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第六話 金策その1・薬草自動採取
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働かずに金を得る。その究極の命題を前に、俺はベッドの上で腕を組んだ。これはもはや、哲学だ。いかにして労働という原罪から逃れ、不労という名の至福に至るか。俺の全知全能を、いや、面倒くさがりな脳みそをフル回転させる時が来た。
まず思いつくのは、狩りだ。森へ行けば鹿や猪がいるだろう。肉は売れるし、自分でも食える。一石二鳥だ。だが、すぐに却下した。
獲物を探し回るのがまず面倒くさい。見つけたところで、俺に狩れる保証はない。素人が手を出せば、逆に熊にでも出くわして食われるのがオチだ。それに、仕留めた後の解体作業を想像しただけで吐き気がした。駄目だ。却下。
次は、鉱石採掘か。家の裏の山で何か価値のある石が取れるかもしれない。金や銀なら大当たりだ。これも駄目だ。
どこに鉱脈があるかなんて分かるわけがない。ツルハシを振るうなんて重労働、考えただけで腰が痛くなる。そもそもツルハシを買う金すらない。却下だ。
では、農業はどうか。幸い、両親が遺した小さな畑がある。種をまいて作物を育てれば、食料にもなるし売ることもできるだろう。これが一番現実的かもしれない。
いや、これも駄目だ。
種まき、水やり、雑草抜き、収穫。考えただけでも目眩がするほどの労働の連続じゃないか。しかも、作物が育つまでには数ヶ月かかる。俺の腹は、そんな悠長な時間は待ってくれない。今すぐ、即金性のある何かが必要なんだ。
「……はぁ」
ため息が漏れる。どれもこれも、労働が前提になっている。この世界は、怠け者にはあまりにも厳しくできている。
何か、もっとこう、初期投資がゼロで、専門知識も不要で、それでいてすぐに金になるものはないのか。そんな都合のいい話が……。
そこまで考えて、ふと、村の子供たちの会話を思い出した。
『森の奥に生えてるキラキラ草、薬師のじいちゃんが高く買ってくれるんだぜ』
『でも、崖の近くで危ないんだよな』
キラキラ草。確か、正式名称は星屑草(スターダストハーブ)とか言ったか。ポーションの材料になる、ごくありふれた薬草だ。それ以外にも、この辺りの森にはいくつかの薬草が自生しているという話を聞いたことがある。
これだ。
薬草採取ならば、元手はかからない。俺の体一つあればいい。森に入って、それらしき草を引っこ抜いてくればいいだけだ。専門知識は必要だが、幸い俺は前世で植物図鑑を眺めるのが趣味だった時期がある。いくつかの薬草なら、見分けがつくはずだ。
そして何より、この計画には決定的な利点がある。
一度だけ、俺が薬草を採取する。その完璧なプロセスをスキルに登録さえしてしまえば、あとは【全自動化】が俺の代わりに二十四時間三百六十五日、薬草を採取し続けてくれる。
未来永劫続く不労所得。そのための、たった一度きりの労働。
「……やるか」
重い、重すぎる腰を上げた。腹の底から「面倒くさい」という叫びが聞こえる。だが、これは未来の俺のための尊い犠牲なのだ。俺は自分にそう言い聞かせ、埃をかぶった外套を羽織った。
数日ぶりに外に出ると、太陽の光が目に染みた。新鮮な空気すら、引きこもりの肺には刺激が強い。俺は眉をひそめ、よろよろと森の方へ歩き出した。
村の人間とすれ違ったが、彼らは俺を一瞥すると、侮蔑とも憐れみともつかない表情で目を逸らした。あの怠け者が、ついに食い詰めて森にでも入るのか。そんな声が聞こえてくるようだった。
どうとでも言え。お前たちが汗水流して働いている間に、俺は黄金の怠惰を手に入れるんだ。
森の中は、ひんやりとした空気に満ちていた。木漏れ日が地面にまだらな模様を描いている。俺は記憶を頼りに、薬草が生えていそうな湿った場所を探して歩いた。
数十分ほど歩き回っただろうか。岩陰に、見覚えのある形の植物を見つけた。青みがかった葉に、小さな白い花。解熱作用のある、月見草(ムーンリーブ)だ。
これだ。これならそこそこの値段で売れるはずだ。
俺はしゃがみ込み、採取作業に取り掛かった。ただ引っこ抜くのではない。これは、未来の自動化システムのための設計図になるのだ。一つ一つの動作に、意味を持たせる必要がある。
まず、指先の感覚で土の硬さを確かめる。根を傷つけない最適な角度と深さを計算。
次に、茎を優しくつまみ、ゆっくりと、しかし一定の力で引き抜く。
