「働きたくない…」と本気で祈ったら怠惰の神が降臨。【フルオート】で身の回りを快適にしていたら、インフラを整備した救国の英雄になっていた

夏見ナイ

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第十二話 【井戸自動掘削】と村の水事情

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井戸を掘る。言うのは簡単だが、実行は骨が折れる。本来であれば、屈強な男たちが何人も集まり、何日もかけて土を掘り続けなければならない大事業だ。

だが、俺には【全自動化】がある。

俺はベッドに横たわったまま、完璧な井戸掘削計画の設計に取り掛かった。これは、今までの家事代行システムとは規模が違う。土木工事だ。失敗は許されない。一度の設計で、完璧な結果を出す必要がある。

まず、第一段階【水脈探査】。
闇雲に掘っても、水が出なければ意味がない。この敷地内のどこに、最も豊かで清浄な水脈が流れているか。それを正確に特定する必要がある。

俺は自分の魔力を、微弱な波動として地面深くに送り込むイメージを構築した。波動が地層や水分に当たって跳ね返ってくる。その反響を解析し、地下の構造を三次元マップとして脳内に描き出す。一種のソナーだ。

実行すると、膨大な情報が脳に流れ込んできた。土の層、岩盤、そして……あった。家の裏手、納屋のすぐ隣の地下深くに、太く豊かな水脈が龍のように横たわっている。水質も極上だ。場所は決まった。

次に、第二段階【自動掘削】。
ここが核心部分だ。俺は、土を操る魔法をイメージした。まず、指定した円筒状の範囲の土の結合を、魔力で強制的に緩める。砂のようにサラサラになった土を、これまた魔力で作り出した風圧で地上に排出する。これを繰り返すことで、ドリルのように地面を掘り進んでいく。

これなら物理的なゴーレムを作る必要もない。騒音も最小限に抑えられる。夜中にこっそり作業するには最適だ。

第三段階【崩落防止と井戸枠構築】。
掘った穴が崩れては元も子もない。掘削と同時に、穴の側面を魔力で硬化させる。さらに、森から自動で切り出してきた石材を運び込み、内壁に寸分の狂いもなく積み上げていく。熟練の石工でも不可能な、完璧な円形の石組み井戸だ。

最終段階【仕上げ】。
地上部分には、雨やゴミが入らないように屋根と蓋を取り付ける。滑車と釣瓶も、頑丈な木材から自動で削り出して設置する。これで、完璧な井戸の完成だ。

俺は組み上げた一連のプロセスに【超効率井戸自動掘削システム】と名付け、スキルに登録した。

「……よし」

あとは、実行するだけだ。だが、これだけ大規模な魔法だ。消費する魔力は相当なものになるだろう。実行は、村人たちが寝静まった深夜に行うのが賢明だ。

俺は昼寝をして魔力を温存し、その時を待った。

月が中天に昇った頃。俺はベッドの中で静かに命じた。

「自動実行」

体の奥から、ごっそりと魔力が引き抜かれるのを感じた。今までとは比較にならない量だ。だが、それに見合うだけの奇跡が、家の裏で静かに始まっていた。

地面が微かに振動する。だが、音はほとんどない。設計通り、土が静かに地上へと排出され、小さな山を築いていく。同時に、森の奥から切り出された石材が、まるで生き物のように列をなして家の裏へと運ばれてくる。

それらが吸い込まれるように穴の中へ入り、内側から完璧な壁を構築していく。全ての工程が、無駄なく、静かに、そして圧倒的な速度で進行していく。

俺は魔力を消費しながら、その全工程を脳内でモニタリングしていた。まるで神の視点で、一つの創造物が生み出される様を眺めているようだ。

数時間後。魔力が枯渇する寸前で、全ての工程が完了した。

家の裏には、まるで何十年も前からそこにあったかのような、立派な石組みの井戸が完成していた。

俺は満足のため息をつき、深い眠りに落ちた。

翌朝。

村では、いつもと変わらない一日が始まろうとしていた。主婦たちが桶を手に、村の中心にある共同井戸へと集まってくる。井戸端会議は、彼女たちにとって重要な情報交換の場だ。

「おはよう。今日はいい天気だね」
「本当だね。けど、また井戸の水が減ったんじゃないかい?」

一人の主婦が、心配そうに井戸の中を覗き込んだ。釣瓶を降ろしても、水面に届くまでやけに時間がかかる。最近、井戸の水位が目に見えて下がっていた。日照りが続いているわけでもないのに、原因は誰にも分からなかった。

「このままじゃ、畑にやる水もなくなっちまうよ」
「困ったもんだねぇ……」

誰もが不安を口にする。この井戸は、村の生命線だ。これが枯れてしまえば、村の生活は立ち行かなくなる。

その時だった。

村の外れの方から、一人の男が血相を変えて走ってきた。

「大変だ! みんな、来てくれ!」

男は息を切らしながら叫んだ。

「あの怠け者のレイジの家の裏に、水が、水が溢れてるんだ!」

その言葉に、井戸端にいた全員が顔を見合わせた。レイジの家に、水?

人々は半信半疑のまま、男に続いて村の外れへと向かった。

そして、彼らは信じられない光景を目にすることになる。

雑草だらけだったはずのレイジの家の裏庭に、立派な石組みの井戸が鎮座している。そして、その井戸から汲み上げられたのだろう、清らかな水が小さな水路を通って、キラキラと輝きながら畑へと流れていたのだ。

「なんだ、これは……。こんな井戸、昨日まであったか?」
「いや、あるわけない! 俺は毎日この前を通るが、昨日までは何もなかったぞ!」

人々は唖然として、その場に立ち尽くした。

噂はすぐに村中に広まった。知らせを受けた村長のバルガスも、自警団員を伴って駆けつけてきた。

「……おお」

バルガスは、その見事な井戸を見て息を呑んだ。石組みの精巧さ、水の豊かさ。どれをとっても、村の共同井戸とは比べ物にならない。そして何より、これが『一晩で』出現したという事実。

人知を超えた現象。バルガスの脳裏に、一つの言葉が浮かんだ。

「賢者様だ……」

バルガスは、確信に満ちた声で呟いた。

「我らが村の水不足を、賢者様は全てお見通しだったのだ。共同井戸の水が枯れかけていることにお気づきになり、我々のために、新たな水源を授けてくださったのだ!」

その言葉は、まるで天啓のように人々の心に響いた。

そうだ。そうでなければ、この奇跡は説明できない。

「ああ、なんて慈悲深い……」
「我々のことを見ていてくださったんだ!」

村人たちは、井戸に向かって手を合わせ始めた。それはもはや、ただの井戸ではない。彼らにとっては、賢者がもたらした聖なる泉だった。

バルガスは、深く、深く頭を下げた。

「賢者様。この大いなる御心、我々一同、決して忘れませぬ。この水は、一滴たりとも無駄にはいたしませぬ」

その頃。

全ての騒ぎの元凶である俺は、家の風呂場で至福の時を過ごしていた。

新設された井戸と直結した【全自動給湯システム】が、盥に常に新鮮で温かい湯を供給してくれる。いわゆる、源泉かけ流しというやつだ。

「ふぅ……最高だ」

俺は盥の縁に頭を乗せ、満足のため息をついた。これで、もう水の心配をすることなく、毎日心ゆくまで風呂に入れる。俺の怠惰な生活は、また一つ完璧に近づいた。

外で村人たちが歓喜の声を上げていることなど、もちろん俺は気付いてもいなかった。
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