「働きたくない…」と本気で祈ったら怠惰の神が降臨。【フルオート】で身の回りを快適にしていたら、インフラを整備した救国の英雄になっていた

夏見ナイ

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第十一話 快適生活への次なる一手

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翌朝、俺はベッドの中で目を覚ました。外は静かだ。昨日の夕方、玄関先で感じた人の気配も今は完全に消えている。まあ、当然か。用もないのに人の家の前をうろつく趣味の悪い奴もそうはいないだろう。

俺は思考だけで【日常生活パッケージ】を起動した。窓が開き、部屋の掃除が始まる。いつも通りの完璧な朝だ。

だが、一つだけいつもと違う点があった。厨房から漂ってくるスープの香りが、やけに貧相なのだ。具のない、ただの塩味の汁物の匂い。

そうだった。食材が、もう尽きたんだった。

舌打ちが漏れる。せっかく手に入れた快適な生活も、腹が満たされていなければ意味がない。またあの重いポーション袋を背負って、市場まで行かなければならないのか。考えただけで憂鬱になった。

その時、ふと昨日の夕方の気配を思い出した。あの連中、何か玄関先に置いていかなかったか。まさかとは思うが、嫌がらせでゴミでも捨てていったのかもしれない。だとしたら、片付けるのが面倒だ。

俺は確認のため、玄関の扉に設置しておいた覗き穴から外を見る、という簡易プロセス【自動覗き見】を実行した。

脳内に、玄関先の光景が直接映し出される。

そして、俺は絶句した。

そこにあったのは、ゴミの山ではなかった。瑞々しい野菜がぎっしりと詰まったカゴ。こんがりと焼き色のついた大きなパン。高級そうなチーズの塊。そして、封蝋がされた上等なワインの瓶まである。

明らかに、一般農民の食卓には並ばないような、高級食材の山だった。

「……なんだ、これ」

罠か? 俺を家からおびき出すための、手の込んだ罠なのか? あるいは、誰かが家を間違えたか。いや、この村で俺の家を知らない人間はいない。

様々な可能性が頭をよぎる。だが、どれもしっくりこない。

俺はしばらくベッドの上で考え込んだ。誰が、何のためにこんなことを。村長が来たという話も聞いた気がするが、あの男が俺に施しをする理由がない。むしろ、俺のことを快く思っていないはずだ。

……ああ、もう駄目だ。面倒くさい。

考えるのが、面倒くさい。

理由なんてどうでもいい。目の前に食料がある。それだけで十分じゃないか。貰えるものは、病気以外なんでも貰っておく。それが俺の信条だ。

俺はすぐに新たなプロセスを設計した。【供物自動回収】。玄関前の全ての食料品を、一切傷つけることなく家の中の食料庫と貯蔵庫に運搬・整理させるシステムだ。

実行すると、玄関の扉が静かに開き、見えない手が次々と食材を運び込んでいく。野菜は野菜室へ、パンはパン籠へ、チーズやワインは地下の貯蔵庫へと、完璧な仕分け作業が行われていく。

あっという間に玄関前は綺麗になり、代わりに俺の家の食料庫は、この数年で見たことがないほど満杯になった。

「ふふふ……」

笑いが止まらない。これで、またしばらくは引きこもり生活を続けられる。誰かは知らないが、ありがとう。まあ、感謝の念を送るのも面倒だから、心の中だけで済ませておくが。

その日から、俺の食生活は劇的に向上した。

今までは野菜クズのスープがご馳走だったが、今や毎食がフルコースだ。

朝は、焼きたてのパンに新鮮な卵を使った【全自動スクランブルエッグ】。昼は、数種類の野菜と干し肉をふんだんに使った【賢者の濃厚シチュー】。夜は、厚切りのチーズを乗せた【極上グラタン】に、高級ワインを添える。

全て、ベッドの上で指一本動かすことなく提供される。

「最高だ……。これぞ怠惰の極み」

俺は満ち足りた気分で、ワイングラスを傾けた。

そして、奇妙なことに、この謎の差し入れは一度きりでは終わらなかった。三日に一度、決まったように玄関先に食料が置かれるようになったのだ。俺が食料の心配をする必要は、完全になくなった。

どうやら、俺には匿名の支援者がいるらしい。まあ、誰でもいい。俺の怠惰な生活を邪魔しない限りは、大歓迎だ。

こうして俺の生活は、食という面において完璧なものとなった。

だが、完璧な世界には、また新たな不満の種が生まれるものだ。

食事が豪華になり、毎日ワインまで飲むようになると、当然、体の清潔さにもこだわりたくなる。俺は風呂に入る頻度を、三日に一度から毎日へと変更した。

問題は、そこで発生した。

その日も、俺は一日の終わりに【全自動風呂準備】を起動した。いつものように、桶が水を汲み、暖炉で温められ、庭の盥に注がれていく。はずだった。

途中で、桶の動きが止まった。

どうしたのかと確認すると、原因はすぐに判明した。家の隅に設置してある貯水用の大樽が、空になっていたのだ。

「……水切れか」

俺の家の水は、村の共同井戸から【自動水汲み】で運んできている。だが、あの井戸は家から少し離れた村の中心部にある。毎日風呂を沸かすほどの大量の水を運ぶには、往復回数が多くなり、その分、魔力の消費も馬鹿にならない。

今まではなんとかやりくりしていたが、ついに水の消費量が供給量を上回ってしまったのだ。

「魔力の燃費が悪いな……」

俺は舌打ちした。風呂に入れないのは我慢ならない。だが、水汲みのために魔力を大量に消費するのも避けたい。魔力は、俺の怠惰な生活を支えるための最も重要なリソースだ。無駄遣いは許されない。

どうすれば、もっと効率よく、少ない魔力で大量の水を確保できるか。

俺はベッドの上で、腕を組み、思考を巡らせた。

問題は、共同井戸までの距離だ。あの距離を往復するから、魔力を食うのだ。一度に運べる量にも限界がある。

ならば、答えは簡単だ。

距離が問題なら、距離をゼロにすればいい。

「……そうか」

俺の脳内に、天啓が閃いた。

「水源が、家のすぐ隣にあればいいんだ」

わざわざ遠くまで汲みに行くから面倒なのだ。この家の、この敷地の中から、水が湧き出てくれば、全ての問題は解決する。

「井戸だ」

そうだ。井戸を掘ればいい。

この家の庭に、俺専用の井戸があれば、もう水に困ることはない。水汲みの魔力消費も、限りなくゼロに近づけられる。

究極の面倒くさがりが生み出した、次なる一手。それは、自分のためだけのインフラ整備だった。

俺はにやりと笑った。面倒な問題の解決策を見つけ出す。この瞬間だけは、前世の仕事中毒だった頃の血が少しだけ騒ぐのだった。
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