……全部で、五枚。
くすんだ銅貨が五枚。それだけだった。
俺は絶句した。嘘だろ。これだけ? 村の市場でパンを数個買ったら消えてしまう程度の金額だ。肉や野菜なんて、夢のまた夢。
どうして、もっと早く気づかなかったんだ。引きこもって怠惰な生活を満喫している間に、俺の生命線はとっくに尽きかけていたのだ。
ぞわり、と背筋に冷たいものが走った。
金がない。食料もない。このままでは、俺に残された道は一つしかない。
働く、ということだ。
「……っ!」
頭を殴られたような衝撃。前世の記憶が、濁流のように脳裏を駆け巡る。鳴り止まない電話。積み上げられた書類の山。上司の怒声。終わらない残業。蛍光灯の白い光。そして、冷たいデスクに突っ伏して動かなくなった、かつての俺の姿。
「嫌だ……!」
俺は頭を抱えた。絶対に嫌だ。二度とあんな思いをするものか。誰かのために、金のために、自分の時間と命をすり減らすなんて、もうごめんだ。
だが、どうすればいい。このまま何もしなければ、待っているのは確実な餓死だ。腹を空かせて無様に死ぬか、それとも誇りを捨てて泥にまみれて働くか。
究極の選択だった。
俺はベッドの上で身をよじり、呻いた。完璧な楽園を手に入れたと思ったのに。こんな基本的な、あまりにも現実的な問題で、全てが崩れ去ろうとしている。
「……いや」
その時、脳裏にあの神の声が蘇った。
『君が、その素晴らしい怠惰をもっと効率的に、もっと完璧に追求するための力を与えよう』
そうだ。俺にはまだ、この【全自動化(フルオート)】があるじゃないか。
このスキルは、ただ家事を楽にするためだけのものじゃない。あらゆる事象を自動化する力。ならば、金儲けだって自動化できるはずだ。俺が働かなくても、金が勝手に入ってくる仕組み。それを作り上げればいいんだ。
労働はしない。だが、頭は使う。怠惰を守るためならば、どんな知的労働も厭わない。
俺はゆっくりと身を起こした。飢えと絶望で淀んでいた瞳に、再び光が宿る。それは、前世で新規プロジェクトの企画を練っていた社畜時代の光と、少しだけ似ていた。
だが、目的が違う。これは、誰かのためじゃない。会社のためでもない。
全ては、俺が最高の怠惰を謳歌するためだ。
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俺の新たな挑戦が、静かに始まろうとしていた。
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