抜き取った後は、根についた土を軽く払い落とす。この時、根が乾燥しないよう細心の注意を払う。
最後に、葉や花の状態を目視で確認。傷んでいたり、虫に食われたりしているものは除外する。
この一連の動作を、俺は完璧な流れ作業として体に、そして脳に刻み込んだ。よし。これでいい。
俺は立ち上がり、辺りを見回した。
「プロセス登録【高品質薬草自動採取】」
頭の中で、スキルを発動させる。
《対象アイテム:月見草》
《採取エリア:この森全域》
《搬送先:自宅裏手の指定エリア》
《実行条件:俺の魔力が続く限り》
完璧な設計だ。俺は満足して頷いた。これで、俺がこの森を歩き回らなくても、スキルが自動で月見草を探し出し、完璧な手順で採取し、家の裏まで届けてくれるはずだ。
「自動実行」
命令を下すと、体の芯からごそりと魔力が抜けていく感覚があった。家事の自動化とは比較にならない、大規模なプロセスだ。それなりの消費は覚悟の上だ。
俺は採取した一株の月見草を懐に入れ、すぐに家路についた。目的は達成した。これ以上、森にいる理由はない。一刻も早く、我が城であるベッドに戻りたかった。
疲労困憊で家にたどり着いた俺は、玄関の扉を開けるなり、そのまま床に倒れ込んだ。もう指一本動きたくない。
『【日常生活パッケージ】実行』
思考だけで命令を下すと、俺の体はひとりでに持ち上げられ、ベッドまで運ばれた。汚れた外套は自動で脱がされ、ハンガーにかかる。ああ、やはり我が家が一番だ。
俺は泥のように眠った。もう二度と外に出るものか。そんな固い決意を胸に。
夜中、ふと物音で目が覚めた。
家の裏手の方から、ガサガサ、と何かが置かれるような音が断続的に聞こえてくる。泥棒か? いや、この貧乏な家に来る物好きはいないだろう。
すぐに、それがスキルの成果であることに思い至った。システムが、早速稼働しているのだ。
確認しに行く? いや、面倒だ。どうせ朝になれば結果は分かる。俺は寝返りを打ち、再び意識を眠りの底へと沈めた。
翌朝。
俺はベッドから起き上がることなく、窓の外に意識を向けた。そして、家の裏にある小さな窓の雨戸を、思考だけで開けさせた。
ギギ、と錆びた蝶番が音を立てる。そして、窓の向こうの光景が、俺の目に飛び込んできた。
そこには、山があった。
青々とした、月見草だけでできた、小高い丘。朝日を浴びて、葉の上の夜露がきらきらと輝いている。一晩で、これだけの量が。
俺は、思わず笑みを浮かべた。
計画は成功だ。これで当面の食費は稼げる。俺の完璧な怠惰ライフは、まだ終わらない。
まず思いつくのは、狩りだ。森へ行けば鹿や猪がいるだろう。肉は売れるし、自分でも食える。一石二鳥だ。だが、すぐに却下した。
獲物を探し回るのがまず面倒くさい。見つけたところで、俺に狩れる保証はない。素人が手を出せば、逆に熊にでも出くわして食われるのがオチだ。それに、仕留めた後の解体作業を想像しただけで吐き気がした。駄目だ。却下。
次は、鉱石採掘か。家の裏の山で何か価値のある石が取れるかもしれない。金や銀なら大当たりだ。これも駄目だ。
どこに鉱脈があるかなんて分かるわけがない。ツルハシを振るうなんて重労働、考えただけで腰が痛くなる。そもそもツルハシを買う金すらない。却下だ。
では、農業はどうか。幸い、両親が遺した小さな畑がある。種をまいて作物を育てれば、食料にもなるし売ることもできるだろう。これが一番現実的かもしれない。
いや、これも駄目だ。
種まき、水やり、雑草抜き、収穫。考えただけでも目眩がするほどの労働の連続じゃないか。しかも、作物が育つまでには数ヶ月かかる。俺の腹は、そんな悠長な時間は待ってくれない。今すぐ、即金性のある何かが必要なんだ。
「……はぁ」
ため息が漏れる。どれもこれも、労働が前提になっている。この世界は、怠け者にはあまりにも厳しくできている。
何か、もっとこう、初期投資がゼロで、専門知識も不要で、それでいてすぐに金になるものはないのか。そんな都合のいい話が……。
そこまで考えて、ふと、村の子供たちの会話を思い出した。
『森の奥に生えてるキラキラ草、薬師のじいちゃんが高く買ってくれるんだぜ』
『でも、崖の近くで危ないんだよな』
キラキラ草。確か、正式名称は星屑草(スターダストハーブ)とか言ったか。ポーションの材料になる、ごくありふれた薬草だ。それ以外にも、この辺りの森にはいくつかの薬草が自生しているという話を聞いたことがある。
これだ。
薬草採取ならば、元手はかからない。俺の体一つあればいい。森に入って、それらしき草を引っこ抜いてくればいいだけだ。専門知識は必要だが、幸い俺は前世で植物図鑑を眺めるのが趣味だった時期がある。いくつかの薬草なら、見分けがつくはずだ。
そして何より、この計画には決定的な利点がある。
一度だけ、俺が薬草を採取する。その完璧なプロセスをスキルに登録さえしてしまえば、あとは【全自動化】が俺の代わりに二十四時間三百六十五日、薬草を採取し続けてくれる。
未来永劫続く不労所得。そのための、たった一度きりの労働。
「……やるか」
重い、重すぎる腰を上げた。腹の底から「面倒くさい」という叫びが聞こえる。だが、これは未来の俺のための尊い犠牲なのだ。俺は自分にそう言い聞かせ、埃をかぶった外套を羽織った。
数日ぶりに外に出ると、太陽の光が目に染みた。新鮮な空気すら、引きこもりの肺には刺激が強い。俺は眉をひそめ、よろよろと森の方へ歩き出した。
村の人間とすれ違ったが、彼らは俺を一瞥すると、侮蔑とも憐れみともつかない表情で目を逸らした。あの怠け者が、ついに食い詰めて森にでも入るのか。そんな声が聞こえてくるようだった。
どうとでも言え。お前たちが汗水流して働いている間に、俺は黄金の怠惰を手に入れるんだ。
森の中は、ひんやりとした空気に満ちていた。木漏れ日が地面にまだらな模様を描いている。俺は記憶を頼りに、薬草が生えていそうな湿った場所を探して歩いた。
数十分ほど歩き回っただろうか。岩陰に、見覚えのある形の植物を見つけた。青みがかった葉に、小さな白い花。解熱作用のある、月見草(ムーンリーブ)だ。
これだ。これならそこそこの値段で売れるはずだ。
俺はしゃがみ込み、採取作業に取り掛かった。ただ引っこ抜くのではない。これは、未来の自動化システムのための設計図になるのだ。一つ一つの動作に、意味を持たせる必要がある。
まず、指先の感覚で土の硬さを確かめる。根を傷つけない最適な角度と深さを計算。
次に、茎を優しくつまみ、ゆっくりと、しかし一定の力で引き抜く。
抜き取った後は、根についた土を軽く払い落とす。この時、根が乾燥しないよう細心の注意を払う。
最後に、葉や花の状態を目視で確認。傷んでいたり、虫に食われたりしているものは除外する。
この一連の動作を、俺は完璧な流れ作業として体に、そして脳に刻み込んだ。よし。これでいい。
俺は立ち上がり、辺りを見回した。
「プロセス登録【高品質薬草自動採取】」
頭の中で、スキルを発動させる。
《対象アイテム:月見草》
《採取エリア:この森全域》
《搬送先:自宅裏手の指定エリア》
《実行条件:俺の魔力が続く限り》
完璧な設計だ。俺は満足して頷いた。これで、俺がこの森を歩き回らなくても、スキルが自動で月見草を探し出し、完璧な手順で採取し、家の裏まで届けてくれるはずだ。
「自動実行」
命令を下すと、体の芯からごそりと魔力が抜けていく感覚があった。家事の自動化とは比較にならない、大規模なプロセスだ。それなりの消費は覚悟の上だ。
俺は採取した一株の月見草を懐に入れ、すぐに家路についた。目的は達成した。これ以上、森にいる理由はない。一刻も早く、我が城であるベッドに戻りたかった。
疲労困憊で家にたどり着いた俺は、玄関の扉を開けるなり、そのまま床に倒れ込んだ。もう指一本動きたくない。
『【日常生活パッケージ】実行』
思考だけで命令を下すと、俺の体はひとりでに持ち上げられ、ベッドまで運ばれた。汚れた外套は自動で脱がされ、ハンガーにかかる。ああ、やはり我が家が一番だ。
俺は泥のように眠った。もう二度と外に出るものか。そんな固い決意を胸に。
夜中、ふと物音で目が覚めた。
家の裏手の方から、ガサガサ、と何かが置かれるような音が断続的に聞こえてくる。泥棒か? いや、この貧乏な家に来る物好きはいないだろう。
すぐに、それがスキルの成果であることに思い至った。システムが、早速稼働しているのだ。
確認しに行く? いや、面倒だ。どうせ朝になれば結果は分かる。俺は寝返りを打ち、再び意識を眠りの底へと沈めた。
翌朝。
俺はベッドから起き上がることなく、窓の外に意識を向けた。そして、家の裏にある小さな窓の雨戸を、思考だけで開けさせた。
ギギ、と錆びた蝶番が音を立てる。そして、窓の向こうの光景が、俺の目に飛び込んできた。
そこには、山があった。
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